お前もニフってる? 作:HLNF会長
くるしゅうない。
おれさまは、すっかり調伏した魔法の絨毯の上にどっかりと座って、キングズクロス駅の天井付近を飛んでいた。下界では、ハリーたちがおれさまを見上げている。
「ロミオ、マグルに見つからないからって完全に調子に乗ってるよね」
ロンがぼやいた。
調子に乗りもするさ! 超大変だったんだから!
俺はフンと鼻を鳴らして、すいーっと絨毯で滑空し、ハリーたちの目線の高さまで高度を下げた。
「クィレルの魔法の絨毯、すっかりロミオに懐いてるね」
ハリーがヘドウィグの鳥籠を自身のカートに乗せなおしながら言った。
あ、そういえば。お前らに説明してなかったな、この絨毯について。
俺は自分を乗っけているアラベスク模様の紫の絨毯を見下ろした。
この魔法の絨毯は、苦節二週間、ようやっと見つけたクィレルのトランク内の異音の正体なのだ。
トランクの中で歩くたびに誰かにつけられているような感覚になった俺は、物陰に隠れて機を待ち、追跡対象を見失って動揺しながら姿を現した
そこで
正直俺にとっちゃ渡りに船だったんだけど、
それから数々の死闘を経て俺が再度主導権を握るに至ったんだけど、俺が魔法使いじゃないからか、下剋上の気配をヒシヒシと感じるぜ。
「ハリー! ロン! 遅れてごめんなさい。渋滞してて」
それから小走りでやってきたハーマイオニーが合流して、結構時間ギリギリにホームに移動することになった。
シリウスが9番線と10番線の間の柱に向かって歩いて行って、レンガの壁に吸い込まれていく。それにモリーおばさん、フレッド、ジョージ、ハリーと続いていった。
———そういえば、なにか忘れているような。
最後のロンが壁に吸い込まれて行った。
ぼーっと考え込んでいた俺は、「なんだっけ」と思いながらてくてくと歩く。壁にいつもどおり触れると———触れると?
ぺたぺたとレンガの壁を触る。
ん? 通り抜けらんないぞ? これ魔法生物単体だと通れなくなるとかないよね?
……そこで俺は思い出した。そういえば、ドビーとかいう屋敷しもべ妖精が、ハリーがホグワーツに行くのを阻止するためにキングズクロスのホームの入り口を塞いでたんだっけ……。
ドビーのうっかり具合に内心がっくりしながら、俺はFBIの突入ばりに壁に体当たりしはじめた。
気が付いたら発車時刻でした。
汗だくになりながら、俺は壁に寄りかかってヒイヒイ息を切らしていた。おかしい。ハリーとかシリウスあたりは俺がいないことに気が付くはずだろ。ここまで誰も向こう側から出てこないってことは、単にこっち側から行けないとかじゃなく、ドビーによってゲート自体が閉じられている可能性が高い。
めんどくせえなあ。俺がここに残ったとしてハリーはホグワーツに行っちゃうし、意味ないだろ。俺がホグワーツまでの汽車を乗り逃しても、シリウスにでも送ってもらえばいいわけだし。
ふう、と汗をぬぐってひと深呼吸おいていると、俺のポケットがもぞもぞと動いた。金色の糸で作られたタッセルがぴょこんと出てくる。
なんだよ、ホグワーツじゃないんだからお前あんま外出てくんなよな。
魔法の絨毯はタッセルを手のようにフリフリ振って、「俺を使え」というようにアピールしてきた。やかましいやつだ。
しかし俺は、ふむ、と考えた。確かにそれもいいかもしれない。だってなんか面白そうだし。
思い立ったが吉日!
俺はタッセルを引っ掴み、ポケットの中からでっかい絨毯をしゅるんと出した。
んじゃ、頼むぜ、絨毯さんよォ。
俺は魔法の絨毯に飛び乗って、タッセルを掴んだまま上体を反らせ、ぐわりと上昇した。
かなり時間が経って、イギリス田園上空。夕日の映える丘を尻目に、俺は途方に暮れていた。見渡す限りのどかな景色、視界の中に汽車の線路など一本も見えない。そんな中で、俺の乗っている絨毯はここ数十分くらいここら辺をウロウロしている。
……お前、もしかして……ないとは思うけど、迷った?
絨毯が焦ったようにふるふると横に動く。
……ほんとにぃ~?
ジトーッと見ると、魔法の絨毯は露骨に挙動不審になり始めた。
え、「魔法学校は行ったことないからナビに入ってません」だって?
どうやらポンコツ絨毯に当たってしまったらしい。そういえばクィレル、夢ン中で会ったときなんかほくそ笑んでた気がする。俺がコイツに振り回されることを見越して笑ってたのか? あの性悪め! 極悪人!
魔法の絨毯は散々文句を垂れた後、遂に俺にイギリス全土の地図を要求し始めた。どっちがご主人様か分かったもんじゃないぜ。
地図なんてあったかなあ。一応ポケットをごそごそしてみると、マグル用のイギリス版る〇ぶとらべるみたいな観光の本が出てきた。
付録の地図を広げて、絨毯に見せながら二人でウンウン唸る。マグル用だからホグワーツの場所なんて載ってるわけねーんだけど、多分ここら辺のような気がするぜ。
地図のある地点を示すと、魔法の絨毯はあいわかったと言うように勢いよく飛び出した。
だから!!! いったん落ち着けって!!!
あれから三時間くらいが経って、俺たちはようやくホグワーツの場所を突き止めた。すでに空は真っ暗で、遠くの方に城の明かりが見える。金の懐中時計を見ると、既に始業式のパーティーが始まっていそうだった。
マジで大変だったぜ。飲まず食わずだったから腹ペコだ。今度からポケットの中に食料を入れとくべきだな。また絨毯に乗って漂流しかねない。
俺は絨毯を掴みなおして、ようやっと着いたことを喜んで、足をバタバタと動かした。それに呼応するように絨毯も速度を上げる。
な、嬉しいな。やっと着いたもんな。
絨毯がさらに速度を上げる。ぐんぐんと景色が過ぎ去っていき、ほんの点ほどだった城の明かりが、段々と細かい部分まで見えるようになってきた。星空の下、冷たい夜の風がびゅうびゅうと俺の頬を掠める。
ち———ちょっと速すぎるかもしれない。
俺は絨毯を引っ張って止めようとしたが、コイツはそれでも止まらなかった。
し、城の近くの草原に着地させよう。
なんとか被害を抑えようと俺は絨毯の進路を変えたが、今度は暴れ柳にぶつかりそうになって、絨毯の向きをぐるんと変えた。『フォーリン・デス』も真っ青な速度で三回転する。俺の頭に草がチリッと当たった。
そのまま絨毯は城の方に全速力で向かっていく。
俺は大声を出して止めようとして、口から入った風に頬をブクブクと震わせていた。
最後に俺の視界に映ったのは、大広間の大窓のガラス。諦めて目をつぶった俺は———
パリーーーーン!
勢いよくガラスをぶち破って大広間に大胆に入場した。
薄目を開けると、生徒たちが驚いた顔でこちらを見ていて、壇の上に立ったダンブルドアとロックハートが目を丸くして俺を見上げている。すぐにその頭上を通過した俺は、なんとか絨毯の舵を切り、グリフィンドールの長テーブルの上に着地、勢いのままにゴロンゴロンと転がって、山盛りのフライドポテトの山に頭から突っ込んだ。銀色の皿がゴワンゴワン音を立てている。
ふ、ふう。危ないとこだったぜ。
俺はフライドポテトの山から顔を出して、ふるふると頭を振って毛についていた塩を振り落とした。そのまま全身を山から出して、背中や手足に着いた油を丁寧にナプキンでふき取る。一周ぐるっと回って、これでヨシ! と思ったとき、周りの生徒が俺から遠ざかっていることに気が付いた。
「ペットは飼い主に似る……」
ひっっくい声が聞こえた。
あ、マズい。俺がそーっと振り返ると、黒づくめの男ことセブルス・スネイプが俺の目の前に仁王立ちをしていた。まるで敵将の首討ち取ったりとでもいったように、満面のしたり顔で俺を見下ろしている。
俺が近くのミネストローネの大鍋にビクビクしながら隠れると、スネイプは伝家の宝刀を抜くような構えで懐から新聞を取り出し、俺の目の前にバシッと叩きつけた。
「空飛ぶ謎の絨毯、いぶかるマグル」
俺の目の前に叩きつけられたのは、数日前の日刊預言者新聞だった。
スネイプはそれを、まるで好きな子へのラブレターかのように丁寧に読み上げる。
「ブリストル、エーガロング遊園地にて、二人のマグルが空飛ぶ絨毯を見たと断言……紫色の絨毯……おや、おや。随分似ていますな。丁度いまこの大広間から逃げ出そうとしている絨毯と」
大広間の扉をそっと閉じようとしていた絨毯は、スネイプの一睨みに肩を震わせ、素早く床ギリギリを飛行してきた後、そのままスネイプの足元にスライディング土下座した。
「ハリー・ポッターのペットは飼い主に似て、どうにも目立ちたいらしいですな。ドーンとご登場になりたい……」
「待ってください」
俺たちから少し離れた場所に座っていたハリーが立ち上がった。スネイプはハリーの方をぎろりと睨んだ。スネイプが何か言う前に、ハリーは言葉を続けた。
「この絨毯がこの新聞に書かれている絨毯だという証拠があるんですか」
スネイプはしたり顔をやめた。ハリーがこちらに歩いてきて、俺を庇うように立った。
「紫の絨毯なんて珍しくないはずです。アラジンに出てきた魔法の絨毯だって紫でしょう」
向こうの方で座っていたロンが、ハーマイオニーに小声で「アラジンって何?」と聞いていた。
ハリーはさらに続ける。
「それに、この魔法の絨毯は魔法省に既に申請してあります。マグル避けの呪文だってかけてあります。そんな魔法の絨毯で、どうやってマグルに見られるというんですか?」
魔法の絨毯はバッと腕を広げて魔法省につけられた魔法陣を堂々と見せた。あんだけ魔法陣に不機嫌になっていたのに調子いいもんである。
……てかハリー口喧嘩強くね?
「しかし」
若干面食らっていたスネイプは、そこでやっと元の調子を取り戻した。
「今日の蛮行は、到底許されるものとは言い難いですな」
スネイプは俺の破壊した大窓の方に目を向けたが、跡形もなくきれいさっぱり元の状態に戻っていたので、スネイプは二度見した。
「……直されたとはいえ、パーティーが中断されたのは事実。誰かが責任を取るべきだ。そう思いませんかな?」
「僕もそう思います」
ハリーはスネイプをまっすぐ見返した。大広間は静まり返っていて、周りの生徒たちは固唾をのんで二人の動向を見守っている。
「であれば……」
「ロミオは生徒ではないので、勿論、僕が責任を取るべきです」
ハリーがキッパリと言った。スネイプが怪訝な顔をする。
「ただ、僕はグリフィンドール生なので、この場で一番罰則を告げるにふさわしい人は、スネイプ先生じゃないと思います」
「私ですね」
どこからともなくマクゴナガルが現れた。
クィディッチイギリス代表を思わせるようなグリフィンドールの華麗なパス回しである。マクゴナガルの胸元につけられた“HLNF”というピンバッジがキラッと反射した。なんだろうあの単語。
「まあ待ってください」
ここでロックハートが口を挟んだ。
もはやオールスターである。
俺は段々「これってヤバいことにならなそうだな」と思い始め、ポテトをシャクシャクつまみ始めた。お腹がたいへんすいているのだ。
淡い水色のローブをバサッと翻しながら歩いてきたロックハートは、俺とハリーにウィンクをしたあと、スネイプとマクゴナガルに向き合った。
「ハリーは私と一緒に新聞に載ったことがありましてね。大見出し記事です(ここで、ハリーはボソッと「載ってたのはロミオと絨毯の格闘の方だけどね」と呟いた)。おそらく、それが彼のかわいらしいペット……ロミオくんの心に火をつけたのでしょう。私のせいです。私が彼に『有名虫』を移してしまった。それを償うためにも、彼らの罰則は私が担当します!」
ロックハートは大げさな動きで嘆き、骨付きチキンを両手に持って食べ始めた俺を指さした。スネイプもマクゴナガルも「こいつなに言ってんだ」という顔をしている。
多分俺は、新しい教員としてロックハートが紹介されている最中に大広間に入ってきてしまったのだろう。
だから自分に注目を集めなおすのにロックハートは必死なのだ。
「まあいいでしょう……そのようにしましょう。では、この件は終わりです。では皆さん! ほら、食事に戻って!」
マクゴナガルは手をパッパッと動かして生徒たちの視線を散らした。「私の自己紹介、もう一度やりなおします?」と問いかけているロックハートを無視して、スネイプも教員席に戻っていく。
俺はピザをもぐもぐ食べながら、ハリーと一緒にロンとハーマイオニーのいる席に戻った。
その数日後のことだ。
俺が廊下で腐った牛乳を掛けられたのは。
主犯であろう生徒が笑いながら走って去っていく。顔は見たことがないから、おそらく新入生。ネクタイの色から推察するに、スリザリン生。
俺は悪臭のする牛乳を滴らせながら、無言でペタペタと廊下を歩いた。すれ違う生徒たちが短い悲鳴を上げて俺を避けていく。
俺は遠巻きに見られながら中庭に出て、井戸のところで身体を洗った。水たまりに映る俺の目は、碁石のように真っ黒だった。
そのあとすぐ、ホグワーツ中に噂が広がった。
「誰かがロミオを怒らせた」と。
スネイプなんも間違ってること言ってないのに可哀想。ホグワーツははやくこの魔法生物をつまみ出せ。
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切実に燃料をください。エタる確率が低くなります。沢山の感想ありがとうございます。感想をください。私の主食です。