Q.もし咲が鷲巣巌と邂逅したら?   作:ヤメロイド

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とりあえず、これでプロローグは終わりです。しかし、咲の小説を書いていると、百合こそが正常な価値観だと思えてくるから不思議。つまりこういうことか。

赤木「もう漕ぎ出そう。所謂……まともから解き放たれた人生に……」


二人の約束

夜も更けた深夜、咲は一人部屋の中で俯いていた。

「お姉ちゃん……」

目の前に有ったのは、埃被った雀卓だった。全ての始まりであり、あの時の情景を凍らせたように留める卓。

もう一度、その場にいない人の名を呟く。

お姉ちゃん、と。

 

 

 

 

咲と淡が麻雀部に入ってから一週間が経った。これで大会に参加できる。何もかもが順風満帆に思えた。しかし、

「調子悪いの、サキ?」

淡が心配そうに咲の顔を覗き込んだ。

「うん……ちょっと、スランプかな」

思わず顔がうなだれてしまう。面子は久、まこ、京太郎、咲の四人だが、現在咲の持ち点22000点。逆転は狙えるとはいえ、咲にしてみれば有り得ない失点だった。

(参ったな……振り込み先の点数が絞りきれない)

3900の手に差し込んだつもりが、三色が絡んで満貫の出費になることや、頭ハネで差し込むつもりのない相手に和了られてしまうことが多々あったからだ。端的に言うと、最初に咲がやって見せた切れのある闘牌が錆び付いていたのだ。

結局、咲はこの半荘をプラマイ0で終わらせた。

(ダメだ……集中しないと。ちゃんと牌の声を聴かないと……)

しかし、そう思えば思うほど、何年も見てない顔が脳裏を削るように浮かび上がってくるのだ。

(うう……なんで……吹っ切った筈なのにっ!)

悔しくて、拳を握り締める。爪が肌に食い込み、容赦なく柔肌を破った。

「サキ!どうしたの!?」

「何やってるの!?」

瞬間、耳朶を二人の声が同時に打った。見ると、久と淡が心配そうに詰め寄っていた。

「ごめん……なさい」

崖の淵から這い出るような声に、久は「今日はもう帰りなさい」と言うのがやっとだった。

「すいません……そうします」

鞄を持って部室を出る咲。その後ろ姿を見て、淡は嫌な感触を覚えた。

「サキ……また、明日……」

「うん……また明日」

でも、結局は声をかけるのがやっとだった。淡は、まだ咲という人間に踏み込んでいない。それだけしか言えなかった。

 

 

咲が去った後の部室は重苦しい空気が漂っていた。

「どうしたんだろ、咲ちゃん……」

優希の声が乾いた空気に溶け込んだ。

「解らんの……ワシ等は咲のこと何も知らんけんの……」

まこのセリフは残酷なほどに正鵠を射ていた。誰も知らない。

「そうだな……俺もあんまり気にしたことはなかったな……」

そこまで踏み入れるほどに、まだ淡達の時間は経っていなかった。少なくとも、昨日今日出会っただけの友人に打ち明けられる程度の悩みではなかった。

「淡、大丈夫?」

後ろから、淡の肩に細い手が触れた。

「ヒサ……」

「顔、真っ青よ……」

思わず顔に手を当てる。確かに、なんとなく冷たいような気がした。

「あの……」

「解ってる。いいわ、今日はもう解散」

そう言うと、久は牌譜の整理をしだした。

「後のことはやっておくから、今日はもう解散」

カランと、部室に響く声。後に残ったのは、淡と久の二人だった。

そのまま時間が経った。何分も、何十分も、気が遠くなって指が冷たくなるほどの時間が過ぎていった。

「寒いね……」

「そうね……もう春なのに……」

雪の中で凍ってしまったような時間が過ぎた。淡は、雪の中を掻き分けるように言葉を吐いた。

「ねえ、ヒサ……」

「言わなくていいわ……解ってる」

顔も挙げずに会話する久。

「多分このままだと、二、三日中……ううん、早ければ明日にも咲は来なくなっちゃうでしょうね」

「何でそんなこと……」

「解るわよ、それくらい……解ってしまうわよ」

咲の錆び付いた闘牌を見れば否応なく。

「どうすればいいかな……私、サキと一緒がいい。一緒じゃなきゃ……嫌だよ」

その質問に、久は答えず、真っ直ぐ淡の方を向いた。

「私はね……悪待ちが好きなのよね」

「ヒサ?」

突然の言葉に、目を大きく開く淡。しかし、久はかまわず続けた。

「私は明日も……ううん、明日も明後日も、ずっとこの部室に来てくれると信じてる」

 

 

ここに来て、一緒に全国に行けると信じている。

 

 

「それが私の最高の待ち」

そう笑顔で言い切った。その笑顔で、漸く淡も笑った。

「あはっ……さっきサキはもう来ないかもって言ったばかりじゃん」

「普通に考えればね。でも、ここには皆がいる。だから、私は……安心して待てる」

そう言うと、淡に携帯を見せた。

「須賀君からのメールよ」

そこには『咲は○○湖の近くにいる』とだけ書いてあった。

「サキ……」

「行って、淡。咲をここに……」

黙って頷くと、淡は鞄も持たずに部室を飛び出した。

 

 

「サッキー……」

後ろから、自分の名前を呼ぶ声がした。そんな風に、自分の名前を呼ぶ人物は一人しかいなかった。

「淡ちゃん……」

「隣、いい?」

場所は、小さな湖のほとり。湖を囲むように据えられたベンチの一つに、咲はいた。隣に腰掛ける淡の様子がただならぬものに思えて、反射的に声をかけてしまう。

「どうした--」

「サキは麻雀嫌い?」

言葉を遮るように淡が言葉を被せた。それが咲を知る第一歩だと信じて。

「ううん。今は好きだよ」

「今はって……昔は嫌いだったの?」

その言葉に、少しだけ目を閉じた。小さかった頃の思い出。家族の顔。姉の顔。そして、鷲巣や赤木、原田や色んな裏プロの姿。

(多分、私は……)

「ううん。昔から大好きだったよ」

それが彼女なりの結論だった。

「嘘だよね」

でも、淡の一言にあっさり壊された。

「な、何言って……」

「だって最初に見た麻雀以外、全然楽しそうじゃなかったもん」

「違う」と言おうとして、それは喉を灼くだけで終わった。代わりに口から出てきたのは

「解らないよ、淡ちゃんには……」

何かを堪えたような呪詛だった。

「勝つことも負けることもできない……淡ちゃんには解らないよ……」

淡は黙って咲の声に耳を傾けた。

「脳を引っ掻くんだよ……お姉ちゃんと会うかもしれない、そう考えるだけで、頭の後ろで何かが掻き毟るんだよ」

「『お姉ちゃん』?」

「宮永照って知らないかな?」

その単語に、ハッと咲の顔を見た。似ていた。確かに面影があった。どうしようもない程に麻雀が強い二人。片やインターハイチャンプ。片や神域の打ち手。

「小さい頃ね、お年玉を賭けて家族麻雀をやってたんだ。勝ちすぎたら怒られる。わざと負けても怒られる」

「っ……」

思わず息を呑む。

「最後に残ったのは、獲得点数をプラマイゼロにする打ち方だった……でも、これが一番やっちゃいけなかったんだ。なんでだろうね?」

疲れたような笑みを浮かべる咲。そこから先は坂を転げ落ちるように話が進んでいった。姉とは絶縁状態。運が良かったから今も麻雀をやっているが、何かが掛け違っていたら

「もう二度と麻雀をやってなかったと思う……」

長い咲の話がやっと終わった。かに見えた。

「でも今は普通に……」

「うん、お爺ちゃん達のお陰だね。最近は漸くお姉ちゃんのことは忘れられた。吹っ切れたんだって思ってた」

でも、違った。

「あそこで麻雀を打つと、期待しちゃうんだ。お姉ちゃんとまた会える。また、あの頃みたいに笑ったり、喧嘩したり、一緒にお菓子を食べたり出来るんだって……」

そこで漸く淡の中で、バラバラだったパズルのピースが合わさった。

「もう吹っ切った筈だと思ってた!忘れた筈なんだ!なのに……なんでまたっ」

そこから先は嗚咽と混ざって、よく聞き取れなかった。そのまま泣いて、泣いて、気がつけば淡に寄りかかるように泣いていた。

「ごめん……服、汚しちゃった」

気にしないでというように肩を叩く淡。辺りはもう真っ暗で、顔を近付けなければお互いの顔も見れなかった。

「サキ、ごめんね」

へっ?と顔を上げる咲。その顔を、淡は包み込むように抱きしめた。

「気付いてあげられなくて」

また涙が零れそうになった。

「ねえ、サキ。これからは、私の為に麻雀を打って」

「淡ちゃん……」

顔を挙げようとして、そのまま胸に押し込まれた。

「顔は見ないでっ……多分、今物凄く真っ赤だから」

言われた通り、そのまま顔を埋める。

「参ったな……高校百年生の実力を持つ私が、こんな恥ずかしいセリフを言うことになるなんて」

空を見上げると、数々の星がすぐそこにあった。

(やっと聞けた……咲の過去、苦痛を……)

「ねえ、サキ。約束しよ」

「約束?」

「うん」

笑いながら淡は小指を出した。

「指切りげんまん。サキは私の為に麻雀を打つ。私はサキを守る」

「守って……何から?」

「何もかもから。私は強いから」

なし崩すように、二人の指が絡まった。

指切りげんまん。嘘ついたら……

「タコス千本飲ます、指切った」

 




何か黒歴史っぽい話を書いてしまった……orz
明日くらいにもう一度読み返して悶えている自分が見える……!だ、だって「ガールズラブ」入れてるし……

後、久に恭介っぽいセリフを言わせたくなってしまう病気にかかってしまいました。


久「あのね……そんなの私の方が嫌にきまっているでしょ!なんであなた達を置いていかなきゃいけないのよ!私だってあなた達といたいよ!ずっと、ずっと、いたかったのよ!」的な……
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