お前もニフってる?   作:HLNF会長

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筆がのるぜ。


第二十六話 守られた賢者の石

 

 

 「ニフる、とは?」

 

 クィレルが至極まっとうな疑問を口にした。俺はガタッと立ち上がって、腕を組み、ふふんとクィレルを見下ろした。

 

「ニフる、とは。ニフラーを愛でる、ニフラーを飼う、ニフラーのように振る舞う、ニフラーの下僕になることなどの行為の総称である。なお、この言葉は俺が独自に考案したもので、ゆくゆくはホグワーツ流行語大賞をかっさらう予定である」

 

 俺は淀みなくペラペラと説明した。仁王立ちした俺を、クィレルがぽかーんと見つめている。俺はビシッと人差し指を立てた。

 

「この場合の『ニフる』とは、つまり、ニフラーになるという意味なんだぜ」

「……なるほど。サッパリ意味が分からない。どういうことだ?」

「ニフラーに転生してみないかって提案してるんだよ、俺は」

 

 クィレルは怪訝な顔になった。

 

「君はもしかしてニフラーの神様だったりするのか?」

 

 俺は、まさか! と首を横に振った。

 

「じゃあ、ニフラーに転生する方法を知ってるってこと?」

 

 俺はまた、まさか! と首を横に振った。クィレルは呆れたような顔になった。

 

「やり方は知らないけど、多分、頑張ればニフラーに転生できたりすんじゃねえかなとか思うんだよね、俺。お前のその欠けちゃった魂もさ、人間サイズだから小さいってだけで、ニフラーサイズだったらジャストフィットとか、ない?」

「ないと思うよ」

 

 クィレルは即座に、バッサリと俺の提案を切り捨てた。

 

「で、でもさ、諦めたらそこで試合終了っていうか、できっこないをやらなくちゃっていうか……」

 

 現に俺も今こうしてニフラーとして転生しているわけだし。

 

「しかし、君の周りに魂が欠けているであろうニフラーはいないよね?」

 

 俺がもごもご言っていると、クィレルはチェスの駒を元に戻しながら、静かにそう言った。た、確かに。クィレルは落ち着いた口調でさらに続ける。

 

「どの命もみな平等に一つだ。魂をいじくるには、私のように何らかの方法で欠けさせるしかない。原理は分からないが、ヴォルデモートもその類だと私は思う。世間には知られていない闇の魔術で、魂を変形させたのだとね。しかし、その代償は払わなければならない。闇の魔術は非常に便利で、普通の魔法にはできない様々なことができる代わりに、常々それと同等の対価を要求される」

 

 闇の魔術に対する防衛術の先生らしい説明だ。ふむふむ、と俺は生徒のように頷いた。丁度ホグワーツの制服着てるし。

 

「じゃあもう、助かるのは無理ってこと?」

「そもそも君は私を殺そうと考えた時点で、私が助かる可能性など考えていなかっただろう」

「まあ、そうだけどさ。夢で会ったのもなんかの縁じゃん?」

 

 なんか思い残したこととかないの、と聞くと、「遺言か」と呟いて、クィレルは口元に手を当てて少し考え込んだ。

 

「私の持ち物は大方君にあげてもいいよ。ダンブルドアに大人しく渡してやるのも、みすみすすべて廃棄させるのも癪だ。呪文から魔法生物、変身術や錬金術関連まで幅広くあるから、参考にするといいだろう」

 

 あ、とクィレルは何かを思い出したように声を上げた。それから、虚空を見てにやりとほくそ笑む。俺はなんだか嫌な予感がしてクィレルを半目で見下ろした。

 

「なんかよくないこと考えてるだろ~」

「いや? むしろ君には朗報だよ。むしろ君だからこそ」

 

 クィレルは何かを想像して、笑いを堪えている風に見えた。

 

「だから、何が面白いワケェ?」

「ああ、そろそろ夢から覚めるころだ」

「話逸らすなや!」

 

 クィレルがニコニコしている顔が、だんだんぼやけてきた。俺は薄れる視界の中で、精一杯クィレルを睨みつける。

 

「君なら大丈夫だろう。上手に使いなさい」

 

 クィレルの楽しそうな声とともに、俺はゆっくりと意識を手放していった。

 

 

 

 

 

 

 次に目を覚ました時、俺は保健室の天井を見ていた。なんかデジャヴだ。アーチを描いている真っ白な天井、消毒液や薬品の神経質そうな匂いと、毛布の柔軟剤に入っているラベンダーの香りが混ざって鼻腔をくすぐる。ん、あれ、それと……お菓子の甘い匂い?

 

 俺の視界の隅っこで、何やら黒い毛玉がもぞもぞと動いたかと思うと、目の前にひょっこりと顔を出した。いつかに出てきたニフラー警備隊の副ボス、つやつや毛並みの黒ニフラーである。目を覚ましたぞ! と黒ニフラーがキュウキュウ騒ぎ出すと、後方で控えていたらしい子分ニフラーたちがわらわらと集まってきた。騒がしい。

 

 整列したニフラーたちは、各々自分たちが持ち寄ったお見舞いの品を俺のベッドのテーブルに積み上げていった。野イチゴ、クッキー、光る石、シロツメクサの花束など。その後ろ側にはとんでもない大きさのお菓子のオブジェみたいなやつがあるような気がするが、今はいったん置いておく。

 

 黒ニフラーがいったん子分たちを静め、視線を集めやすいようテーブルの上に立ち、代表で喋りだした。本日はお日柄も良く、云々。隊長のその英雄的な行動を称え、お怪我をお見舞い申し上げる次第である、云々。どうにもこいつは、なかなか仰々しく喋る癖がある。黒ニフラーがひとしきりグワグワと演説し終わった後、子分ニフラーたちは一斉にパチパチ拍手をし始めた。ニフラー軍団としての教育が行き届いている。うむ、くるしゅない。ボスの名誉の負傷である。俺は片手をあげて声援に応えた。わき腹が痛い。

 俺の胴体には包帯がぐるぐる巻きになっていて、片足は棒で固定されていた。思ってたよりだいぶ大怪我だったらしい。

 

 「あー、オホン。ロミオくんは起きたかね? 彼にお話があるので、少し二人きりにして欲しいのじゃが」

 

 保健室にある布の仕切りみたいなやつの向こうから、遠慮がちにダンブルドアが顔を覗かせた。ニフラーたちが一斉にそちらを向いたので、ダンブルドアも少し気まずげだ。俺が手を振ると、ニフラーたちが散っていった。最後まで残っていた黒ニフラーは、ダンブルドアを後ろから「こいつ大丈夫ですか?」と言わんばかりに指をさして細目で睨んだ後、どうも腑に落ちない様子でぺたぺた去っていった。

 

「君の仲間は、随分と君を慕っているようじゃな」

 

 そりゃまあ。一応ボスなんでね。俺は肩をすくめた。

 先ほどのクィレルと違って、人語を話せないのがすでに億劫だ。やっぱり会話が強制で一方的にならざるをえないのは結構ストレス。

 

「君が目覚めるまでに一週間かかった。非常に待ち遠しかった」

 

 ダンブルドアが安心したような口調でそう言った。

 俺は頭の上にハテナマークを浮かべる。そんなダンブルドアに恋焦がれられる覚えはねーんだけど。そういえばよく見ると、ダンブルドアの顔色がどこか青白い。目の下にクマも出来ているような気がする。

 

「君のお仲間のニフラーたちが、最近よく夢に出てきての……寝ているわしを取り囲んで、無言でジーッと見つめてくるのじゃ。しかし、うなされてはっと目を覚ましても、部屋にはわし一人しかおらん」

 

 ダンブルドアはぶるっと震えて、遠い目をした。稀代の天才魔法使い、マーリン勲章受章、ウィゼンガモット主席魔法戦士その人が、たかだかニフラー十数匹に苦しめられているらしい。

 いや……まあ、流石に嘘だろ。俺はそんなことを考えていたが、ふとグリフィンドール寮の暖炉前で、俺が子分たちにこんこんと教えていたことが頭をよぎった。「自分や自分の仲間を傷付けてきた不届き者には、四十倍返しをしましょうね」と。

 

 ……いやいや、まさかな。ちょっとしたジョークに違いない。俺は愛想笑いを浮かべて、少し放心状態のダンブルドアを見た。話が本当ならば、ダンブルドアは一週間ほど徹夜に近い状態のはずだ。

 

「ハリーはもうすでに目を覚まして、君の回復を待っておる。明日は学年度末パーティーの日じゃ。君が目を覚ましてくれて本当に良かった。君の目が今夜までに開かなければ、わしは夏休み中ズーッと、悪夢に怯えなければならんところだったからのう」

 

 俺がふと、ニフラーたちから貰ったお見舞いの品の向こうにあるお菓子のオブジェに目を向けると、ダンブルドアは思い出したかのように感嘆のため息を漏らした。

 

「おお、これは。君の信奉者たちからの物じゃ。どうやら聞くところによると、ホグワーツにはひそやかに君のファンクラブが出来ているらしい。しかも、その活動には何人かの教授たちも参加しておる」

 

 ダンブルドアの半月型の眼鏡の奥の、ブルーの瞳がきらきらといたずらっぽく光った。

 その存在については俺も知っている。俺が動く階段をうっかり全部停止させたときに、マクゴナガルや何人かの上級生がどこからともなくサッとやってきて、事態を収束させてくれたのだ。その時に現れた一人の生徒のローブに、謎の俺柄のピンバッジが付いていたので、なんとなく察してはいた。

 それにしてもすげえオブジェだ。きっとファンクラブの中に金持ちかパトロンがいるに違いない。明らかに高級なチョコレートが山積みされている。

 

 それからダンブルドアは、俺が気絶した後のことを語り始めた。ニコラス・フラメルのこと、みぞの鏡のこと、ハリーに掛かった愛の魔法のことなど。俺は聞いている最中にうつらうつらしていたが、俺の意識が飛びそうになるたびに、ダンブルドアが指をパチンとして俺を起こした。

 

「君には本当に感謝をしておる。わしの頼みをきいてくれた。おっと、そうじゃ。賢者の石を今のうちに預かっておこうかの」

 

 俺は寝ぼけ眼で、赤い宝石を袋から取り出し、ダンブルドアの手のひらに置いた。ダンブルドアはそのきらめきに目を奪われたようにじっと見つめると、懐にしまった。俺は少しドキドキした。

 

「君からわしに、なにか聞きたいことはあるかね?」

 

 ダンブルドアが俺を伏し目がちに俺を見据えた。

 うーん……勿論、聞きたいことはたくさんある。

 俺は少し逡巡した。まともな答えが返ってくるかはともかく、ダンブルドアは俺より数段頭がいい。クィレルのこととか、ヴォルデモートのこととか、聞きたいことは数えきれないほどあった。

 でも、それは自分で悩むべきことのような気もする。

 

 頭の隅々まで使って考えて、俺は首を横に振った。

 少し、自分で考え込んでみたい。

 

 俺の反応を見て、ダンブルドアは頷いた。表情がにこやかなままだったので、こいつの期待した返答かはわからない。いつもと変わらない瞳の奥に映っているのが、疑念なのか、それとも納得なのかは判別できなかった。

 

 ダンブルドアは立ち上がって、ダンブルドアと同じくらいの背丈のあるお菓子のオブジェから一粒チョコレートをつまんで、俺に背を向けた。俺は安心して、詰めていた息を吐いた。

 

「ロミオ」

 

 俺の心臓はぎくりと跳ね上がった。が、それを悟られないように深呼吸をして、ぐーっとのびをした。ダンブルドアが振り返って俺を見ている。片手には赤い宝石を持っている。

 俺は「まだなにか?」とでも言うように首を傾げた。ダンブルドアがゆっくり口を開いた。

 

「わしは賢者の石をニコラスに託された張本人であり、みぞの鏡にとじこめたときに、賢者の石をじっくりと見ておる」

 

 静寂があたりを包んだ。

 

 俺が試しにベッドの上でガタッと動いてみると、ダンブルドアがサッと懐に手をやった。

 素早く動くことを諦めた俺は、肋骨を手で抑えながらおもむろに立ち上がり、いそいそと傍らに置いてあったニフラー用の車いすに座った。油が差されていないのか、キコキコ、カラカラと音を立てて床を進む。ダンブルドアはそんな俺を、一瞬も見逃さないといわんばかりに穴が開くほど見つめていた。

 

 じきに俺の車いすは何者かの足によって進路を阻まれた。ダンブルドアである。

 ダンブルドアはしゃがみこんだ。俺はスッと顔を下にそむけた。

 

 長い無言の時間があった。

 ダンブルドアが俺の顔を覗き込んでいる気配がずっとあった。

 

「……なにか言いたいことはないかな?」

 

 俺はダラダラと汗を流しながら、袋の中に手を突っ込み、賢者の石を取り出した。

 

 

 

 

 

 今日は学年度末パーティー当日である。

 先ほど、胡散臭いものを見るような目で俺を見てくるダンブルドアに、クィレルの持ち物を受け継ぐ許可をもらってきた。マダムポンフリーが暴れる俺に骨折を治す薬(ゲキマズ)を無理やり飲ましてくれたおかげで、一晩経って身体はピンピンである。どうやらニフラーは人間より治癒力が高いらしい。

 俺は闇の魔術に対する防衛術の部屋に入って、部屋の最奥にある石造りの階段を上った。ここにおおかたの物を移動してくれているらしい。

 

 扉をガチャッと開ける。さっきまで大広間でみんなと朝ご飯を食べていたからか、部屋の静寂が俺を襲った。この部屋にある荷物の持ち主は死んだんだ。急にクィレルの死を実感してきて、俺は頭を振った。感傷的になってる暇はねえ。いい感じのモンをいただいてさっさとずらかろう。

 

 俺がクィレルの荷物を物色すること十分ほど。あいつは結構勤勉だったのか、本を結構ため込んでいた。……いや、教授だもんな、そりゃそうか。

 そんなことを考えていると、ふとトランクが目についた。開けてみーよお。てかあいつも結構ドジだよな、開けちゃダメなものとか見ずに捨ててほしいものとか指示しなかったの。見られたくないものとかなかったのかな。エロ本とか、昔のラブレターとか、厨二病ノートとかよ。

 俺はあるような気がする。前世の知り合いが処分してくれてることを祈るばかりだぜ。

 

 トランクを開けると、そこはでけえ部屋につながってるみたいだった。ニュート・スキャマンダーとかと同じようなつくりになっているらしい。俺のトランクは“巣”だけど、こっちは“家”って感じ。

 そういえばクィレル、結構海外飛び回ってる感じだったよな。ヴォルデモート探すためだったからかもだけど。こういう鞄は旅行とかに便利なんだろうな。

 

 俺は梯子を伝って部屋の中に降り立った。ここはただの玄関らしく、クィレルのコートが壁にかかっていたり、靴が脱ぎ捨てられていたりする。そこから扉を開けて、俺はトランクの中を探索し始めた。居間、風呂場、寝室、キッチンなどがある。魔法生物を飼っているスペースもあった。

 ……待てよ、今度から俺が世話すんのか? これ。

 俺の目の前でキテレツな鳥が飛びまわっていた。うーむ、ハグリッドに助けてもらおう。キテレツな鳥に頭の毛をブチブチむしられながら、俺は逃げるようにその部屋を後にした。

 

 最後に行きついたのは、巨大な物置だった。いろいろながらくたが積まれている。本は勿論、剣とか、でっかいはく製とか、シャベルとか、なんかのホルマリン漬けとか。ものが多くて、俺のような小さい背丈のやつにとっては迷路のようだった。

 

 でも使えるものはそんなに多くなさそうだ。部屋をぐるりと一周した感じ、俺向けなものはなさそうだった。

 鳥かごの中に閉じこめられている『怪物的な怪物の本』をジーッと見ていると、俺の後ろで小さな物音が聞こえた。

 俺は振り返ってみる。……何かが動いた痕跡はなさそうだ。

 

 まあいいや、かーえろ。

 

 俺が踵を返して歩きだしたところ、また小さな物音が聞こえた。振り返ってみたが、なにも動いていないようだった。なんなんだ? 一体。

 周りを見渡してみる。ライオンのはく製、金色のオルゴール、高く積まれた魔法の本、よくわからない瓶詰め、ひん曲がったフライパン、アラベスクの絨毯。

 

 ……生き物の気配はないな。

 

 俺はうーんと唸った。

 気のせい、か?

 

 




ニフニフ小話
ロミオが宝石をあんなに集めていた理由の一つとして、賢者の石とすり替えてギリギリバレなさそうな宝石を探していたというのがありますが、それが原因でロミオの腹の中を漁っていたクィレルが大変手こずる羽目になりました。
ダンブルドアは、到着したみぞの鏡の部屋に散らばっていた宝石の大半が赤色だったので、なんとなく察していました。

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切実に燃料をください。エタる確率が低くなります。沢山の感想ありがとうございます。感想をください。私の主食です。
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