お前もニフってる?   作:HLNF会長

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祝、エタらず


第十九話 大人げない大人たち①

 

 

「おい、ウッドどういうことだよ!」

 

 グリフィンドール対ハッフルパフの寮対抗クィディッチまであと数日。皆さんどうもこんにちは、俺です。

 雨が土砂降りのクィディッチ場で泥んこになりながら練習しているハリーを見ていたら、ウッドが何かを言ったらしく、フレッドとジョージが遠くから走ってきて、どうやら不穏な空気になってきた。

 

 俺も話を聞いてみるかー。

 

 観覧席からぴょいっと飛び降りて、グラウンドのほうに繋がる階段を降りる。俺のネオンイエローの雨がっぱに気が付いたハリーが、降りしきる雨で黒い髪を頬に張り付かせながら、真っ青な顔で近付いてきた。この顔色の悪さは寒さが原因ではなさそうだ。

 

「ロミオ、僕が死んだらシリウスにご飯をもらうんだよ。あとニコラス・フラメルのジャガイモは盗んじゃダメだからね」

 

 ……お前ホントどうしたんだ?

 怪訝な表情で首をかしげていると、フレッド———多分フレッド———が、思いっきり顔をしかめてこちらにやってきた。

 

「スネイプが次の試合の審判になったんだ。グリフィンドールはおしまいだ。ハリーは一分と箒に跨っていられないと思うぜ」

「俺らなんてクアッフルが投げられた瞬間に退場だ。今年は早めの観覧席行きだな」

 

 ジョージ———十中八九ジョージ———もやってきて、慰めるようにハリーの背中をバシバシと叩き始めた。

 へー、スネイプが審判。私情という判定ミスが入り乱れそうな試合だな。ラフプレー上等で全員退場したほうがまだ健全じゃねーの。

 

 俺は真っ青になって呆けているハリーの横顔を見ながら、しばらく考え込んだ。

 ハリーの初々しい試合にどんな権力を行使しても来そうで、スネイプと相性がとんでもなく悪いであろうヤツについてだ。

 

 

 

 

 

 

 

「スネイプ先生が審判に?」

 

 俺と“魔法が使えない同盟”の定期勉強会、もとい魔法薬作りにいそしんでいたフィルチは、魔法薬を寝かせていて暇だった俺がタイプライターで打ち込んだ文章を目で追うと、眉をピクリと上げた。

 

『そー。スネイプが審判なのは素直に心配だぜ。ハリーの気が滅入らなければいいんだけど』

「スネイプ先生か……箒が得意という印象はないねえ」

 

 でしょうね、という感じである。

 すっかり丸くなって最初と比べるとお前誰状態のフィルチは、時々鍋の様子を見ながら真面目に経過観察ノートをとっていた。

 フィルチは長らく独りきりだったせいか、俺へ心を開くスピードがバグっている。初孫ができた頑固爺みたいだ。最近は生徒の罰則が降ってくるのを心待ちにする、なんてこともないみたいだし。スネイプもこうなればいいのに。多分無理だろうな。ハリーのお母さんが生き返ったりしないかぎり。

 

『でもな、問題はハリーじゃねえの。』

「問題?」

『シリウスよ』

 

 シリウスの“ウ”の字が打たれた途端、フィルチはレモンを口の中で噛み潰したかのように顔をくしゃりと歪めた。あー、そういやシリウスも学生時代はかなり暴れてたわ。問題児ってやつだ、問題児。ホグワーツの清掃を担当しているフィルチにとっては頭痛の種であっただろう。魔法使いって母校が限られて来るから、子供に自分のハズカシーこととかバレる確率アップするの怖いよな。

 

『スネイプとシリウスって犬猿の仲なんだろ? 絶対ロクなことになんねーって』

「ああ、犬猿の仲だった。今でも覚えているよ。ひどいものだった」

 

 ほえー。そうか、フィルチってその時代もホグワーツいたんだもんな。深堀したらいろんなことが聞けそうだ。ハリーには言わないように後で口止めしておこう。スネイプも聞かれたくないだろうし。

 

「スネイプ先生はスリザリンで、ブラックはグリフィンドールだった。スネイプ先生はかなりガラの悪い連中とつるんでいた。ブラックやその友人のジェームズ・ポッターには彼の行いが許せなかったんだろう。彼らは彼らで随分と酷かったがな」

『オマエ結構生徒のこと見てるのな』

「生徒をよく見ておくようにとダンブルドア校長から言いつけられていたんだ。みな神経を尖らせていたから、今よりも生徒同士のいさかいがあってねえ……魔法族の間での戦争だったから、わたしなど誰も気にしていなかった。生徒たちにとってはわたしは透明人間で、彼らを見張るにはちょうど良かったのさ」

 

 確かに、生徒にとってしてみれば先生は身近だけど、事務員さんはあんま関わんないから気にしないかも。スネイプとかがいた時代のホグワーツってどんな感じだったんだろ。ヴォルデモートが現役だったってことだろ? かなりピリピリしてたんじゃないかな。やだやだ、シリアスっぽくて。

 

「それに……わたしは生徒たちが憎かった。未来を抱いた魔法使いの子供たちが……」

 

 俺はふと、タイプライターに乗せようとしていた足を止めて、フィルチを見上げた。

 

「私はダンブルドア先生に拾われたから幸運だったが、スクイブの中にはくすぶっている者も多いだろうねえ」

 

 フィルチはそう言ったきり、すっかり黙り込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 クィディッチの日である。今日の天気はすがすがしいほどの快晴であり、ハリーの目の前にいる人物の顔もすがすがしいほどの快晴である。

 

「ハリー! 後見人のシリウスおじさんがきたぞ!」

 

 変なテンションになっているシリウスがハリーの目の前に現れたのは、試合の始まる三十分前のことだった。「頼むから早くスニッチを見つけてくれ」と声を掛けられまくり重圧と緊張でどうにかなりそうだったハリーは、シリウスの姿を目にした途端驚きでベンチから跳ね上がった。

 

「シ、シリウス!? どうやってここに?」

「ホグワーツの理事になったからだぞ?」

 

 なんてことないように言ったシリウスを凝視しているハリーを上から下まで眺めて、シリウスは満足げににやにやと笑っている。

 

「ジェームズにそっくりだ。ニンバスはどうだ? 使いやすいか?」

「勿論。速さで言ったらこの学校の誰よりも早いんじゃないかな」

 

 ハリーは立て掛けてあったニンバス2000を手に取って手持無沙汰に両手で交互に持ち替えながら言った。装備しているグローブやブーツは一年生ながら既にボロボロで、日々の練習の激しさを物語っている。

 

「今回はとにかく早くスニッチを捕まえないと。スネイプに箒から引きずり下ろされる前にね……」

 

 スネイプは既にグラウンド入りしてフーチと打ち合わせをしているらしい。ハリーの胃がキリキリと痛んできた。

 クィディッチ()()は、自分が何者にも憚られることなく自由に行動できる場所だと思っていたのに———クィディッチ()()は大丈夫だと思ったのに。クィディッチという真剣勝負の場所を、スネイプはただただハリーが気に食わないという理由で歪めようとしている。自分の大事な場所を土足で踏み荒らされている気分だった。

 

 下唇の内側を噛んで遠くのほうを見つめていたハリーを、少し真剣な目をしてシリウスは「ちょっと座ろう」と言って肩をたたきながらベンチに座らせた。

 

「スネイプに目をつけられてるんだってな」

 

 小声でシリウスが囁いた。ハリーが頷くと、シリウスは苦々しい顔で舌打ちした。

 

「昔も今も変わらず陰険な野郎だ。ああ、私とジェームズの敵だったさ。先生だから今はあんなに偉ぶっているが、昔はそりゃ悲惨な奴だったよ。根暗でガリガリで頭は脂ぎってて、女子がデートに行こうと誘った日にはトリートメントを調合しだしそうなありさまだった」

 

 ハリーは思わず吹き出して、急いで周りにスリザリン生がいないことを確認した後、人の悪い微笑みを浮かべた。

 

「スネイプが君と同い年だったら魔法界の英雄たる君とは口も利けてないだろうな。それか嫉妬でハンカチ噛みながらイジワルだ」

「マルフォイみたいなもんだね」

「へえ、マルフォイのとこの倅もちょっかいをかけてきてるのか? 家柄に見合わず小物な奴だ。父親に似たのかな?」

 

 シリウスはハリーと違って随分と()()の弱みを知っているらしく、なんてことないような顔でぺらぺらと毒づいていく。

 ハリーは窒息しそうなほど笑いが止まらなかったが、肩を震わせながらなんとか嚙み殺していた。

 

「肩の力を抜きなさい、ハリー。イヤな奴なんかに真面目に取り合う必要なんてない。特にああいう類の人間は……勿論相手は先公だから復讐はしづらいだろうが、なにもやりようがないってわけじゃない」

 

 シリウスが悪戯っぽくニヤッと笑った。まるで二十年ほど若返ったような微笑みで、シリウスは学生の頃随分な問題児だったんだろうなあ、とハリーは何となく察した。

 

「やりようって?」

「七年生の一番最後に首席の表彰がある。ジェームズは首席だった———だが、首席以外にも何人か表彰されるんだ。NEWT(いもり)テストの各科目最優秀生徒をね。私は闇の魔術に対する防衛術で取ったし、リリーは魔法薬学と首席をダブルで取った。ハリー、上手くやればスネイプから表彰されるぞ。表彰()()()()()んだ、スネイプにはこの上ない屈辱だろうさ」

 

 どうだ? と自信満々にシリウスは片眉を上げた。しかしそれを聞いたハリーはがっくりと肩を落としてしまった。

 

「そりゃシリウスたちは優秀だったんだろうけど、僕は授業についていくだけで精いっぱいだから……六年後に学校にいるかすらってぐらい。第一ハーマイオニーが全部掻っ攫っていくに決まってる」

 

 シリウスはそれを聞いて視線を上方にゆっくり動かして少しばかり考えた後、パチンと指を鳴らした。

 

「君にはとっておきの魔法薬学の先生がいるじゃないか」

「スネイプ?」

「まさか。ロミオだよ」

 

 ハリーは自分のペットを思い出した。真っ赤な蝶ネクタイをした薄いグレーに黒いぶちのニフラーが脳内でピースしている。

 確かに彼はとても優秀だ。スネイプの厳しい監視下ですら一点も減点させなかったし、膨大な量のレポートを短期間でこなしていた。採点され返ってきていたレポートを見たハーマイオニーも内容に舌を巻いていた記憶がある。

 

 いや、アリじゃないか? ハリーは思った。

 

 ペットに勉強を教えてもらう飼い主とは、という逡巡をしなかったわけではないが、正直憎きスネイプを前にハリーのプライドなどあってないようなものである。

 

「ま、今はどうでもいいスネイプのことなんか忘れて、スニッチを捕ることに集中しなさい。私は来賓席の下の方で見てるからな」

 

 ベンチから立ち上がったシリウスが、入口に向かいながらふとハリーを振り返った。

 

「案外思ったより早く見つかるかもしれないぞ」

 

 ひらひらと手を振りながら出ていったシリウスを、そうだったらどんなにいいか、と思いながらハリーは見つめていた。

 

 シリウスの観る自分の初めての試合だ。絶対失敗はしたくない。

 

 よし、頑張ろう、とハリーは改めて気を引き締め直し、大きく手を叩いてベンチから立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 シリウスは来賓席の下の方に座って、頬杖をつきながら目まぐるしく戦況の変わる試合を見ていた。こうしてホグワーツのクィディッチを見るのも久しぶりだ。ジェームズはチームで登場する時、一人勝手にくるりと軽くアクロバットを決めて、髪の毛をくしゃくしゃにしながら女の子たちの方をチラチラと見るのが常だったが、ハリーは一年坊らしく至極真っ当に配置についていた。

 

 ジェームズはチェイサーだった。

 シリウスは茶色い革のボールが箒の間を行き来するのを目で追いながら思い出す。

 ジェームズはボールを持って旋回しながら相手の選手を小馬鹿にしたような表情で弄ぶのが好きだったし、最後は必ず自分の手でゴールを決めた。点が入った時なんかは、実況のベルの音で拳を突き上げ、周りの選手とハイタッチをするのがお決まりだった。

 ジェームズは誰よりもイカしたクィディッチ選手だったし、ユニフォームを着たあいつの隣を悠々と歩いて注目されながら、あれこれと相手チームの分析に口を出すのも好きだった。輝いた日々だった。

 

 シリウスがふっと上に視線を戻すと、ハリーは目を凝らしながら一生懸命スニッチの影を探していた。

 ああ、ここは似てないかも。ジェームズは試合中目を凝らさなかったし、一点に留まることもなかった。常に動き続けていたから……。

 シリウスの目線に気が付いたのか、ハリーはシリウスの方に顔を向けて軽く手を挙げた。

 ああ、これも違う。ジェームズは俺に気が付いたら、分かりやすくサムズアップしてアピールしてた。ハリーは父親より控えめみたいだ。

 

 すると突然、ハリーはシリウスが気が付く暇もないほどに、地面に向かって猛スピードで急降下し始めた。

 

 遂にスニッチを見つけたらしい!

 

 シリウスは周りの魔法使いと一緒になって身を乗り出し、ハリーの行方を追った。ハリーが加速する、加速する、振り向いたスネイプの鼻先を紅い閃光が掠めた、スネイプはギョッとして固まっている、

 

「いいぞジェームズ」

 

 薄く開いたシリウスの口から、思わず言葉が漏れた。吸った息を吐くような言葉だった。

 

 身を乗り出したシリウスの眼前では、くしゃくしゃの髪の、眼鏡を掛けた少年が、割れんばかりの歓声の中、あの頃と変わらないような得意げな笑みを浮かべて、金色に煌めくスニッチを握っていた。

 

 

 




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切実に燃料をください。エタる確率が低くなります。沢山の感想ありがとうございます。感想をください。私の主食です。
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