Q.もし咲が鷲巣巌と邂逅したら?   作:ヤメロイド

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↑の結末と経緯

時間が少し前後するが、話は憧と咲の二人が近くの喫茶店に入ったところから始まった。

「新子さん……ですか」

「あ……ええと、憧でいい…ですよ」

どことなくギクシャクした会話が漂う。当然だ。憧は咲の麻雀に一目惚れしてやってきたのだが面識なんて無く、咲に至っては顔すら知らない状態なのだ。なお、改めて書くまででもないことだが、時系列が変化したのはいい加減女の子が書きたかったからとかそんな理由ではない。

(うぅ~~!やっぱこうなるわよね!て言うか私、まるっきりの不審人物じゃない!)

大丈夫、ヒロも通った道だ。お陰でpixiv辺りでネタにされている。

時間は夕方のニュースが流れはじめ、街は喧騒よりもカラスの鳴き声の方がよく聞こえるような午後。憧は目の前でコーヒーを飲む少女を見る。

(うぐっ……やっぱし困った顔してる……)

夕日に赤く灼かれた咲は、微笑みの中に何となく困ったような目を浮かべていた。

咲は元来人見知りな女の子なのだ。現在、突如現れた憧の存在に気圧されっぱなしで

(ファ……ファン!?私いつの間に有名人になってたの!?)

と、心臓が「滅びよ」と言い出しかねないほどに動悸していた。

(麻雀って……私大したことしてないよ!?昔お爺ちゃんがしたのと同じことをしただけだよ!)

いや、その理屈はおかしい。

しかし、咲にしてみれば憧の存在は酷く意外だったようで、半信半疑で憧を見つめる。

(綺麗な人だな……でも……)

何かを堪えるかのような、憂いを帯びた表情をしていた。咲の瞳を見返す憧。

(なに考えてるんだろ、宮永さん?)

じっと瞳の憧の奥……じゃなかった、憧の瞳の奥を見通すように考え込む咲。それは深く、物事を考えるような目だっ

(お爺ちゃん達、カレーの作り置きに気付いたかな?)

咲さん?

(というのは冗談で……この子、何だか放っておけないな……)

そう思ってしまった。自分と憧は違う。生まれも育ちも、容姿も性格も……だというのに、妙に憧の姿に自分が被さった。数年前の自分の姿が、鷲巣に出会う前の自分が妙に重なった。

(そう言えば……お爺ちゃんと出会ったのもこんなときだったっかな……)

あの時、鷲巣は何も聞かずに自分の手を引いてくれた。そして一緒に怒って、泣いてくれた。それがどれだけ救いになったか……

もし鷲巣達がこの場にいたら直ぐに否定するだろう。今咲がこうして立っているのは咲が頑張ったからで、ワシ等はただその手伝いをしたに過ぎないのだと。

しかし、鷲巣達のおかげで今も笑っていられる、少なくとも咲はそう思っていた。なら、

(今度は私が誰かの手を引く番だ……)

今自分がしなければならないこと、自分がしたいことが頭よりも先に体の中にすっと落ちてきた。

(あのとき、お爺ちゃんはどうやって私を慰めてくれたかな?)

幼子の遊びなんて知らなかった鷲巣。鷲巣の趣味なんて知らなかった咲。そんな二人を繋げたのは……

(はあ……やっぱり私にはこれしかないか)麻雀だった。

「……あたら、憧ちゃん?」

新子さんと言いそうになって、何とか言い止まる。

「憧ちゃんは全国大会には出るの?」

「え、ああうん。個人だけだけど」

そっかと頷く咲。唐突な質問に目を白黒させる憧だが、咲はお構いなしに話を進める。

(確か私が団体戦に出る人とさえ闘わなければ規約には違反しないんだよね?)

あれ、咲さん確か個人戦にも出るから問題なんじゃ……

「それはそれ。これはこれ」

さいですか。そうと決まったら、咲の行動は早かった。

「じゃあ今から一局打たない?」

そう言って憧の手を引く咲。向かう先には喫茶店には似つかわしくない麻雀卓があった。

「え、でも咲さんも個人戦に出るから私麻雀打ったら規約に……」

「大丈夫大丈夫……バレなければ問題無いよ」

ああ、赤木や鷲巣の影響が如実に……

「それにいざとなったら……」

ブツブツ呟く咲。何やら、「お爺ちゃん」やら「山」やら「血液」やら「平山幸雄」やら「ヤメロイド」といった不穏なワードが聞こえてくる……うん?ヤメロイド?それって俺のことじゃ……

「さ、一緒に楽しもうよ」

無邪気な笑みを浮かべる咲。こうして憧と咲の麻雀が始まったわけである。

 

 

 

 

 

「……で、そんなとってつけたような理由でいきなり魔王卓に着かされたわけ?」

だって実際とってつけた理由だもん。

しかしそんな事を憧が知る由も無く、咲と麻雀を打つ羽目になったわけである。

「つ、強すぎる……」

最後のトリプル役満は勿論そうなのだが、咲は彼女が持つ異常な火力とは共存出来ないまでの防御力も持っていた。

(なんで当たり牌を引かされても速度も打点も落ちないのよ……)

最後の一ワン暗カンなどその最たる物で、何気にそれが一番ショックだった。咲の麻雀を見た誰かが「神か悪魔か」と言ったそうだが、全く誇張の類でもなんでもなかった。例えば最初の東一、もし憧が咲と同じ配牌だったら……

(多分、東発と鳴かせて親の6000オールを許しちゃったかな……)

それで多分負けていた。あの和了は危険牌、親を押さえ込む事が出来た咲だけが取れた和了だった。

自分と咲との差、勝ち負けの違いはは運ではなく実力の差だった。

悔しい。本当に悔しい。でも……それ以上の感情が芽生えていた。

それは、

(打ちたい……咲みたいに麻雀が打ちたい……)

咲のように麻雀を打ち、咲が見ている頂からの光景を自分も見たい。そんな気持ちが溢れかえっていた。

(きっと気持ちいいんだろうな……咲みたいに打てたら……)

無論、今も頭の片隅には最初に自分が咲に会いに来た理由……シズ達の存在が浮かんでいる。最初、憧は麻雀が強くなりたくて東京に来た。

そのときの心を忘れてたわけではない。強くなりたいという気持ちはまだある……ただ、越えるべき山が一つ増えてしまっただけだ。

「強くなって、シズ達に追いついて……そしていつか咲のいる所まで辿り着く……!」

それが憧の出した結論だった。

(咲は強い。それは間違いない……例え咲の持つ豪運まで無理でも、もしそれ以外が咲と同じになったら……)

辿り着けない訳がない。咲の麻雀はただの豪運で全てをねじ伏せるだけではなく、全てにおいて完成度が高い。どの位完成度が高いかと言うと、一度マークザインに取り込まれたにも関わらず、より禍禍しさを増して帰ってきたニヒトさんなみに完成度が高い。

(なんで戦略兵器が例えで持ち出されるのよ……?)

さあ、何ででしょうね?

だが事実、咲は極めてテクニカルな麻雀でオカルト麻雀の代表格、天江衣を完封している。弱い訳がなかい。

……因みにその時の試合を見た小鍛冶健夜の解説は来週、週刊裏プロティーンズに掲載予定です。

(いや裏プロなのにティーンズってどういうことよ?て言うかなんで裏プロ雑誌に表プロが引っ張り出されてるのよ?)

どっかの神域が解説そっちのけで孫自慢しかしなかったからである。その時の対話談がこれ……

 

 

Q『最近は表“でも”活躍の宮永咲さんですが、赤木さんは宮永さんとよく一緒にいるらしいですね?』

赤木『クク……咲は傍にいるだけで癒される……!“お爺ちゃん”と呼ばれたとき、何度気を失ったことか……

 

ざわ……ざわ……

 

赤木『加えてこれが肝心なのだが……』

 

(一時間中略)

 

 

Q『なる程。つまり咲ちゃんは天使と言うことですね?』

赤木『ああ……!夜遅く帰ってきても、咲がカレーを温めながら待っててくれたり……』

Q『咲ちゃんは麻雀だけでなく料理も出来るのですか!』

 

 

(二時間中略)

 

 

Q『なんと!?咲ちゃんは調理師の免許も……!』

赤木『なあ……そろそろ咲の麻雀の解説した方が……』

Q『いえ、後少し……!後少しだけ……!』

 

 

(五時間略)

 

 

「……って、質問役が率先して話逸らしてるじゃない!」

バンと先週号の雑誌を地面に叩き付ける憧。その音に驚いて、ギャラリーに捕まっていた咲が振り返る。

「あ、憧ちゃん?」

「ご、ごめんごめん。ちょっと突っ込まざるを得ないものがあって」

そう言いつつ、雑誌を元に戻す憧。

「さ、咲……もしかして咲のお祖父さんってかなりの孫煩悩?」

「かもね。でも私もお爺ちゃん達大好きだし、おあいこかも……」

照れくさそうに笑う咲。

(達!?達ってなんなの!?あんな人が咲の周りに何人もいるの!?)

ええ、何人も居るんですよ……

ゴクリと、改めて咲を見る憧。きめ細やかな肌。可愛らしい顔。しかし、その内には常人には触れることすら出来ない熱い物がたぎっており、その余熱が今も向かい合った憧を灼いていた。多分髪を白くしても違和感無いだろう。

(凄い……これが他人を寄せ付けない才能の証……天才の証拠……)

傍にいたい。この自分よりも遥か高みにいる同い年の少女が見る景色を、自分も見たい。そう願った。願わざるを得なかった。

「さ、咲……!」

「はい」

「あ、えっと……」

思いを堪えきれず想いを口に出そうとした。でも、直前になってまた悩む。

(あ……何て言おう……いきなり咲の麻雀を教えて下さい、じゃ変よね……)

言葉に詰まって、声無く口を動かす。しかし、少し時間を空けると直ぐに形になった。それで、この気持ちは偽物じゃないと確認する。

やがて、決心したかのように声を絞り出した。

「私……咲の麻雀が好きなんだ……一目惚れなんだけどね……」

「うん」

咲は笑いながら憧を待つ。

「私、咲みたいな麻雀が打ちたい!咲みたいに強くなって……咲と同じ景色が見たい……!」

「うん……解ったよ」

想いは聞いた。ならば、次は咲が答える番だった。

聞きたいことは山ほどある。まだ憧のことをよく知らない。だが……

目をギュッと瞑り、俯く憧。その手を、咲の手が包み込んだ。

「へ……?」

その時、咲が口にするべき言葉は決まっていた。

 

 

 

「じゃあ、行こうよ……あの高みへ」

 

 

 

 

 

まあ、そう言って貰わないと話が進まないので。その日は二人で何件も雀荘を梯子して、徹麻したそうな。

途中、なんか「ざんすざんす」五月蝿い人も居たような気がしないでもないが、大した問題にはならなかったそうな……それよりも、

「出番……まだ?」

前振りだけしてそのまま放置されている天和美の方が問題だった。

 

 

 

バッチリ父親の立場を踏襲してるネ!

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