ヤメ「じゃあ俺は硬派に地の文でいくぜ!」
その結果がこれだよ……
追記
Twitterなるものを始めてみました。
多分、
@hankyu2000extra
でなんか出ると思います。
理とは、積み上げた上で崩すもの。咲、リーチ偶期待ち。
オーラス間際、遂に宮永咲の狂気の闘牌が逆転への道を切り開いた。依然衣の優位は変わらないが、咲も三倍満ツモか跳ね直で勝利である。その悪魔の如き叡智に、至る所で熱が湧き上がった。
『大将戦南三局、信じられないことが起きてしまったぁ!宮永咲、僅か一局で120000点をもぎ取り優勝圏内!』
『後は天江衣がいかに凌ぐかだな』
実況席は咲の麻雀を間近で見せられて。
「な、ななななな」「何だ今の和了!?」「衣!?」
「センパイッ……!」「ゆみちん!?」「また藤田プロか……」
「これが宮永……!?」「すごい……」「よっしゃはやりんツモ!」
他の面々は、咲の手牌を裏側から見せられていただけに、その有り得ない和了を見せつけられて。
「サキ……」
淡は咲の食べかけのタコスを目の前にしてどこから口をつけようか真剣に悩んで。淡ちゃんマジあわあわ……
しかし、一番熱が籠もっていたのは解説席でなければ選手達の部屋でもない。生まれて初めて奇跡を見た、観客席だった。
「お前さ……あの状況で北を待てるか?」「いや……字牌単騎ならまだしも」「だって最後の一牌はリンシャンハイの三枚目でしょ!?無理無理!」「お嬢最高です!」
多少でも麻雀の心得がある人なら、決して咲のような打ち方はしない。いや、出来ないと言った方が正しい。奇跡は神様が起こすもので、断じて人が自力で実現するものではない。
「神域……」
誰かが頭の中に浮かんだその言葉を、そのまま口にした。それはすぐさま隣の人間に伝播して、伝播して、伝播して……いつの間にか、魅せられていた。咲の麻雀に。咲に……
「宮永咲……お前聞いたことあるか?」「知らないわよ……なんでこんな人が今まで無名だったのよ……」「去年のインターミドルに出てたらさ……」
その先を言うことは出来なかった。思わず頬を抓ってしまう。今見ているのは、果たして麻雀なのか。何か悪い夢を見ているのではないか。
そんな恐怖が会場を包み込む。
誰もが予感した。勝負の終わりは近いと……
※
打って変わって、こちらは奇跡が舞い降りた試合部屋。勝負の熱気とは裏腹に、冷たい絶望と恐怖が充満していた。
(バカな!?なぜ北で待つ!?よりにもよって一番和了目の無い北で!?)
(衣は……夢でも見ているのか……?)
ところがどっこい……!現実…!これが現実です……!
(私は振り込まないように最善を尽くした……なのに……)
未だに咲が解らない。咲に対する印象はもやの中で、強いという以外の情報が無かった。
(くそ……せめて時間を……!こんなところで負けるわけには……!)
もしこの流れが続けば、咲が文句なく和了ってしまう。そんな予知にも近い予感が、この場にいる全員にはしった。池田?知らん。俺の管轄外だ。
(くそっ……兎に角今は親の連荘を支援だ。ゴミ手なら最悪差し込みも……)
勝負再開。しかし、ゆみの執念にも似た祈りが通じたのか、勝負の流れはここで思いもよらぬ方へずれ込んだ。
オーラス、咲の配牌だが。
23899m157p236s北北
所謂ゴミ手。三色もタンヤオも平和も消える配牌だった。流石にあれだけの闘牌をしたあとだと、牌勢も息切れ気味なのか。十巡目
咲
12399m567p234s北北
聴牌したものの、和了意味ゼロの形。一方、衣の手牌は
2345666m999p中中中
最高の形で聴牌していた。待ちは1-4-7.2-5mの多面張。しかし、これを阻止したのは咲だった。
「ロンだし!2400!」
衣の手格好が良いと見るや否や、躊躇わず池田に差し込み。
(よし……とりあえず咲との差は広がった)
和了を逃したものの、咲の手は苦しんでいるのが解った。衣はここはこれで良しと納得した。しかし、次に試練が訪れたのは衣だった。
オーラスの一本場、衣の手は相変わらず早い。役牌バックの両面待ち。八巡目。
(張ったか……)
237899m55888s発発発
9ワン切りで1-4ワン待ち。自然と9ワンに手が伸びる。しかしその瞬間……
(なんだ……この嫌な気配は?)
それは降って湧いたような違和感だった。
(8ソウは衣が三枚使っているから9ソウは当然弾かれる牌……なのに河には一枚も見えていない……まさか……!)
改めて河を見渡してみる。そして、咲の河を目にして流石の衣も心臓が止まりかけた。
咲 河
8p8p2s3p5s8m5m北
典型的な国士の河が出来上がっていた。
(くっ……!衣の支配下でも国士だけは唯一止めることが出来ない役……この土壇場で気付いたか……)
衣の一シャンテン地獄を切り抜ける事が出来る唯一の役。それが国士だった。ツモでも逆転されてしまう。
咲の手が山に伸びる。次の瞬間…
(きゅっ!?)
背中に悪寒がはしった。咲の手から9ソウが零れた。
(間違いない……張ったな……)
衣の感覚が告げる。危険……!
(ならば……)
衣、打3m
「ロンだし!7700の一本場!」
池田を使うことで場を切り抜ける。池田、大活躍である。
これで衣は8000を消費。
(苦しいか……)
勝負の流れはどちらとも言えない。咲の勢いは切れているが、衣とていつまでも好配牌が続くとは限らない。池田への振り込み合戦など絶対にやりたくない。ならば手が多少悪くても、咲が息切れしている間に勝負を決めてしまう方がいいか。
(決めたぞ……次の配牌、良ければそのまま行く)
咲のヤオチュウハイで染めあがった手が洗浄機の中に吸い込まれていくのを見ながら、衣は決心した。
その二本場。衣の配牌は
23467m2568p225s北
「良し……!早い手!」
チュンチャンパイの山脈を掘り当てたのか、衣の手からは速そうな気配が漂っていた。
(よし……手が進む)
八巡目、衣聴牌。
2234567m678p222s
(張った……恐らく咲は止まれまい)
さあ出せ!
そう念じ、咲が当たり牌を切るのを待った。
しかし、待たしても衣の想定外の事態が発生する。次巡、咲は引いてきた牌を晒した。
「カン」
四ソウを暗カンし、ドラ表示牌を捲る。表れたのは、三ソウ。つまり、
「ドラ四……だと……!」
これで衣は下手な牌が打てなくなった。咲の手、もしかしなくても跳ね満が十分あり得るのだ。最初のドラは6ピン。一枚でも抱えていれば、タンヤオドラ5。若しくは飜牌ドラ5で振り込んだら敗北する。そんな折りに引いてきたのが生牌の白。
「ぐっ……!」
幾ら何でも、この状況で生牌の役牌など打てない。仕方なく、衣は取りあえず二ワンを通す。これで衣はツモ和了しか出来なくなった。しかし、次の瞬間咲はまた鳴いた。
「チー」
ゆみのこぼした五ピンを鳴き、打6ピン。
衣から見た咲の牌はこう。
暗カン 4444s
チー 567p
(両面喰い?そんなに手格好が悪かったのか?)
ドラを切ったあたり聴牌は確定だろうが、とても倍満が見えてくるとは思えなかった。
(そこで三色を作っても倍満までは一飜足りぬ……取りあえずツモられて敗北という線だけは消えた……)
更に三巡目、今度は衣は生牌の中を引いてきた。
(中も切れない……)
そこで衣少し考えた。今回、池田は張る気配を見せていない。このまま行けば流局で衣の勝ちである。しかし、万が一にでも振り込んだら……
(宮永咲……例え何をしてきても咲ならば可笑しくない……)
初めて出会った、自分の感覚、能力を超越する天才。感覚に頼るばかりでは絶対に勝てない相手。
衣は考えていた。自分の感覚に頼り切るのではなく、頭を使い、自分で麻雀を打つ。どうすればこの化け物から逃げ切ることができるのかを。
(感覚の傀儡になるのではなく、感覚を選択肢の一部にする……ならば!)
打、6ピン
遂に聴牌を放棄した。
(この局はこれでいい……風越も聴牌出来ずこれで終了だ……!)
その後も、衣は咲への現物を連打。完全に撤退の麻雀だった。そして十二巡目、衣は二枚目の白を引き入れた。
(来た、二枚目……)
衣が白を切らない限り、咲に白をアンコにしての跳ね満は有り得ない。しかし、次の瞬間ゆみが白を捨てた。当然、衣は鳴かない。
(これで白のシャボ待ちは消えた)
つまり白はほぼ安牌となった。これでロンをすると他に一役作っていない限り満貫止まりで、咲は逆転出来ない。そんな衣の背を押すように次巡、衣は手役に北をアンコで抱えた。
(よし……)
北の在処は全て見えている。ほぼ安牌な北とは違い、完全安牌な北。衣のツモは後四回なので北だけでかなりの安全が買える。
衣 打北
その躊躇いのない字牌の打ち方に、咲はいち早く何が起きたかを察する。
(なるほど……北がアンコになったんだね……)
となると、咲が衣を打ち取れる機会は流局間際のラスト一回。普通なら勝負はついたようなものである。しかし……
(クク……逃げ切った気になるのは少し早いかな……追う道はあるんだよ……)
しかし、咲は特別なアクションは何もしない。ただツモ切るだけ。対して衣は北を切ってしのぐ。
『天江選手は完全にベタ降りですね』
『当然だ。直撃以外怖くないとなれば十人が十人降りる。正しい判断だ』
『では宮永選手の逆転する可能性は?』
その問いに、矢木は返す言葉を持たなかった。普通なら逆転のチャンスはゼロに等しい。考えなくても一目瞭然である。しかし、今打っているのはアカ宮永咲である。ただでは終わらない。そんな予感がした。
しかし、咲は苦しい。山が刻一刻と減る中、衣は北で逃げ切る算段を立てている。池田も聴牌している様子がない。万策尽きたかに見えたそのとき。
衣が最後の北を切った瞬間、咲も動いた。
「チー」
その鳴きに、衣は眉を顰めた。なぜこの土壇場で鳴く?その意図が解らなかった。しかし、次の瞬間状況が一変する。
咲
暗カン 4444s
チー 567p
チー 567s
(はあああああ!?)
咲はここで復活する。三色同順。
(役に三色が加わっただと……)
こうなると衣は苦しい。なぜなら今見えている手だけで跳ね満が見えているのだ。待ちも偶然の単騎も有り得る。安牌ゼロ。
(馬鹿な……こんなことが……)
風はどちらに吹いているのか。それは誰にも解らない。衣がこの土壇場で引いてきたのは、
(西……咲の現物っ……!)
この局面で引いた現物の意味は大きい。これで衣のツモはもう無い。
「やったぞ、咲……これで衣の逃げ切りだ……」
そして、衣は躊躇い無く西を河に放った。これなら絶対に大丈夫だという自信をもって……
「ククク……ポン……」
しかし、悪魔の声は衣をあざ笑うかのように追いすがってきた。
「へ……?ポン?」
しかし時既に遅く、咲の手は衣の西を拾っていた。
(あにはからんや……なぜ西を鳴く……)
咲が西を切ったのは三巡前で、しかも手出しである。つまり、咲はアンコになっていた西を切り出したということになる。
(馬鹿なっ……なぜっ……!)
敢えて理由をつけるとすれば、それは衣に西を切らせるためだろう。自分から安牌を作り出し、その牌を改めて鳴いて取り戻す。その一見無駄に思える行動の先にあったのは……
「は、ハイテイが……」
「何してんだし?早くツモれよ」
三つの視線が自分に集まる。
「そうか最後の海底ツモは衣……」
衣を地獄に叩き落とす為の、悪魔の罠だった。ことここに及び、流石に衣咲の狙いに気付いた。
(まさか……衣の海底でロンだと……!)
つまり、今まで見せた鳴きは全てブラフ。タンヤオや飜牌、最後に見せた三色もただの布石に過ぎない……
馬鹿げていると首を振る。
(幾ら何でも偶然に頼りすぎてる……!こんな麻雀衣は認めない……!)
震える手が山に向かう。現物……!人望じゃなくて現物が欲しい……!
(ここで衣が現物を引ければそれで……!)
しかし、ここで衣の勝負運は尽きた。衣が引いたのは一ピン。咲に通っていない牌。
「クク……現物を引ければ衣ちゃんの勝ちだったんだけどね」
そのとき、対面の咲から声が聞こえた。
「ここで通っていない牌を引くようなら運も尽きた……」
カタリと、裏向きに倒される牌。そして、「それまでだ」と言わんばかりに咲は椅子からたった。
「そういう訳ですから、後は宜しくお願いします」
そして一仕事終えたと言わんばかりに咲は出口に向かう。そのあっけらかんとした姿に、流石にゆみも声を荒げた。
「お、おい!何が宜しくだ!?マナー違反だぞ!第一勝負はまだ……」
「勝負はつきましたよ」
しかし、咲は怯まない。
「その裸単騎には魔法がかけてあります……衣ちゃんは手中の牌からその牌を選び、必ず振り込む」
そのセリフに、何も言えなくなってしまうゆみ。ちなみに、今年の運営は某チャンピオンが試合中にオー・ザックを食べたのを黙認してしまったのでマナー云々は強く言えないもようです。照ェ……
「そういう訳ですから」
「何がそう言う訳だ!?いいから……」
そのときだ。ダン!と卓を強く打つ音が響き渡った。一瞬何の音か解らなかったが、見ると衣の手が河に伸びていた。どうやら牌を切った音のようだった。
衣の指が離れる。
「ど、どうだ……ここなら、無いはず……」
そこから現れたのは、2ワンだった。
「あ、あああ……」
そのとき、先月川田組を解雇され現在は審判のアルバイトをしながら生計を立てている石川(52)の悲鳴が挙がった。
「まさか……そんなことが……」
よろよろと卓に近付く。
「夢でも見ているのか……」
そして、咲が卓に伏せた牌を掴んで確認して、
「うっ……のぁぁぁぁああああ!?」
ショックのあまり牌を落としてしまった。
牌が落ちる。一度バウンドした牌は大きくのけぞり、自分の腹を晒した。
「ん……はあああああああああああ!?」
「う、嘘だろ……!」
2ワン
「ろ、ロンだ……河底ドラ5……跳ね満……逆転っ……!」
「そ、そんな馬鹿な……」
ぐにゃぁ~と崩れ落ちる衣。立て続けに起きた奇跡に悲鳴が飛び交う会場。
その日、会場は悲鳴と怒号の渦に飲み込まれていった。
※
「なに……これ……」
西東京代表白糸台高校。由緒正しき強者の麻雀が受け継がれてきた強豪校。その校舎の一室。チーム虎姫の控え室として与えられている部屋で、四人の悲鳴が聞こえた。
「なんだよシャープシューターって……」
「咲……咲がぁ……」
「火力負けした……」
「また藤田プロだ……」
四者四通りの悲鳴である。
「私はシャープシューターじゃなくて魔法小」
それ以上はいけない。
「多分……ハーヴェストタイムでもあの火力は出せない……」
複合役満ありなら天和字一色大三元のように火力を上げることもできるが、インターハイルールでは辛いものがある。
「私の……私のせいで妹がグレた……」
ノーコメントで。
「三連続藤田プロって……」
ノーコメントで!
閑話休題
「で、だ……いい加減現実を見よう」
頭を抑えながらSSSが部員を見渡す。
「この中で……清澄の大将と闘って生きて帰って来られる者は挙手しろ」
「無☆理」
「ここらで一杯お茶が美味い……」
しーんと静まり返る部屋。希望なんて無かった。
「照はどうなんだ?」
「実際に卓に着いてみないと解らない」
照の能力の一つに照魔鏡というものがある。これは対戦者の本質を見るための能力なのだが、これは実際に麻雀を打ち合わないと使えない。つまり今、白糸台メンバーは最悪の場合なんの対策も無しに咲に挑むことになりかねない状況にある。それはさながら、冒険者一行が初期装備で裏ボスに挑むようなもので……
「一回戦……シード枠に入れて良かったな」
ボソッと、身も蓋も無いことを呟く。
「まあ、私達は私達に出来る最大限のことをすればいいさ」
「そうですね。出来るだけ私達で点棒を稼いで和美の負担を減らさないとですよね」
あはは……と乾いた笑いが響き渡る。
「よし、そうと決まれば練習だ!」
「そうですね。お茶を煎れてきます」
「じゃあ私は他の部員を読んで面子を集めて来ます!」
そう。何も負けが決まった訳じゃない。麻雀は運が大きく関わるゲーム。やってみなくちゃ解らない。
「いくぞ……私達の麻雀は、これからだ!」
「「「はい(ああ)!」」」
続きますよ?