お前もニフってる? 作:HLNF会長
ネビル・ロングボトムとドラコ・マルフォイが消灯後に城をうろついて、寮の得点を五十点ずつ減らしたらしい。
この事実が城中に出回りきったころ、ネビル・ロングボトムはすっかり憔悴しきっていた。
事の発端は、廊下でドラコ・マルフォイが上機嫌で吹聴していた話を、偶然耳にしてしまったことである。
「バカなハリー・ポッターたちがドラゴンを運びに寮を抜け出すから捕まえる」だなんて!
その日の夜、ネビルが恐れていた通りのことが起こった。ネビルが息を潜めて見守る中、ハリーとロンは狸寝入りをやめ、静かに寮を抜け出していったのだ。
ネビルは追いかけようとしたが、道中運悪くマルフォイと鉢合わせ、口論をしそうになったところ更にマクゴナガルにも捕まった。ハリーたちは運良く逃げおおせたらしい。マクゴナガルの研究室に連れてこられたネビルは、隣で必死に言い訳をしているマルフォイの声を呆然と聞きながら、次の日からの絶望的な人生に思いを馳せていた。一人50点減点。決して軽い数字ではない。
次の日からのグリフィンドールでのネビルの待遇は、概ね最悪だった。しかしネビルの予想していた“最悪”よりは幾分かマシだった。様々な噂が方々で囁かれていた。曰く、「マルフォイを上手く出し抜いてスリザリンの点数を下げようとしたが、自分もへまをして捕まった」だの、「そんなこと
ネビルとして幸運だったのは、ハリーたちが味方になってくれたことだった。
ああ、可哀想なネビル。何も関係がないのに、要領が悪いせいで捕まって。
ハーマイオニーはネビルに黙々と勉強を教えたし、ハリーとロンはネビルを揶揄う声が聞こえるたびに、それとなくたしなめるようになった。
三人からの同情的な視線に気が付いていなかったわけではないが、ネビルの周りに誰も寄ってこようとはしなかったせいで、ネビルは少しの間ハリーたちと四人で行動を共にすることが多くなった。
一方マルフォイもマルフォイで、なかなか居心地の悪い日々を過ごしていた。
ネビルよりはマシだった。クラッブやゴイルは、そもそも「大きな減点」という概念を理解しているかすら怪しかったし、周囲の生徒たちも、マルフォイ家という名前を前にあからさまに敵意を向けることはなかった。
しかし腫れ物に触るような対応に、マルフォイも段々疑心暗鬼になっていった。自分とすれ違った人間が後ろで囁き始めると自分の悪口を言っているに違いない、と勘繰ったし、事実そうである時もあった。険しい視線を向けられれば、必要以上に過敏に反応した。
やがて彼は開き直り、いつもの尊大な態度を取り戻した。
それが単なる虚勢にすぎないことを彼自身が一番よく分かっていたが、それでもそう振る舞うことでしか、自分を保てなかったのだ。相変わらずバカなクラッブとゴイルとつるみながら、いかにハリー・ポッターに悲惨な復讐をしてやろうかと考えていた。
試験一週間前になり、周りの人間が勉強に励み始めたころ、ネビルとマルフォイのもとに一通の手紙が届けられた。マクゴナガルからの罰則の通知だ。
その晩、二人は玄関ホールに呼び出され、フィルチに先導される形で禁じられた森の入り口へと向かった。
そこにいたのは、ホグワーツの森番であるルビウス・ハグリッドと———その大男の肩に乗ったニフラー、ロミオだった。
さてさて。
一年生を闇の帝王のはびこる禁じられた森に無防備に入らせるのは流石に可哀想だからネ、俺も来ましたよ。俺は群れの子分たちの面倒をちゃーんと見れる模範的ニフラーなのだ。カキフライエフェクトのせいでこいつらが怪我したり最悪死んじゃうかもしれないし……クィレルも流石にそこまで大胆なことはしないと思うけど。
クィレルからはじめてチェスを申し込まれてからはや二週間。俺はあれからずいぶん酷い目にあった。なにせクィレルったら時間があったらすーぐ俺のとこに来てチェスするんだもん。俺に避けられているのに気がついているんだか何だか分かんないけど、一応人目のつかない場所では俺に近づかない努力はしているらしいが……。俺の可愛さにデレデレってわけでもなさそうなんだよな。たまに俺のファンクラブ会員を名乗る変なやつもいるけど、クィレルってそういうタイプじゃないと思う。
まあ、俺のことをもっと知りたいってことなんだろう。得体のしれない突然変異ニフラーなんて警戒するなと言う方が酷だからな。だから俺に手を出さないうちは、甘んじてチェスでぼこぼこにされてやろうというわけで。最近俺もちょっと善戦出来るようになったんだぜ? えらいだろ!
「嘘でしょ? まさか、今から森に入ろうってわけじゃないよね?」
マルフォイのうわずった声で急に現実に引き戻された俺は、巨大なハグリッドの肩の上から、はるか視線の下にあるマルフォイの顔を見ようと、のっそりと身を乗り出した。
「禁じられた森の中には狼男がいるんだ。生徒をそんなところに入れていいわけがない。そんなの召使のやる仕事じゃないか」
俺とハグリッドは目をパチクリとし、顔を見合わせた後、二人してマルフォイににこーっと微笑みかけた。
まあまあ若人よ。慌てなさんな。
顔色の悪いチワワみたいになったマルフォイを生暖かい目で見ていたハグリッドが、手持っていた石弓をこれ見よがしにマルフォイの視界に入れながら口を開いた。
「狼男なんかいちゃいねえ。まあ、もぅーっと恐ろしいやつがゴロゴロいるがな」
ますます顔色の悪くなったマルフォイの顔を見たハグリッドは、もう十分私的な復讐は果たし終えたらしく、真剣な面持ちに変わった。
「今夜はとある痕跡を追ってもらう。ユニコーンの血だ」
ハグリッドの声が低くなったので、ネビルとマルフォイは大きく一歩近づいて話に耳を傾け始めた。話を聞いてなかったので聖マンゴ送りです、になりかねないとちゃんと自覚しているらしい。ひじょーに結構なことである。
こうしてハグリッドと俺たちは、ハグリッドを先頭にして森の中を突き進み、森の外れあたりまでやってきた。マルフォイははじめネビルにちょっかいばかりかけていたが、森を奥に進むにつれ、口数も減り、目も深刻みを帯び始めた。ネビルはハグリッドの背中にへばりつくような距離感で歩きながら、ときおり物音にビクついていたが。二人とも五十歩百歩って感じだ。
ハグリッドは立ち止まり、獣道の方を指さした。草陰の隣と木の幹に、べったりと銀色の血が滴っている。ハグリッドはこの森に潜む邪悪な何かがユニコーンの血を啜っていること、そして俺たちはこれから傷ついたユニコーンの痕跡を追いかけ保護することをネビルとマルフォイに伝えた。
「時間もねえ。二手に分かれよう。一人は俺と、もう一人はロミオとだ」
ネビルとマルフォイがハグリッドと俺を———あるいはハグリッドの持つ石弓と俺を———交互に見比べたのが分かった。
「僕はハグリッドと!」
早い者勝ちだと脊髄反射で悟ったのか、ネビルが瞬時に叫んだ。隣で口を半開きにしていたマルフォイは、あからさまに「しまった」という顔をしていた。ほほーん、俺のことをどうやら随分と見くびってくれているらしい。
俺がマルフォイの肩に飛び移ってやつの顔を覗き込むと、マルフォイは気まずいのか露骨に顔をそらした。そしてマルフォイは顔をそらした先で偶然目が合ったネビルの顔をキッと睨むと、肩から俺を振り落とした。なにすんだ! あぶねーじゃねーか!
「いいよ、じゃあファングをちょうだい」
俺を蔑んだ目で見降ろした後、マルフォイはハグリッドに強く要求した。
「よかろう。いっとくがそいつは臆病だぞ」
マルフォイの顔が再び引き攣った。
「まあいい、ロミオとファングがいるなら森の生き物もお前さんには手を出すまい。もしユニコーンを見つけたら緑の光、困ったことがあったら赤い光を杖先から打ち上げろ。ネビル、こっちのチームはお前さんが打ち上げるんだ。俺は———わけあって魔法が使えねえ。ほら、練習するぞ! いち、にの、さん! よし、できたな。では出発!」
そしてハグリッドは、あ、ともう一つ付け加えた。
「ドラコ、ロミオにあまり強くあたるんじゃねえぞ。ここはお前さんに優しい世界じゃねえ。ロミオは俺の代わりだ……分かるな? じゃあ行け」
ハグリッドはしっしっと手を振って、前を向いて歩きだした。置いて行かれた俺とマルフォイはその背中を見送る。
じゃ、俺らも行くかー。俺がハグリッドとは別方向に歩き始めると、マルフォイはさっきと打って変わっておとなしくついてきた。まあ俺がこの罰則に付き合ってやるメリットも特にないってことに気が付いたんだろう。自分の立場をわきまえるのはたいへんいいことである。
「お前、なんで来たんだよ」
二十分は歩いただろうか。不意に後ろから声をかけられて、俺はマルフォイの方を振り返った。マルフォイは俺とファングに前後を挟まれて、ほぼVIP状態である。
「……話せないんだったな」
黙ったままの俺を見て、フッとマルフォイは自嘲した。スネイプといいコイツといい、みんな俺が喋れる生き物だと勘違いしがちらしい。俺はファングの上に飛び乗って、ファングにとりあえずユニコーンの血を追おうと囁くと、腹の袋から羊皮紙と羽ペンをとって書き始めた。ファングの上は揺れるから書きづらいな。舌をぺろりと出し、羊皮紙を凝視しながらなんとか文を書いて、それをマルフォイに渡す。
「『ぉまぃたてぃがすんぱぃだったから』……お前たちが心配だったから、か?」
うん、と頷く。
「なんで? ネビルか?」
んや? 別にお前のことも心配だったぜ。どんないじわるな奴でも守るのが俺のシュギだからな。しかもまだ子供だし。俺はなにせ模範的大兄貴ボスニフラーなので!
ドヤ顔をしていると、マルフォイはぽつりと呟いた。
「おまえ、僕のペットにならないか? ポッターよりいい暮らしをさせてやろう」
俺は溜息を吐いて、マルフォイの持つ羊皮紙をバッと奪い取った。そして文章を書いてマルフォイに押し付ける。
「『はりゃーがおれもすんずりかぐるおれはだこなもにくねい』……ハリーが俺を信じる限り、俺はどこにも行かない?」
え、お前それで読めてんの?
もしかするとこいつ、ハリーよりも俺の文字を読めているのかもしれない。俺と相性いい説?
俺とマルフォイがつかの間のおしゃべりをしていると、ファングが突然鼻をふがふがとさせ始めた。俺も鼻をきかせる……確かに、いまユニコーンのまろやかであん肝みたいなちょっとえぐみのある血の匂いがここらへんで一気に強くなったな。あ、あん肝ポン酢食べたい。魔法界にもあんのかな、あん肝ポン酢。あと白子ポン酢。
「お、おい、ロミオ」
マルフォイが急に焦った声を出したので振り向くと、マルフォイはある方向に指をさしていた。
それは大木の根元にあった。純白の身体に、光り輝く真珠色のたてがみ。俺とファングとマルフォイは、おそるおそるそれに近づいた。ユニコーンの死体だ。一縷の光もないような闇夜のなかでも光り輝く四肢を、だらりと横たえたユニコーンの前で、俺たちは殴られたようなショックで立ち尽くした。
ファングの背中から降りて、ユニコーンの状態を確認する。きめ細かい毛の上から触れてみると、すでに冷たい。死後硬直が始まっているらしく、筋肉が固まっていた。
「……死んでるのか?」
怯えた表情のマルフォイに、俺は頷いた。ユニコーンのマズルからだらりと垂れて出てきている舌を、口の中に優しくしまってやる。マルフォイはいまだショックを受けた顔をして動かないので、俺があいつの手に握られた杖を持って揺らしてやると、我に返ったように赤い火花を杖から出した。これでハグリッドも来るだろう。
俺はユニコーンの状態を見進めた。切り傷が多い。おそらく多くの出血で弱らせて、隙を見て首筋に嚙みついたんだろう。
すると、俺の後ろから布を引き摺るような音が聞こえた。ズルズルという音に、俺とマルフォイはバッと振り向いた。後ろの草陰から、頭をフードで隠した何かが地面を張ってこちらに向かってきていた。マントの端がひらひらと風で動いている。
「ぎゃあああああああああ」
マルフォイは思いっきり叫んで逃げていった。状況から言ってひじょーに正しい行動だ。ファングもそれにつられて逃げていった。ユニコーンの死体を挟んで、俺とマントの男、もといクィリナス・クィレルは睨みあう。顔は見えないが、クィレルの口元からユニコーンの血がぼたぼたと垂れているのは分かった。
あいつもマルフォイ家の子供は殺さないと思うし、とりあえず俺が殺されないくらいは頑張るかなー。ひとまず腹の中のもので戦えそうなやつを探してみる。なんかないかなんかないか。
羊皮紙のはしっこ、しまい忘れた断ち切りバサミ……はリーチが短すぎるか。ダーズリー家のエアコンのリモコン、180カラットのダイヤモンド、はんだごて……あ、あった! お目当ての、トロールんとき使った超強力の睡眠パウダー! 象一匹もコロッと、ヴォルデモートなら三匹くらい一気にコロッと眠らせちゃうパウダーである。
どうやらクィレルは俺がパウダーを探し当てるまで律儀に待っていたらしい。ゆらゆら揺れながらこっちをじっと見据えている。仮面ラ〇ダーとかプ〇キュアとかの変身シーンを待つ敵役ってこんな感じで待っているんだろうか。
「来いよ」という風に手をくいっくいっとさせると、クィレルは俺に勢いよく突進してきた。
気が付いたら知らない天井だった……なんてベタな展開はなく。ふつーに知ってる天井だった。ホグワーツの保健室の天井だ。俺のちっこい身体はどうやら保健室のベッドの上に寝かされていたらしい。腹にかけられている布団を手でばふばふしてみる。消毒液と花の匂いがする。ラベンダーかな。
天井はゆるやかな月光に照らされて、暗い青色に光っていた。まだ夜は明けていないみたいだ。
「起きたかのぅ」
横からダンブルドアの声がにょきっと聞こえてきた。ぎょっとして顔を右に少し傾けると、ダンブルドアが水たばこをぶこぶことふかしていた。保健室でたばこ……?
「これはただのレモン水じゃよ」
怪訝そうな俺の表情を読み取ったのか、ダンブルドアはふぉっふぉっふぉっと笑いながら言った。開く口からもくもくと煙……水蒸気が出てきている。
「君が森の中で倒れているのをハグリッドが見つけての。ここに運び込んだのじゃ。ひどい慌てようじゃった」
そうだ、俺、クィレルと戦ってたんだった。つってもほとんどじゃれあいみたいなものだったけど……まああっちはもしかしたら殺しに来ようとしてたかもしれないけど……いや、半分くらい本気だったかも。
「君の隣にこれが」
ダンブルドアはそう言うと、懐から取り出した胡椒ビンを俺に差し出した。例の睡眠パウダーの入っていたヤツだ。
「楽しかったかの?」
クィレルと俺の男と男の真剣な戦いについて言っているらしい。まあ楽しかったって言っちゃ、楽しかったような……? 俺は神妙な面持ちで頷く。命のやり取りが楽しかったってのも変な話だ。決してチューニビョーとかいうやつじゃないぞ。
ダンブルドアはそんな俺を見て薄く微笑むと、また唇の淵から白い煙をフーッと噴出した。吐息でぐるぐると煙が回る。
「ユニコーンの血については知っているかの?」
ダンブルドアの吐いた煙がいつの間にかユニコーンの形に変わって、俺の顔に突進してきた。げふげふと咽ぶ。ユニコーンの血……? なんかあったっけ。忘れちった。
俺が首をかしげると、ダンブルドアはふむ、と頷いた。
「ユニコーンは純粋で、高貴な生き物じゃ。その生き血を啜れば、今まさに命の灯が消えんとしている者でも、生きながらえることができる。しかしそれは完全な復活ではない。理解したはずじゃ、ロミオ。君が相対したかの者の様子を見て……」
最後の言葉は低い声で囁かれた。
確かに、クィレルは……弱っていたような気がする。俺が想像していたよりも動きが鈍かったのは事実だ。
「しかしてロミオ、睡眠パウダーをむやみに使うのはいただけないの。君はトロールの件ですでに学んであったはずじゃ。相手に振りかければ、自分も眠ってしまう。今夜のようにね」
ダンブルドアはそう言ってウインクして、またぶこぶこと水たばこをふかした。
へーへー、善処しますよ。確かにほとんど捨て身だもんな。今回みたいに上手ーく振りまいて近づけさせない作戦がうまくいくとは限らないし……結局寝ちゃったし。
そこで俺は、とある疑問に突き当たった。そういえばダンブルドアってなんでここにいるんだよ? 俺のお見舞いのためにわざわざ?
「おお、そうじゃ。大切なことをすっかり忘れておった!」
ダンブルドアが素っ頓狂な声を出して、俺の目を再び見据えた。
「明後日の夜、わしに魔法省からお呼び出しがかかる
ダンブルドアは意味ありげに俺にちらと視線をよこした。
「君のチェスは、クィレル先生のご指導もあってか、随分と上達しておる。あとは……たまにはキングを動かす勇気も必要じゃ。困ったらビショップを二回回転させることも忘れんように」
ダンブルドアは人差し指をぴんと立てて、二回くるくると回
うんにゃ、なんかきゅうに、ねむくなってきたぞ。しかいがぼやけてき。
だんぶるどあが、またおれにふーっとけむりをふきかけた。れもんなかおりが……。
「おやすみ、ロミオ。いい夢を……」
ハリーを頼む、という言葉が、俺の意識が霞んでいくきわに聞こえた気がした。
アルバス・ダンブルドアとセブルス・スネイプとかいう二次創作者の技量が如実に出るキャラェ……あと、意外とハリーも。
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切実に燃料をください。エタる確率が低くなります。沢山の感想ありがとうございます。感想をください。私の主食です。