お前もニフってる?   作:HLNF会長

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第二章 獅子の剣、邪悪の蛇を穿つ 開幕


第二章 獅子の剣、邪悪の蛇を穿つ
第一話 気まぐれなジェットコースター①


 

 

 ホグワーツ一年目の夏休み。ハリー・ポッターにとってそれは、生まれて十一年間で一番楽しい夏休みだった。

 なぜって? ハリーにとっての“我が家”が、去年までとは全く違う、とても素晴らしい場所だったからだ。

 

 少しばかりおさらいをしておくと、ハリーは昨年の秋ごろ、アズカバンから釈放されたシリウス・ブラックに引き取られた。その影響もあって一年次の冬休みは勿論シリウスの実家で過ごし、ハリーは今までにない最高の安息を味わった。心の底から、“我が家”と思えるくらいのものを。

 勿論、夏休みに限ってダーズリー家に帰らなくてはならない、なんてサプライズはなかったので———年度末、ハリーは何回かその悪夢を見た———今回もまた、ハリーはシリウスの待つ楽しいグリモールド・プレイス12番地に帰ることとなったのだった。

 

 帰った日、シリウスはハリーたちのために山盛りのご馳走を用意してくれていた。

 ホグワーツから事前にフクロウ便で成績が届いていたらしく、シリウスはハリーの試験のおおよその出来を褒めた後、特に秀でていた科目についてニコニコとハリーに深堀りし始めた。つまり、闇の魔術に対する防衛術と、魔法薬学についてである。

 

 闇の魔術に対する防衛術に関しては、担当教師が担当教師(ヴォルデモートの手下)だっただけに少しばかり笑顔に陰りを見せたが、冬休みの特訓の成果が出たからだと聞くと、シリウスは露骨に上機嫌になった。確かに点数を見てみると、パーセンテージは極めて高い。一年生のときの父ジェームズよりも優秀かもしれない。シリウスは「ジェー」と口を開きかけたが、途中で舌に急ブレーキをかけ、右頬を自分で一発ビンタした。

 危ない危ない。またジェームズを引き合いに出してしまうところだった。

 エビピラフをもしゃもしゃと食べていたロミオに不審な目で見られながら、シリウスは内省した。忌々しいスニベルスと決闘した際、確かに心に決めたのだ。ハリーの理想の父親になる、と。

 ちなみに、シリウスの身体にはアズカバン時代に彫った無数のタトゥーが存在するが、その数々のデザインの中に『ハリーの理想の父親』という単語が仲間入りを果たしており、それを後にドヤ顔でロミオに見せた際、二日間ほど無視されることになったのは言うまでもないだろう。

 

 一方で魔法薬学の成績も、トップとまではいかないが上位十人に入るであろう成績であった。スネイプが憎しみの念を送りながら成績を書いた場面が、シリウスの頭にはやすやすと思い浮かぶ。ロミオのかなりのサポートがあったとはいえ、これもまた、リリーの血を受け継いでいるのだろう。

 ハリーの母リリーは、魔法薬学において特別な才能を持っていた。学生時代、何の後ろ盾のないマグル生まれにして、スラグ・クラブに招かれるほどには。

 シリウスにとって、ハリーの中にリリーの存在を感じることは、はっきり言ってとてもありがたかった。気を抜くとすぐに意識が二十代のころの自分になって、ハリーの中にジェームズの面影を求めてしまう。いまだその癖は治っていなかったが、自覚できただけでも大きな進歩といえよう。

 アズカバンに十年近くぶち込まれ、何もすることのないまま大人になったシリウスの、ここ最近で一番の成長といっても過言ではなかった。

 

 

 さて、現在ハリーとシリウスは、二人で遊園地に来ていた。マグルの世界の、遊園地である。

 

「ハリー、アイスを食べよう。さっきのミラーハウスで目が疲れた。少し休憩したい」

 

 今日はイギリスにしてはたいへん珍しく、最高気温が30度近くになる真夏日である。昼頃になると地面を焼き尽くすようなカンカン照りで、その日光を吸収する黄色の地面は、靴の裏側から分かるほどに熱気を発していた。

 ハリーが振り向くと、ミラーハウスの出口に立ち止まったままのシリウスが、額に滲む汗をぬぐいながら、眉間に指を押し当てている。

 

「だいじょうぶ?」

 

 ハリーが心配そうな顔で声をかける。

 

「アイスを食べれば」

 

 犬のようにぐるぐる唸っていたシリウスだったが、しぱしぱと瞼を開閉させると、サングラスをスチャッと掛けなおし、日光の下もとい死地に足を踏み出した。シリウスの目にはもう、パステルカラーでコーティングされたアイス売りのフードトラックしか映っていないらしい。スタスタとまっすぐ歩いていくシリウスを追いかけながら、ハリーは周りでアクロバティックに動く巨大なアトラクションたちを眺めていた。次は何に乗ろう。できるだけ乗っている人が悲鳴をあげているやつがいい。

 

「ハリー、なにがいい?」

 

 アイス売りのフードトラックの前に行くと、既に何人かが列を作って並んでいた。こんな暑い日にはアイスに限る、という思考はみんな同じらしい。目の前のバイキングの動きが止まり、出口から大量の人が出てくるのに気が付いたシリウスは、素早い動きで列に並びハリーを呼び寄せた。フードトラックの前に置いてある看板を見てみると、全部で十種類くらいのアイスがある。

 

「なに頼んでもいいの?」

「もちろん。ダブルでもトリプルでもいいぞ」

 

 ダーズリー家にいたときはいつも一番安いメニューしか買ってもらえなかったので、ハリーの心は俄然踊った。一番安いメニューって言うと、大体フルーツ味のシャーベットみたいなやつばかりだったけれど、今回はチョコレート・ナッツとストロベリーモカのダブルにしてみよう。

 

「チョコレート・ナッツとストロベリーモカのダブル。チョコソースかけてもいい?」

「もちろん、出来るトッピングは全部してもらいなさい」

 

 少し投げやりな返事に、看板を見ていたハリーがシリウスを見上げた。シリウスは財布から大量のマグルの札束を取り出して、四苦八苦しながら表面に掛かれた人物の顔を見比べている。

 

「全員同じ顔だぞ」

「ああ、うん、全部同じ人だからね……シリウス、ここの数字を見るんだよ。この記号はポンド。ああ、シリウスはフランス育ちだもんね。……えーっと……これとこれで十分かな」

 

 後ろに並んでいた子連れの男の人が、「なんだこの世間知らずは」みたいな目でシリウスを見始めたので、ハリーは慌ててシリウスの手から何枚かの紙幣を抜き取った。

 

「マグルの文化史の授業はほとんど別のことをやってたから……リーマスにちょっかいかけてないで、もう少し真面目に聞いておくんだった」

 

 シリウスは項垂れながら大量の紙幣を財布に突っ込みなおし、ポケットの中にしまった。そして、ハリーが手に持っていた適切なお釣りの来そうな額の紙幣を受け取る。

 

「じゃあ、あそこの日陰のベンチで先に待ってなさい。場所を取っておいてくれ」

「わかった!」

 

 ハリーは頷いて、誰かに場所を取られないうちに、と小走りでベンチまで駆けだした。

 

 

 ハリーがベンチにたどり着くと、そこは丁度植木の下にあって、日光に当たっていない地面がひんやりとした空気を纏っていた。丁度いい休憩場所になりそうだ。

 ハリーはベンチに座ると、背負っていたブルーのバックパックを下ろし、中を探った。遊園地で買ったロンやハーマイオニーにあげるお土産の袋やら、途中で買ったおもちゃ付きのペットボトルやらのなかに、ハリーの魔法の杖が差し込んである。ハリーは杖の全体を触ると、ほっと一息ついた。よかった、折れてない。シリウスに「杖は思ってるより頑丈だぞ」って言われたから生身で持ってきたけど……次からはやっぱり箱に入れて持ち運ぼう。その横にあった遊園地のパンフレットを取り出して、ハリーは次に向かうアトラクションを吟味し始めた。

 

 ハリーは今回が遊園地初めて……というか、テーマパークが初めてである。テレビの特集でジェットコースターやバイキング、フリーフォールなどを見て怖そうだなあと思っていたが、よくよく考えてみるとハリーはクィディッチ選手であった。命綱なしの空中旋回や宙返りなんてお手の物で、箒に触って一カ月も経たないうちに上空数十メートルからの直滑降を経験している。つまり何が言いたいのかというと、ハリーは普通のジェットコースターなど生ぬるい、という感覚にまで至ってしまっていた。それが現れてしまったのが、ミラーハウス前のイギリス最恐ジェットコースター三連続乗車である。

 

「ハリー、ほら。買ってきたぞ」

「あ、シリウス。ありがとう」

 

 シリウスはアイスを手渡すと、ハリーの隣にどっかりと座り、自分のアイスをべろりと舐め始めた。どうやらシリウスは自分のアイスに本当にすべてのトッピングを乗せたらしく、三段のアイスの頂点にたっぷりのホイップクリームとチョコソース、カラースプレー、サクランボやクッキーがのっており、コーンの端から毒々しい色の棒状のグミが二本突き刺さっている。

 

「グミ、一本いるか?」

 

 ハリーがあっけに取られていると、シリウスはトッピングを欲しがっていると勘違いしたのか、返事を待つ前にハリーのアイスにグミを突き立てた。

 

 シリウスの今日の服装はマグル仕様である。普段外ではオーダーメイドのスーツを着ているが、今日の猛暑を読み切っていたのか、麻の白いシャツにジーパンというラフな格好をしていた。シリウスは去年の釈放時とは見違えるほど顔色が良くなって、まるで二十代のような若々しい雰囲気を漂わせている。髪の毛もさっぱりと切って髭も整えていると明らかに良家の息子という感じだが、三つ目のボタンまで開けたシャツや、その隙間から覗くシルバーアクセサリー、無造作に組まれた足などが、気取らない美しさを形作っていた。ベンチを通り過ぎる女性の中には、ブルーグレーのティアドロップのサングラス越しにどうにかシリウスの瞳の色を見ようと、ちらちらと目線を向けている人もいる。

 シリウスが学生だったとして、果たして今のホグワーツに太刀打ちできる人がいるだろうか。そんなことを考えていると、シリウスが早くも二段目のチョコミント・アイスを齧り始めたのを見て、ハリーは慌てて自分のアイスを食べ始めた。危うく溶けて手に伝うところだ。

 

 

 

「シリウス、次はこれに乗りたい」

 

 アイスを食べ終え休んでいると、ハリーは膝にのせていたパンフレットを指さした。

 

「ん? ……『ダーク・パラダイス・シャトル』?」

 

 名前からして嫌な予感がするアトラクションである。シリウスは一瞬動きを止めた。

 先ほど『フォーリン・デス』という極めて不謹慎な名前のアトラクションに三連続で乗ったばかりだ。ピンピンしているハリーの横でグロッキーになっていたシリウスは、休憩を求めて乗り物式ではないミラーハウスになんとかハリーを連れて行ったが、そこで十人くらいの自分と額を突き合わせることになったため、現在三半規管やらなにやらの神経がめちゃくちゃなことになっている。ハリーの指の先をよくよく辿ってみると、「275度傾斜」だの、「最高速度120キロ」だの、「暗闇の中をハイスピードに通り抜ける」だの、不穏な言葉が散らばっていた。

 

「あ、もちろん、シリウスが無理そうなら大丈夫だよ! なんだったら一人で乗ってくるし……ほら、シングルライダーもあるって」

 

 シリウスは首を横に振った。最近やっとわがままを言ってくれるようになってきたハリーの希望であるし、そもそもハリーのことを一人にするな、とダンブルドアに口を酸っぱくして言われている。数日前怪しい屋敷しもべ妖精がシリウスに突撃してきたこともあって、少し心配ではある。口ぶりから言ってハリーを害そうという気配はなかったが。

 

「いや、その……なんとかシャトル、私もぜひ乗りたい。もう少ししたら並びに行こう」

 

 『フォーリン・デス』は最短で三十五分も並んだ。なんとかシャトルもそれくらい並ぶだろう。列に並んでいる間休めばいい……なんならトイレの個室に入って回復の呪文でも唱えれば……。

 そんなことを考えているシリウスの前で、ハリーはにこにこ顔でバックパックを漁った。

 

「シリウス、さっきのジェットコースターは対象じゃなかったんだけど、この『ダーク・パラダイス・シャトル』はエクスプレス・チケットが使えるんだよ。時間内だったら並ばずにすぐ乗れるんだ!」

 

 嬉しそうにエクスプレス・チケットの束を見せるハリーに、シリウスは口から半分魂が抜けそうになりながら後悔していた。

 こんなことになるならアイスを早く食べるんじゃなかった、と。

 

 




シリウスのハンサム描写は一級品こと名誉イケメンソムリエ、ハリー・ポッターさん。

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切実に燃料をください。エタる確率が低くなります。沢山の感想ありがとうございます。感想をください。私の主食です。
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