お前もニフってる?   作:HLNF会長

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第十七話 番犬流・決闘の心得③

 

 

「じゃあ、取りあえず決闘のやり方について説明してあげましょうか」

 

 コリンズは軽く手を叩き、部屋を見回した。

 

「実技も大事だけど、最初に座学だ。基礎を知らないままじゃ、いくら魔法が撃てても長生きできないからね」

 

 そう言うと、コリンズは杖をひょいと掲げて、杖先で本棚を指した。一冊の分厚い本が独りでに棚から滑り出す。本はまるで鳥のように空中をふわりと舞い、コリンズの目の前まで飛んできた。

 コリンズはもう一度杖を振る。

 ぱん、と乾いた音。

 次の瞬間、本のページが勢いよく開いた。

 紙が風もない部屋の中でぱらぱらと高速でめくれ始める。

 一枚、また一枚と白い紙面はみるみる横へ、縦へと広がり、厚みを失っていく。

 表紙は木枠へ、紙束は黒く艶のある板へと変わり、気付けば一冊の本だったものは、人の背丈ほどもある黒板へ姿を変えていた。

 

「うわー……」

 

 思わずハリーが声を漏らす。

 変身術はホグワーツでも習っているはずなのに、マクゴナガルの授業とはどこか違って、まるで目の前で手品を見せられているような不思議なわくわくがあった。

 コリンズは得意げに笑う。

 

「便利でしょ? あと足りないのは……」

 

 今度は胸ポケットへ手を入れ、一本の黒い万年筆を取り出した。

 

「これかな」

 

 くるり、と指先で一回転。

 万年筆の金属光沢が白く霞み、細長い軸はざらりと質感を変えていく。気付けば彼の指先に挟まっていたのは、真っ白な一本のチョークだった。

 コリンズは何事もなかったように黒板へ歩み寄る。

 その後ろ姿を見ながら、ハリーは思わずシリウスへ小声で尋ねた。

 

「……今のも変身術?」

「ああ」

 

 シリウスは苦笑する。

 

「あいつ、変身術だけは昔からずば抜けてるらしい」

「"だけ"とは随分な評価なことで」

 

 聞こえていたらしく、コリンズが振り返りもせず抗議する。

 

「さて」

 

 くるりと振り返り、ハリーを見る。

 

「ハリー。まず確認だけど、シリウスには決闘ってどういうふうに教えられてる?」

 

 急に話を振られたハリーは少し考え、それから隣のシリウスをちらりと見た。

 

「えっと、魔法使いが二人向き合って、魔法の撃ちあいをするものだって。あと……」

 

 本人を前にして言うのは少し恥ずかしかったが、そのまま口にする。

 

「『先手必勝。容赦はするな』って」

「物騒だなあ……」

 

 コリンズは苦笑した。

 

「でも、間違ってはいない。皮肉なことにね」

 

 そう付け加えると、白いチョークを黒板へ滑らせる。

 きゅっ、と乾いた音が部屋に響いた。

 黒板には大きく二つの言葉が書かれる。

 

 〈魔法〉

 〈技術〉

 

「決闘っていうのはね、戦闘じゃない。魔法さえ知っていれば勝てるってわけじゃないんだ」

 

 コリンズは〈魔法〉の文字を軽く叩く。

 

「魔法使いは、成長するにつれて必要になる要素が変わるものさ。例えば君くらいの年齢なら、まだ覚えている魔法の種類そのものが少ない。危険な呪文なんて()()教わらないし、一つ一つを唱えるにも時間がかかる。だから()()()()、使える魔法の引き出しを増やす。相手を攻撃する魔法、逆に防御する魔法、吹き飛ばす魔法……状況に応じて選べるようになることが最優先なんだけどね」

 

 ジトーッとした視線が、シリウスへ向けられる。

 

「十二歳に失神呪文を教える人が近くにいたらね……」

「正確には十一歳のときだ」

 

 悪びれる様子もなく、むしろハリーを誇るようにシリウスは答えた。

 

「実際、使えるようになっただろう」

「そこなんだよなぁ……」

 

 コリンズは頭を掻く。

 

「結果論で全部押し切るから、この人」

 

 部屋の隅でムーディが鼻を鳴らした。

 

「間違っとらん」

「援護しないでくださいよ」

 

 コリンズはため息をつくが、すぐに表情を切り替えた。

 

「まあ、シリウスの教育方針はさておき」

 

 今度は黒板の〈技術〉という文字を叩く。

 

「ある程度、使える魔法が揃ってきたら、次は技術だ。今度は何を学ぶべきだと思う?」

 

 ハリーは少し考えた。決闘は一対一で行う魔法の撃ちあいだ。場が整えられているだろうし……そういった意味では、シリウスとの訓練が一番近いのかもしれない。

 何度も何度も繰り返した同じ動き……杖を抜き狙いを定める速さ……呪文を唱え終えるまでの時間。

 先ほどのコリンズの変身術が頭によぎった。

 

「……無言呪文?」

 

 壁へ寄りかかりながら腕を組んでいたシリウスが満足そうに頷いて、口を開いた。

 

「その通り。魔法そのものを洗練させる必要がある」

「どんなに強力な魔法でも、撃つ前に倒されたら意味がないからね」

 

 コリンズが続ける。

 

「だから、魔法使いはだんだん"速さ"を追い求めるようになる。杖を振りかぶる時間。呪文を唱える時間。狙いを定める時間。その全てを削っていく」

「その究極が無言呪文だ」

 

 シリウスが静かに言った。

 

「口を動かさない。相手に何を撃つか悟られない。誤差もなくなる」

「もちろん、最初は難しいよ。頭の中だけで魔法を完成させなきゃいけないからね。でも、できるようになると世界が変わる」

 

 コリンズはチョークをくるりと回した。

 

「ハリーの場合、基礎はもう十分だ。君のおじさんが随分とバイオレンスに鍛えちゃったみたいだから」

「おい」

「褒めてる褒めてる」

 

 軽く受け流してから、コリンズはハリーへ人差し指を向けた。

 

「だから次は無言呪文を覚えてみよう。これは面白いよ。本来なら六年生で習う技術なんだけどね、難しい反面、習得できれば少なくとも四年生くらいまでならまず瞬殺できる。ちなみに闇祓いはこれが大の得意なんだ」

「得意じゃない奴もいるがな」

 

 ソファに深く腰掛けていたムーディがぼそりと口を挟んだ。

 

「おい、マッド-アイ……」

 

 エバネシーがたしなめるように眉をひそめる。

 「事実だ」とムーディは唸った。魔法の目がぎょろりと動いて、ハリーを見つめた。「お前は違うだろうな」と値踏みされているような気分だった。

 コリンズはにこやかな顔のままだ。ただ、口は笑ってはいるが、その目はまったく笑っていない。

 

「今の時代は平和だからね……闇祓いにも色々いるってことさ」

 

 そう言いながら、コリンズはちらりとムーディを見る。

 

「少なくとも、マッド-アイ・チルドレンの僕たちはかなり無言呪文が得意だ。シリウスもそう」

 

 その言葉に、部屋の空気がほんの少しだけ張り詰めた気がした。

 理由は分からない。ただ、コリンズの言葉を聞いた瞬間、ムーディもエバネシーも、シリウスも何も言わなくなった。

 ハリーは理由までは分からなかったが、何となくその沈黙を埋めたくなって、小さく笑ってみせた。

 

「じゃあ……無言呪文、やってみようかな」

 

 コリンズが満足そうに頷いた。

 

「いいね。まずは簡単な呪文からだ。頭の中で言葉をはっきり形にして———「ハリー、頑張って!」

 

 

 ———その声が、今の大広間の声に変わる。

 

 

 

 ハリーははっと瞬きをした。

 自分が今いるのは、金色の舞台の上。向かいには杖を構えたドラコ・マルフォイがいる。

 周囲では何百もの生徒が固唾を呑んで見守っている。

 

「使う呪文は何でもいいんですか?」

 

 マルフォイが口元をつり上げながら尋ねた。

 スネイプはその問いに、ほんのわずかに口角を上げる。

 

「校内で死人を出されては困る」

 

 スネイプはいやに穏やかな声で続けた。

 

「それ以外なら、常識の範囲内で好きにしたまえ」

 

 その言葉に、生徒たちの間から小さなどよめきが起こる。

 マルフォイは満足そうに頷いた。

 一方のハリーは何も言わず、ゆっくりと杖を握り直す。

 スネイプはそんな両者の様子をじっと見ていた。

 

「礼」

 

 冷たい声が響く。

 ハリーとマルフォイは形式通りに一礼した。

 そして————

 

 ハリーは静かに息を吸った。

 

「怖いのか? ポッター」

 

 目の前のマルフォイが、掲げた杖越しに小さな声で囁く。

 

「まさか」

 

 ハリーは即答した。

 脳裏に、シリウスの声が蘇る。

 

 ———先手必勝。

 ———容赦はするな。

 

 視線は細く研ぎ澄まされ、呼吸が静かに整っていく。

 心臓は早鐘のように鳴っている。腹の奥では、熱が小さな炎のように燃え始めていた。

 不思議だった。恐怖よりも先に、胸を満たしたのは高揚だった。思わず笑ってしまいそうになるほど身体が戦うことを待ち望んでいる。

 

「1、2———」

 

 スネイプの低く滑らかな声の号令が、大広間に響く。いつもなら耳障りで仕方のないその声が、不思議と今は雑音にならなかった。余計な感情がすべて削ぎ落とされ、意識はただ目の前の相手だけへ向いている。

 

 ハリーはマルフォイの肩を見た。

 指先を見た。

 杖先を見た。

 

 ……どう動く?

 

 息を吸う。

 

「3———」

 

 号令が終わるより一瞬早く、マルフォイの右腕が跳ね上がった。

 

「サーペン——」

 

 自分の方が先だ。

 

 怒りとは似て非なる感情に突き動かされながら、ハリーは無言で杖を振った。

 レダクト。杖先がわずかに閃いて、魔法が放たれた。

 マルフォイの杖先から飛び出した黒蛇が空中で身をくねらせたその次の瞬間、蛇の胴体を力強い光線が貫き、鱗ごと弾け飛んだ。粉々に砕かれた黒い破片が、舞台の上へ雨のように散る。

 

「なっ———」

 

 マルフォイが目を見開く。

 何が起きたのか理解する、そのわずかな遅れ。ハリーはすでに次の動きへ移っていた。レダクトを放った勢いを殺さず、流れるような一連の動作でそのまま手首を返す。

 杖先がマルフォイの胸を捉える。

 今度は口が動く。

 

ステューピファイ(失神せよ)!」

 

 紅い閃光が一直線に走る。

 しかし、その光はマルフォイへ届かなかった。黒い影がその射線へ滑り込んだからだ。

 黒い影———スネイプは無言で杖を下から上に素早く振った。

 スネイプの杖先から展開された半透明の障壁へ、紅い光が激しく衝突する。

 

 甲高い破裂音がした。

 火花が散り、衝撃でマルフォイのローブがふわりと揺れる。

 障壁はひび割れるように震え、それでも最後まで呪文を受け止め切った。

 マルフォイは何が起きたのか理解できず、その場に尻もちをついた。

 

 ハリーもまた、一瞬だけ呆然とした。

 防がれた。

 その事実だけが頭に浮かぶ。

 だが次の瞬間には、まるで誰か別の人間の頭を借りたように思考が回り始めていた。

 

 ———そうか。そういうことか。

 

 レダクトは無言で放った。

 だからスネイプは反応できなかった。

 

 けれど二発目は違う。

 呪文を口にするというのは、その場にいる全員へ「次に何を撃つか」を宣言することと同じなんだ。

 改めて、無言呪文の価値の高さが腑に落ちたような気がした。

 そして、それと同時に、自分がいまシリウスやコリンズと同じ高さで物を見られているような気がした。

 

 ハリーはゆっくりと自分の杖を見下ろす。

 自分は初めて実戦の中で考えながら戦えた。相手を見て、状況を見て、最適な呪文を選び、流れるように次へ繋げた。

 嬉しかった。

 心臓が早鐘を打つ。

 笑い出したいほど嬉しかった。

 

 周囲では、生徒たちが一斉に騒ぎ始めていた。

 

「無言呪文だ!」

「今の見たか?」

「二年生だろ……?」

 

 ざわめきが大広間中を満たしている。

 けれど、そのどれ一つとしてハリーの耳には入らない。

 聞こえるのは自分の鼓動だけだ。

 

「……ポッター」

 

 低い声に、ハリーはようやく顔を上げる。

 スネイプが立っていた。

 いつもの無表情ではない。黒い瞳には紛れもない驚愕が浮かんでいる。それもハリーにとってはにやけるほど嬉しかった。

 

「お前は……」

 

 しかしその驚愕は長くは続かなかった。

 ゆっくりと眉間へ皺が寄り、口元が引き締まり、いつもの険しい表情へ変わっていく。

 本来なら肩を丸めて、叱られるのを待つところだろう。

 だが今は違った。胸の奥で燃え上がる熱が、ハリーの背筋を真っ直ぐに伸ばしていた。

 ハリーは一歩も退かず、スネイプを見返す。爛々とした瞳だった。

 

「マルフォイを死体にするつもりなんてありませんでした」

 

 自分でも驚くほど落ち着いた声だった。

 

「先生が言ったじゃないですか、常識の範囲内で好きにしろって」

 

 その言葉が落ちた瞬間、大広間は再び静まり返った。

 ロンは口をぽかんと開けたまま、ハリーとスネイプを交互に見ている。まじかよ、と顔に書いてあった。フレッドは堪えきれずに、「ヒューッ」と口笛を鳴らす。ジョージは額を押さえながら肩を震わせて、「終わったな、あいつ」と笑いを噛み殺しながら呟いた。

 

 スネイプの口が開きかける。

 まずい、とハリーは思った。

 今ここで説教を食らえば、決闘クラブどころではなくなる。ハリーは身を翻した。頭を下げるでもなく、言い返すでもなく、ハリーはさっさと舞台の階段へ向かう。

 

 逃げるが勝ち。

 シリウスならきっとそう言うだろう。

 

 軽い足取りで階段を下りながら、ふと視界の端へ目が留まった。

 マルフォイだった。

 まだ尻餅をついたまま、呆然と舞台の床を見つめている。

 自分が何をされたのか、どうして蛇が消えたのか、どうしてスネイプが割って入ったのか。何一つ整理できていない顔だった。

 

 その姿を見た途端、ハリーの口元が緩んだ。

 ざまあみろ。

 胸の奥に、小さな勝利感がじわりと広がった。

 少しくらい脅かしてやろう、と悪戯心が顔を出す。戦いの興奮はまだ身体から抜け切っていなかった。

 心臓は速く脈打ち、頭は抜群に冴えていて、口が妙に軽かった。

 ハリーは足を止め、肩越しに振り返る。

 

「マルフォイ」

 

 名を呼ばれ、マルフォイがハリーに焦点を合わせる。

 

「別に消し飛ばそうとしたわけじゃないんだ、ただの失神呪文だし」

 

 ハリーは悪びれもせず笑う。

 そしてさらりと続ける。

 

「それに消し飛ばすんだとしても……脳の欠片一つから元に戻った例も、昔あったらしいし」

 

 言い終えると、くるりと踵を返した。

 戻ってくるハリーに、グリフィンドールの一団が歓声を上げる。

 フレッドが真っ先に飛び出してきて、勢いよくハリーの肩へ腕を回した。ぐしゃぐしゃと遠慮なく髪をかき回される。

 

「やめてよ!」

「伝説だな」

 

 ジョージまで加勢し、左右から髪を好き放題いじり始める。

 

「素敵ですわ、ポッター殿」

「これでもっと英雄らしくなった」

「二人ともやめてってば」

 

 ハリーが笑いながら抵抗する。

 ロンはまだ半分呆れたような顔をして、ハリーに近付いてきた。

 

「今度の魔法薬学の授業、絶対減点されるよな」

 

 ロンがスネイプに聞こえないくらいの声量で囁く。ハリーがロンの目を見ると、ロンは悪戯っぽくにやっと笑った。

 一方で、ハーマイオニーは腕を組んだまま難しい顔をしていた。周囲の歓声には加わらず、ただ舞台を見つめている。

 

「無言呪文を使えるなんて……」

 

 信じられない、と言いたげな表情だった。

 

 反対に、スリザリンの生徒たちは完全に静まり返っていた。

 マルフォイへ駆け寄る者や、呆然と立ち尽くす者、青ざめた顔でハリーを見る者。当のマルフォイはよろよろと立ち上がって、半ば放心状態である。

 失神呪文は本来五年生時に習うはずの魔法である。それをハリーが迷いなく撃ってきたことが、青天の霹靂だったらしい。

 

 その喧騒の中でただ一人だけ、別の理由で立ち尽くしている男がいた。

 セブルス・スネイプである。

 その顔からは、すっと血の気が引いていた。

 まるで何十年も前の亡霊が、不意に目の前へ現れたかのようだった。

 しかし、その視線の先にいるハリーは、すでにグリフィンドールの輪の中へ戻っている。

 

 

「今度は俺とやろう」

 

 フレッドがにやりと笑い、肩を回しながらハリーを連れ立って歩きだそうとした。

 その時だった。

 

「結構だ」

 

 低く冷えた声が、大広間へ静かに落ちた。

 誰もがそちらを見る。

 舞台の中央に立つスネイプは、杖を握ったまま微動だにしていなかった。

 

「先ほどの決闘は……」

 

 スネイプはもったいぶった様子で言葉を区切った。

 

「些か実力差がありすぎた」

 

 その声はいつも通り落ち着いている。

 

「諸君らの参考にはならなかっただろう」

 

 その言葉に、大広間はしんと静まり返った。

 ハリーは思わず振り返る。

 視線の先では、マルフォイが信じられないものを見るような顔でスネイプを見上げていた。

 そして、その隣に立つスネイプ……その顔色は、まるで血という血が一瞬で失われてしまったかのように白かった。

 だが、その黒い瞳には怒りとも、困惑とも、焦燥ともつかない感情が、抑えきれずに渦巻いていた。

 

 ハリーは思わず息を止める。

 こんな表情をしたスネイプを見るのは初めてだった。

 これは……憎悪だ。

 その空気を感じ取ったのか、フレッドがさりげなくハリーの肩を引き寄せた。

 

「行くな」

 

 囁くような声だった。

 普段の軽薄な調子はどこにもない。肩へ置かれた手には、弟を守る兄のような力が込められていた。

 

 ハリーはそのままスネイプを見つめ返す。

 二人の視線が真正面からぶつかった。

 誰も声を出さない。談笑していた生徒も、取っ組み合いをやめたロックハートも、隅で毛づくろいを始めていたロミオでさえ、遠くの方から不思議そうにこちらを見ている。

 

 一瞬だったのかもしれない。

 あるいは、数十秒ほど続いていたのかもしれない。

 時間の感覚が妙に曖昧だった。

 

 やがて、スネイプがゆっくりと口を開く。

 

「———次の相手は、我輩が務めよう」

 

 ざわりと大広間が揺れた。

 生徒たちが一斉に顔を見合わせる。

 囁きが波紋のように広がっていく。

 ハリーは一度だけ深く息を吸った。

 胸の鼓動はまだ速い。

 だが、不思議と怖くはなかった。

 

 むしろ———

 

「……分かりました」

 

 真っ直ぐスネイプを見据えたまま答える。

 

「実は、僕の方から先生に申し込もうと思っていました」

 

 その言葉に、大広間の空気が再び凍りついた。

 

 




「クソ親父に似てる」なんて嘲笑していたのも、心のどこかでは「しかし完全に同じではない」と感じていたが故の慢心だと思います。
幼いころからシリウスと接しているハリーが誰に似るか、なんてね……。

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