お前もニフってる? 作:HLNF会長
可哀想なことをした。
俺はフィルチの部屋で、しょんぼり項垂れてるフィルチの慰め会をやっていた。
机の上にはギルデロイの部屋からかっぱらってきた大量の酒がある。
酒を嗜まないタイプであるフィルチも今日は我慢ならんらしく、アルコールの力を借りて正気を保っている。
ミセス・ノリスが予定通り石になったのだ。
あの
撤収に乗り遅れたハリーたちは運悪くスネイプに捕まったあと、グリフィンドール寮に戻っているところでミセス・ノリスを発見したらしい。そういえばバジリスクのことすっかり忘れてたぜ。
第一発見者であるハリーたちに当然疑いの目は向いたが、フィルチが仲良くしているロミオの飼い主であったこと、スネイプが本当に悔しそうな顔をしながら「直前まで一緒にいた」と発言したため、思いの他アッサリと解放されたそうな。
カキフライエフェクトという言葉がある。
たった一匹のカキフライを食べたことが、のちのち数日に渡る腹痛をひきおこすというもので、些細な出来事から大きな結果につながってしまいますよ、っていう意味だ。
今回ミセス・ノリスではない違う誰かが石になっていた可能性は十分あった。石などではなく、死体になっていた可能性も。ミセス・ノリスには悪いが、そういった意味では、俺の祈祷は無事成功したといっても過言ではない。このままプロット通りに進んでくれればいいんだけどな。
ただ、俺という異分子。
前年度クィレルに引き続き、俺という存在は本気のバジリスクに掛かれば余裕でお陀仏なので、万が一に蛇に遭遇しても大丈夫なように、常にグラサンをかけていこうと思う。
俺のアピールポイントのぱっちりおめめ———まあ俺の身体自体がアピールポイントなんだけど———がしばらくの間見えなくなってしまうというのは、天照の岩隠れ的な世界の危機ではある。なので、なるべくサングラスのレパートリーを増やしていこうと考えているので、俺のファンのみんなは安心してくれて構わないぜ。
「……話は変わるが、ロミオはなんでそんなものをかけているんだ?」
縦に緑の線の入ったプラスチックのサングラスを見て、フィルチがぼやく。俺は肩を竦めた。
バジリスク対策です、なんて言ったところで信じないだろうしな。
フィルチはグラスの中身を一気に煽り、空になったグラスを机へ置く。
そしてしばらく黙り込んだ。
部屋の隅では石になったミセス・ノリスが寝台の上に寝かされている。まるで眠っているだけみたいだ。
フィルチはそれを見つめた。
やがて、ぽつりと。
「……戻るよな」
かすれた声が漏れる。
俺は重々しく頷いた。
もちろんだ。
原作知識的にも大丈夫だし、マンドレイクが育てば即解決である。フィルチもそれを分かっている。伊達に俺と一年魔法薬を勉強していない。
でも、フィルチにとって今の状態が不安なのも理解できた。
俺は去年、ユニコーンの死体を見た。
その時遺体を触ったとき、とても怖かったのだ。
筋肉が硬直して、体の芯から冷えているような感じで、血が巡っていないような青白い感じが。生き物が、ただの物に変わってしまった感覚。
二度と触れたくないような気分だった。
今のミセス・ノリスの状態はそれによく似ている。
テーブルに俯いてしまったフィルチはギュッと拳を握った。
「待ってられん」
俺はうんうんと頷く。
気持ちはよーくわかるぜ。
「こうして待ってられるものか」
うん?
俺が反応する前に、フィルチがガタッと立ち上がる。椅子が勢いよく倒れた。
よく見ると顔が火照っていて、目が血走っている。なんか嫌な予感がするぜ。
「わたしが治す」
フィルチが決意を固めたような表情でそう言った。
「マンドレイクだろう?」
まあそうだけど。
「わたしだってホグワーツで働いて二十年以上だぞ。薬草学の温室の場所くらい知っている」
フィルチは鼻を鳴らして胸を叩いた。
俺が制止する暇もなく、フィルチはローブを引っ掴んだ。しれっと酒瓶を一本抱える。
「待ってろ、ミセス・ノリス」
フィルチの目は燃えていた。
「お前はわたしが助けるからな」
酔っ払い特有の無敵モードに突入した。こうなると俺は止められない。
フィルチはおぼつかない足取りで勢いよく扉を開け放った。
「スプラウト先生ェェェェェェエエ!!」
廊下に響き渡る絶叫。
「わたしにもマンドレイクを育てさせろォォォォォ!!」
バタン。
扉が閉まり、フィルチの足音が遠ざかる。
俺は机の上に残された酒瓶を見た。
そして石になったミセス・ノリスを見た。
さらに廊下の向こうから聞こえる騒音に耳を澄ませた。
———まあ、今夜のスプラウト先生には頑張ってもらおう。
俺はそう結論付けると、残っていた酒瓶の栓をポンッと開けた。
あれから何日か経って、“秘密の部屋”という存在がホグワーツにある程度知れ渡った頃の話だ。
俺は不幸の手紙、もといモンペからの果たし状を受け取っていた。
モンペとはだれか。
この魔法界で何人か思い浮かぶ人物はいるだろうが、今回はこの人。
みなさん大好きシリウス・ブラックである。
「ロミオくんへ。ツラ貸せや(意訳)」という手紙を朝食の席で受け取った俺は、一通目は手紙をそっ閉じし、なかったことにしたものの、それから立て続けに何通も送られてきたため、諦めてお返事を書いた。ブラック家の飼っている梟は優秀なので無事全通俺に届けやがってコノヤロー。
というワケで、休日を利用して俺だけブラック家に帰省してきました。こういうときニフラーって便利だね。人間ではないので自由にホグワーツの敷地から出入りできることを今の今まですっかり忘れていた。
絨毯でかっ飛ばすこと一時間。
グリモールド・プレイスに文字通り舞い戻った俺は、リビングでシリウス、そしてアラスター・ムーディと対面していた。
帰っていい?
「“秘密の部屋”か……聞いたことなかったな」
顎に手を当てながらシリウスが呟く。ムーディは険しい顔で頷く。
「わしが学生だった頃にもその手の噂はあったが、誰も本気にはしなかった。秘密の部屋だの、スリザリンの継承者だの……いかにもガキどもが面白半分に騒ぎそうなネタだ」
ムーディは金属製の義足を組み替えながら低く唸った。魔法の眼がぎょろりと回る。
こっちを見んな!
俺が悪いことしたみたいじゃん。
ムーディがうんざりしたように溜息を吐いた。
「だが、今回の話は少し違う。ハリーの話が本当ならな」
ムーディはテーブルの上に置かれていた手紙を指先で叩いた。
ハリーがシリウスに送った手紙らしい。まあ、こんな事が起こったら普通保護者に連絡するわな。
恐らくホグワーツ生の保護者の多くが“秘密の部屋”云々の手紙を受け取ったことだろう。
俺が親だったら学校乗り込むよなーて思ったけど、今のところそういう人間は現れていないらしい。悪戯と判断されている段階なんだろう。ダンブルドアへの信頼が超デカいっていうのもある。
ハリーの手紙の内容を要約するとこんな感じだ。
———誰も聞こえていないはずの声を、自分だけが聞いた。
———その後でミセス・ノリスが石になっていた。
———秘密の部屋には、継承者だけが操れる怪物がいるらしい。
———もしかしたら自分が聞いた声はその怪物のものなのでは?
ううむ、なかなか鋭い。
「正直、猫が石になっただけならただの悪趣味な悪戯で片付けてもいいんだがな」
俺とシリウスを交互に見ながらムーディが言う。
「だが、正体不明の声となると話は別だ」
二人の視線がぐっと俺に向けられた。
な、なんだよ。
ちょっと気圧された俺は、ソファの端で丸くなった。
すると、シリウスが机の上にドンとタイプライターを置いて、俺をむんずと掴み、その前に下ろした。
「それで、お前はどう思う? ホグワーツ中を走り回ってるんだろ」
シリウスが俺を凝視しながら続ける。
「何か知らないのか?」
俺は全力で首を横に振った。ついでにタイプライターもそれとなく遠ざける。
「まあいい」と言ってムーディは鼻を鳴らした。
「分からんもんをいつまでも睨んでいても始まらん。まずは足場を固める。調べられるところから潰していくぞ」
そう言うと、懐から分厚い資料の束を取り出し、テーブルへ放り投げた。
「五十年近く前にも“秘密の部屋”絡みで死人が出ている。マートル・ワレン。今は“嘆きのマートル”と呼ばれとるゴーストだ」
「もう調べたのか」
シリウスが驚いたような顔でムーディを見つめた。結んだ糸でまとめられた資料を拾い上げ、パラパラと捲る。
「魔法法執行部隊の保管庫の奥底に眠っていた。厚さだけは一人前だがな。肝心なことはほとんど書かれとらん」
ムーディは不機嫌そうに唸った。
「重要なのは最後だ。最後の被害者はマートル・ワレンという生徒だったこと。そして、その死の直後にルビウス・ハグリッドが退学処分になり、それ以降の被害がやんだこと」
「ハグリッドが?」
シリウスが顔を上げた。
「なぜだ」
「校内で危険生物を飼育していたそうだ」
ムーディは相変わらずこちらをジーッと見ている。まるで俺が危険生物だって言ってるみたいに。失敬な。
「箱の中に隠していたらしい。当時の連中はそれを事件の犯人と判断した」
「それで終わりか」
「ああ」
ムーディは短く頷く。
「ハグリッドが退学になった途端、被害は止まった。だから捜査も打ち止めだ」
シリウスが資料へ視線を落とす。
「犯人を追放したから被害が止まったのか。それとも偶然止まっただけなのか。あるいは別の人間の思惑があったのか。そのあたりがまるで見えてこん」
ムーディの視線がシリウスにうつった。突っ立ったまま資料を読み込むシリウスを見上げて、言葉を待っている。
「その時のハグリッドのペットを“スリザリンの継承者”の使役する怪物と同一視出来た理由はなんだ? ハグリッドがそんなことをするとは思えない」
シリウスは眉をひそめて言った。
ハグリッドのことをよく知るシリウスにとって、ろくな裏付けもなく犯人と決めつけられていたという事実は看過できないものだったらしい。
「当時の校長はディペットだった」
「日和見か?」
「ああ」
二人とも段々不機嫌になってきた。切実に帰りたい。
「マートル・ワレン」
ムーディが低い声で呟いた。
「被害者本人。事件の真相に最も近かった人間であり、ハグリッドを除き今もホグワーツに残っている唯一の証人でもある」
魔法の眼がぐるりと回った。
「石化と死亡の違いは何なのか。その違いが怪物とやらに関係しているのか。調べるべきことは山ほどある。だが我々はホグワーツの自治に首を突っ込めん」
そこでムーディは、にやりと口元を歪めた。
「だから、お前さんだ」
二人の視線が再び俺に集まった。嫌な予感しかしない。
「ロミオ。手始めにマートル・ワレンへ話を聞いてこい」
やべえなあ。
あの二人が出てきちゃったら秘密の部屋の謎なんて秒じゃねえの?
このままでは異常な速度で事件が解決してしまう。困る。
俺はホグワーツに戻った後、おなじみの二階の部屋でぐるぐる歩き回りながら頭を抱えていた。
マートルの件については適当なことを言って誤魔化そう。どうせ俺は喋れないんだし。
タイプライターで打った文字を見せる前に発狂して逃げられちゃったって言えばいいか。
それにしても、既にハグリッドやマートルまで辿り着かれているということにもう少し危機感を持つべきだ。闇祓いはやっぱり伊達じゃねーぜ。蝶ネクタイ姿の名探偵二人を相手に喋ってる気分だった。怖いのなんの。
原作では、トム・リドルの一件は誰も見抜けなかったはず。秘密の部屋への入り口も、ダンブルドアをもってしても探し当てられていなかったはずだ。
バジリスクということに気が付かれても、秘密の部屋の場所は見つけられないはず。
ミセス・ノリスの石化までは上手く行ってるんだ。
今年は出来るだけあるべき道に沿わせたい。
俺はなぜだか自分の身体がこわばっていることに気が付いて、深く息を吸い込んだ。
なんか、最近は考えることが多すぎて切羽詰まってる感じがする。
偶にはリラックスしねーと駄目だな。
脳裏にクィレルの最期の姿がちらりと思い浮かんで、かぶりを振った。
今年は上手くやるんだ。
俺はふうーっと大きく息を吐きだした。
ガチャン、と扉が開く音がした。
俺が振り返ると、青い顔をしたルーナがこちらを見ていた。
最近ルーナにはこの部屋で魔法薬学を教えたりしている。
それにしてもどうしたんだ? 顔色わりーぞ。
俺が首をかしげると、手に教科書などを持ったルーナが小走りで駆け寄ってきた。
「あ、あのね。さっきマルフォイとすれちがったんだけど」
ルーナはしゃがみ込み、俺にだけ聞こえるような声で囁いた。
「ほんの一瞬だったけど、廊下の角の向こうに消える蛇のしっぽが見えたんだ」
俺はそれを聞いて、ハリーの言葉を唐突に思い出した。
————この声、二種類聞こえるんだ
————多分、二人いるよ
俺はルーナをなだめながら、知っているはずの筋書きが少しずつ形を変え始めているのではないか、と胸の奥がざわつくのを感じた。
マッドーアイ「真実はいつもひとつ」
シリウス(スネイプに失神呪文を放つ)
矛盾が生じないようなチャート管理が大変すぎて参ってます。
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切実に燃料をください。エタる確率が低くなります。沢山の感想ありがとうございます。感想をください。私の主食です。