夜鷹が燃えるこの空で   作:ちゃしぶ(98mm/s)

2 / 3
再上映

 いつだったか、映画を観たことがある。友達と一緒に旅行に来た主人公が、その旅行先ですれ違った女性に一目惚れをする。帰ってみれば彼女も近くに住んでいて、そんなところから二人の関係が始まるも、彼女は若くしてガンにかかり余命宣告を受ける。彼女の残り少ない時間に寄り添い、わずか半年の命を二人の愛に捧げる。そんなありきたりな儚げな、手垢のついたストーリー。

 いつだったかは忘れてしまったし、別に面白かったわけじゃないけれど、最後のキスシーンは頭にこびりついている。ふと脈絡もなくあのシーンを思い出しては、そんな映画も見たっけな、と流していた。

 

 「へえ、リバイバル上映か」

 

 トレーナーと二人で歩く街並み、気分転換にと裏道を通ってみれば、そんなポスターを掲げた小さな映画館があった。

 

 「映画とか観んの?」

 「ああ、たまに。有名なやつは観るかな」

 「へえ」

 「シチーは?」

 「アタシは……」

 

 そう言われて思い出すのは、あのシーン。夕焼けに溶けゆくシルエット、唇で重なる輪郭、逆光になった二人が消えていく、あのシーン。

 

 「いつ観たんだろ、なんか一個だけ忘れられないやつがあるんだよね」

 「へえ、どんなの?」

 「普通のラブロマンスって感じ。特に有名ってわけでもないと思うんだけど、ヒロインの病室で、夕焼けをバックにキスして終わり。そのシーンだけ忘れられなくて」

 「もしかして、これだったりして」

 

 彼が指差すのは、リバイバル上映のポスター。どうやら日程を分けて数作、上映するようで、彼の指した作品はちょうど十五分後からだった。

 

 「あー……。どうだろ、本当にあんまり覚えてなくて」

 

 そう言って映画館の扉を開ける。

 どうやら個人で経営しているのか、内装はこぢんまりとして、一つの上映室と、発券とフードを兼ねたカウンター、カフェも内包しているのか複数の席がある。

 チリンと鳴ったドアベルがやっと聞こえたか、カウンターの奥から老人がやってくる。

 いらっしゃい。そう言う声は古びていた。

 

 「あー、どうも」

 「外のポスター見て入りました。十五分後のやつ、大人と学生一枚ずつで」

 「はい。二千五百円ね。ポップコーンはいるかい」

 「シチー、食べる?」

 「アタシはいいかな」

 「じゃあいいか。いりません」

 「どうも。上映室は開けてあるから、適当に座ってくれればいいよ」

 

 仕事を済ませたら、ご主人はまたカウンターの奥に戻ってしまった。

 奥はキッチンになっているのか、耳をすませばからからと音がするから、揚げ物でもやっていたんだろう。

 

 「他にお客さんいないっぽいね」

 「席の指定もないし、わがままに貸切だな」

 「映画観るのに他のお客さんがいないって初めてかも」

 「普段見るとしたら有名な会社の映画館だもんな」

 

 そう話しながら、特等席はどこか考えてみる。と言っても上映室もせいぜい二十人分程度の席しか無く、大した選択肢は無い。ど真ん中の椅子に座り込んだ。

 

 「アタシたちだけとはいえ、電源切ったほうがいいよね」

 「そうだな。映画館のマナーとして」

 

 やがて上映室の蛍光灯が消え、ジリジリというノイズ音と共に上映が始まる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。