お前もニフってる?   作:HLNF会長

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第一章 賢者な囚人とアズカバンの石
第一話 俺は世界一可愛い


 皆さんどうもこんにちは。

 私は今、イギリス、ダイアゴン横丁の一角に店を構える『魔法動物ペットショップ』に来ております。怪しげなダークパープルの壁には様々な動物の入った籠が掛けられており、マグルの世界では見られないような魔法生物が豊富な品ぞろえで並べられております。

 

 八月も終盤に差し掛かりまして、ホグワーツ魔法魔術学校の生徒たちが、自分のお気に入りのペットを貰い受けようと続々と入店しております。

 おかげで店は大繁盛。類を見ない騒がしさに、店内の魔法生物たちも殺気立っております。あ、今火蟹が火ィ噴きましたね。

 

 ん?

 

 私が何処にいるかって?

 

 こっこで~す、こっここっこ。

 

 店の入り口に鎮座するニフラーの檻の一番前で手を振ってるニフラー。あれ俺です。

 いや、ね、いつの間にかハリー・ポッターの世界に転生してたっぽいんですよね。カメラさんもうちょっと寄ってください。そこでストップね。

 

 前世の事なんてほとんど覚えてないんですけどね、とりあえず俺はこの店で、五月辺りに生まれたニフラーなんです。因みに奥の方で小さいニフラーの面倒見てるのが俺のおかーさま。

 薄いグレーの体毛に黒い斑の俺と違って、紺の体毛のいちばんデカいニフラーです。

 

 で、話を変えると。

 元人間現ニフラーの俺が目指すべきところとしては、この魔法生物競争の激しい店で一刻も早く売れることなワケなんですわな。今の俺は生後三か月。カワイイ盛り。逆にこれを逃すとまずい。

 

 なるべく女の子に売れたいな。ほら、幼少期の男ってイキモノに残酷なとこあるだろ。カワイイ子に王様みたいに扱われるの希望。

 

 というか今ってどの時期なんだろう。魔法族の服装なんて時代錯誤だから置いておくとして、マグル出身の子の服装を見ると、多分1990年代とかだと思うんだよな。闇の時代って感じしないから、ハリーが一歳から十六歳くらいの間?

 出来ればよォ、魔法とか使いたかったよな。小さい杖持ってビュンビュン戦闘したかったぜ、俺。げんさくちしき、っていうんだっけ? も多少あるし。

 

 そんなこんなを考えながら檻の一番前で可愛い子ぶること数十分。とある少年と大男がこの店の中に入ってきた。

 

 やべえ! アイツ、ハリーじゃね?

 だってメガネ掛けてるし、服装もみすぼらしいし、背ェ低いし、隣にハグリッドいるし。多分おでこに稲妻マークあるぜ。

 

 ハグリッドは店の奥の方に行ってしまった。多分店員と話してるんだ。

 なんとかその少年に気が付いてもらおうと、俺は檻をガタガタと揺らした。店の扉の前で少しばかり逡巡していたらしい彼は、目を丸くしてこちらに近づいてくる。

 

 しめた、ビンゴ! やっぱり稲妻マーク。ハリーだ。

 

 なんとか彼に買ってもらおうと、思いつく限りの芸を披露する。主人公に飼われるなんて面白いに決まってんだろーが。

 

「きみ、僕が気になるの?」

 

 腕を上げてくるくると回りながらバレリーナの真似をしている俺に、ハリーが声を掛ける。勿論だ。ブンブンと首を縦に振ると、ハリーは困ったように頬を搔いた。

 

「ごめんね。僕、いまお金が無いんだ。動物を飼える場所もないし……」

 

 おいおい、そりゃなしだぜブラザー。

 焦ったように檻をガンガンと揺らす俺を、「シーッ!」と言いながらハリーが宥めすかす。そうしているうちにハグリッドが帰ってきた。

 

「お、ブチのニフラーか。なかなか珍しいな。ハリーに懐いちゅう」

 

 「よーぴよぴよぴ」などと言いながらハグリッドが此方に指をチロチロと振ってきた。ゴロンと転がってみると、ハグリッドは更に上機嫌になった。

 元人間としてはクツジョクだが、仕方ない。ハリーがお金を持っていない今、彼らのお財布はハグリッドが持っているんだ。

 

「どうする、ハリー。お前さんが買うか?」

 

 お、いいぞ。その調子だハグリッド。押せ。

 

「うーん」

 

 ハリーは険しい顔のままハグリッドを見上げた。

 

「僕の家は生憎“魔法”が嫌いな人たちが住んでるから、この子のことも良くは思わないだろうし……それに、学校には猫かヒキガエル、梟を連れて行くんでしょ?」

 

 おま、ヘドウィグ飼うやんけ~~~!!!!

 俺は思わず叫んでしまった。勿論心の中でだけど。

 

 フクロウはいいのか!? フクロウだったら許されるのか!?

 こんなに俺は可愛いのに? 欲に負けずに飼わなくて命への倫理観あるねとか言うてる場合ちゃうねん。

 

 買え。俺を飼え。

 この機会を逃したら俺は終わる。

 

 そんな俺の叫びを無視して、ハリーはハグリッドと共に店の外へ出て行ってしまった。既に外の街道を埋める人ごみに紛れてしまっている。

 

 やばいやんけ。

 

 まあ、こんな時のために秘策を用意してある。店の人の言う事をよぉく聞いて、一回も抜け出さなかった俺だからできる事だ。

 

 自分の持つ袋から、そーっとあるものを取り出す。針金だ。

 光物を好む普通のニフラーなら見向きもしないさびた針金。手を伸ばして檻の外側にある鍵穴をかちゃかちゃやっていると、様子に気が付いた魔女の卵が「ニフラーが脱走しようとしてる!」と声を上げた。

 

 お嬢さん、そういうの、言っちゃダメなんだぜ……。

 

 店員が駆けつけるよりも先に、俺は間一髪で檻の鍵をこじ開け、めいっぱい扉を開け放った。

 

 途端に飛び出す無数のニフラー、視界の端で崩れ落ちる絶望した店員、ワッと沸き立つ子供たち、飛び上がって入り口のドアにスローモーションで吸い込まれるように放物線を描く俺。

 

 ゆっくりと流れる時間の中で、店主の髭面のエドワードが、俺のことをとんでもないものを見る目で凝視していた。

 ゴメンなオッサン。猫、被ってたんだわ。

 アディオスと二本の指を振った後、俺はアクシオが放たれるより先にドアの隙間から外に飛び出ていた。

 

 ぐるりと周囲を見回す。

 さてと。急がなきゃエドワード爺さんが追ってくる。俺より何十倍も背丈のある人間の雑踏の中で状況を確認した後、俺はすぐさまグリンゴッツのある方角へ向かった。

 金持ってないって言ってたもんな。買い物には金が必要だから、二人はまず真っ先に銀行に行くはずだ。

 

 どんくさい人間に踏まれないようトップスピードで走っていた俺は、遂に銀行に入ろうとしているハリーの背中を捉えた。

 勢いよく駆け上って、ハリーの頭によじ登る。「ウワッ」と悲鳴が聞こえた。振り落とされない様に髪の毛もっとこ。かなりのくせっ毛だからへばりつきやすい。コリャ才能だぜ。

 

「このニフラー、まさかさっきの!?」

 

 気が動転していたハリーだったが、すぐに立ち直り俺の足を掴んで宙ぶらりんにした。腕を下ろすと頭の上の方から登場した、見た事ある顔(ニフラー)に驚愕している。

 ちなみにハグリッドは隣で爆笑している。

 

「たぶん脱走してきたんだ、値札が付いたままだ……」

 

 呆けたようにハリーは言った。足をぶんぶん振り回すと値札がチラチラ足にまとわりつく。チッ、もどかしいやつめ。

 

「どれ、百二十ガリオン……ちびっ子ニフラーにしちゃあたけぇな。アタマがいいから、育てやすいと判断されたんだろう」

 

 脱走したしな、とハグリッドは付け加えた。日本円に直すと十二万円くらいか? ふん、なかなか見る目があるぞ、エドワードのおっさん。俺脱走したけど。

 

「どうする? ハグリッド。もう一回戻るべきだよね」

 

 そろそろ宙づり辞めてもらえませんかね。うんしょうんしょと体勢を立て直そうとする宙づりの哀れなニフラーのことを思ってだね。

 

「このニフラー、随分お前さんのことを気にいっちょるみたいだぞ。脱走してきたしな。飼ったらどうだ? 銀行でお金を下した後、もう一回店に戻って事情を話せばいい」

 

 こっちからは逆さに見えるハリーが、険しい顔でウーンと唸った後、「うん、そうだね」と言って俺を抱きなおした。逃げる気がない降参ポーズが効いたらしい。

 

「じゃあ、名前を決めんとな」

 

 再び歩き始めたハリーとハグリッドが、俺を見ながら話し始めた。

 一方俺は初めて見るグリンゴッツの内装に興味津々である。めちゃくちゃ豪華じゃんココ。スッゲ~!

 お金いっぱいあるんだろうなあ。

 俺も他のニフラーの例に漏れず、金ぴか大好きである。

 

「ニフラーは早く名前を付けないと逃げちまうぞ」

「逃げそうに見える?」

 

 ハリーが俺を肩に乗せると、俺はするすると頭に登って一息をついた。逃げねーぜ、そんなに心配されても。フンと鼻を鳴らす。

 むむ、とハグリッドが唸る。

 

「どうしたらニフラーにそんな懐かれるんだ? 警戒心が強いやつらだぞ」

「わかんない。でも目が合ったらもの凄くアピールしてきたんだよね」

 

 ハグリッドが一つのカウンターに近づいた。気難しそうなゴブリンがなにやら文書を書いていたが、ハグリッドを目にすると手を止めた。

 

「ハリー・ポッターさんの金庫から金を取りに来たんだが」

「鍵はお持ちで?」

 

 ハグリッドがなにやら屑をまき散らしながらポケットを探り、小さな黄金の鍵を取り出した。鍵の美しさに思わず掴んでいた髪をもっと強く引っ張って、身を乗り出す。あとで貰えねえかなあれ。預かっとくぜ。俺の袋のセキリュティーはグリンゴッツ並みだ。

 ハリーの頭をかき分けて出てきた俺をゴブリンは一瞥すると、鍵をじっくりと調べた。

 

「確かに」

「ああ……それと、ダンブルドア教授からの手紙を預かって来とる」

 

 ハグリッドは重々しく言った。

 

「七一三番金庫にある、例のものについてだが」

 

 ゴブリンは手紙を読み込むと、「承知しました」と頷いた。俺も頷いた。例のアレの事だろ。俺も知ってる。賢者の石。

 ふふん、俺の下にいるハリーよ、俺がいる限りは安心だぜ。この有能魔法生物ことおれさまが滅茶苦茶役に立ってやるからな。

 

 ゴブリンが近くにいた案内係のグリップフックを呼んだ。俺らはトロッコのある場所まで連れていかれる。

 

「ポッター様、そちらのニフラーは服の中にお仕舞い下さい。いまからトロッコに乗りますので……それと、この銀行にいる間は、目を離さないでくださいませ。ニフラーは光物に目がありませんから」

「分かりました」

 

 ハリーは頷いた。俺も頷く。頷いてばっかだな俺。でも喋れねぇしな。

 ハリーは俺を手に乗せると、自分のシャツの中に俺を押し込んだ。

 

「この中にいてね」

 

 首を振って頷く。そうこうしているうちに俺らはトロッコに乗っていた。

 

 

 その後はもう、なんだ、ジェットコースターだった。ハリーと俺は大丈夫だったが、ハグリッドは膝を震わせながら顔を真っ青にして固まっている。やばかったよな、あれ。分かるぜ。シートベルトもないもんな。

 

 てかさ、普段からトップスピードの俺はともかく、なんでハリーもそんな平気なわけ? これがシーカーの逸材ってやつなんかね。

 

「わ」

 

 ハリーが息をのんだ。

 グリップフックがハリーの金庫を開けると、その中には金貨や銀貨の山が待ち構えていた。ハリーのシャツの隙間から覗いていた俺はたまらずその宝の山(パラダイス)に飛び込む。

 ッカー! たまらねえぜ!

 

「ハリー、そりゃ全部お前さんのだ」

 

 ハグリッドがハリーの肩に手を置いた。ハリーの目の前には、金貨の山で悠々と背泳ぎをするニフラー(おれ)

 

「ニフラーってホントに光物が好きなんだね……」

「昔はゴブリンもニフラーを使って鉱山の宝石を探り当てていたものです」

 

 俺を目で追うハリーに、グリップフックが話しかけた。

 今のうちに、と俺は近くにあった銀貨と金貨の崩れた山を袋に詰め込み始める。

 ハァハァ、ハリー、金の管理は俺に任せとけよ。ウヘヘヘヘ。

 先程まで山のようにあったコインが俺の袋に吸い込まれていく。

 

 何分か俺を泳がせていたハグリッドは、収集に満足して金貨の山から見つけたひときわ光り輝く綺麗な金貨に頬ずりする俺をむんずと掴むと、俺を逆さにして振った。

 

 ジャラジャラと金貨が俺の袋からさようならしていく。

 

 なんてことしやがる!

 ああ、今ならひとつひとつの金貨に顔が見えるぜ。みんな泣きながら俺に手を振って落ちていく。

 

「見たろハリー、ニフラーはこの腹の袋にいくらでも詰め込める。……と、これぐらいでいいか。この中に残ってる分で一年は大丈夫だろう。ニフラーは光物を見ると盗む癖があるから、学校ではちゃーんと見張るんだぞ。ほれ」

 

 目をまわした俺は、ハグリッドの大きな手で再びハリーの頭の上に戻された。

 

「こいつが本気を出せば主人以外はお金を取り出せない。生きた財布だ、ニフラーに大事なものを守らせるのも手だぞ」

 

 未だ金貨に頬ずりしている俺を連れて、彼らは次に賢者の石のある金庫へ向かった。ちなみになにか起きたわけでもないので割愛する。




普段堅苦しい文章ばかり書いているので、息抜きに始めました。楽しい。楽。

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