お前もニフってる? 作:HLNF会長
カチ、カチ、と規則正しく時を刻む秒針の音が、静まり返ったグリフィンドール寮の寝室に響いていた。窓の向こうも、寝室も、インクを流したような闇が覆っている。誰かが仮に目を見開いても、自分の手すら見えないに違いない。
———カタッ。
寝息を立てて深い眠りにつくハリー・ポッターのベッドの下から、耳を澄まさなければ聞き逃してしまいそうな微かな物音がした。
さて夜目を凝らして覗き込めば、そこには茶色のトランクがひとつ、行儀よく収まっている。だが、先ほどの音からわずかな間を置いて、そのトランクが揺れ始めた。
カタカタカタカタ。
それに伴って、トランクがベッドの下から少しづつ、少しづつ前進して這い出てくる。
その瞬間、ハリーの寝息がふっと途切れた。
トランクはぴたりと動きを止める。
数瞬。
規則正しい寝息に戻ったのかを確かめた間があった。そしてトランクはまた静かに揺れ始め、ついには完全にベッドの外へ姿を現した。
———バチン。
閉じられているはずの二つのトグルラッチが、意思を持ったかのように弾けて外れた。それでもなお、この部屋に眠る者たちは誰ひとり異変に気が付いていないらしい。複数の寝息に満たされた闇の中で、トランクはひそやかに口を開いた。
中から、ぬっと小さな影———無論明かりのない部屋では影にすらならないが——が這い出してくる。
それは暗闇をものともせず、談話室へと続く扉へ向かって歩き、軽やかに跳び上がってドアノブにしがみついた。
キィィ———。
思いのほか大きな音を立てて扉が軋む。小さな生き物はドアノブにぶら下がったまま、息を潜めるように動きを止めた。
やがて、その小さな生き物は暗闇の中で誰も動く気配がないことを確認した後、何事もなかったかのように床へと降り、扉の隙間からするりと外へ抜け出した。
扉は、ゆっくりと、音を殺して閉じられた。
バタン……。
パチッ。
暗闇の中で、ハリー・ポッターの瞼が開いた。
呼ばれて飛び出てロミオちゃんです。
ダンブルドアから予告があったとおりなら、今夜クィレルが賢者の石を盗もうとするはずだ。と、いうわけでやってきました旧水道管。俺はハーマイオニーとは違って
旧水道管から繋がる例のお部屋にひょっこり顔を出してみると、クィレルが置いていったと思しきハープが、魔法の力で優雅に自動演奏をキメているところだった。勿論、その音色にフラッフィーもメロメロ。三頭……文字通り、三頭。ぐっすり寝ている。三頭のうちの一頭、そうだな、名前を各々チョコ・チップ・クッキーと名付けよう。そのうちのチョコのマズルを試しにこしょこしょくすぐってみたが、起きる気配は一向にない。ふむ、これならハリーたちも彼らの夜食ポジになることはあるまい。
床にあったすんげえ重い扉を持ち上げて、腕をプルプルさせながら扉の下を覗き込む。うーむ、真っ暗で深さが全然分からん。この下にはたしか、スプラウトの仕掛けた悪魔の罠があるんだよな。
あ、一応。ゴホン。悪魔の罠という言葉にピンとこない薬草学初心者のために説明しよう! 俺はお腹の袋から頭のよさそうな眼鏡をスチャッと取り出した。
悪魔の罠とは、じめじめして暗い場所をこよなく愛する、極めて厄介な植物である。こいつはとにかく動くものに敏感で、葉にほんの少しでも触れようものなら、その動きを感知して一気に絡みついてくる。しかも厄介なことに、もがけばもがくほど締め付けが強くなるという、名前に違わぬ凶悪な性質を持っているのだ。
さらに注意すべき点がある。悪魔の罠は暗闇でこそ本領を発揮するのだ。光の届かない場所では、その力は最大限に引き出され、逃げ出すのはほぼ不可能になる。
だが、弱点も存在する。そう、光と熱だ。
悪魔の罠は強い光と熱が大の苦手で、明るく照らされたり高温で熱されると、たちまち力を失い、おとなしくなってしまう。暗闇に捕まったら、まず火を探せ。それが生き延びるための唯一の突破口なのだ!
俺は『これで君も知識的にはヤギとトントン! わかりやすい薬草学』の本をパタンと閉じた。え? べ、べつに読み上げてなんかないですけど。
まあ、とにかくだ。本来ならハーマイオニーが炎を出す魔法で撃退して窮地を脱するわけなんだけれども、俺には肝心なハーマイオニーと杖がない。と、いうわけで。
俺は袋をガサゴソと探り、ついにお目当ての物を取り出した。
七本くらいの細長い赤い筒が、グレーのテープでぐるぐる巻きに巻き付けられて、一塊になっている。テープの隙間からDとNとTの文字がはみ出していたので、俺は見えないようにテープをぐにぐに動かした。そのうちの真ん中にあった筒から一本黒い糸みたいなものが出ている。これは、その先っぽに火をつけてその下に投げ込んで少し待つと、自動的に悪魔の罠がマジックのように消えているという、素敵な道具だ。
……ん?
教育機関に俺がばくだんなんか持ち込むわけがないだろ? これは……あれだ、みんなが想像しているやつによく似た魔法道具なんだぜ。昨日禁じられた森の奥深くで何回か試したので、威力はバッチシ把握済みだ。その代わりといってはなんだが、禁じられた森のとある区画一帯を消し炭にしてしまったけれど、逆に禁じられた森にしてはありえないくらい光が差し込んだ場所になったので、いろんな生き物の憩いの場になること間違いなし。林業でいう間伐ってやつだ。
そんなこんなで俺はマッチを取り出してシュッと火をつけると、ダイナマイトの導火線に点火して、目下の悪魔の罠に放り込んだ。急いで扉を閉めて、俺のちっこい身体で押さえつける。
…………。
ちょっと城が……揺れたかも?
まあ爆心地に近いので、ちょっぴり迫力のある音は出ちゃったけど、大丈夫。こういう時のためにあらかじめ防音材をこの部屋に敷き詰めておいたのだ。しかしまあ、俺に音が聞こえちゃっているということは、俺の近くにいる生き物にも聞こえているワケで。クッキーが驚いた顔で俺を見たのと、俺が穴の中に飛び込むのは同時だった。完全に眠りからは覚醒したらしい。ハリー一行、幸運を祈る。
俺は高速に落下しながら、腹の中から大きな風呂敷を取り出して、四つの手足でぎゅっとかどっこを握り、んぱっと広げた。パラシュートの要領だ。ふよふよと飛んで、安全に着地する。石造りの地面をきょろきょろと見渡すと、なかなかえぐれている。床の端っこに枯草みたいなやつがかろうじてあるくらいだ。
流石にハリーたちが飛び降りたら———チョコチップクッキーの魔の手は搔い潜れると信じる———危ないから、四つの寮の談話室から根こそぎかっぱらってきたクッションをしきつめておく。多分大丈夫だろう。魔法使いだし。
フー、と汗をぬぐいながら、俺は次の部屋に向かった。ちなみに次の部屋はフリットウィックによる空飛ぶカギを捕まえる試練だったが、普段俊敏に金ぴかを追いかけている俺にとっては、あくびが出るほど簡単だったと言っておこう。
ふむ。
俺は黒いキングの駒の鎧の頭についてるニワトリのトサカみたいなとこに掴まりながら、現在の戦局を見ていた。どっちが勝ってるかって? なんとビックリ、俺のボロ負け。クィレルとちょっとやっただけじゃ、やっぱりグリフィンドールきっての才女であるマクゴナガルには勝てないのだ。まあボロ負けとはいえ、善戦している部分があるっちゃあるけど……まあ、ボロ負けだ。
分かってはいたけどちょっとヘコむ。クィレル教えんの上手すぎてちょっと好きになったし、教えて貰ったからには勝ちたいなーとか思ってたし。
俺は周りに佇む物々しい気配の石像たちを見下ろしながら、一匹頭を抱えた。
はあ、まじでお手上げだ。負けちゃうとハリーにつかまるし、ロンにばかにされるし、ハーマイオニーに叱られる。
そういえばダンブルドアのやつ、保健室でなんか言ってたな。困ったときはビショップを二回転させろって。でもチェスに三回回ってワンみたいな、そんなシステムはないはずだ。
俺は試しに、ビショップに二回転しろと指示してみた。
するとなんということでしょう。僧正たるビショップが二回転したかと思うと、胸あたりに扉がバコンと開き、中からでっかいボタンが現れたのです。
『超イージーモードに変更しますか?』とボタンの上に書かれている。
俺、随分バカにされてるらしい。
俺は唸り、0.2コンマ考えた後、キングから降りてそのボタンを押しに行った。
ハリーたちがチェスの試練の間にたどり着いた丁度その時だった。
「待ってよ、ロミオ」
向こうの扉に進んでいこうとしていた一匹のニフラーを、ハリーが呼び止めた。声が届いたのか、扉からひょっこりロミオが顔を出し、ハリーたちの様子を窺っている。まるで、「何か御用ですか?」と白々しく顔に書いてあるようだ。ハリーはロミオに近づこうとしたが、新品同然のようにリセットされた駒たちが武器を抜いてそれを拒んだ。
「さっきの爆発、ロミオ、君だろ?」
ロンが囁いた。どうやら防音材は上手く音を吸収し切れていなかったらしい。
「すぐ分かったよ。昨日の深夜、遠くの方から花火大会が始まったのかってくらいの轟音と閃光が寮に届いてきてたからね。え? なにその反応。バレてないとでも思ってたの? 多分グリフィンドール中が飛び起きて光り輝く禁じられた森を眺めてたよ。君の花火大会に参加したいって興奮気味に喋るフレッドとジョージを引き留めるのにみんな苦労したんだから。先生たちが見回りに行っても犯人は見つからなかったらしいけど、僕らは先生たちと違って、ハリーのベッド下の住人の不在を確認しているわけだし」
扉から顔を出しているニフラーの顔から汗が垂れ始めた。「え、そんなオオゴトになってたの?」と言わんばかりの顔だ。ちなみにこれはパーシーがレイブンクローの監督生から秘密裏に仕入れた情報だが、どうやらスネイプがものすごい剣幕と執念でその犯人探しをしているらしい。禁じられた森の一区画を焼け野原にした何者かの目星は既に付いているが、決定的証拠に欠けているようだ。
勝手に焦っているロミオを見て、ハーマイオニーがさも心配しています、といったヒロインばりの顔つきで口を開いた。
「ロミオ、帰りましょう。今ならまだ……多分、先生方は気が付いていないはずだわ。スネイプ先生のお住まいは地下だから、気が付かれるまでには時間がかかるはずよ。すぐ戻ればマクゴナガル先生やフリットウィック先生、スプラウト先生に証拠を隠滅してもらえるかもしれない。動く階段を一斉に止まらせた時や、壁掛け絵画を167枚壊した時も完璧にしてもらったでしょう?」
ロミオはだいぶ揺らいだように見えた。特に、スネイプ、という単語が出てきてからは、露骨にうろたえた。しかし、目を散々泳がせた後、ぎこちない動きで扉の奥に消えていった。
ギイ、バタン。扉が閉まる。
ハリー、ロン、ハーマイオニーの顔つきが変わった。
「……チェスね。ロミオが本を読み始めたあたりから、おおよそ想像はついてたけど。ナイトは僕と代わって」
打って変わって、クールにそう呟きながら、ロンがスムーズな動きで黒のナイトとチェンジしはじめた。まるで示しを合わせていたかのように、ハリー、ハーマイオニーも立ち位置につく。
「生き残れた人間が先に行きましょう。多分この先は魔法薬の試練と、闇の魔術に対する防衛術の試練。いま寮対抗杯でグリフィンドールが一番なんだから、絶対に減点なんかさせない」
ハーマイオニーが扉の先を睨みながら言った。
「よし、じゃあ早めに勝って、ロミオを連れ戻そう」
空気を引き締めるようにパシンと一回手をたたいて、ハリーが言った。
クィレルにボコされてのびているトロールの横を歩いているロミオは、ハリーたち三人が必殺仕事人のような形相でチェスをしていることをまだ知らない。
ちなみに、事前に対策をしまくっていたロンは、マグルの世界のチェス世界選手権を参考に、マクゴナガルのチェス相手にわずか三分でチェックメイトをかけるという離れ業をこなしていた。
とある一匹のトンデモ魔法生物のせいで修羅場耐性の上がっている三人組の模様。これにはダンブルドアもガッツポーズ。
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切実に燃料をください。エタる確率が低くなります。沢山の感想ありがとうございます。感想をください。私の主食です。