お前もニフってる?   作:HLNF会長

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第二十一話 賢いニフラーはチェスがお好き?①

 

 

 

 さて、今日はハリーたちが赤ちゃんドラゴンのノーバートをチャーリーたちに引き渡す日である。

 月光の差す談話室、ほとんどの薪が燃えカスになってしまった暖炉の前に俺は丸まっていた。暖炉にフーフーと息を吹きかけると、灰の奥がマグマみたいに赤くなって、意外と暖かい。だからまー、そこまで寒くはない。

 

 時は何週間か前に遡る。

 ハグリッドがドラゴンの本を借りた日、ハリーたちは目ざとくそれを見とがめ、ハグリッドにあらいざらい秘密を吐かせ……教えてもらったらしい。なにやらハグリッドはドラゴンの卵を木造建築の自宅に隠し持っているというのだ。本人はドラゴンが大人になるまで秘密裏に飼い続けると言い張っていたが、当然ハリーたちは却下。「その卵はパブで怪しいニフラーから譲り受けたものではないのか」と問い詰めたとかなんとか……。

 

 で、だ。卵から孵って成長を始めた赤ちゃんドラゴンがゴジラ顔負けの破壊力を持つ前に、ロンの兄ちゃんでありドラゴン研究者であるチャーリーに預けよう、とハリーたちは考え付いた。

 そして今日。ハリーたち三人はノーバートをチャーリーの仲間が待つ展望台付近まで運び出すために、透明マントを被って寮を抜け出した。諸君らにとっては周知の事実かと思うが、消灯後に寮を抜け出し城をうろつくのは重罪である。寮の点数を大幅に引かれる(グリフィンドール50点減点)ばかりか、ハグリッドと一緒に禁じられた森でワクワクドキドキ一時間おさんぽコースまでついてくる始末である。

 

 それで俺は急にピピーンと思い出したわけだ。

 そういえばハリーたちってノーバートの時にとっつかまって森まで罰則行かされたんじゃなかったっけ、と。正直あんま細かい順序は覚えてないので、別件ならそれはそれだ。

 あいつら、マジでスネイプのスの字も出て来ないほど真相に近付いている気がしないので、ここらで一発ユニコーン食ってるクィレル発見してもらって、華麗なるアルセーヌ・ロミオ以外にも賢者の石を付け狙う怪しい人間がいるということに気が付いて欲しい。

 

 ちなみにマルフォイには俺からそれとない手紙(ラブレター)を介して今夜の件については密告済みである。なんだっけ、タ……フタ……バタ…………エビフライエフェクト?

 まあ要するに、ハリーが無傷で逃げ切れないよう、俺なりに手を打ったということだ。夕飯の時のマルフォイは飛び跳ねんばかりに上機嫌だったので、多分無事に伝わっていることだろう。俺もルンルン。三人合計百五十点引かれる彼らは大変可哀想だが、まあ文字通りシナリオどおりというわけなので、許してちょんまげという感じだ。許してちょんまげは死語か? いやでも今は1990年代後半だし、むしろナウい言葉なのだろうか?

 

 そんなしょーもないことを考えていると、寮の出入り口のほうに気配がして、俺はさっと態勢を変えた。囁き声が聞こえる。多分ハーマイオニーだ。俺は近くにあったソファの上にぴょんと飛び乗り、二つ足で立ってハリーたちの様子を窺おうと首を伸ばした。おおかたフィルチあたりに見つかったのだろう。

 

 ……ん? フィルチ?

 その瞬間、ものすごく嫌な予感が頭をよぎった。

 

「フィルチさん、ありがとうございました」

 

 ものすごく、いや~な予感がする。

 

「フィルチさんに裏道教えてもらえたおかげで誰にも見つかることなかったです!」

 

 透明マントを脱いでお礼を口々に言うハリーたち。寮の扉から半身だけ出した仏頂面のアーガス・フィルチ。

 

「わたしが気づいたからいいものの、次は他の生徒に告げ口されないようにするんだな」

 

 俺に気づいたフィルチは、なぜか親指を立ててきた。

 俺はくちばしをがたがた震わせながら必死に笑みを張り付け、サムズアップを返す。

 

 ……ああ、そうか。

 確かに、そうなるよなァ~。

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 俺は片手で器用にコーンフレークをしゃくしゃく食べながら、もう片方の手で本を読んでいた。

 寝ぐせをそのまま放置したハリーとロンが、あくび混じりに俺の向かいへ腰を下ろした気配がしたが、あえて無視する。あいにく、視線を割く余裕がないほどには忙しいのだ。

 

「『サルでも勝てる! チェスで絶対勝つための最強生活習慣・入門編』……? 本選び間違えてんじゃないの」

 

 ロンは大皿からひときわ大きなソーセージを自分の皿へ引っ張り出しながら、半笑いでつぶやいた。俺の隣で品よくオムレツを切り分けていたハーマイオニーは身体を傾け、俺の本をしげしげと覗きこむ。

 

「どうして突然チェス? それよりロミオ、明々後日の魔法薬学のレポートなんだけど、あなたの意見を聞きたいの。ケテロヘーゼの薬効について、アメリカの文献とオーストラリアの文献で少し食い違いがあって……」

 

 俺は〈毎朝コーンフレークを食べれば、チェスに必要な論理的思考が培われる〉というページをめくりつつ、ノールックで袋から丸めた羊皮紙を取り出し、ハーマイオニーに差し出した。

 

「……今渡したの、羊皮紙十五巻き分くらいない? ノルマ三巻きだよね?」

「オーストラリアの文献なんて図書館のどこを探したらあるんだよ」

 

 ハリーとロンが身を寄せ合いながらなにやらひそひそと囁きあっている。まあほかの人より五倍くらい頑張んないとスネイプに教室追い出されちゃうしな。俺は〈ナイトの駒は逆さにすると物を引っかけるのに便利〉というページを険しい顔で凝視しながら、ハーマイオニーが傍らから差し出してきたカリカリベーコンをくちばしで受け取った。

 

 昨晩、ハリーたちが無事に帰還したのを確認したあと、俺は談話室でそのまま崩れ落ち、冷や汗をかきながら頭を抱えていた。

 俺の覚えてる範囲の賢者の石推理フラグをほぼすべてばきぼきに折られてしまったので、これ以上打つ手が思いつかなかったのだ。

 夢の中では、賢者の石を手に持ったダンブルドアにカムカムキャンデーを無理やり食わされ続けるという拷問まで受けた。

 そして最終的に、世紀末の魔術師ことアルセーヌ・ロミオを本当に出動させなきゃならない、という結論に至ったのである。

 

 計画としては、クィレルが盗みに入る日に俺も後に続くような形で盗みに入って、それをハリーたちに追いかけてもらって、三者現地集合という形にしよう、というものだ。

 グリンゴッツに並ぶほど守りの厳重だと謳われているホグワーツをがばがば警備だと思ってないと出てこないアイデアである。

 

 俺の覚えている範囲の“先生たちの守り”で一番まずいのはマクゴナガルのチェスだ。それ以外は多分なんとかなる。多分だけど。

 チェスなんて去年ハリーに教えてもらってちょこーっとやっただけなので、チェスの名手として名高いロンでギリギリチェックメイトできた難易度のバトルが再現できるかと言われれば、まごうことなきノーである。

 

 あー、マジでどうしよう。チェスうまい人に習うったって多分クィレルが盗みに入る日まであと二か月あるかないかくれーだろ? 分かんないけど。付け焼刃の腕前じゃ勝てねえと思うんだよな。

 そもそもマクゴナガルのチェスに勝てるような腕前の人間がこの学校に何人いるかって話だし……マクゴナガルは勿論パスだ。ロンに頼み込むか? 怪しがられたら危ねーけど、それ以外に人間がいないよなァ……。

 

 考え込んでいると、まわりがすこし騒めいているのにふと気が付いた。

 俺が本から顔を上げる前に、俺の本ののどのあたりに、指がそっとかけられる。色白で角ばっていて、几帳面に爪が切られている指。大人の男の手だ。俺はその肌の色に覚えがあった。

 

 あ~顔上げたくね~。

 

 そんな思いもむなしく、その指によって本がゆっくり引き倒されたので、俺も無理に従わずそれに沿うように本をテーブルに置いた。目の前に座った人間の顔が必然的に視界に入ってくる。

 あのなあ、臆病な人間は無言で他人のパーソナルスペースに踏み入るような真似はしねえの。分かる?

 

「やあ。き、き、き、君が……チ、チ、チェスに興味があるなら……」

 

 テーブルに置かれたチェス盤の向こう側で、紫のターバンを巻いた男———クィレルが、宝石のような目玉で俺を見つめていた。

 

 「わ、私と……ゲームを、してみませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 今すぐにでも逃げ出したい気持ちを押し殺しつつ、俺は駒を従順に配置していた。俺は黒の駒を使うらしい。

 さっきそれとなーく気が付かれないように教員席を見てみたんだが、スネイプはこちらを凝視していたし、ダンブルドアはのほほんと朝食を食べていた。なにかあったらスネイプが俺を助けてくれることを願おう。

 この前スネイプに助けてもらったこともあって、ちょっと距離感が縮まってきたかなって感じもするのだ。月と地球の間を十メートルくらい詰めた程度だけど。

 

「じゃあわ、私からかな」

 

 白い駒から動かすのがチェスのルールだ。流石にこれくらいは俺でもわかる。

 

「ロミオくんはど、どれくらいチェスが得意なのかな」

 

 クィレルがポーンを動かしながら俺に話しかけてきた。そんなこと言われたって俺会話できねーし。袋の中にタイプライターはあるけど、わざわざ自分から壁を壊していくような真似は怖いっつーかなんつーか。

 

「ロミオはずぶの素人ですよ、クィレル先生。な、ハリー」

 

 ロンが俺の代わりにこたえた。ハリーも頷いている。

 

「なんか急に今日からチェスの勉強をしだしたんです」

 

 余計なこと言うなよと俺がキッとハリーを睨むと、クィレルは当たり障りのない笑みを浮かべた。

 

「す、す、そうなんですか。私はあまりロミオ君とお話しし、し、したことがなかったので、チ、チ、チェスを通じて仲良くなれればなとお、思ったんです」

 

 ぎくり。

 なんか俺がクィレルを避けてるのもバレてる気がする。なんとか表情に出さないように取り繕いつつ、俺は頭を高速に回転させていた。チェスの盤面とクィレルの思惑と……考えることで頭の中は年末年始のバーゲンセール並みに大混雑である。

 そもそもクィレルは何のために話しかけてきたんだ? とか。チェスを通じて俺の性格をプロファイリングしようとしてるのか? とか。だったら手ェ抜いてぼろ負けにしたほうがなんも情報渡さなくて済むのか? とか。

 

 ただ、ぶっちゃけダンブルドアやスネイプをはじめとする教師陣が見ている前だし、周りにも少なからずギャラリーはいるので、クィレルは俺に手は出せまい。となると何も考えずにゲームしてもいいのかなと思ったりもしてくる。

 俺はビショップを動かした。よく分からんけどクイーン取る作戦だ。理由は強そうな駒だから。

 

 変に手加減をしてロンあたりに「僕とやったときはこんな弱くなかった」とか言われたら厄介だし、クィレルに持って帰れるものがなかったら今後変に粘着されそーでやだ。

 と、いうわけで俺は本気を出して……

 

 

「チェックメイト」

 

 

 負けました。完膚なきまでに。キレーに。

 

「先生って丁寧なチェスを打つんですねー」

 

 「思ったより」という言葉外の意味を含ませながら、ロンが言った。流石皮肉の本場イギリス。教師相手に容赦がない。

 俺は疲労困憊でテーブルに突っ伏していた。まっっったく悔しくない。相手は大人だし。俺チェス歴半年も経ってないぜ? もうちょい手加減してくれるのかと思ったわ。逆に。

 チェスの盤面を読めるロンがいるからか、クィレルも狡猾な手は使ってこなかった。終始教科書通りの差し回しを貫いていた……というか、指導対局って感じだったな。センセーされてたわ、悔しいことに。

 

 ロンとクィレル、そしてハーマイオニーがいまのゲームについて感想を述べあっていると、シェーマスが近くの席に興奮した様子で滑り込んできた。チェスに向いていた関心が、自然とそっちに集まる。

 

「おい、聞いたか? マルフォイとネビルが、昨晩消灯後に城をうろついて罰則だって。しかも、グリフィンドールもスリザリンも五十点減点!」

 

 一気に広がるざわめきを背中で聞きながら、テーブルに突っ伏したまま、俺はずるずると寝っ転がった。

 ああ、やっぱり。

 物事は、面倒な方向に転がるようにできているってわけだ。

 

 

 

 




フッフッフ、まさか私が賢者の石完走出来るとは誰も思うまい……

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切実に燃料をください。エタる確率が低くなります。沢山の感想ありがとうございます。感想をください。私の主食です。
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