--今からオーダーを発表するわよ。先鋒は淡。淡には、文字通りエースとしての麻雀を期待しているわ--
--次鋒は優希。南場で弱くなってしまう弱点があるけど、淡がきっと流れを作ってくれる筈だから、ここで他校を突き放してもらいます。--
--中堅は私がやるとして、副将はまこに任せるわ。--
ワシか?いいのか、そんな重要なポジションにワシを据えて……
--副将に求められるのは、安定感。清澄であなた以上に安定したプレイヤーはいないわ。いい、なんとしても副将戦を静かに終わらせて。副将が転べば大将の咲に負担がかかる。まこ、あなたの麻雀に期待しているわよ--
嬉しかった。ワシのやってきたこと、ワシの麻雀無駄じゃなかったと言われて、嬉しかった。なのに……なのに……!!
「すまん……!咲……久っ!」
こんな不甲斐ない結果で大将にバトンを渡してしまって……
※
『さて、ここまでを振り返ってですが。矢木プロは今回の決勝戦卓にどのような印象を?』
『全体的に実力が素直に表れた麻雀だな。鶴賀を除く三校のエースが共倒れたのは大きい』
『と言いますと?』
『先鋒戦終了時点での三校点棒は十万前後。稼ぎ負けたところはないが、エースの収入としては少ない。事実、清澄の次鋒は防御力の低さがはっきりでた。先鋒の圧倒的点棒で上手く隠れるようにオーダーが組まれていたが、今回はっきり露呈したと言える』
『なるほど……確かに今まで目立っていなかった中堅の竹井久は終始安定したプレイで目を見張るものがありました』
『そう。つまり、今回の卓は“全体的に見れば”実力がそのまま反映されていたと言っていい』
『そうですね。全体的に見れば高校生らしい麻雀がみれましたね』
HAHAHA……HAHAHA……
『では副将戦ですが、一言』
『これは酷い』
※
副将戦卓は、今までに類を見ないほど荒れていた。
「ツモ……リーチ一発。メンピン三色。インパチ」
「は、はい……」
「あ、ツモりました。タンヤオ」
234234234m222p6s
「す、四暗刻……!?」
よお、ダディ。
現在の点棒状況は、
鶴賀 173400
龍門渕 132000
風越 48800
清澄 45800
(くっ…鶴賀の妹尾という初心者、振るには振るが何故かワシには絶対放銃せん……加えて、振る以上に役満を和了って稼ぐ……!)
この卓、まこの放銃率は断トツで低い。一回佳織に振っただけで、後の失点は全てツモによるものだったりする。まあ、その一回が緑一色だったりするのだが……
さて、その妹尾佳織だが、後半戦南2の時点で和了ったのはたったの三回である。三回なのだが……和了の全てが役満という肉を切らせ骨を叩き割る戦法を地でやる打ち方だった。振り込みも多いが、それを補ってあまりある豪運でワカメを凪払う……ハーベストタイム泣き目である。
しかし、ただ役満を和了るだけの相手ならそこまで怖くはなかった。喰いタンや中のみの安手で流してしまえばいい。最終的には二万点前後の失点に抑えられる。しかし、そうは出来ない事情があった。
「ツモですわ。メンピン純チャン三色ドラドラ。4000.8000」
龍門渕透華ならぬ冷やし透華が原因だった。彼女は二つの麻雀を持つ。一つは、
「目立ってなんぼ!原村和より稼いで見せますわ!」とデジタルに徹し、なんだかんだ目立てない透華。
もう一つは、
(くそ……鳴けん上にツモも最悪じゃ)
(何なんですか、この人……)
高校生最強の一角とまで言われるオカルト麻雀。その能力は、治水。これだけ言われても解らないのでより具体的にいうが、それは「河に置かれた牌を拾うこと」を禁ずる。つまり、冷やし透華がいる卓では鳴けなくなるというもの。おまけにツモにも影が差し、聴牌にたどり着くのも厳しくなる。
更にわかりやすく言うなら、白糸台のフィッシャーマン……あ……(察し)
という訳である。
結果、卓全体がゆったりとした流れの中、佳織と透華の独壇場となっていた。
しかし、だ。透華が冷えるには一つクリアしなければならない条件がある。それは、雀力の高い雀士と相対することである。いったい、地方予選の会場にそんな人物がいるのだろうか?アラフォーと名高い小鍛治健夜と正面から向かい合うことが出来る雀士が、長野に何人いるのだろうか?決して多くは……
「えっと……五人かな?」
「サキ?なんの話?」
「え?私に麻雀を教えてくれたおじいちゃん達の人数だよ」
「ふーん」
なんか、案外いました。寧ろ今まで冷えなかった方が驚きである。
ともかく、卓に座るのはビギナーズラック辿り着く所までたどり着いてしまった妹尾佳織と、絶対零度の雀士龍門渕透華である。いま、まこに出来る手はほとんどなかった。
(八巡目にしてまだ字牌の整理……オーラスじゃというのに何もできんかった……焼き鳥じゃ……)
否、実は違う。事態はもっと最悪の方向に向かっていた。そのことに気付いたのは八巡目、まこが手牌の中で浮いた北をキろうとした瞬間だった。眼鏡を外したまこは、ふと既視感を覚えた。
(うん?この卓、見覚えがある……)
それは眼鏡を外したまこにしか解らない、経験という名のカン……一種の予感。
(河に見える字牌の数が少ない……いや、八巡目じゃというのに四枚切られたヤオチュウハイが一枚も無い……)
まさかと思い、まこは各校の捨て牌を見る。
(鶴賀は恐らくドラの八ピンを頭にしてのタンヤオ……若しくは123の三色。風越は真ん中よりのタンピン。上手くすれば三色ついてタンピン三色……ドラが絡めば跳ねる)
そして、透華の河だが……
(一、二巡目で西と東をきっている。一見するとタンヤオ志向の打牌……北は通るように見えるが……)
理屈抜きに、まこは手牌の北に嫌な匂いを感じていた。この北を捨てると、取り返しのつかない事態になると。
(国士……!となると降り…親の役満には振れん)
そう判断し、変わりに2ワンを捨てた。
この判断、実は正しかった。この時、透華は国士無双を聴牌していた。待ちは生牌の北。まこの勘が冴え渡った放銃回避劇だった。
(ツモは仕方ない……親役満は痛いが、終わらせるわけには--)
しかし次の瞬間、風越の深堀が暴挙に出た。
「リーチ!」
打3ワン。裏筋が明らかに見て取れる捨て牌だった。だが、問題はそう言う次元の話には収まらなかった。まこは、透華の手が国士だと解っているのだ。
(馬鹿な……国士に対してリーチじゃと?万が一にも親役満に触れないこの状況で……!)
しかし、それはある意味仕方の無い事だった。普通、序盤に切られた字牌から国士の気配を掴むのは不可能。まこにしか避けることの出来ない刃だった。
その直後、透華は引いた牌をそのままツモ切った。
(一ワン……マズい、この女、次かその次で確実に当たり牌を引く……!いや、風越が北を引く可能性も……!)
まこの経験からして、それは十分にあり得る事態だった。前局の龍門渕の和了を入れると、振った時点で勝負が決する。
となると、まこが取れる手段はもう一つしか残っていなかった。
差し込み。それもどう転んでも跳ね満以上への、リーチへの差し込み。問題は、それをいつやるかだ。
(せめて一発は避けたい……)
しかし、流れからして次深堀が透華の当たり牌を引いてもおかしくはない。
(ぐ……)
「すまん……!咲……久っ!」
打 4ワン
ロン!リーチ一発。タンピン三色ドラ四。16000です。
※
副将戦が終わった後の各校の様子は三者三様だった。
戸惑う者
「あ、ただいまです。あの……あれで良かったんでしょうか?」
初心者故に現在の状況がよく解らない佳織の言葉だが、他のメンバーには謙遜としか聞こえなかった。
「いや……その……オーダー間違えたかも」
「なんでステルスモモより稼いでいるっすかー!!これじゃオーダー組んだ部長の立場が無いじゃないですか!」
因みに、オーダーを組んだのは加治木ゆみです。
「ワハハ……おかしいな」
まあ、しかし、それはさておくにしても鶴賀は決勝戦に挑むに際し、予想外の収入を得た。これで負けたら……負けたら……
「何してるんすか、先輩?」
「いや、胃薬を……」
10分後、胃薬を片手に試合室に向かうゆみの姿があった。
眠る者
で、件の冷やし透華はどうなったかというと。
「きゅ~」
という可愛い声を出してソファーにぶっ倒れましたとさ。
「透華!?大丈夫!」
驚いて一が駆け寄るが、透華から「もうゴールしてもいいよね?」というかなりヤバい断末魔を聞いて安心した。
「良かった……いつもの透華だ」
いつも?
怪訝そうな顔をしながらも、純は衣はどこにいるか尋ねた。
「衣ならもう試合室だよ」
「なんだ、珍しいな。子供がやる気満々だなんて……」
普段の衣を知っている純からすれば、この段階で既にエンジンがかかっている衣は、本当に珍しかった。普段は夜型、夜行性、ニー
「それ以上はいけない」
「智紀?いきなり声を挙げてどうしの?」
「さ、さあ……」
「一君……ほっといてやろうぜ。出番をキンクリされた上、収支もマイナスという立場の無い状況なんだ……」
「そうだね……ごめんね、智紀が一切活躍できなかった事実に気付いてあげられなくて……」
いじめ、ダメ、絶対。
後悔するもの
「ごめんなさい……点棒を減らしてしまって……」
風越の控え室。そこにいたのは深堀と、
「深堀さん……」
何とか涙を堪えようとする美穂子。
「大丈夫だし!清澄よりはマシだから気にすることないし!」
尻尾を踏まれた猫のような声で喋る池田。そして、
「もうダメだ……逃げるんだ……」
一人この世の終わりのような表情を浮かべる久保コーチ。
「だ、大丈夫ですよコーチ。カナちゃんならこの状況でもなんとかなりますから!天江衣なんて……なんて……」
蘇る、みんなのトラウマ。
「……骨は拾って下さい」
「池田ァあああ!?」
「いや、流石のカナちゃんもここから天江を捲るのは厳しいし!!」
「負けたら焼き土下座だ池田ァ!!」
「聞いてないし!?」
そんなときだ。美穂子が池田の肩に手を置いたのは。
「きゃ、キャプテン……?」
綺麗な瞳が自分の姿を写していた。それはいつものオドオドした眼ではなく、何か一皮向けたような、強い意思に染まった瞳だった。
「カナ……お願い。勝って」
その瞳を見て、池田ははたと気付いた。いつもは他人にばかりに気を使うその人が、初めて誰かに託したのを。
「……大丈夫です。必ず私が風越を全国に連れて行ってみせます」
ここまでは副将戦である程度の成果を出せた者の状況だった。しかし一人、最善を尽くしたにも関わらず、最悪の結果に終わってしまったものがいた。それは、うたわれるもの……じゃない。失敗したもの。
全てが終わって、誰も居なくなった試合室。少しだけ熱気が残る部屋にまこは一人残っていた。
(はは……これで良かったんじゃ。もし風越が振ればこの勝負は終わっていた。大将に、咲に繋ぐことも出来んかった……良かったんじゃ、これで……)
清澄はオーラスの振り込みで点棒を30000割らしていた。トップとの差は100000以上。現実的にはもう勝負はついていた。
『矢木プロ……』
『ああ……清澄はよくやった。よくやったが……これはあんまりだ』
観客席の方からも
「最後甘い牌打ちやがって」とか
「戦犯確定だな」と色々言いたい放題だった。
「私ならあんな牌打たないわよ」
「ばーか。あんなのモロ裏筋見えてるじゃん。打つ時点で雑魚だよ」
まこの最後の4ワンの意味を理解出来た人間は少なかった。ほんの一部の人間にしか、その一打を理解できなかった。
しかし、だ。まこの一打は、倍満振り込みを考えても、それを補って余りある意義を持っていた。それは、
「染谷先輩……」
「咲っ……」
宮永咲に繋ぐという、最大の仕事。それをやってのけたのだ。
「咲っ…!すまん、こんな……こんな!」
頭を下げるまこに対して、
「……」
咲は何も言わず、無表情を貫いていた。
「咲……?」
その姿に、まこは違和感を覚えた。いつもは何らかの感情を見せる咲が、今日、今このときに限っては本当に表情をピクリとも動かさなかったからだ。
(まさか……怒っとるのか?)
恐る恐る咲を見るまこを尻目に、咲は牌の散らばる卓に近付いていった。
「染谷先輩。私、怒っているんですよ」
「そ、それは……」
思わずどもってしまうまこに構うことなく、咲は言葉を続けた。
「最後の4ワン。その本当の意味を理解せずに戦犯だなんだ……本当に腹がたちますよね」
その言葉に、思わず咲を見つめてしまった。
「先輩は風越が一発では龍門渕の当たり牌を引いてこないかもしれない、ていう“もし”を追わなかった。それだけでも先輩はちゃんとした評価を貰って然るべきなんですよ……!」
最初は何とか感情を押しとどめて喋っていた咲だが、次第に感情が高ぶったのか余計に言葉が冷えていった。
「なのに言うに事欠いて戦犯呼ばわり、ですか……」
その手が自然と山に、風越が一発でツモる筈だった牌を掴んだ。
「なら……教えて上げますよ。先輩が打った4ワンの意味を……もしを追わなかった正しさを」
「咲……まさか……!」
白くて華奢な手が真っ赤になるほどに牌を握りしめる。そして……開かれた手の中には、少しだけ赤く滲んだ北が握られていた。
「安心して下さい……勝ちますよ、私。絶対に先輩を戦犯呼ばわりさせませんから。血だらけになりながらも先輩が守ったこの点棒……決して無駄にはしないっ……!」
こうして、県予選最終決戦は遂に開幕した。しかしそれは、始まりに過ぎなかった。伝説の始まり……宮永咲という森林限界の先の華を全国が垣間見た、その瞬間だった。
ヤメロイドの成長過程
ビフォー「咲淡さいこー!」
アフター「淡咲さいこー!」
本質的には何も成長していない件。
は、置いといて……なんの前触れもなくアンケート開始です。
前回(と言っても一ヶ月近くも前の話ですが……)予告した通り、白糸台の代わりは誰がいいか?
候補としては
① 静乃が白糸台に参加。多分、照が大将戦に回って夢の姉妹対決が見れますが、アカギ成分が混じった咲と対決する時点で既に死亡フラグが起つ不思議。
② オリキャラの投入。こっちは確定で、照が先鋒に回っての、オリキャラが咲と対決するパターン。咲よりは福本作品よりのキャラ。予定としては、咲にやらせたいことを全部やらせることが出来るキャラ。
③ さて、前回書いた通り、優勝間違いなしの原作キャラ。それの回答編。
いるじゃないですか。淡と同じ一年生で、高一最強のあの人が……
二条泉がっ……!
すいません。深夜のテンションのまま書いていたら泉ちゃんのドヤ顔が浮かんできて、「この咲さんとぶつかっても最強宣言出来るのか?」と思いやってしまったあの日の過ちです。
誤解を避けるために書きますが、soaと言いつつかなりオカルトな完全のどっちについて行けたなら、普通に強いです。よく見ると、人数カツカツな清澄と阿知賀と淡を除くと、全国で唯一(だったかな?)の一年生ですし。周りがおかしいだけです。まあ、“地区”優勝は堅いだろうということで、謎の三人目は二条泉さんでした。パチパチ……
なんかすいませんでした。多分、③を本気でやるとこちらの精神が折れてしまいそうです。③はネタとして軽く流して下さい。
追記
アンケートは活動報告にて集めます。期間は来週の日曜まで。つまり28日までです。何かあれば活動報告で随時報告します。では……