Q.もし咲が鷲巣巌と邂逅したら?   作:ヤメロイド

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まだまだ。


天和美「あの、出番……」

空を飛んでいた。風を切りどこまでも高く飛んでいき、酸素が薄くなる大気の中へ……目的なんて無い。ただ私は飛んでいた。遠く、遠くへ……

 

 

「ロン。最高めで緑一色だね」

 

 

そう、私は飛んでいた。

「って、こんな飛び方があってたまるかぁ!?」

朝の雀荘に、憧の声が天井をついた。

「なんでアガリトップなのに役満狙いなのよ咲!?」

おかけで様で、今日何度目かも解らない箱下ラスを喰らった憧。

憧と咲の二人が東京の雀荘を訪れてから三日目。寝ても覚めても麻雀というキチガイじみた生活が続いていたが、流石に跳びラスが51回も続くと「53回よ!」……53回も続くと憧の中の何かが壊れた。

「うう……4ソウ切って2-5ソウに受けてくれたら逆転だったのに……」

不発弾となった手を開ける。

 

 

345m22p35s

チー345p

チー678s

 

 

オーラス、咲と憧の差は16300なので満貫直撃なら供託リー棒込みでトップ逆転だった。憧としては、隠しドラ2ピン二枚を抱えて咲を狙い打つ算段だったのだが……

「ごめんね、4ソウが憧ちゃんに通ったら4と発のシャンポンには受けなかったかもしれないけど」

(待ちがバレてる!?)

咲には殆ど筒抜けだった。

「嘘……晒した手だけ見たら2着確定の喰いタンなのに……」

憧としては咲が出来るだけ警戒しないようにと、敢えて高く手を構えすぎないようにしたのだ。だというのに……

「憧ちゃんは鳴いても三色を絡めてくるからね。気が抜けなくてハラハラしたよ……」

手の育て方の旨さが裏目に出ていた。こういう時、憧のような打ち方は手を見破られてしまい易い。

「はぁ……少し休んでいい?」

と溜め息を吐く憧。そのまま返事を待たずに雀荘の外に出る。空は、曇っていた。

「見えないな……咲の背中が……」

一度でも打てば、嫌でも咲の異常さには気付く。咲は差し込み以外では絶対に放銃しない……ばかりか、リーチ後も隙が殆どない。何回か憧が追いついたときに、咲も憧の当たり牌を引いたことがある。が、全て暗カンで逃げられている。唯一憧が見ている所で放銃したところがあったが、相手は御無礼御無礼言う奴だったのでほぼノーカンである。

「後、四日……」

東京に滞在出来る日数はあまり残されていない。それまでに、

「なんとか、しなくちゃ……」

 

 

 

 

 

 

 

事が起きたのは翌日の夕方だった。二人が宿泊するホテルの食堂、そこで夕食をとる傍ら憧が愚痴を漏らした。

「はあ……やっぱり漫画みたいに一朝一夕には強くならないわよね」

魚をつついていた咲は、一瞬憧が何を言っているのか解らなくてキョトンとした。

「え……憧ちゃん気付いてないの?」

「何が?」と興味なさげにサラダにドレッシングをかける。

「憧ちゃん、漫画みたいに一朝一夕で強くなってるんだよ」

思わず、ドレッシングの入った容器を握り締めてしまった。

「それ……嘘でしょ?」

「憧ちゃん、サラダサラダ」

「変な気休めは止めてよ……」

「いや、だからサラダが」

「サラダなんかどうだっていい!」

握りつぶされるドレッシング。真っ赤に染まる夏野菜。

「う……辛そう……」

顔をしかめる咲。だが憧はそんな咲にお構いなしに話を続ける。

「今日で私が何回咲に跳ばされたと思ってる?51回よ!」

53回です。

「五月蝿い黙ってて!」

……。

「いやでもサラダが……」

「サラダがどうしたっていうのよ!こんなもの……」

「あ、それ食べたら駄目……!」

 

 

 

 

一時間後。

「あれ……ここは?」

……。

「あ、良かった……憧ちゃん、真っ赤になるまでドレッシングをかけた野菜食べたんだよ?」

「ああ、そう言えば……」

……、……。

「っと……ありがと、咲」

「気にしないで」

……。…………、…………。………?

「いや、無言でナレーションされても私達が何してるか全く伝わらないんだけど」

だって、黙れって……

「なんで言葉をストレートに受け止めるかな!?」

「憧ちゃん……?誰と話してるの?」

「なんかデジャヴ感じるんだけどこのやり取り!」

さて、改めて。

「私はまだまだ強くなんか……」

咲から受け取った水を飲みながら、今日の麻雀を振り返る憧。

「そうでもないよ。憧ちゃんがミスしなければ、今日のアレは振り込んでたかも知れないよ」

思わず咳き込んで水が器官に入り込んでしまった。

「けっ、けほっ!?」

「だ、大丈夫!?」

慌てて背中を軽く叩く咲。しかしそれどころではない。

「み、ミス!?私なんかミスしてた!?」

慌てて自分の河を思い返す。

「……もしかして、一巡目の1ピン切り?」

あの時のドラは2ピンなので、ドラ傍の1ピン切りでドラ頭が見抜かれたのか?

「まあ、それもあるけど……1ピンの早切りはまだミスに考えなくていいよ。喰いタンに向かいたいなら、当然切る牌だしね」

その言葉にホットするも、新たな疑問が浮上する。

「1ピン早切りはミスに含まなくていい……」

あの時の状況を振り返る憧。南場、オーラス。親は咲、憧は西家。点差は16300。

憧 捨て牌

 

1p東北8s9s2s6m9m西北中7s発(振り込み)

 

 

(この状況なら普通、2ソウの周りよりも6ワンの裏筋、2-5ワンか5-8ワンを警戒するはず……)

解らない。幾ら考えても咲の考えていることが解らなかった。

「うーん……前より戦い辛くなってるんだけど……」

どうすれば信じてくれるのか頭を悩ませる咲。そして不意に、ニュータイプのように何か煌めいた。

「すばらっ」

呼んでません、すばらさん。

「憧ちゃん」

「なに?」

「試しに明日は別々の場所で打ってみない?」

その言葉に、憧は目を丸くした。

「別々の場所?」

「うん。せっかく東京に来たんだから東(ひがし)東京の雀荘も見てみたいの。憧ちゃんはミスの謎解きもあるし、腕試しも兼ねて別々の場所で打ってみようかなって」

曰わく、いつまでも咲のような最上級の打ち手と打っていたら強くなった実感が湧かないのは当然のこと。思い切って、咲とは別々の場所で打ってみたら、今自分がどこにいるか解る筈--という事だった。

「なる程……」

「取り敢えず私は東(ひがし)東京の雀荘を巡ってみるから--」

そう言いかけた直後、

「冗談」

憧に却下された。

「一人で咲を電車に乗せられるわけないじゃない。どうせ迷子になって北海道あたりに行っちゃうのがオチよ」

「ひ、酷い……」

何もそこまで言わなくてもと、目をウルウルさせる咲。可愛い。

「そう言う訳で東には私が行くわ。咲は迷子になるから、私が迎えにくるまで昨日の雀荘から動かないこと」

まるで姉のように咲に言い含める憧。しょぼーんと部屋の隅で丸くなる咲。

「いいもん……市川のお爺ちゃんと遊ぶから寂しくないもん……」

そう言えば市川のおじいさんは東京在住でした。

が……駄目……!

『す、すまん咲!まさか咲が来るとは思わなくて明日は仕事入れてしまった……!』

電話口(対咲さん専用電話)の向こうから歯軋りしそうな勢いで、市川の声が聞こえてきた。

「え、お爺ちゃん引退したんじゃなかったの?」

『そうなんじゃが、知り合いの組長に泣きつかれて受けることになっちまった……』

なんでも今度の代打ち勝負で、競争関係にある相手の組が「沖縄にその人あり」と言われる強者を引っ張り出してきたらしい。そこで、裏でも五本の指に入る裏プロの市川に代打ちしてくれるよう頼み込んだらしい。

「その対戦相手は何ていう人なの?」

『さあな……確か安里っつったかな』

あ゛……

『ん?どうかしたか、咲?』

「何も言ってないよ?」

『そうかい……まあ確かに聞かねえ名前だが、俺たちの世界はぽっと出の奴がとんでもない化け物だったってこともあるからな……油断は出来ねえ』

まあ、油断は出来ないかな。

「まあ、それじゃあしょうがないよね」

『ああ……いや待て』

と少し電話置く市川。数分後、また市川の声が聞こえてくる。

『咲、明日は暇か?』

「うん、暇だけよ」

『じゃあ、お爺ちゃんと一緒に代打ち勝負に参加しねえか?』

ちょっと散歩に行かないかというのりで、一点五十円の勝負に誘う市川。こらこらこら。

「うーん。まあ大負けしても帝愛への債権があるから大丈夫だけど」

ああ……沼をATMにしたあの事件か……。『な、こっちの組長も咲の話は前々から聞いてて、是非と言ってるしな?』

もはや明日の代打ち勝負なんかどうでもよくなり、ひたすら咲と一緒に麻雀を打つべく誘う市川。

『うーん……卓は幾つ立つの?』

『2つだ。儂ともう一人は確定してるんだが、咲が入ってくれたら助かる』

と答える市川。それに悩みつつも、咲は条件付きでOKした。

「友達を一人連れて行っていい?」

『ああ……腕が確かなら構わねえぜ』

「じゃあ決まりだね。明日、どこに行けばいいの?」

『都内の公民館だ』

朝っぱらからそんな所で代打ち大会開くな。何て言う突っ込みは当然ながら通用しない。かくして、明日の予定は決まったのであった。

 

 

そして現在……

 

 

(咲……大丈夫かな?)

電車の中で揺れながら、憧は一人もの思いにふける。あの後、咲は「ちょっとお爺ちゃんと麻雀打ってくる」と言って、地図と方位磁石を持ちながら出かけてしまった。

本当に大丈夫なのだろうか?

(いや、他人の心配してる場合じゃない……なんとしてでも強くならないと……)

その時だ。ガタンと、一瞬電車が揺れた。

「キャッ……」

と同時に、バランスを崩したのか、自分の方に誰かが倒れてきた。慌てて受け止める。

「ちょっと!大丈夫!?」

ボフンという音を立てて、小さな頭が憧の胸にすっぽり収まった。

「す、すいません……」

「あ、あれ……」

憧が受け止めたその人物は、長い綺麗な髪を持っていた。

「ありがとうございます……お陰で助かりました」

申し訳無さそうに頭をさげる。日本人離れした、綺麗な顔立ちだった。街ですれ違えば、10人が10人とも振り返るような美貌……

しかし、憧の目はそれとは別の所に向かう。憧の目は、彼女が着ている制服を捉えて離さなかった。

(この制服……まさか!?)

ここは東東京。そこに入っていけば、その制服の、その人間に出会わない訳がなかった。

 

 

 

「東東京代表……臨海女子・雀明華……!」

 

 

 

ヨーロッパのトップランカー。世界ランカーが口を開く。

「あの……見かけない制服ですが、もしかして東京は初めてですか?」

頷いた訳ではない。唾を呑み込んだ、その表紙に首が上下してしまっただけだ。

(ヤバい……咲が隣に居たから麻痺しかけてたけど……)

じりじりと肌を焼くような感覚……

「そうですか!ならお礼にこの街を案内しましょうか?」

(こっちも相当にヤバい……!)

吹き荒ぶ風の中、溺れてしまわないように意識を保つのが精一杯だった。

 

そして数分後、

 

 

 

 

「へえ!やっぱり咲が!」

「はい。ネリーちゃんや智葉も興奮してましたよ。ハオなんて『リーチしたい』って言い出して……おまけに可愛くて……」

「そうそう!小さくて可愛いのよね……」

めっちゃ意気投合していた。何だったんだ、さっきのシリアスな描写は……

 

 

 

 

 

おまけのような何か。

都内の某公民館。普段は子供やお年寄りが出入りする和気あいあいとした所だが、今や殺気と緊張で汚れていた。

東京の大手某会社を青組とする。彼らが開催したこの大会は、表向きただの麻雀大会だ。しかしその実、街を開発する上で対立する辻垣内グルー……もとい町内会と揉め事があり、麻雀で決着をつけようという運びになったのである。

町内会は赤組。大手某会社は青組。社長さんは天一巻で登場した「ぐふぐふ」言ってる人をご想像下さい。

「ぐふふ……それにしても辻垣内さん。あんたも酔狂な人ですな。こんな目に見えた勝負にわざわざ乗ってくるなんて……」

気安く、町内会の会長さん(第一次東西戦で東のバックアップをするも肝心な通夜編で忘れられた方をご想像下さい……)の肩を叩く社長さん。

何も言い返す言葉が無くて黙り込む沢田さ……会長さん。

(くっ……確かに此方は圧倒的に不利だ。辛うじて、ヒロを確保出来たものの……)

敵もそうそうたる顔ぶれだった。裏で名前を通している人間が何人もいる。少し具体的に言うなら、『む○ぶち』で御無礼言われるまでは強そうな面々だった。

対して赤組は……

一応知り合いの組長を頼って有力な雀士を派遣して貰ったものの……

(盲目の爺さんに全身真っ黒な男、それに女子高生……!ダメだ……この勝負結果はもう見えている……!)

あ……うん、ソウダネ。

(向こうには『鉄の王子』も居ると言うのに……)

今回の麻雀はコンビ打ちである。つまり、如何にお互いの息を合わせられるかが重要なポイントである。間違っても、飛竜地斬をやった阿久津vs天&赤木&三井の構図は作ってはいけない(戒め)

逆に言うなら、三井のような打ち手はコンビ打ちには向かないのかもしれない。

(しかし、こちらは通しのサインも決めてない……果たして、入念に計画を練ってきた向こうに対抗出来るか……!)

沢……町内会会長の不安をよそに組み分けのルーレットが回される。

(頼む……せめて強そうな黒服の男とヒロが同じ卓に……!)

そして……組み分けは以下のようになった。

A卓

ひろゆき&盲目の爺さんvs三井(仮)&三井(仮)

 

 

B卓

宮永咲&傀vs三井(仮)&『鉄の王子』

 

 

 

(くっ……駄目だったか……!)

結果は最悪。主戦力となりうるヒロが、よりによって盲目の老人と組まされてしまった。

……。

「……いや待て。それ以前に、青組三人が全員同じ顔にしか見えないんだが……」

……なんか面倒くさくて。

さて、積もる話もあるが勝負開始五分前。A卓が「なんでここに居るんだ市川!」や「なんで咲と一緒の卓じゃねえんだ……!」と騒がしかったが、気にしない。反対に、狂気のB卓は静かに開始の合図を待っていた。黒ずくめの男と女子高生の会話が漏れ聞こえる。

「ここを押すとメールが送信されて……」

「あ、本当だ!」

なぜかバブル経済期の人間にスマホの使い方を教わる咲。

「メールに顔文字を使っても良いかもしれません」

「凄いですね、スマホも使えて麻雀も強いなんて……」

ニヤっ……と笑う人鬼。この状況ではただの照れ笑いにしか見え

 

-ギラッ-

 

何でもありません……

「それでは開局です。そちらの方、賽を振って下さい」

「…?顔が少し赤いですけど風邪ですか?」

「いいえ、お気になさらずに。続行しましょう」

こうして、一周回ってただのギャグにしか見えない闘牌が始まったのであった。

 




最近むこうぶちにハマってます。古本屋に行かないと最初の巻が無いのが残念……
まあ、昨日の敵は今日の敵という言葉も有りまして、しれっと市川&ヒロのコンビを出してみました。(隣にいる更にヤバいコンビからは目を逸らしつつ……)
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