お前もニフってる?   作:HLNF会長

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第七話 悲願成就は突然に②

 

 

 俺はあれからずっと、魔法薬学の研究をしていた。

 図書館の魔法薬学の本を漁ること一週間。

 最終的に、俺はその希望の切れ端を掴んだのである。

 お前らの中にも思いついた者があるだろう。動物もどき(アニメ―ガス)、あるいはポリジュース薬。

 

 魔法薬学初心者のために一応説明しておくぜ。

 アニメーガスっつうのは、魔法使いが動物に変身するまじないだ。満月の光やマンドレイクの葉っぱなどを活用する古代の魔法で、変身術と違って杖がいらない。ただ、習得するのに何年もかかるし、ニンゲンと違ってニフラーにも効くのかは定かではない。この方法だと、たぶん寿命もニフラーのまんまだ。これの延長線上で新たな方法を考える必要がある。

 

 んで、もう一つの方法だ。ポリジュース薬。

 ポリジュース薬っつーのは、誰かの体毛をポリジュース薬に投入することで、その者の姿に期間限定で変身できる代物だ。ただ、これには問題があって、異種族の間を跨いで変身しようとすると、キテレツな状態になっちゃうのだ。確か、ハーマイオニーは猫の毛を飲んでニンゲンのまま猫の顔になってたはずだ。つまり、俺が人間の毛を飲んで変身しようとすると、ボディはニフラー、顔はニンゲンとかいう不気味な人面ニフラーになっちまう。

 

 というわけで、薬の構成自体を弄らなければならない。これがスネイプもびっくりのとんでもねー難しさなのは、みんなも想像つくよな?

 おかげさまでロクに遊んじゃいられねー。だって俺の寿命は二十年もないもん。ぱやぱやしてっといつの間にか墓ン中入っちゃうぜ。

 

 あまりにも忙しすぎて、俺はスネイプの授業以外ほとんど表に顔を出さなくなっていた。ハリーたちともロクに会話を交わしていないし、グリフィンドール寮に帰る時間も日によってまちまちだ。

 ホグワーツ城二階の隅の、みぞの鏡が置かれている部屋で、鍋や黒板と一緒に仲良く魔法薬研究をする日々。この部屋は半分物置みたいになってたんだけど、今年になって来てみたら、魔法薬学用の設備が整えられていたから、多分ダンブルドアが気を利かせてくれたんだろう。

 

 うーーん、分かんねえぜ。

 

 俺は机の上にぺったりと寝ころびながら、現実逃避というものをしていた。

 おんなじことを延々と繰り返しているから、日付の感覚も薄くなってきていた。首を動かすと、部屋の隅に静かに鎮座するみぞの鏡が視界に入る。

 俺ってもう人間になれねーのかな。

 ダンブルドアらへんに頼んで一緒に考えるのもいいかもしれねーが、俺がニンゲン語を喋れるようになったら、確実に開心術とやらをかけられるし、面倒なことになる予感しかねーぜ。

 おれさまは学んだのだ。

 無駄に知性を出しちゃうと疑われるってな。

 ニフラーは大人しくニフっとくに限るぜ。藪蛇も藪蛇だ。

 

 ……いや、藪ヴォルデモート? 藪ダンブルドア?

 

 そんなことを考えていると、部屋の扉がガチャッと開けられた。

 

「ロミオくん、今日も飲みませんか?」

 

 二重顎を作りながら頭を起こすと、扉の隙間から頭を出したギルデロイのやつが、ニコニコの笑みで俺の返事を待っている。

 俺はぐったりとしながら片手をあげ、「モチロン行きます」というジェスチャーをした。

 

 

 ひんやりとした夜の廊下を、俺とギルデロイは二人で歩く。

 俺とギルデロイが飲み会を始めたのは、ちょうど二週間前くらいだ。

 最初は二人でアフタヌーンティーをしばいていたんだけど、俺とコイツの都合のいい時間帯が、生徒の出歩かない夜ってことになって、だんだん飲み会に移行していった経緯がある。ギルデロイ、教師らしい仕事は全然やんねえくせに、放課後の女子生徒への熱いファンサービスは欠かさないのだ。ロクでもない教師である。

 

 飲み会といっても、ニフラーだからといってノンアルなんてことはない。

 「こんなのジュースと一緒ですよ」なんていうギルデロイの常套句で蜂蜜酒を飲まされた俺は、齢一歳にしてアルコールが大好きになってしまっていた。未成年飲酒も甚だしいが、そもそもシリアスの大嫌いな俺。最近のナーバスが嫌で嫌で、酒を飲んで忘れるというとんでもねぇダメ男サイクルを繰り返していた。最近では泥酔状態のギルデロイとやる、ノーリスク野球拳がマイブームである。

 

 ギルデロイの研究室、もとい闇の魔術に対する防衛術に向かう廊下を歩いていると、曲がり角から深刻そうな顔をしたハリーが歩いてきた。

 どうしたんだ? もう消灯時間は過ぎてるはずだぜ。先生(ギルデロイ)に見つかったらやべぇはずなのに、ハリーはふらふらとこちらに歩いてくる。

 

「ああ、ハリー。……罰則で、私のファンレターの返信を手伝ってくれていたのです。帰り道でしょうね」

 

 ギルデロイが小声で俺に教える。ははーん、さては俺の大広間ダイナミックエントリー事件の罰則だな。

 可哀想に、こんな遅くまで残らされていたのか。まあ俺のせいなんだけど。

 

「ロックハート先生」

「ハリー、遅くまで残らせてしまって申し訳ないが、早く帰らないと。他の先生方に見つかって……」

「先生、何か聞こえませんか?」

 

 ギルデロイは怪訝な顔をしてハリーを見つめた。

 

「なにか?」

「声です」

 

 俺とギルデロイは首をかしげる。なんも聞こえないけどな……そう考えたとき、俺の頭にピキーンと別の可能性が思い当たった。

 もう一度耳をよーく澄ませてみる。

 

 シューシューという息遣いが聞こえてくる。

 

 ……蛇だ。

 

 おそらく、これが例のバジリスクなのだろう。

 俺には蛇がなんて言ってるかなんてわからないが、ハリーはパーセルタング、蛇語話者なので理解できるのだ。

 

「どんな声が聞こえるんですか?」

「あの……『誰かを殺す』とか……『引き裂く』とか……」

 

 ハリーは自分でもおかしいことを言っている自覚があるのか、露骨に歯切れが悪くなった。空を彷徨っていた眼が、ギルデロイの肩に乗っていた俺を捉える。その眼差しが、「なにか気付かないか」と俺に問いかけていた。多分、ニンゲンとは違う性質を持つであろう俺に望みを託したのだろう。

 でも生憎俺はハリーが分霊箱(パーセルタング)なんて知っているはずもないので、しらばっくれて肩を竦めておく。すまんな。ハリーの表情が露骨に落胆の色を見せた。

 ギルデロイはそんなやり取りを見て、妙に生暖かい目をハリーに向けた。

 

「ハリー、君は多分疲れているんだろうね。ただ、有名人として、そういった虚言はいただけないな。周りの者からの信頼がなくなってしまうからね。気を引きたいのは分かるが……」

 

 おまいう案件である。

 ハリーの目が死に始めたので、俺はギルデロイのほっぺを引っ張って強引に話を終わらせた。本当にこういうところはメンドクセーのよな、コイツ。これ以上拘束すると他の先生に見つかりそうなので、さっさとハリーを開放させる。

 

「ロミオ!」

 

 後ろからハリーが呼んだので、ギルデロイの髪を引っ張って立ち止まらせる。振り返ると、ハリーが俺の目をしっかりと見返していた。

 

「意味ないかもしれないけど、一応言っておくね」

 

 ハリーの表情が真剣だった。

 

「この声、二種類聞こえるんだ」

 

 俺の表情がサッと変わる。ハリーはそれに気が付いているのかわからないが、言葉を続けた。

 

「多分、二人いるよ」

 

 これ以上真剣な眼差しでハリーを見ない方がいい。俺はおざなりに頷いて、ギルデロイの髪の毛を引っ張った。動けという合図だ。

 

 ———二人。

 

 ハリーに背を向けた俺は、顎に手を当てて考え事を始めた。

 思ったより、まずい事態になっているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や~きゅ~う~す~るなら~」

 

 こういうぐあいにしやしゃんせ~

 

「あうと!」

 

 せーふ!

 

「よよいの!」

 

 よい!

 

 ロミオとロックハートが同時にバッと手を出した。

 小さくて見にくいが、ロミオはグーを出している。

 一方のロックハートは———チョキだ。

 

「あはははは、またまけてしまいましたねえ」

 

 ロックハートはニコニコと白い歯を見せながら、いそいそとズボンを脱ぎ始めた。既に上半身は綺麗に身ぐるみをはがされており、残るはパンツと靴下のみである。

 一方ロミオは全身で抱えているビール瓶をんごんごと煽り、グワグワと鳴いていた。元人間とは思えない理性の飛ばし方。惨状である。

 ロミオは負けても服を脱ぐという概念はなく(だって着てないし)、ニフラー特有の動体視力により指の動きで出す手を予測するという反則スレスレ、ほとんど後出しじゃんけんのようなことをやっていたため、今のところロックハートが連戦連敗の有り様だった。

 

 「すずしーい」

 

 顔を真っ赤にしたロックハートがパンツ一丁で床に寝っ転がり、四肢を左右に動かしている。泥酔状態だ。酒に酔っても前日の記憶があるタイプのロミオは、そろそろコイツを懲戒解雇したほうがホグワーツのためになるのではないかと思っていた。はじめからそうである。

 

 ただ、ロックハートも悪いところばかりの奴ではないとロミオは思っている。

 他人の記憶を勝手に消して自分の武勇伝に仕立て上げるという点では、普通に犯罪者であるが。その点についてはロミオもはよアズカバンにぶち込まれろと思っているが。

 ぺらぺらとロミオにかまわず喋り倒すので、ロミオと人間の会話の一番のネックである言語の壁がほとんどない。ロミオが言っていることが上手く伝わらなくても、あまり深く考えないロックハートのたちがありがたかったりする。馬鹿ともいう。

 

 なにより二人とも、嘘をつき続けながら生きている。

 ロミオもロックハートも、墓場まで持っていくべき真実を抱えながら生きている。

 二人とも、自分の心をふわふわと浮かせながら、人生のいちばん浅い場所を滑っている。

 あまりにそれは軽薄で、おいそれと他人と共有できるものではなかった。

 

 どこまでいっても白いページのロミオと、一から十まで嘘の物語の書かれたロックハート。

 本当に、ロクでもない。

 だがロミオはその空気が心地よかった。

 ロックハートはそんなこと、一ミリも考えていないだろうが。

 

 ロックハートの動きが止まったので、ロミオは机の上から覗きみると、ロックハートは床に寝っ転がったまま安らかに眠っていた。おぼつかない足取りで近づき、口元に手を当てる。……うん、一応生きている。

 

 はこべねえし、このままでいいか。

 

 ロミオはベッドに運ぶことをあっけなく諦めた。

 翌朝首を寝違えたロックハートが地獄を見るのはまた別の話。

 

 ロミオは、机の上に置かれた酒瓶をごっそりかき集め、自分の袋にひとつ残らず入れた。中にはロックハート秘蔵のワインなどもあったが、知ったこっちゃない。これまでの付き合いで、ロックハートの印税がグリンゴッツにたんまりあることをロミオは知っていた。

 しゃっくりをしながら、右手にワインを持ち、たぷたぷのお腹を引き摺って部屋を出る。

 

 そうだ、いまならまほーやくのいいあんがおもいつくかもだぜ。

 

 ロミオはグリフィンドール寮に向いていた足を方向転換させ、二階の例の部屋へ歩き始めた。

 

 

 大鍋をかきまわす。ロミオはぐへへへと笑いながら、ワインの瓶をごきゅごきゅあおった。

 ロミオは酔っている。最早泥酔を通り越した境地に辿り着いている。

 とりあえず、とロミオは手近な位置にあった殺虫剤をぼとぼとと大鍋の中に入れた。

 

 その後はもう適当である。

 

 殺鼠剤。

 フグの毒。

 マートラップの血。

 ツバメのこやす貝。

 

 闇鍋の名前に違わぬ闇の魔術鍋の様相を呈してきた鍋が、ぐつぐつと沸騰している。

 最後に一応やすりで削っていた賢者の石の粉末をぱらぱらとかけると、鍋の中の液体がパチパチと花火のように破裂して、ロミオは悪魔が乗り移ったかのような恐ろしい顔でグワグワと笑った。鍋をかき回していたスプーンが溶けているのを見て、更に笑みを深くする。

 

 プーンと蚊が飛んできて、大鍋の中の液体を一舐めした。

 即座に、絶命。

 いい出来だ。ロミオは嗤った。

 

 ご存じの通り、その時ロミオは酔っていた。

 

 ロミオはそれをスプーンでなみなみとすくう。

 

 

 

 そして、躊躇いもなく飲み込んだ。

 

 

 

 数秒後、ポンッという軽快な音が軽快に鳴りはじめる。

 ロミオの身体が変だ。

 音とともに、ロミオの身体が四角形、ひし形、円錐型に変化していく。

 段々息苦しくなってくる。身体が熱い。

 ロミオは、床の上にぱたりと倒れた。

 

 

 わが生涯に一片の———いや、滅茶苦茶悔いあり。

 

 

 ロミオは最後の力を振り絞るように瞼を開いた。

 最後に見えたのは、みぞの鏡。

 

 

 それに映っているのは———人間の足だ。

 

 

 

 

 

 また、のっぺらぼうか——————

 

 

 

 

 

 

 

 ロミオの意識は段々と遠のいていった。

 

 




おやおや。
聞き捨てならないこと何個か言ってるので、よく読んだら二度見できます。

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切実に燃料をください。エタる確率が低くなります。沢山の感想ありがとうございます。感想をください。私の主食です。
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