お前もニフってる?   作:HLNF会長

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(たいして考えてもいないのに大風呂敷を広げる音)


第七話 わたしはやさしいにふらー

 ホグワーツ内を一匹のニフラーと一人のいい大人が駆けまわること数分。シリウス・ブラックは完全に目標を見失っていた。

 

「クソッ……どこに行ったんだ……?」

 

 変身術の教室前の廊下を早足で過ぎ去りながら、シリウスはあたりを見渡す。ハリーは完全に大広間に置いてけぼりにされていたが、シリウスがそれに構っている暇はなかった。

 ニフラーは一度逃がしたら人間の手ではなかなか捕まえる事が出来ない。動物もどきかと思われるような知性を持っていたらなおのことだ。

 早くも威厳ある後見人としての化けの皮が剥がれてしまったことに舌打ちをしていると、シリウスはふと足を止めた。

 

 変身術の教室からマクゴナガルが出てくる。緑色のドレスに、本日は深い黒のマントを羽織っていた。何処となく因縁の相手を想起されるような漆黒のマントだ。

 

 しかし問題はそこではなかった。

 シリウスが目を凝らすと、マクゴナガルのしりびく黒いマントが小さく隆起している。丁度ニフラーがマントの中でしゃがんでいるくらいのサイズだ。

 

「マクゴナガル先生」

 

 シリウスが話しかけると、マクゴナガルは、くるりと振り向いた。声の主が誰か分かると、マクゴナガルは厳格な顔から一転、嬉しそうな表情を見せた。

 シリウスは促されるままマクゴナガルと握手する。

 

「ブラック。ハリーにはもう会いましたか?」

「はい、会いました」

「あなたを信じることが出来なかったことを謝らせてください。私がどれだけあなたにひどい仕打ちをしたか……」

「いえ、あの、全然大丈夫ですから」

 

 申し訳なさそうに眉を潜めるマクゴナガル。一方、シリウスの意識は八割がた、もぞもぞと動いているマントの隆起に持ってかれていた。握手していた手をやんわり離す。

 

「先生、少々お聞きしても?」

「はい」

「そこで動いている膨らみは一体?」

 

 シリウスがマントを指さす。マクゴナガルは不思議そうにマントを引っ張った。

 

 出てきたのはシリウスが追っていた例のニフラー。ロミオはシリウスと目が合った瞬間に脱兎のごとく駆けだしていった。

 

「失礼!」

 

 シリウスはマクゴナガルにそう言いおいて、ロミオを追うため廊下を勢いよく走り去っていく。すれ違った生徒たちが驚いたような目でシリウスの姿を見ていた。

 

 一方、一人残されたマクゴナガルは呆れたように元教え子の背中を見つめている。

 何があったかは知らないが、変わらないなあ、とふと感傷に浸っていた。悪戯仕掛人の被害を最も(こうむ)っていた———なんなら今も二代目にやられている———教師らしい反応だった。

 

 

 

 その後もシリウスは随所でニフラーを見つけたが、結局確保には至らなかった。固まって標本に擬態するロミオ、厨房でシチューの味見をしているロミオ、小さい椅子に座りニフラー専門カタログを読み込んでいるロミオ、庭でサングラスをかけ日光浴しているロミオを見つけたが、見つけた瞬間に素早く逃げられてしまった。

 

 やみくもに追っているだけでは捕まえられないことを悟ったシリウスは、走り疲れたあと大広間に戻ってきた。ハリーにみっともない姿を見せてしまったことを言い訳がましく謝罪し、ロミオについて色々と考え込んでいる。

 

 ハリーは「絶対にあのニフラーには何かある!」と躍起になっているシリウスを眺めた。うーん、このまま放っておくとまずいかもしれない。ロミオがいそうだなと心当たりのある場所を一つだけ思いついたので、とりあえず向かってみることにした。伊達にロミオの飼い主をしていない。

 シリウスに知られないようにそっとその場から立ち去り、グリフィンドール寮までの階段を上がる。

 

 ハリーが自分の寮部屋に入ると、ネビルが丁度着替えているところだった。他には誰もいない。これから黒い湖の方へすこし探索に行くらしく、チェック柄のシャツとジーパンをベッドの上に広げている。

 ハリーがネビルの話に相槌をしつつ自分のベッドの下からケージを引き出すと、外側からかけるはずのロックが外れていた。

 

「ロミオ」

 

 ハリーは巣の入口から優しく声を掛けた。

 なにもハリーはロミオを疑っているわけではない。ダイアゴン横丁に行ったあの日に、ペットショップの檻の中からこちらを覗いてきた小さなロミオの姿は今でも覚えている。

 この一か月ほどで身体が一回りも大きくなった彼が動物もどきなわけがない。

 しかし、ロミオが何故色々なことを知っているのかという理由については、ハリーも見当がつかなかった。

 

「大丈夫だよ、ぼくは信じてるから」

 

 ハリーの声に、巣穴からロミオが恐る恐る出てくる。チラチラとハリーの顔色をうかがっていた。

 ハリーは何も言わずロミオの毛並みの良い頭を撫でる。しばらく一人と一匹はそうしていた。

 

 

 

「すまんハリー、私はダンブルドアのところへ———」

 

 ノックもなく扉が開いた。下着一枚になっていたネビルが生娘のように情けない声をあげる。

 シリウスはぎょっとしたようにネビルを見て、その次にハリーを目に留めると、ハリーの足元にいるロミオにも目線を移した。

 

 

 あ。と言うように時が止まる。

 

 

 シリウスが杖腕を動かすより早く、ロミオは「待て」というように片手でシリウスを制した。

 そして素早く巣の中に戻っていくと、巣の中から身体を出し、手を掲げて白いハンカチをくくり付けた棒をブンブンと振り始める。

 つまるところ“降参”である。

 シリウスが近寄っても逃げる気配はない。

 

「ダンブルドアのところに一緒に行くぞ」

 

 シリウスが静かに言って、ロミオを手の中に収めた。

 見かねたハリーが口を開く。

 

「酷いことしないであげてね」

「勿論だ。ハリーにとって危険かどうか確かめるだけだ。私は君の保護者だからな、周囲に目を光らせる義務がある」

 

 恨むなよ、とシリウスが再びロミオを見ると、ロミオは調子よく白旗を振っていた。敵意がないですよと全身で出来る限り表現している。

 気勢が削がれるというかなんというか……。むしろ「おれに乱暴できるもんならしてみろ」という威勢さえ感じる。白旗振ってるくせに態度がデカい。今日何回目かもわからない溜息をシリウスは吐いた。

 

「……なにしたの? ロミオ」

 

 シリウスが立ち去って行った後、ジーパンに足を突っ込んだままネビルが呆気にとられたようにハリーに訊いた。

 

「……うん、僕も分からない」

 

 不安げに眉を寄せながらハリーは答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 おい、地獄さ行くんだで。

 シリウス・ブラックの肩に隠れながら、俺はものすごい勢いでガタガタとバイブレーションしていた。目の前にはゲンドウポーズするアルバス・ダンブルドア。むり。

 俺、シリウスといたときにはなんとかなるんじゃねえかなって思ったんだけどよ。ガチで怖い。

 

 流石に震えすぎている挙動不審な俺にシリウスも慌てているのか、「おい」「どうした……?」などと話しかけている。でもな、今はそういう場合じゃねえんだ。

 

「ロミオ」

 

 ダンブルドアが俺を見て、口を開いた。

 その瞬間俺は弾丸のようにシリウスの肩から飛び出し、棚の上に飾られていた組み分け帽子に勢いよく潜り込んだ。

 「ハ!」と組み分け帽子が他人事のように大声で笑っている。実際他人事だ。

 

「アルバス、なかなかこのニフラー面白いな」

 

 組み分け帽子が面白がってなんか言っている。

 やめろやめろ、余計なことペラペラ喋んなって。俺は真っ暗な組み分け帽子の中で帽子を殴る。

 

「勿論今の今まで生徒以外の頭を覗いたことはなかったが、まさかニフラーの頭を覗くことになるとは!」

 

 シリウスが不意を突かれたように帽子を見た。

 

「残念だが、この珍妙なニフラー、敵ではないようだぞ」

 

 ニヤッと組み分け帽子が言っているのが聞こえる。

 帽子の中で特大の断ち切りバサミを取り出そうとしていた俺は、ピタリと動きを止めた。

 え、なに、コイツ味方? 俺はいそいそと断ち切りバサミを袋にしまった。

 

 俺はそっと組み分け帽子から顔を出して、ダンブルドアに向かって白旗———さっき巣の中で急いで作ったやつ———を振る。オレ、テキジャナイ。

 この間にも組み分け帽子は高らかに笑っている。

 

「帽子よ、別にわしはこの可愛らしいニフラーのことを敵だとは思っておらんよ。勿論ヴォルデモートからの間者ともの。もしスパイであったのなら、ペティグリューを差し出す()()()がない」

 

 ダンブルドアが優しい顔で俺を手招いている。

 俺は組み分け帽子から出て、棚を降り————ようとしたところで足が滑り————カムカムキャンデーの器に頭からダイブした。

 今度はシリウスに助けてもらった。シリウスに至っては杖を一振りだった。改めて思う。俺はカムカムキャンデーと戦うすべを持っていない……。

 

 シリウスが俺の首根っこを掴み、ダンブルドアの前に置いた。

 

「まあ、確かにハリーへの悪い感情は感じない。なんというか……死喰い人の手先だとしたら……すこし……」

 

 シリウスが残念なものを見るような目で俺を見た。えっ、えっ? ダンブルドアの方にも目を向けてみるが、生温かい視線が返って来る。

 

「このニフラーに開心術は出来ないのですか?」

 

 シリウスが恐ろしい一言を言い放った。

 俺は焦って、すぐさま袋から『じんるいのみかた』とクレヨンで歪に書かれた画用紙を取り出す。「字も書けるのか」とシリウスは額に手を当てて唸り始めた。

 

「シリウス、わしはニフラー語が分からん」

 

 ダンブルドアがシリウスと二人して唸り始めた。

 

 

 

 俺はひとまず無罪放免になった? っぽい。

 「ハリーの味方か?」というダンブルドアの言葉に大きく頷いて、俺は校長室からあえなく釈放となった。

 なんだっけか、『疑わしきは罰せず』っていうダンブルドアのシュギもあるんだろう。シリウスはまだ俺をじーっと見てたけど。まあこれからゆっくりお互いのことを知っていけばいいや。

 俺はそんなお見合いみたいなことを暢気に考えて、校長室前の廊下を鼻歌を歌いながら去って行った。

 

 ダンブルドアが何故俺を無罪放免にしたのか。理由を知るのは随分先になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハリーにはもう言ったのか?」

「なにを……ああ、同居のことですか。会ってすぐに言いましたよ。あんなきらきらした目をされちゃあね……」

 

 シリウスはどっかりと来客用のソファに座り込んだ。魔法で浮かんだ紅茶のカップが運ばれてくると、一息に飲み干す。「あっつ!」とシリウスは叫んだ。

 

「失礼、なにせアズカバンではすぐに飲み物が冷めてしまうもので」

 

 ダンブルドアを伏し目がちに見て、口を押えながらシリウスは悶えた。

 

「ハリーに掛けた()()の魔法は、唯一血が近しいペチュニアのもとにいなければ効果は出ぬ。君が後見人だということをあの子が知れば、プリベット通り四番地は最早彼の家とは言えなくなるじゃろうて」

 

 ダンブルドアが静かに言った。シリウスは居心地悪げに姿勢を正す。どこか非難めいた声色だと錯覚したからだ。

 

「私の実家、グリモールドプレイスもいいとは思うんですが……如何せん埃っぽいし、古臭いし、陰気な屋敷しもべもいる。夏休みにハリーを閉じ込めるには悪い環境でしょう。年頃の子は発狂しますよ、少なくとも私はそうでしたから」

「埃は掃除するのじゃ、シリウス。それにあれほど優秀な隠れ家はない。秘密主義だった君の父君が家族以外には何人たりとも家の場所を伝えることを許さなかったから、ブラック邸はあれほどまで安全性を持っているんじゃ……勿論秘密と引き換えに、息子の足を外に向けてしまったようじゃがの」

 

 ニガウリを丸のみしたような顔をしたシリウスに、ダンブルドアはウインクした。

 

「では、クリーチャーに掃除をいいつけておきます。秘密の守り人はあなたにお願いしても?」

「勿論じゃ。ブラック邸の護りにはもう何個か手を加えたいのでな、後ほどアラスターに向かわせる」

「分かりました」

 

 話が終わったという風にシリウスが立ち上がろうとすると、ダンブルドアがそれを制した。

 

「もう一つ言うべきことがある……ヴォルデモートに関連することじゃ。シリウス、君に頼みたいことがある」

 

 シリウスはその言葉に険しい表情を見せた。

 どうやら、当分このお茶会は終わりそうにないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 

「貴様、私の館に何の用だ」

 

 ルシウス・マルフォイは目の前の男に杖を向けていた。ナルシッサから予期せぬ来客を聞いたのは、つい先ほどのことだった。

 見覚えはあるものの、明らかに身に纏う表情が違う男にルシウスは怯えた表情を押し殺して杖を向けた。

 

「貴様?」

 

 目の前の男は、くつくつと嗤っている。まるでおかしなことでも聞いたかのように、はっきりと……。普段の()()めいた口調もなりを潜めている。

 

「偉くなったものだ、臆病者が……いや、裏切者か?」

 

 男が振り返った。

 紫のターバンを巻いた、臆病者だったはずのその男の目が、赤く光ったような気がした。

 

 

 

 

 

 




私の中のダンブルドアの解釈として、「疑わしきものは何としてでも無理やり吐かせる」というより「疑わしきものは泳がせるだけ泳がせて自分で判断する」というものがあります。クィレルやロックハートしかり。ダンブルドア(老形態)ガチ恋夢小説書いてた人間にはフィルターが掛かっているだけなのかもしれませんね。

内容がシリアスに近づいてきたので、次は「デキるニフラーの一日密着Vlog」にします。お楽しみに。

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切実に燃料をください。エタる確率が低くなります。沢山の感想ありがとうございます。
いつまでもこんな更新頻度が続くと思うな!(訳:忙しいので更新が遅くなります)
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