お前もニフってる? 作:HLNF会長
ナギニをどうしよう。
ナギニ。ヴォルデモートの蛇。
そして、俺が今この瞬間にも、トランクの中に捕まえている女性でもある。
……捕まえたまではよかったんだけどなあ。
問題はその後だ。
グリフィンドール寮の談話室のソファでゴロンゴロンしていた俺は、長いため息を吐いた。いわゆる“横転”とやらをしている俺を、他の生徒たちは遠巻きに見ている。
いや~ほんと、どうしよう。
勢いで捕まえちゃったけど、その後のプランを全然考えてなかった。
俺のニフ生、そういうとこあるよな。
情報の整理をしよう。
まず確認しなきゃいけないのは、ナギニが分霊箱になっているかどうかだ。ここが一番重要だよな。
ちなみにお前らはもうわかってたりするのかな? 俺さ、原作の知識を思い返しても、ナギニがいつ分霊箱になったのかどーにも曖昧なんだよね。
一巻より前だっけ?
いや、五巻あたりだったか?
映画と原作やらが脳内で綺麗にごちゃ混ぜになっていて、思い出そうとすればするほど記憶がこんがらがりんぐする。
うーん、困った。
もし今のナギニが既に分霊箱なら……分霊箱なのであれば……
……いや、そうするべきなのか?
よく分からない。ムズイことを考えるのは嫌いだ。
分霊箱は最終的に必ず壊さなければならないけど、筋書きを守るなら今ではないのかもしれない。
でも、すでに色んなイレギュラーが起こっている。俺のせいで。違うか? もし“今だ”という状況になった場合、俺は躊躇しちゃいけない……と思う。
逆に、まだ分霊箱じゃないなら。
俺は、ナギニをヴォルデモートのもとへ帰すべきだと思う。
そして筋書き通り、分霊箱になってもらう。
未来を守るために。
でも、そう考えればそう考えるほど、あの時のナギニの様子が脳裏をよぎる。
あれを全部演技だったと言われた方が、むしろ気が楽だったかもしれない。少なくとも、もう少し簡単に決断できたはずだ。
……ダンブルドアってスゲーんだな。
改めてしみじみと思う。謀略とか一生出来る気がしねえや。
人の死というものを勘定に入れて動くということが、どれだけ心を冷たくするのか。その冷たさに慣れきってしまうことを、俺はひどく恐ろしいと思う。
ダンブルドアはいつからその冷たさを味わっているんだろう。
とはいえ、感情だけで動くわけにもいかない。
まずは情報だ。
分霊箱かどうか。ヴォルデモートの現在の状況。秘密の部屋について知っていること。パーセルタングによる命令の詳細。
まだ聞かなければならないことはいくらでもある。
そして、それらを確かめた上で、どうするか決めればいい。
……うん。まずはそこからだ。
ナギニの記憶を喚起する方法を考えよう。
俺は身体をぐいっと起こし、お腹の袋から取り出した瓶へ視線を向けた。
淡い琥珀色の液体が、暖炉の光に照らされて静かに揺れている。
人化薬。まだ試作品だ。効き目は安定しないし、持続時間も統計を取り切れていないし、副作用だって完全には把握できていない。
正直そんな劇薬飲みたくはねーんだけど、人間にならなきゃまともな会話にならないし、もし薬が切れてナギニが蛇へ戻った時、ニフラーの身体じゃ止められる気がしない。
それになにより、ニフラーと人間の姿。
この二つの存在が同一
ロミオはただのニフラーで、もう一方は正体不明の青年。この境界線だけは、絶対に崩しちゃいけないと思うんだ。ほんとに俺はダンブルドアが怖いので! どっから情報が洩れるか分かんねーもん。
もしナギニの脳内に「ロミオとかいうニフラーは敵!」みたいな刷り込みされてたらやべーしな。
だから今回も、人間に変身しなくちゃならない。
談話室の扉の開いた音がして、俺の意識は引き戻された。
「ロミオ!」
お。なんだ?
振り返ってみると、談話室に入ってきたハリーが俺を見据えていた。俺は手に持っていた瓶を腹に仕舞う。
「大広間の掲示板見た? ロックハートが決闘クラブを開くんだって。なにか聞いてない?」
そういやそんなものもあったような、なかったような。
……デュエル?
セブルス・スネイプは殺気立っていた。
なぜなら、大変不愉快なことに、ギルデロイ・ロックハートとかいう薄ら笑いのぼんくらと、決闘クラブの監督をすることになってしまったからである。
ダンブルドアになんの脈絡もなく校長室に呼ばれた時点で気が付くべきだった。出向いてみれば、ダンブルドアの座る書斎机の前で気取った風に立っているロックハートと、にやけ笑いが押し殺せていないダンブルドアがスネイプを待っていた。
ロックハート曰く、生徒に護身術を教えるべく、決闘クラブを開催するらしい。
それで、ロックハートがお手本を見せるための
スネイプは勿論ダンブルドアに抗議の眼差しを送った。
「セブルスよ、わしは最近気が付いたのじゃ」
ダンブルドアは口元で手を組んで神妙な面持ちをしている。しかし、半月型の眼鏡越しに見える皺ついた目元が笑っている。
「たまにはこう……頭をカラにして楽しむのも良いものだ、とな」
スネイプはその言葉で瞬時に察した。
ホグワーツに居座るもう一方のぼんくらに、ダンブルドアは毒されたらしい。
ロックハートは胸を張った。
「いやあ、校長先生は分かっていらっしゃる。実戦形式こそ最良の教育ですからね」
ロックハートはダンブルドアにウインクした。ダンブルドアはニッコリ笑う。ロックハートはさらに機嫌をよくした。
ある意味では幸せな人生である。
「安心してください、スネイプ先生」
ロックハートが肩を叩こうとしてきたので、スネイプは半歩だけ横へ避けた。
空を切ったロックハートの手が、少しだけ寂しそうに揺れる。
「私は手加減を知っています」
「左様で」
スネイプは低い声で答えた。
「我輩は存じ上げませんな」
魔法のように、一瞬だけ部屋の空気が凍る。ロックハートの笑みが引きつった。
ダンブルドアだけが、実に満足そうに「ほっほっほ」と笑っていた。
「では決まりじゃな」
ロックハートは「では、そのように」と上機嫌で後ろに下がっていく。
一方、スネイプが一言言い返そうとした瞬間、
「ちなみに、勝敗については自由じゃ」
ダンブルドアが何気なく付け加えた。
スネイプはほう、と息を漏らす。
勝敗は自由。
つまり————
「やりすぎるでないぞ」
ダンブルドアがスネイプを下から念を押すように見つめた。
その瞬間だけ、ほんの少しスネイプは機嫌が良くなった。
「痛い、痛い!」
背後から情けない悲鳴が上がる。
振り向けば、テーブルに置かれていたカムカムキャンデーの瓶へ手を伸ばしたらしいロックハートが、右手に十匹近いキャンデーをぶら下げていた。
キャンデーたちは小さな牙を立て、獲物へ群がるピラニアのように噛み付いている。
ロックハートは顔を青くしながら手を振り回していた。
スネイプは無言でその脇を通り過ぎる。
ついでに瓶から数粒摘み上げ、自分の口へ放り込んだ。カムカムキャンデーは彼の指へ噛み付こうともしない。
実のところこの菓子は、触れた相手の魔力を感じ取り、自分より格下と判断した者にしか襲いかからない。
つまり、自分の舐めている相手にしか攻撃しないのだ。
スネイプは久しく甘味を口にしていなかったが、その時ばかりはゆっくり味わって食べた。
実に結構な風味であった。
さて、時は進んで、決闘クラブ当夜。
食事用のテーブルや椅子が取り払われた大広間には、学校中のほとんどの生徒たちがひしめいていた。空中を浮いている無数の蠟燭が金色の舞台を照らしている。
今は丁度、ロックハートとスネイプ、両者の模範決闘が終わったところだった。
勝敗? ああ、無論スネイプによる
得意げにぺらぺらと適当な講釈を垂れていたロックハートの鼻をへし折ることが出来て、スネイプはたいへん満足であった。
スネイプの武装解除呪文によって床に吹き飛ばされたロックハートは、焦りながら身体を起こしている。
「い、いやあ、今のは———」
しかしその言葉を遮るように、大広間の重たい扉が、ぎい、とゆっくり開いた。
夜の廊下から流れ込むはずのない眩い白の光が、大広間に差し込む。
逆光。
その中央に、小さな黒い影がひとつ立っていた。
ざわ……。
生徒たちのざわめきが、別の意味を帯びる。
スネイプは眉をひそめた。嫌な予感しかしない。大きさ的に思い当たる存在は一体しかいなかったが、如何せんシルエットが記憶のそれとはだいぶ違った。
影が、てちてちと歩き始める。
一歩。
二歩。
やがて光の中から姿を現したそれを見て、スネイプは無言になった。
薄灰色に黒いぶち模様のニフラー。ロミオである。
巨大なヒトデをそのまま頭へ乗せたような、ピンクがかった黒と金色の髪の毛が放射状に突き出た奇妙なウィッグ。胸元には鈍色の鎖がじゃらじゃらと垂れ下がり、その先には妙に自己主張の激しいピラミッド型の飾りが揺れている。
さらに左腕には、用途の一切分からない板状の器具。
はっきり言って、その装いは絶望的に似合っていない。しかし本人はというと、胸を張り、やけに厳かな足取りで舞台へ向かっていた。
何をどう間違えたら、ここまで「ぼんくら」という言葉が服を着て歩いているような姿になるのか。
スネイプが視線を横にやると、丁度ハリー・ポッターと目が合った。スネイプに常時敵意を抱いているハリーにしては珍しく、なんらかの申し訳なさが滲んだ視線を寄こしている。「うちのペットがすみません」という音声が聞こえてくるようだ。
さて、ロックハートはようやく身体を起こすと、乱れた金髪をかき上げながら咳払いを一つした。鼻先を押さえ、先ほどの敗北などなかったことにしようとでもするように、にこやかな笑みを浮かべる。
「さて、みんな見てくれたかな? 決闘というものは———」
しかし、注目を集めているはずの生徒たちの視線が別の方向に逸れている。そこで初めて、ロックハートは視界の端に映ったロミオの姿に気付いた。
しばらく沈黙して、ロックハートは瞬きを二、三度繰り返した。
「ロミオ……きみは」
ロミオは答えない。胸元の首飾りをゆらりと揺らしながら、ただ静かに舞台を見据えている。
その得体の知れなさに、生徒たちも思わず息を呑んだ。
ロックハートは空咳をすると、わざとらしく胸を張った。
「ふむ。ちょうどいい! 決闘とは何たるかを、もう一度君たちに見せてあげましょう!」
先ほどスネイプに無様に吹き飛ばされたばかりだという事実は、本人の中では既になかったことになっているらしい。
「さあ、小さな勇士、ロミオくん! 私と一戦交えてみるかね?」
せこい! と、生徒たちの心は一つになった。
魔法を使えないニフラーに決闘を申し込む魔法使いなど聞いたことがない。
しかし、ロミオはただ厳かに一度だけ頷いて、金色に照らされた舞台へとことこと歩いてきた。
「……」
スネイプはこめかみを押さえた。
舞台に上がって相対している一匹のニフラーと一人の魔法使いが、スネイプの方を見て闘いの合図を待っている。
スネイプは深々とため息をつき、舞台の中央へ歩み出た。
「両者、位置につけ」
不機嫌そうな声だ。
ロックハートは杖を構える。
ロミオはというと、左腕に取り付けた意味不明な板を見つめていた。
この決闘で対消滅してくれたらいいのに。ふとスネイプは思った。
「始め!」
号令が響く。
その瞬間だった。
——シュッ。
ロミオは左腕の板から、実に厳かな手つきで一枚のカードを引き抜いた。
あまりにも堂々とした所作だったので、一瞬だけ大広間全体が静まり返る。
「…………?」
何をしている?
スネイプは眉をひそめた。
ロックハートも思わず動きを止める。
ロミオは引いたカードを顔の前まで掲げ、真剣な面持ちでじっと見つめた。
数秒。
さらに数秒。
何も起こらない。
ロミオは首を傾げた。
カードを裏返す。もう一度表を見る。左右から眺める。振ってみる。
やっぱり何も起こらない。
おかしいな? と言わんばかりにロミオは首をひねっている。
大広間に気まずい沈黙が流れた。
「あれって、カードゲームを魔法で再現するとかいうパチモンの魔法道具じゃないか?」
ハリー・ポッターの近くにいたフレッド・ウィーズリーとジョージ・ウィーズリーが、小声で囁き合う。周囲の生徒たちは一斉に聞き耳を立てた。スネイプも、決して興味があるわけではないが、状況確認のため耳を傾ける。
「一回、魔法省にしょっぴかれてた店のやつだよな」
「子ども相手の悪質商法だって新聞にも載ってた。しかも無駄に高いんだよ」
その言葉に、生徒たちの視線が一斉にロミオへ集まった。
当の本人は無言で立ち尽くしている。気のせいでなければ、頭のカツラの棘が、少しずつへなへなと垂れ始めていた。
どうするつもりなのだろう。彼の切り札は、ただのパチモン玩具だったらしい。
生徒たちは固唾を呑み、ロミオの一挙手一投足を見守る。
「…………」
数秒後。
ロミオは無言でカードをくしゃりと丸めると、ぽーい、とどこかへ投げ捨てた。
「えぇ……?」
誰かが思わず声を漏らす。
その瞬間だった。
「エクスペリアームズ!」
我に返ったロックハートが杖を振った。闇の魔術に対する防衛術の教師とは思えないほどへぼい、もとい弱弱しい赤い光が一直線に飛ぶ。
しかしロミオは避けようともしなかった。四本足で舞台を蹴り、一気にロックハートへ飛びかかる。左手についているデュエルディスクを武器のようにしてロックハートに振りかざした。まさかの物理である。
「な、なん———」
言い終わる前に胸へ体当たりを受け、ロックハートは派手にひっくり返った。
「うわっ!?」
そのまま一人と一匹は舞台の上をごろん、ごろん、と転げ回る。
「離しなさい!」
「キュイッ!」
「服を引っ張るな!」
「キュッ!」
「髪はやめろ!」
「キュイ!」
「は! な! せ!」
少なくとも、魔法使いの決闘ではないことは確かだ。
金色の舞台の上で、一人と一匹が全力でもみくちゃになっている。生徒たちは呆然と見守っていた。
スネイプは目を閉じ、数秒だけ現実逃避をした。
そして静かに歩み寄ると、なおも床を転げ回っている二匹———ロックハートについては、もはや「人」という単位を用いる必要はないだろう、とスネイプは判断した———を足先でげしげしと端へ押しやる。
ごろごろ、ごろごろと舞台の隅まで転がされても、二匹はなお取っ組み合いを続けていた。
見なかったことにしよう。
スネイプは心の中でそう結論づけ、生徒たちへ向き直った。
「二人一組を作れ」
低く滑らかな声が大広間へ響く。今この時から、この決闘クラブの仕切り役はスネイプだ。
ざわつき始めた生徒たちを一瞥し、スネイプは眉をひそめた。
「これより実践に入る。無駄口を叩く暇があるなら杖を構えたまえ」
生徒たちは、スネイプの機嫌をこれ以上損ねまいと、慌ただしく二人組を作り始めた。
しかし、誰もが友人や同寮生を探して動き回る中、その流れを乱すように数人の生徒を肩で押しのけて進んでくる者がいた。
ドラコ・マルフォイだ。
その後ろには、クラッブとゴイルが当然のようについてきている。
ハリーはその姿を見た途端、嫌な予感がした。隣ではロンも同じことを思ったらしく、ちらりとハーマイオニーと視線を交わしている。
案の定、マルフォイは真っ直ぐスネイプの前まで歩み出た。
「先生、ポッターと決闘をさせてください」
スネイプは舞台上からマルフォイを見下ろし、それからゆっくりとハリーへ視線を移した。
その口元が、ほんのわずかにつり上がる。
「……結構」
低い声が、大広間に静かに響いた。
そしてスネイプは一歩前へ出ると、周囲の生徒たちを見回す。
「諸君」
その一言だけで、ざわめきはぴたりと止んだ。
「先ほどの実演は……」
スネイプは舞台の隅を一瞥する。
そこでは、いまだロックハートとロミオがもぞもぞと取っ組み合いを続けていた。
「些か実力差がありすぎたため、諸君らの参考にはならなかっただろう」
ロックハートが心外だと言わんばかりの表情で顔を上げたが、誰も気に留めない。
「そこで、もう一組、模範となる決闘を見せてもらうことにする。マルフォイ君。前へ」
そして、ゆっくりとハリーへ視線を向ける。
「———ポッター。君もだ。」
スネイプは氷のように冷たい眼差しでハリーに告げた。
ハリーは無意識に唾を飲み込む。周囲から何百もの視線が集まっているのが分かった。
マルフォイはすでに舞台の中央へ歩み出ており、余裕ありげな笑みを浮かべながら杖をくるりと指先で回している。
ハリーは小さく息を吸った。
ゆっくりと吐く。
———大丈夫だ。
胸の奥でそう言い聞かせる。
杖を握る手に自然と力が入った。
「行ってらっしゃい」
背後から、ハーマイオニーが小さな声で言った。
ロンも腕を組んだまま、ぶっきらぼうに頷く。
「負けるなよ」
ハリーは二人を振り返り、小さく頷き返した。
そして舞台へ続く階段に足をかける。
金色に照らされた舞台へ近づくにつれ、胸の鼓動が少しずつ早くなっていく。
舞台へ上がると、正面にはマルフォイが待っていた。
互いに数歩ほど距離を空けて、向かい合う。
マルフォイは勝ち誇ったようにニヤリと口角を上げた。
ハリーは静かに杖を構える。
杖を握る指先の感触で、不意に夏の記憶がよぎった。
グリモールド・プレイス。
シリウスと過ごした、あの夏の日々のことが。
二章まだ十五話だなって思うじゃないですか。
でも一章が二十七話で14万字弱のところ、二章は一話当たりの文字数が増えたせいで現在10万字近いんですよね。
三章は短くなるはずです。きっと。
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切実に燃料をください。エタる確率が低くなります。沢山の感想ありがとうございます。感想をください。私の主食です。