お前もニフってる? 作:HLNF会長
シリウス・ブラックはハリーがジェットコースターの機体から墜落したのを認めると、自身の安全バーのロックを解除して、未だ風を切るシャトルの上にふらふらと立った。すぐさま杖を振る。
「
杖先から眩い光が飛び出し、レールのくねる室内を
シリウスの脳裏には、先日の屋敷しもべ妖精の姿がよぎった。ハリーを連れて行くとしたら、どこに? まさかここまでの強硬手段を使うとは思っていなかった。
状況を打開できぬままシリウスの乗っていたシャトルが乗り場に到着した。待っていた人々がざわつき始める。それもそうだ。シリウスは勝手に安全バーを外して機体の上に立っているし、他の乗客は全員不気味なほどぐっすり寝ている。「ドッキリ?」と口々に囁く声を無視し、シリウスはシャトルから飛び降りた。係員の静止も聴かず出口に走っていく。
そしてシリウスが建物から出たとき———……
「よう、ごくろうさん」
鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしたハリーと肩を組んだ男二人が、シリウスの目の前でにやにやと笑っていた。シリウスはその時、すべてに合点がいった。
「魔法をあんな大っぴらに使うなんて、正気か?」
シリウスは信じられないようなものを見るような目で、
「いやあ、マッドーアイに聞いたんだよ。シリウスとハリーがマグルの遊園地行ってるって。ちなみに、君、随分危機感足りないからちょっと脅かしてやれってけしかけたのはマッドーアイだからね。俺じゃないから」
腰に手を当てて軽い口調でシリウスに微笑んでいるのは、ムーディとよくバディを組んでいる二十年先輩の闇祓い、エバネシーである。肩に手を置かれているハリーは、シリウスとその同僚と思わしき人の顔をいったりきたり見上げていた。
シリウス、思ったより同僚の人と仲良さそう。
ハリーはしれっと失礼なことを考えていた。養子ながら、シリウスのワンマン気味な行動は少し察しているところがある。
「この前はよくも先に帰ってくれたな」
そう言ってシリウスのことをじーっと見ているのは、先ほどハリーにコリンズと名乗っていた男だ。ひょろりと背が高くやせ型で、どことなくロンの双子の兄を想起させるような風貌である。
そういえば危機感が足りないってどういうことだろう、とハリーは思ったが、馬鹿正直に尋ねるのもなんだかまずそうだった。シリウスの顔がどんどん不穏になっている。
「で? 私をおちょくるために入園なさったんですか? せっかく来たならアトラクションに乗ったらどうです? 『フォーリン・デス』とかお勧めですけど」
口の端をぴくぴく痙攣させながら、シリウスはハリーの両肩に置かれた手を強引に引っぺがした。へらへらとした顔でエバネシーは両手を挙げた。
「いや、このためじゃないさ。ここには調査に来たんだよ。緊急の」
「緊急?」
「そ」
エバネシーはシリウスとハリーを
「一時間前くらいから、この遊園地で不審な飛行物体がうろついてるってマグルにザワつかれてるみたいでね。どうやら魔法の絨毯と似たような見た目のものらしいんだけど、魔法の絨毯は今イギリスでは輸入禁止にしてるじゃない。マグルに魔法の存在がバレてる、違法輸入の可能性あり、っていう部署違いの二つのぺケがついたから、魔法事故惨事部や国際魔法協力部じゃなくて
まあ珍しく暇してたのもあるけど、とエバネシーは続けた。
「二人とも、それらしきものは見てない?」
シリウスは頷いた。
横にいるハリーもそれに続いて頷く。
その横にいたロミオもそれに続いて頷いた。
ん?
ハリーとシリウスはバッと振り向いた。
空中に、薄いグレーの毛に黒いブチのニフラーの生首が浮いている。
コリンズが「これは?」と聞くと、シリウスが驚きを張り付けた顔で「ペットのニフラーのロミオ」と答えた。
「君たちはニフラーの生首を飼っているの?」
「いや。ニフラーの全身丸ごと飼っているはずだが」
ハリーはロミオの顔あたりに手を這わせると、目に見えない布のようなものを捲った。
「透明マントだ。留守番してるんじゃなかったの?」
ロミオが肩をすくめて、「いやあ気になっちゃって」と言うような仕草をした。その拍子にはらりと捲られた透明マントの奥に、分厚い絨毯が見える。
コリンズとエバネシーは同時に目を細めた。
「それは……」
コリンズが険しい顔で懐に手を差し込む。
「駄目だ! コリンズ!」
シリウスが叫ぶ。
コリンズのコートの裏から、杖の端がはみ出た丁度その時———……
「ロミオに杖を向けてはいけない!」
ロミオはそれを見た瞬間、電流が走ったようにぶるぶると背筋を伸ばした。それに呼応するようにロミオを乗せた魔法の絨毯が波打つ。ロミオの姿は、一瞬にして視界からかき消えた。
「……ケータイで撮ろうとしただけなのにぃ」
一瞬で空高く逃げ出したロミオを目で追いながら、残念そうにコリンズは携帯電話を懐に仕舞いなおした。
「ロミオはクィレルに捕まってから、杖に対して妙に神経質になるんだよ」
シリウスは溜息を吐いた。
「あちゃー、ありゃ目撃されるわけだ」
手で日光を遮りながら、エバネシーは空を見上げていた。
透明マントの覆うことのない絨毯の裏側を大胆にさらしながら、謎の未確認飛行物体・ロミオは視界の端に消えていった。
「で、結局魔法の絨毯はエバネシーさんに魔法をかけられて、飛行中はマグルよけの目くらましが出来るようになったんだけど。それが気に食わないみたいで、ロミオとずっと喧嘩してるんだよね」
ダイアゴン横丁、フローリシュ・アンド・ブロッツ書店前。ハーマイオニーとロンと一緒に新学期の準備をすることを約束をしていたハリーは、無事二人と合流し、ロンの両親、モリーとアーサーらも含めたみなに事の顛末を話していた。
ハーマイオニーとロンの視点がハリーの後ろに移動する。
見物人に囲まれながら、道のど真ん中でニフラーと魔法の絨毯がお互いを殴り合っていた。
「他人のふりはできない?」
ロンは呟いた。
近くにいた男が魔法の絨毯が勝つ方にガリオンを賭け始めた。
「私読んだことあるわ。魔法の絨毯って、魔法使いにしか忠誠を誓わないの。きっとロミオのことを舐めてるのよ」
ハーマイオニーが確信をもって答えた。
ロミオと魔法の絨毯の試合は白熱している。ごろごろと道の上を二人(正確には一匹と一枚)は転がっていった。
その隙に、フレッドとジョージが賭け格闘技の運営をかって出た。周りにいた見物客からお金を受け取る前に、モリーが二人の頭をはたいて連れ戻した。
あ、魔法の絨毯がロミオにロメロスペシャルを繰り出した。
アーサーが地面をたたいてカウントしている。
「あの馬鹿どもは置いて中に入りましょ。今日は待ちに待ったロックハートさんのサイン会なんですから」
モリーは憤然としながら、名残惜しそうに後ろを見るハリーとロンを追い立てて、書店の中に皆を促した。「待ちに待った?」と復唱しているロンを雑に無視して、モリーはいいポジションをゲットしに走る。
「魔法界って、ああいうのが日常なの?」
目を丸くしてロミオたちを見ているグレンジャー夫妻に、ハーマイオニーは微妙な顔で首を傾げた。
ギルデロイ・ロックハートとかいう、白い歯を見せたニッコリ笑顔が妙に胡散臭いイケメン。
ハリーはカメラのフラッシュのたかれている中で、ロックハートを見上げていた。視線の先のロックハートはきどった勿忘草色のローブを羽織っていて、波打つ金髪を撫でつけている。視界の端では、ロックハートを近くで見ようと押し合いへし合いしているおばさん魔女の集団に揉まれて、シリウスが終始機嫌悪そうにしていた。
「ハリー君、もっと口角を上げて。人気者はいつでも
ものすごい力で握手をされている。ハリーの手がだんだん痺れてきた。
ハリーとロックハートの周りを背の低いカメラマンが走り回っていて、あらゆる角度から無数に写真を撮っている。「これは一面大見出し記事ですよ」とロックハートが上機嫌でボヤいているが、「そんなことさせるか!」と遠くの方から声が聞こえた。シリウスは既に書店の入り口付近にまで流されていた。
それから、ロックハートはこの瞬間を待ってました、と言わんばかりにつらつらと話し始めた。曰く、ロックハートは来年度の闇の魔術に対する防衛術の教師を務めるらしい。ついでにハリーたちに
「本の内容をいまチラと読んだがね、アレに出来たのか甚だ疑問だ」
ハリーが見上げると、シリウスはうんざりとしたような表情でロックハートを睨んでいた。
「ハリー、もし今年の闇の魔術に対する防衛術が胡散臭かったら言いなさい。私が独自のメニューを組んであげよう。試験はブッチしちまえ。マクゴナガルも文句は言わんだろう。多分」
「シリウス……」
フン、と鼻を鳴らして不機嫌な雰囲気をさせる養父に、ハリーは呆れたように笑った。
二人で少し話していると、少し離れた場所から怒りのこもった話し声が聞こえた。ハリーとシリウスが振り返ると、アーサーと……知らない貴族風の男が相対している。貴族風の男は、プラチナブロンドの髪をオールバックにしており、冷ややかな灰色の瞳でアーサーを見下ろしている。ハリーはその男と全く面識がなかったが、嫌というほど見覚えがありすぎるカラーリングに深く息を吸い込んだ。マルフォイ父がいるということは、マルフォイ息子もいる可能性が高い。
ハリーが一歩踏み出そうとすると、シリウスは左手でそれを制し、自らは渦中に向かっていった。
右手は懐から杖を取り出して、左手の袖の中に仕舞い込んでいる。あまりよくない兆候だ。
「これはこれは……昨今魔法省で話題のルシウス・マルフォイさんじゃないか。倅さんは元気か? 噂を聞くに、あまり成績が振るわないらしいな」
シリウスの第一声は最悪の一言から始まった。
てっきりこの事態を収めてくれるものかと思っていたモリーが頭を抱える。考えが甘いのである。
「君の息子さんは君の若いころにソックリらしいな。君の在学中のあだ名はなんだっけ……ハゲタカイタチだったか? 息子さんもそう呼ばれているのか?」
ハーマイオニーとロンが頭を抱えた。ついでに遠くの方でハリーも頭を抱えた。
ルシウスの額がどんどんと紅潮して、今にもシリウスに襲い掛からんとしているような表情になった。しかし貴族としての矜持がギリギリのところで思いとどまらせたのか、険しい表情を意識的におさめていく。
「シリウス・ブラック……君の仕事の辣腕ぶりはよく聞いているよ。可哀想に、お役所仕事は碌に休日も取れないと聞く。北海の上でまた、存分の休息を取られてはいかがかな?」
シリウスは小さく唸った。そしてにやりと笑う。
「いいや、やめておこう。私にとっては地獄のような場所だったからな。……ああ! 貴殿のご学友は全員あちらにいるんだったか? 偶にはマルフォイ家主導で同窓会でも開いたらどうだ? 闇祓い総出でサポートに回るよ。ついでにディメンターとロマンティックなダンスでもしてもらおう」
マッドーアイも君に会いたがっていることだし、とシリウスは小声で囁いた。
ルシウスは目を細めてシリウスの瞳を見返す。
「おおかた、ここで私を煽り、乱闘騒ぎでもおこして私を魔法省に連れていくつもりだろう。その間に抜き打ち調査でもする気か?」
ルシウスは低い声で囁いた。
「あなたを長い時間拘束できるなんて思っちゃいないよ。
シリウスが右手で左腕を撫でた。ルシウスが自身の杖で床をガツンと一回叩く。
獅子と蛇の睨みあいを一同が固唾をのんで見守っている中、書店の入り口の方からフレッドが大急ぎで走ってきた。
「おーーい! 号外だ! ロミオが3-2で絨毯に勝ったぞ! ウィーズリー運営は大儲けだ! これでロックハートの教科書全部買おうぜ!」
モリーはため息をついたが、財布の中に入っているガリオン硬貨を数えなおして、フレッドとジョージを労いに行くため書店から出ていった。
書店の窓の外から、赤い羽根ペンを耳に挟んで膝から崩れ落ちている魔法使いの阿鼻叫喚が聞こえてきた。その中心では、丸まった魔法の絨毯にマウントを取って勝利の拳を突き上げているニフラーが、先ほどロックハートを取材していたカメラマンに激写されている。
「また会おう」
すっかりしらけて無言で書店を出ていこうとしたルシウスの背中に、シリウスは言葉を投げかけた。返事はおろか振り返りすらしなかったルシウスを、息子のドラコ・マルフォイが追いかけていった。
「また会おうって、どういう意味?」
ロックハートの教科書を両手に持ったハリーがシリウスに近寄って聞いた。
シリウスはハリーを見下ろすと、その頭を優しく撫でる。
「近頃魔法省は抜き打ちの立ち入り調査を強化しているんだ。そのうちわれわれもマルフォイ邸に行くことになるだろう」
シリウスが意地悪くにやりと笑った。
「庭園の物置まで隈なく捜査してやる。どんな品物が出てくるか楽しみだ……」
ハリーは隣にいたロンの妹、ジニーに目を向けた。ジニーは赤面する。ハリーの英雄属性に恋をしているらしい彼女は、ハリーの視線にもじもじとし始めた。
「これ、あげるよ」とハリーはロックハートの本をジニーに押し付けた。ロンの家庭は金銭的に切迫しているようだし。ブラック家の養子に入った自分より、ジニーが貰う方がいいだろう。
ジニーは照れくさそうに笑顔で受け取った。
ジニーは空っぽの鍋の中に、ロックハートの教科書を差し込んだ。
基本的にプロットは点で考えているので、その点をつなぐ線の工程を苦労します。
ヒロアカにハマって筆が取られていましたが、無事に帰還しました。
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切実に燃料をください。エタる確率が低くなります。沢山の感想ありがとうございます。感想をください。私の主食です。