はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です! 作:枯華院 清日
属性盛々系(後天的)女教師(元男性)(喫煙者)(バイク乗り)(低身長)(巨乳)(サラシ着用)(酒飲み)(見た目だけ美少女)、真中 愛之助視点です。
雨は嫌いじゃない。
お前は何だと見られずに済む。
声は雨音が誤魔化してくれる。
「ぅあー…」
月曜日。勤務先の学校の生徒たちと同じく、教員にとっても憂鬱な一週間の始まり。
目覚ましの前に起きてしまったことを、洒落っ気のない壁掛け時計と、アラームをかけた筈の同じく飾り気も色気も素っ気もない携帯電話を見て知る。
頭が重いのは昨日飲み過ぎたからだろう。二日酔いと言うには軽いが、数少ない休日にタガが緩んでいつも以上に飲酒が進んでしまった感は否めない。眠りが浅かったのも酒のせいだろう、後悔は酒呑みには付き物だ。気にしていても仕方ない。
「ふー…」
寝起きにはまず喫煙、喫煙者の嗜みだ。その為にどうにかしてタバコとライターを手の中で弄びながらキッチンに向かうが、身体にも鉛が付けられたかのような重さが纏わりついている。
大して広くもない部屋の移動が億劫だ。
「あっ…チッ…」
ライター、正確にはフリントロック式の物がオイル切れをしていたようだ。商品名を避けてわかりやすく言えば、ジッとやればポっと火の点くアレ。
予備のライターは無い、しかし近場のコンビニまでセルフ禁煙をしたくもない。無精だがガスコンロの火でタバコに火を移すしかない。
「すぅー…ふぅ…」
コンロや加減を忘れたライターで着火する時は、前髪が焦げないように注意が必要だ。うっかり結構な範囲を焼いてしまうと、職場の人間や生徒たちから、それはもうからかわれる。
面倒なのは一部のデリカシーって言葉を昔の年号と共に置いてきた連中だ。もしくは親の腹の中にでも落とし物をしてきたやつら。
散髪したのかと勘違いして、やいのやいのと囃し立ててくる。特に嫌なのは失恋したかと聞いてくるやつ。
おれに色恋沙汰はどうにも縁遠い。良いなと思った女性に話しかけるといった軟派な行動は謹んでいるが。もし行動に移しても、どうなるのかは火を見るより明らかだろう。
なにせ見た目が
頭のモヤを取り去る為にシャワーを浴びようとする時、嫌でも目に入る顔と体。
どう高く見積もっても高校生か大学入りたての女子学生の顔が洗面台越しに睨む。自画自賛の趣味はないが、一般的にかなり整った部類に入る、らしい。
長い付き合いになった体もそうだ。男だった時は魅力的に映った大きな胸やくびれも、この身は女性であると雄弁に語っている。尻まで大きくなるのは予想外だったので、能動的に運動やトレーニングをするも多少引き締まる程度の範囲に収まってしまう。
「……」
風呂場では努めて声を出さない、反響する少女の声が気に入らないからだ。望んで手に入れた物ならば好意も持てようが、そうでなければ嫌悪すらするものだ。
ちなみに風呂の相棒は牛乳の石鹸。これとタオル一つで全身を磨く、髪の毛も例外ではない。ただし、リンスやコンディショナーの類も使う、髪が指に引っかかると痛い。
シャワーで洗い流した後に頭の天辺から爪先まで拭き上げれば、いつの間にやら眠気と怠さは爽やかに消え失せていた。
現在下着以外は全裸である。自分の部屋で誰に気を遣う訳でもないからいいだろう。髪を適当に乾かして整えつつ、電気ケトルで湯を沸かす。文明の利器様々だ。
「本日の天気です。関東の北部と山間部は正午ごろから雨、都心の方でも夕方から強い雨が…」
湯が湧くまでの間、シリアルとヨーグルトをつついて軽い朝飯を摂る。元より食は細いが、社会人になってからは余計にそう感じる。
BGM代わりのテレビは天気予報を垂れ流すだけの存在となって久しい。映像でのコマーシャルや大して見どころのない芸人たちの乱痴気騒ぎはどの局も流さなくなった。
『噂』という下衆の勘繰りが力を持ってしまえば、大衆の前に姿を表すのは自殺行為に近い。自身も当事者の一人として痛感する。といっても、普通の生活を送っていただけでこうなってしまったのだから。テレビから流れる自動音声を誰も責めはしないだろう。
「…苦っ…」
食後に粉末タイプのコーヒーを飲む、砂糖は入れない。牛乳も無しだ。
子供の頃は大人になればコーヒーもそのまま飲めるようになると思っていた。現実はどうも違っていて、無理をして飲み下すのがやっとのまま。
誰が見ているわけでもない。甘い砂粒と柔らかな白い誘惑に負けても良いのではないかと思うも、なんだか自分に負けた気がするというか、カッコ悪い気がして出来ない。おれはカッコつけでコーヒーとタバコを嗜んでいるのだ。
「ふぅー…」
だがタバコも慣れてしまえばコーヒーよりいい。自分の受け持っている生徒らが戯れて言う、一生のうちに片方はずっと禁止で選ぶのなら、コーヒー禁止でいいと思う。
食後の一服はさらなり、肺を満たす紫煙の重さよりも舌に残る甘苦さが良い。
喫煙者は肩身が狭いうえに禁煙を勧められるが、ルールを守って吸っているのだから好きにさせてほしいものだ。飲酒で泥酔して人に直接加害する方が、人間としてダメだろうに。
「…うっ、くっ……はぁー…」
簡素な食事の流れを終えて、ギチギチと音を立てるサラシをキツく締めて服を着込む。呼吸がし難くなるが、背に腹は代えられない。
そういえば以前、胸への視線を女性は気付くと耳にしたことがある。それは間違いではない、が、満点の正解でもない。
例えるなら照りつける陽射しと同じだ。
何時でも降り注いでいるものを、自分がふとした瞬間に太陽に照らされていると思い至ると似ている。
両方の性を、身を以て知った上での意見だ。男性とはそんなもんであると知っているが、いざ自分がじっと見られるのも中々に不愉快なのでこうして胸を押しつぶしている。
肌着、下着、スーツ類に身を通し、歯磨きを終えて、この身は社会人へと変貌を遂げた。書類と着替えを詰めた仕事鞄を持っていざ玄関へ。月曜日の扉は重みが違うと思うのだが、どうだろう。
「いってきます」
出立の声掛けは返事を期待してのことではなく、ただの習慣だ。
腕時計に視線を移して時刻を確認、時間は6時半か、今週の校門前確認に間に合うな。学校に到着してもむしろ暇を持て余す程度の余裕がある。
路面が濡れてなければいいが…。
おれは雨が降っていない時はバイク通勤を主にしている。時期によっては電車と使い分けてはいるが、個人的にはバイクの方がいい。人混みに揉まれずに済むし。何が楽しいのか元男に触れてこようとする間抜けを気にしないで済む。
バイク通勤の場合は難儀な事が多い。夏場は暑いというかマフラーが火傷する程度には熱を帯びてかなりしんどい。冬場は手足の末端の感覚がなくなる程度に寒い。信号待ちの時に無意識に肩が上がってしまっている程凍えている事にやっと気付くのだ。
それと比べればまだ暑くも寒くもない6月周辺は快適と言える。ただし路面が濡れていると滑ってそのまま…となりかねない。特に水に濡れたマンホールは危険極まりない、配管工親父カートのバナナもかくやの滑りっぷりが牙を剥く。
事故に気をつけて安全運転で行こう。
「真中先生! おはようございます!!」
声でっか…。
駐車スペースから職員室に入ればやかましい入場歌が流れる。おれ専用の入場歌、嬉しくない、うるさい。
「あぁ、坂本先生。おはようございます」
「今日も太陽は貴女の輝きの前に潜み、梅はその顔を赤らめてしまっていますねッ!」
「ただの梅雨の曇り空ですよ」
学年主任の坂本先生のエントリーだ、今日も無闇なまでの仰々しさに歯止めが効いていない事この上ない。
誰よりも先に職員室に到着して、手早く全体の掃除を済ませている勤勉な人なのだが。
どうにも…その…うるさい…。
自分たちの他にも早く登校している先生方に助けを求めても、苦笑いが返ってきて終わりである。
「じゃあおれ、今週は外なんで…」
「私もですよ真中先生!」
「…そうでしたっけ…?」
「もちろんです!」
何が勿論なのか。
聞いた記憶がないのだが、さては図ったな?
おのれ教頭、酸性雨に負けた頭部の焼け野原が砂漠化していってしまえ。
「さ、行きましょう。お手を…」
「なんですそれ」
「エスコートですが」
「いや要りませんよ」
「…くっ…!」
苦渋の決断とでも言いたげな顔で差し伸べてきた手を引っ込める坂本先生、いや何でいけると思った?
「おはようございまーす」
「おはよう」
生徒たちも早い子ならかなり早くに登校する。
時刻は午前7時過ぎだ。健全で大いによろしい。
「坂本先生、おはようございます」
「やぁおはよう小関さん、今日も朝早く登校して素晴らしいね」
「おはよっす」
「岬くん、挨拶は正しく高らかに! さぁ!」
「おはようございます!」
「そう! もっと愛を込めてッ!!」
「おはようございますっ!!」
近場で奇っ怪なやり取りを見ていると、狂気と書いて坂本先生と読んでもいいんじゃないかと思う。朝の挨拶への愛ってなんだ? ためらわないことか?
目を合わせないようにしよう、取り込まれたら怖い。
「おはようございます…」
「あぁ、おはよう」
「はよっす」
「シャツちゃんと入れろー」
隣の素っ頓狂…坂本先生に挨拶する生徒と比べると、おれに挨拶していく子達は少し大人しかったり気怠げなのが多い。
あのテンションに萎縮してしまったり、高校生然として斜に構えている生徒達もいるのだからそれも仕方ない。同僚の目から見ても、あの勢いに乗って行けないのは当然とさえ感じる。
「アイちゃん先生おっはよー」
「當真…お前後で覚えてろよ…」
「えっ怖ぁ…」
「真中先生おはようございます」
「淋代、そのクソ戯けを引っ張ってけ」
「先生言葉遣いが…」
「あぁ…ああ? いいから行け行け」
「アイちゃん先生ってさ、俺に当たり強くね?」
「普段の態度が悪いのかもな」
「かなり優等生キャラだと思うんだけどなぁ」
「いや…」
朝っぱらから人をイラッとさせるとはな。中々やるな當真、授業では当てに当ててやる。
これは決して私怨や八つ当たりではなく。生徒が危険なアルバイトに身をやつして学業を疎かにしてはいまいかといった確認の為の老婆心。嘘だ。
「おはよーございます」
「野上…? おはよう、今日は早いな」
受け持ったクラスの中でも、とびきりのんびり屋な女子である野上が挨拶をしてくる。時間は…もう始業時間の10分前か、遅刻スレスレの時間ではない。
道理で遠くから弾き飛ばされそうになった誰かの悲鳴が聞こえない訳だ。
普段はゆったりとした動きから、のんびり野上ちゃんを略してのんちゃんとも呼ばれる子だが、部活動は特別枠として陸上部に所属している。それは何故かとなんの気無しに聞いてみたら。
『…この脚で
走るのが好きって事か?
最近の子の理屈は、おれにはちょっと難しかったな。
「偉いぞ野上、余裕を持って教室で用意しとけ」
「へへへ、アイちゃん先生に褒められたのん。またね」
「真中先生と呼びなさい…後でなー」
他のクラスの連中もおよそ無事に見送った。ケガの絶えない森山も土屋と一緒に登校していたな、無事で何よりとは思うが、そもそもどうしてああも器用にケガをするのか。くるぶし程度の高さの軽い段差で捻挫をするとは不思議なものである。
「そろそろホームルームの時間なんで、おれはこれで。坂本先生後は頼みます」
「お任せください、この身と命、そして天地神明に誓って成し遂げてみせましょう」
「そんな大袈裟な…」
さて、日誌類を持ってクラスに向かうとしよう。
…急げば一服も出来るか?
んんん…後でいいか。
いわゆる朝のショートホームルーム、やる事といえば連絡事項の伝達と出席確認程度だ。
普段と変わらない朝の一幕。そういえば、今日は一つだけ追加の連絡事項があった。
「来週から他のクラスに教育実習生が来る、金曜にもう一回言うけど。くれぐれもはしゃぎ過ぎるなよ」
「なんとぉ…!」
「せんせー、男の人? 女の人?」
「それは来てからの楽しみにしとけ」
「顔とスタイルは!? どうなの!? その人の顔とスタイルが見たいわッ! 見せて頂戴ッ!」
「ノーコメントだ」
「ケチ!」
「ケチで結構」
「可愛い」
「出し惜しむなァッ!!」
「本当は何カップなんですか!」
「可愛い!」
「アイちゃん先生の好みなのん?」
「電車内で酔いつぶれてたってマジ?」
「…お前ら好き勝手喋ってないで一限目の用意しろよ。日直、号令」
「きりーつ」
そう、教育実習生が来るんだった。仕事が増えるだけなので個人的にはどうでもいいが、生徒達にはそうではないだろう。
教室から退出すると、すっかり色めき立った喧騒が廊下にも届く。時代が如何に変わろうと、人間っていうのは単純なものだ。
出席簿を棚に戻したら一服しよう。授業は二限目からだし丁度いい。
「…ふぅ」
最近は電子タバコの人も増えた。だが少なくなった紙巻派の他の先生が置いてくれている共用ライターのおかげで、こうして一服にありつけているのだからありがたい。
何より昨今では全面禁煙も珍しくもないのに、こうして狭くとも学校の裏庭に喫煙所を設置してくれている校長や理事長には感謝が絶えない。
「真中先生っ!」
「………」
うわでた。
目線だけをやるのは流石に失礼かもしれない。いや、一人で煙をくゆらせている時間をぶち壊されれば当然の反応だろう。
「…何かありましたか?」
「会いたく思ったから、では不十分ですか?」
一般的な模範解答ではないな。
そも、おれが普通の女性だったとしたら、こういう文句にときめくのだろうか。
「…真中先生?」
じっくりと坂本先生の顔を見る。
こうもまじまじと顔を見つめることは、そういえば無かった。ふむ。
服装…はお互いに黒のスーツ。ただし、彼女の背広とシャツにはシワ一つない。几帳面だな。割とズボラな所のある自分には眩しくすら映る。
爪は短く切り揃えられていて、いわゆる無駄毛も無い。ヒゲも薄いのだろうか、これといって見当たらない。
「……」
「ま、真中先生…?」
肌艶も良い、スキンケアも欠かさないのだろうか?
眉毛はスッと軽やかに一筆を通したような線、目を縁取る睫毛は長い、マッチ棒とか載りそうだな。そこに意思の強そうな二重瞼が縁取って、深い焦げ茶色の瞳が飾り付けられている。
影よりも濃い黒髪は、細い顔の輪郭を浮き立たせていて、少し赤い唇と頬とを合わせて紅顔の美青年といった風情か。さぞやモテることだろう。
さっきよりも頬が赤いな…?
「真中先生!」
「ん…? あぁ失礼」
そうか、どうも見つめ過ぎていたみたいだ。
如何に坂本先生が変わった人でも、ずっと無言のまま凝視されているのは耐え難いだろう。あまりにも無神経な行動だったか。
「すぅ…ふぅー…」
先程より赤みの差した、静かにチラ見をしてくる坂本先生への観察を続けながらタバコを吸う。
身長も180程度だったか、脚もずいぶん長い。おれと比べると30センチ近く開きがあるのか…。男だった時でも20センチは違う…なんだこの秋風が吹くような敗北感は。ホビットの生徒、土屋はこの虚しい感覚を身体測定の度に味わっているのか?
これからあいつには、ほんの少し優しく接した方がいいかもしれない。
「な、何か不愉快な事をしてしまったのでしょうか!?」
「へ?」
何の話だ…?
「あまりにも私の顔を、無言と無表情を以て見つめてくるので。すわ何事か、天変地異か、さてはこの思いが幾星霜の距離を越えて通じ合ったのかと…」
「いや、整った顔だなぁと思ってただけですよ」
「えっ!?!?!!!?」
軽いやっかみを含めての発言なのだが、驚き過ぎじゃないだろうか。
自身が女性になる前は華奢で小柄な男だった、それももう十年程前か。嘗められないように格闘技を習ってもいたが、筋肉の鎧が付くことはトレーニングを続けている今もない。
それと比べれば目の前の坂本先生はパッと見ても男性と判別できる体格、羨ましいものだ。
この人はおれと逆で、元は女性だったらしい。なので男性らしく見えるとあまり褒めない方がいいと思っていたのだが、違うのだろうか。
おれは可愛いだのと言われると、どうにもイラッとするのだが…。千差万別、十人十色か。
「あぁ、そこの段差気をつけてください」
火種を丁寧に潰す、万が一にも火事になっては困る。さぁ小休憩は終わりだ。それと校内に入る為の段差に対しての注意を促しておく、脛程ある段差、つまりは呆けていると転びやすい場所。
結局、ときめくか、それともときめかないかについては不明なままだ。男だった期間の方が長いのだから、仕方のない事かもしれない。
「あ…っ!」
「おっと…ぐぇ…!」
注意したにも関わらず坂本先生が転びかけた。梅雨時期の長雨で地面がすこし泥濘んでいたのだろう、言わんこっちゃない、油断大敵だ。
咄嗟に腕を引っ張って引き寄せるも、体格差を失念していた。坂本先生を抱きかかえる形にはなったものの、思った以上の重量差にカエルの潰れたような声が出てしまう。格闘技でも細かな重量差で階級が分けられるのも納得してしまうな。
「大丈夫ですか、坂本先生?」
「えっ!!?!?! アッ!?!!? し、失礼ッ!!」
「怪我が無いなら何よりですけど…」
さっきもこんなのを見たな、取り乱しすぎだろう。
なにより元が付くとはいえ女性の顔に傷が付かなくてよかった。もしそうなっていたら一部の過激なファンから敵意を向けられる所だった。九死に一生というか、背筋が凍る思いだ。
──みちっ
あっヤバい。
「坂本先生、早く退いてください」
「す、すみません…!」
「いえ別に平気ですから、早く」
サラシが緩んだ音がした、これはダメだ。このままでは連鎖的に誰も得をしない状態になってしまう。
具体的にはサラシが弾けて、ワイシャツのボタンを圧迫して悲惨なことになる。冗談じゃない、世紀末救世主なら能動的にシャツを弾き飛ばすかもしれないが、これは単なる事故だ。こんなことならさっさとジャージに着替えておくんだった。
「おれは用事ができたんで、先に職員室戻ってください」
「は、はい!」
災難だ、おれにとっても、坂本先生にとっても。
胸元を抑えるおれへの何か…これは…視線か? 今は授業時間のはず。生徒の人影もおよそ無い筈で、他の教職員の方々は各自の椅子に座っているか教壇に立っているかと考えられるが。
「……」
「も、森山…!?」
銀髪かつ痩身であり長身、端的に言って日本人とは思えない容姿、エルフかつ自身のクラスの生徒の一人が近くの保健室の扉からこちらを見ていた。
何故見てるんです!? と思ったが、指に包帯を巻いている。普通の座学中なのに突き指か捻挫をしたのか…。
「真中先生…」
「な、なんだ…」
「校内でそういうことは良くないと思いますよ」
「森山!? こ、これは違うんだ。坂本先生が転びそうになったのを助けただけで…」
「真中先生…」
「いや本当に違くて…!」
「いいんですよ…」
「…森山ァ!!!!」
なんだその「俺はわかってますよ」と言いたげな顔は!
落ち着け、冷静に、現状を客観的に見てみよう。
胸元を抑えて地面にへたり込んでいる(元男性)女性教諭、そして顔を赤らめた(元女性)男性教諭。
なるほどな、確かに何らかの密事があったように見え…る訳あるか! そもそも人の往来のある職場でこんな白昼堂々にそんな事がある訳無いだろ!
「森山くん!」
「坂本先生…!」
そうだ、もう一人の当事者である坂本先生から説明して、この変な誤解を解いてくれれば…!
「先生、責任取るから」
「そうですか…!」
「なんのだよ! ただすっ転んだだけでしょ!?」
アホが一人追加されただけだったようだなぁ!!