お前もニフってる?   作:HLNF会長

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第十一話 フィルチとスネイプとそれから私②

 

「先生、今日の手当てに来ました」

 

 セブルス・スネイプという人間は大変偏屈な人間である。

 

 季節の巡りに対して衣替えを一切行わない姿勢が垣間見える真っ黒なローブ、肩辺りまで伸ばした脂ぎった黒髪、生徒の少しのミスも許さないといったような鋭い眼光に、大きな鷲鼻。

 スリザリンの生徒たちにある程度懐の深い———比較対象に対する懐の狭さが目立ってしまうために———様子から、一部生徒からの熱烈な支持を得ているものの、この学校でセブルス・スネイプ被害者の会を開こうとしたのならば整理番号が百を超えるであろう嫌われっぷりである。

 

 しかしこのホグワーツでは、スネイプと“生徒たちの嫌われ者”という不名誉な称号の双璧を張るもう一人の人間がいる。

 たった今、スネイプしかいない職員室に現れたアーガス・フィルチその人である。

 

 授業中特定人物に対して集中砲火するセブルス・スネイプを“狭く深く”型だと評するのならば、アーガス・フィルチは“広く浅く”型だろう。

 目についた校則違反は絶対に見逃さないし、毎年持ち込み禁止リストに底意地悪く加筆しているし、生徒に体罰をしていた時代を懐かしがるしで、まったくもって生徒に好かれる理由が思い当たらない。

 

 しかし何故“広く()()”なのかと言うと、その理由は至極簡単なことだ。生徒たちにとって、アーガス・フィルチとは存在感の薄い男なのである。

 

 なにせアーガス・フィルチは()()()管理人である。この城は教師と生徒、教えを与え、それが享受されることで関係が築かれている学び舎だ。スネイプが学生の時分もフィルチはここの管理人をしていたはずだが、スネイプとしてもフィルチの記憶は朧げにしかなかった。

 

 勿論どこぞやの双子のように廊下で大きな花火を四発ほど放つような生徒にとっては仇敵に等しいだろうが、普通の生徒にしてみればあまり関わりのない人間に留まっている。関わりがないからこそ、いざ違反物を没収されると憎さも割り増しであるらしいが。

 

 スネイプが促すと、フィルチはキイキイと椅子を引いてきて、投げだされたスネイプの片方の脚を持ち上げた。ガウンが除けられると、血がたっぷりと染み込んだ包帯がふくらはぎのあたりに巻かれていた。忌々しい三頭犬にしてやられた傷である。

 頭の隅に紫色のターバンまで出てきたところで、スネイプは一旦思考を取りやめ、鷲鼻から深く息を吐きだし、掛けていた椅子の背もたれに寄りかかった。

 

 スネイプは再び目の前の老いた男を見下ろした。フィルチは血管の浮き出た細い手で丁寧に包帯をはがしている。

 

「それにしても災難でしたね。あの犬の傷はなかなか癒えないそうで」

 

 フィルチが口を開いた。

 閉心術の使えないスクイブが例の部屋についての情報を知っているのもどうかと思うが、城の管理人たる彼が三頭犬の情報を知っていないと不幸な事故が起こる可能性がある。とうに三頭犬のことなどクィレルは調べがついているだろう。今奴が引っかかっているとすれば、あの三頭犬の対処方法のはずだ。

 

「我輩の見立てでは三週間で完治、といったところでしょうな」

 

 スネイプは苦々し気に言った。

 彼ら二人以外は誰もいない職員室を再び静寂が包み込む。スネイプが視線を漂わせると、ある一点で彼の視線が止まった。フィルチの手先である。指の先端辺りがほんのりと黄色く色づき、皮がむけている。その症状にスネイプは心当たりがあった。丁度少し前に一年生に教えた“笑い転げる薬”に使う薬草の粉で稀に現れる炎症だ。

 

 しかし、魔法など今までめっきり触れようとしてこなかったフィルチも、遂に魔法薬学に手を出すようになったか。顔にこそ出さなかったが、スネイプはかなり驚いていた。

 

 スネイプがフィルチに抱いている感情と言えば、かなり複雑ではあるが、大多数を憐れみが占めている。働きがはっきり評価されるわけもなく、魔法も使えないのに、この学校で生徒たちの世話をするスクイブ。敬語を使い頭を垂れて、かつては生徒だった人間の包帯を甲斐甲斐しく替えている。

 死喰い人時代の優生思想的な考えの名残がスネイプの中にはいまだあるのかもしれない。

 愚かな生徒たちを対処する大人としての共感や、ほんの少しの同族嫌悪などがありつつも、スネイプが浮かべるのはいつも憐憫の情だった。

 

 スネイプはフィルチと同様、孤独の人である。誰かと群れるようなことは基本しない。学生時代は友人もいたが、今や彼らは死んでいるかアズカバンか袂を分かっているかだ。

 しかし彼のこの炎症はあまり見過ごせたものではない。かのポッターがしでかしていたとしたら、しこたま嫌味を言った後、グリフィンドールに十点減点するような代物である。このような初歩的なミスをしていては、のちに大きな事故に繋がる可能性もある。

 

 さて、この足取りの覚束ない魔法初心者をどうするべきか。別に無視してもかまわないはずだ。

 

 スネイプは考え始めた。そういえば最近、マクゴナガルとスプラウトがどうにもコソコソと何かをやっている気配がある。魔法薬学には専門的な薬草の入手が必要だ。もしかするとフィルチはスプラウトから薬草を分けて貰っているのかもしれない。探ってみるか。

 

 そんなことを考えていると、スネイプの脚に鋭い痛みが走った。身体を少しばかり跳ねさせ、舌打ちをする。フィルチの指先が、スネイプの傷のまだ柔らかい部分に触れたらしい。

 

「いまいましい奴だ。三つの頭に同時に注意するなんてできるか?」

 

 スネイプは吐き捨てるようにそう言った。入口の扉の方から気配がして目を向けてみると、あの忌々しいポッターが扉からこちらを覗いている。その姿がどうにも()と被り、スネイプの頭は一気に沸騰した。

 

「ポッター!」

 

 スネイプは顔を歪め、大声で怒鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピー!!! と、甲高いホイッスルが鳴り響いた。誰が鳴らしたのかって? 俺に決まってんだろ。

 今日はハリー率いる(正確にはオリバー・ウッドだが)グリフィンドールとスリザリンのクィディッチの試合当日だ。俺はここ二週間ほど夜なべして作った特攻服を着てサングラスをかけ、ハチマキを巻いている。かかって来いや喧嘩上等。背中には歪な文字で“仁不羅最恐”と書いてある。習字が特段下手くそな俺が糸で縫ったんだ、多分俺以外誰も読めないことだろう!

 後ろの方ではロンやシェーマスたちが“ポッターを大統領に”という文字と大きなニフラーが描かれた大きなシーツを掲げている。ひとまずここのニフラー化は終わったな。小さなことからコツコツと、だ。

 

 ハリーが上空でふらふらスニッチを探している傍ら、俺はスネイプの方を見ていた。まだ呪文は唱えていないが、彼の目はしっかりとハリーを捉えている。愛ですなあ。

 スネイプって性格が本当に終わっているのに、リリーへの愛は凄いんだよな。掃き溜めに鶴ってやつ? だからよりこの純愛が目立つんだろうか。いい奴だとは思うんだけどよ。

 

 しばらくたって、ハリーの箒が暴走し始めた。クィレルの呪いだ。知らない人がいるかもしれないから一応説明しておくと、クィレルっていうのは闇の魔術に対する防衛術の教師で、ひどくあがり症で、オシャレなターバンを巻いていて、後頭部に闇の帝王を飼っている男だ。

 何を言ってるか分からないだろ? 俺もだ。

 

 ともかく、クィレルは箒に闇の呪いをかけてハリーを振り落とそうとしているってワケ。それにタイコウジュモン? を唱えて防いでいるのがスネイプだ。

 ハリーの異常に気が付いたハーマイオニーは、様子のおかしいスネイプに目を留めた。お、よくやったぞ、流石未来の魔法大臣! ただ、俺らが本来相手にするべきはそこからちょっと離れたとこにいるクィレルなんだけどな。

 

「スネイプよ。ハリーの箒に呪文を掛けてる……ほら、見て」

 

 ハーマイオニーがロンに囁いて、双眼鏡を渡した。ロンは渡されたそれを覗き込み、スネイプに照準を合わせている。

 

「ほんとだ。俺たちどうすりゃいいんだ?」

「任せて」

 

 ハーマイオニーはロンの返事を聞く間もなく、俺を捕まえて———席を立った。……俺を捕まえて? 俺の視界はビュンと高速に移動し、ハーマイオニーの胸元辺りで止まる。既に彼女は観衆を掻き分けスネイプの方に足を進めている。俺を鷲掴んだまま。あれ、俺いつの間に巻き込まれたんだ?

 

「ああ、進めないわ。クィレル先生がいる」

 

 ハーマイオニーが悲観に暮れたような声をあげた。目の前には小さな通路と、それを塞ぐクィレルだ。

 

 大丈夫だって! クィレルを前の席まで吹っ飛ばせばすべてうまく収まるんだって! 強引に通ろうよそこは! つき飛ばせ! というかそれが本来のルートのはずだ!

 

 ……なんて恐ろしい俺の叫びがハーマイオニーに聞こえることはなく、彼女は切羽詰まったような顔で俺を見下ろした。なーんか嫌な予感がするんだぜ。俺がわたわたと手の中から逃げ出そうと藻掻いているのをハーマイオニーは察し、一層俺を強く掴んだ。俺は彼女の指を小さな拳でダンダンと叩く。びくともしない。

 

「お願いロミオ、ハリーの危機なの。スネイプの呪いを何とかして頂戴」

 

 ハーマイオニーが眉を八の字にして俺に囁いた。とんだ無茶言うんじゃないよ、まったく……。

 ただ俺は、イタリアの伊達男の異名を持つ男。悲しむ女の子を放っておいたらロミオの名が廃るってもんだぜ。しゃーねえ、一肌脱いでやろう。どうせ罰則受けるのはハリーだしな。みんなでハリーに合掌。

 

 俺はサムズアップし、ハーマイオニーの手からするりと飛び上がった。そのまま観客席に座っているニンゲンたちの膝の上を駆ける。招待席だから大人の魔法使いたちが大半なんだが、俺への耐性がまだないらしく驚いた声をあげている。まだまだだな、お前らも。ホグワーツの生徒たちはこんなことぐらいじゃ動じないぜ。こないだ俺が誤って大量のポップコーンを大広間の天井からばら撒いた時も、雪だとかなんとか言って食べてたし。

 

 俺はついでとばかりにクィレルの後頭部に着地し、自慢の後ろ脚で蹴り上げ前の席までふっ飛ばした後、いくつかの島を経てスネイプの顔面に勢いよくべったりと張り付いた。

 鈍い声をあげてスネイプが固まった。隣にいたスプラウトがこちらに気が付いたらしく、笑いをこらえている。俺がズルズルと下にずり下がると、スネイプの真っ黒な瞳と目が合った。

 

 あ、と言わんばかりに正気に戻ったスネイプは俺を鷲掴んで顔からどけると、急いでハリーを目で探した。既にハリーは箒を乗りこなし試合に復帰している。流石だぜ俺のご主人サマ。そこに痺れる憧れるゥ!

 

 スネイプは誰にも気が付かない様に浅く息を吐いた。ほっとしたんだろう。クィレルの方に目を向けている。クィレルは前の席につんのめった後、周りの人に声を掛けられてどもりながら謝り中だ。

 

 おそらく俺が突き落としたことは薄々察しがついているのだろう、スネイプはじっと俺を凝視していた。焼け石に水だが、一応俺はスネイプの手の中で精いっぱい可愛い子ぶっている。黒い目をきゅるんと輝かせながらにこやかに———イタタタタ、握る力が強くなってるよこの野郎。小さな動物は丁重に扱え!

 

「あら、ロミオとお友達になったんですか? スネイプ先生」

 

 ()()()()()()()()()()()

 スネイプがバッと横を振り向くと、スプラウトがニコニコと微笑みながらスネイプを見ていた。性格が比較的肝っ玉母ちゃんと同じスプラウトにはスネイプも強く出られないのか、口の端をピクピクと痙攣させながら彼女を見ている。

 

「ロミオは魔法薬学が得意でしょう? 私も彼のことを見てあげられないときもありますから、空き時間にでもスネイプ先生に監督をお願いしたいですね。あっ、それとも助手とか? 彼、授業中に私の助手もしているんですよ。魔法薬学は生徒が多くて大変でしょう、ロミオを助手にしてみては?」

 

 俺とスネイプが固まっているのをよそに、スプラウトがペラペラと機嫌良く喋り始めた。多分陰キャを極めているスネイプと俺が交友があると分かって嬉しいんだろう。今直ぐその口を塞ぎたいところなんだけど、俺は生憎スネイプに鷲掴みされているからそれもかなわない。

 

「何を話しておるんだ?」

 

 スプラウトの隣に座っていた老人が口を挟んできた。どうやらハッフルパフ出身の学校の理事らしく、動物好きなこともあって俺が気になっていたらしい。スプラウトが彼に俺のことを話し始めているのを見て、俺とスネイプの心は一つになったような気がした。とてもまずいことが起こりそうな予感がする。

 

 ホグワーツの理事とかいう極めて酔狂なことに手を出す人間は面白いもの好きが多いらしく、先程俺が膝の上にお邪魔した魔女たちもわらわらと集まってにこにこ話を聞いている。

 おれ、帰りたい。わたわたと手足を動かすも、スネイプが俺を持ったまま固まっているので逃げられそうになかった。スネイプの眉間が深い谷間を築いている。

 

 その後、俺は理事たちに冗談交じりに勧められ、魔法薬学の授業をハリー達と一緒に受けることになった。チベットスナギツネのような顔になっているスネイプの手の中で、俺は宇宙を背後に背負って放心していた。

 マダム・フーチのホイッスルが鳴った。どうやらハリーがスニッチを捕ったようだ。

 

 

 




一応③まであると思います。

スネイプの現在のロミオの印象ですが、「悪辣なニフラー」これに尽きると思います。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。たぶん。

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切実に燃料をください。エタる確率が低くなります。沢山の感想ありがとうございます。感想をください。私の主食です。
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