お前もニフってる? 作:HLNF会長
十二月二十五日、クリスマス。ハリー・ポッターは、ブラック邸リビングで変身術の課題を解いていた。部屋はクリーチャーの魔法でとても心地よく、大きな暖炉には小さな炎がパチパチと爆ぜていた。分厚いベルベットカーテンの隙間から覗く窓の外は大雪で、薄暗くなった通りを街灯の光がとぎれとぎれに照らしていた。
ハリーが柱時計の方に目を向けると、既に時刻は午後七時を回っていた。もうすぐシリウスが姿現しして帰ってくるころだ。
魔法省随一のブラック部署と名高い闇祓い局に勤めることとなった彼は随分と多忙を極めているらしく、ハリーの冬休み期間中も帰ってきたり帰ってこなかったり帰宅はまちまち、といった様子だ。必要があれば国を跨ぐこともあるらしいが、秘密事項もあるのかハリーもあまり詳しく訊けなかった。
一度、マッド-アイという上司をこの家に連れてきて、もしシリウスに何かあったら連絡するようにという話をしたこともあったが、それ以外のシリウスの同僚は面識がない状態だ。
いいにおいが漂ってきた。今日はロミオがディナーを作るらしく、昼頃からクリーチャーを無理やり引き摺ってキッチンにずっと籠っていた。多分ビーフシチューと、チキンの匂いがする。あとパエリアを作るって言ってたな。ケーキも作るらしいし……待てよ、三人(とクリーチャー)で食べきれるのか?
食については全く余念がないどころかどこかブレーキが壊れている節のあるロミオだ。
ハリーが一抹の不安を覚え始めたところで、玄関の方から物音がした。シリウスだ。ハリーはばっと立ち上がった。
「シリウスおかえり!」
ハリーがリビングから出て廊下の方に顔を出すと、玄関で雪を払い落としているシリウスが顔を上げた。
「ハリー、ただいま。郵便局の方に行って手紙やら何やらを全部受け取ってきた」
コートを壁にかけながら、シリウスは髪をかき上げた。ブラック邸の場所をロンたちは知らないので、すべて郵便局預かりにしてあるのだ。
「友達からのプレゼントはこの袋の中に入ってるぞ」
その言葉にそそくさとハリーは近づき、シリウスの足元にあった白い袋の中をのぞいた。色々な包みがあってハリーはワクワクしてきた。クリスマスプレゼントなんて、ダドリーのお下がりしか貰ったことなかったのに。
「で、ハリー……メリー・クリスマスだ」
ハリーがシリウスの方に顔を向けると、照れたような表情のシリウスは背後から大きな包みを持ち上げた。本当に大きい。ハリーが受け取ると、かなりずっしりと重い感覚があって、ハリーはたまらず床におろした。
「ありがとうシリウス。開けてみていい?」
「いいぞ」
こんなに大きな包みなんて、いったい何が入っているんだろう。ハリーが赤と白の紙包みをビリビリと破ると、中からとても豪華な外装のトランクが出てきた。なんだかその形状に何か思いついたらしく、ハリーは笑顔を抑えきれずにトランクを開ける。
中に入っていたのは見覚えのある三つのボールだった。
「シリウス、これって———」
「ああ、クィディッチのセットだ。ハリーはシーカーだからスニッチしか使わないだろうが、選手として持っておきたいモノだろう? あとでクリーチャーに部屋に運ばせよう」
ハリーは新品で上質な革が張られたクアッフルを手に取った。両脇にあるのは黒い鎖で抑え込まれたブラッジャーだ。
「頼むからブラッジャーの抑えを家で取らないでくれ。一瞬で家がなくなるから。前にジェームズがやらかしたんだ」
「勿論」
ハリーは一通り中のものを触った。トランクの下段を開くと箒のメンテナンスキットなどがずらりと並んでいる。ともするとホグワーツの備品よりも質がいいかもしれない。
ハリーは最後に、トランクの裏側に取り付けられた銀で縁取られたグリフィンドールの紋章のケースを開いた。中には金色のスニッチではなく、銀色のスニッチが入っている。ハリーが取り出すと、スニッチは銀色の羽根を優雅に開いた。
「すごい……銀色のスニッチなんてあるんだ」
「このセットは特注したんだ。銀色のスニッチなんてなかなかないぞ。トランクの後ろ側にはハリーの名前も彫ってある」
「ほんとうにありがとうシリウス!」
「一年生でシーカーに抜擢された息子を持てて私も誇りだよ」
二人はにこにこと微笑み合った。
ちなみに無粋な話をすると、クィディッチのボールセットの値段はピンキリである。木箱の安い初心者セットもあれば、オーダーメイドのプロ選手が使うものまである。
ちなみにこれは後者であり、ハリーが値段を聞いたら八回は聞きなおしそうな代物であった。
「そういえば、今日のディナーにはロミオが噛んでるのか。彼へのプレゼントも渡したいんだが……キッチンかい?」
「そうだよ。何買ったの?」
「マグルのデパートで見つけた幼児用のピアノだよ。多分大きさが丁度いいと思ってね。大きいからあとでにしよう」
ハリーとシリウスがダイニングに入っていくと、丁度サンタのコスプレをしたロミオとクリーチャーがディナーの皿を並べているところだった。
あ、みんなメリクリメリクリ!
今年のクリスマスは素晴らしい大雪だな。ホワイトクリスマスって言うんだっけ? 今外には出れねーけど、早朝あたりになら雪で遊べると思うぜ。
俺が長テーブルに料理を運んでいたところで、丁度ハリーが仕事終わりのシリウスを引き連れてダイニングに入ってきた。俺の作ったご馳走の数々にシリウスが目をかっぴらいて驚いている。
そりゃあ今日の昼から約七時間、クリーチャーと一緒にずーっと仕込みしてたからな。
ブラックペッパーやパルメザンチーズをかけた鯛のカルパッチョ、昨日から仕込みをし始めた表面が輝いている七面鳥と、地下の蔵に眠っていた高級ワインをふんだんに使用したコクのあるビーフシチュー、ムール貝やブラックタイガーなどの魚介のうま味のしみ込んだパエリア。砂糖細工のニフラーが刺さったブッシュドノエルはまだ冷やしてある。
ブラック家の調度品はどれも一流で、キッチンに置かれている皿は銀で出来た皿か、とんでもない値段がしそうな陶器の皿しかなかったので、クリーチャーの顔色を伺いながら料理をよそうことになった。
クリーチャーと喧嘩しなかったのかって? んー……多分してない。今日はロミオを手伝えってシリウスが言ってくれたから一応手伝ってはくれたし。そもそも俺魔法生物だからマグル煽りとか効かないし。空気的にギスってたかもしれないけど、口のきけない生物と喧嘩なんて出来ないだろ?
なんかアイツ、フィルチみたいで憎めないんだよなあ。変な信念があるところとか、意地悪で人に嫌われるところとか、孤独なところとか。
料理を運び終わると、睨みつけるシリウスを背にクリーチャーはさっさと部屋から出て行ってしまった。この場にいても多分嫌味と暴言を無限に垂れ流すことが分かっているので順当っちゃ順当なんだが、あいつこれから一人だろ?
クリスマスを一人で過ごすのは寂しいよなあ。
あとであいつの寝床に行ってやろう。鬱陶しがられても、何もやらないよりかはマシだ。人間(動物?)関係、前進あるのみ。
「随分と多国籍なテーブルだな。なかなか美味しそうだ」
シリウスが料理をしげしげと眺めながら席に座った。
まあ、カルパッチョはイタリア料理だし、パエリアはスペイン料理だし、ブッシュドノエルはフランス料理だしな……シチューと七面鳥はイギリスでも食べるらしい。別に俺はイギリス料理が不味いなんて言ってないぜ。ほ、ほら、ホグワーツであんまり出ないものを作っただけだ。
シリウスとハリーは向かい合って座り、俺はお誕生日席に座って、さっそく宴が始まった。俺とハリーはよだれを垂らしながら真っ先に七面鳥を切り始め、シリウスは目の前のグラスに白ワインをなみなみと注ぎ、カルパッチョをものすごい勢いで消化している。
しばらくたち、なんだかヤバくね? と俺たちが気が付いた時にはもう遅く、シリウスは顔を真っ赤にしてハリーの隣に座りなおし、ひたすらジェームズとの思い出やハリーのすばらしさについて語りはじめていた。
字面だけならかわいいんだけど、こっちからみたら子供にくだを巻いているおっさんだ。収拾がつかなくなったらハリセンかなんかで正気に戻そう。
「ハァァリィィ……君は本当にじぇーむすによく似ている。目はりりぃだ、まちがいない。おまえの母親はすごかったんだぞ。魔法薬学でとっぷで、スラグクラブでも……」
「スラグクラブ? なにそれ」
シリウスに抱き着かれながら、ハリーはもしゃもしゃとパエリアを口に運んでいる。よくその状態で平気な顔してるな。
「すにべるす、スネイプの前任の魔法薬学のきょーしだ。スネイプ! ハリー! すねいぷにまけるなよ! 性格のわるいことをしてきたらパンチしてやれ! みぞおちだ!」
「はいはい、シリウス七面鳥たべようね」
「たべる」
シリウスは赤ら顔のまま、差し出されたチキンをもくもくと食べ始めた。大人の威厳よどこに。
「あ、ロミオ。その袋の中にロミオ宛のクリスマスプレゼントがあるって」
ハリーがテーブルから少し離れたところに置かれた白い袋を指さした。お、来たか俺にも! まあ仲のいいやつとか普段交流のあるやつには俺からもプレゼント送っておいたし、もし送ってなかったヤツから来ても追加で渡せばいいだろう。
「ちなみにロミオは何渡したの?」とハリーが聞いてきたので、俺は腹の袋の中から数枚のブロマイドを取り出す。休みに入る前マクゴナガルから借りたカメラで作った、動くロミオのブロマイドだ。全七種、シークレットあり。ランダムに三枚ぐらいずつ入れて送ってある。全部ちょうだい、とハリーが言い始めたので俺は八枚ハリーに渡した。
俺はテーブルから椅子、更に床に飛び降りて、白い袋に近づいた。ズレた頭上の赤いサンタ帽子を被りなおす。白い袋を開けると、俺宛てにプレゼントを贈ってきたやつは概ね予想していたやつらだった。普段世話になっている先生や面倒見ているニフラーの飼い主、俺とハリーの友達もいる。
俺はモリーからの小さな包みを開けた。
「なにそれ、セーター?」
灰色の毛糸で編まれたニフラーサイズのセーターだ。金色の細い糸で“N”と書かれている。N……ニフラーか。多分ハリーやロンとお揃いなんだろうな。ロンの名前の頭文字が“R”だから“N”なんだろう。俺も“R”omeoだし。
「プレゼントの山を見てると、ダドリーのこと思い出すな。誕生日、前の年よりプレゼントが少ないと機嫌が悪くなってたっけ。今頃どうしてるかなあ……」
俺がガサゴソやっていると、ハリーがぽつりとつぶやいた。
「……ハリー、ダーズリー家のことは思い出さないでくれ。私がアズカバンで油を売っていたばかりに、君があの家で育ったことは今でも後悔しているんだ……」
死にそうな声でシリウスがガンッと音を立ててテーブルに突っ伏した。
気持ちは十分分かるぜブラザー。俺とお前はハリー第一主義だもんな。
シリウスが、いつのまにか手に持っていたシャンパンのボトルをそのまま呷った。
こりゃ養子と初めて過ごすクリスマスで理性を失ってるパターンだ。そろそろおねんねさせたほうがいいか?
底の方には大き目のプレゼントがあるみたいだ。一番大きなプレゼントの差出人の名前を見ると、A.Dと書いてあった。
……エーディーってだんぶるどあしかいなくね? あいつ俺に何送ってきたんだろ。自白剤?
……おおおおおおお!!! スゲー――!!!!
袋から取り出すと、中から出てきたのは滅茶滅茶カッコいいタイプライターだった。全身真っ黒でピカピカに光ってる新品のタイプライターだ。丁度中二病心をくすぐられるデザイン。イカしてる! 流石ダンブルドアだぜ! これだったら文字を書くのにも一苦労の俺でも扱いやすそうだ。
俺は袋に付いていたメッセージカードをぺらりと捲った。
ロミオヘ
君と話せる日を心から楽しみにしています。
アルバス・ダンブルドアより
……俺、ほぐわーつ帰るのやめる。
シリウスと肩を組んで一緒にくだを巻き始めた俺を見て、ハリーは不思議そうに首をひねっていた。
文字数が足りないせいなのか全然展開が進まない!
大丈夫です、二年生は爆速で終えます。