はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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見た目よりも中身?

 

 

 

 俺こと當真 太陽には、悩みが一つある。一つだけって意味じゃないからな、人の頭の色を見て頭が軽そうとか言うのはやめろ! 

 じゃなくて。そう、頭、頭についての悩みだ。うん、中身じゃなくてさ、髪色の話ね。ハゲの話とかじゃないから安心してほしい。

 

 占いってあるだろ、占い。英語で言うとフォーチュンテリングってヤツ。あれは現代日本でも当然あって、それはもう多種多様で色々と多岐に渡る。

 具体的に言うと、星座占い、誕生月・日占い、干支占い、血液型占いなんてのもあるよな。どいつもこいつも人間の生まれに関連した物で、後天的には変えられないのが特徴か。そこに最近登場した歴史も浅くて、これもまた面倒なのが一つ出てきやがった。

 

 その名は、髪色占い。

 

 ちょっと話変わるけどほらアレだよ、血液型診断だか占いなら血液型A型は真面目で几帳面とか、O型はおおらかで天然、AB型は天才型で変わり者、B型はその…うん…な? 

 みたいなさ、あるじゃんそういうの。別にそんな事も無いだろうにレッテル貼りするようなヤツ。もしこれが仮に本当だったらさ。外国のどっかの部族には血液型がほぼ一種しか居ない所があるらしいんだよ、そうしたら仮定だけど全員A型だったとしよう。じゃあその部族は全員几帳面で真面目で神経質なのか、って話になるじゃん。んな訳ねぇだろ!? 

 どうでもいいけど俺の血液型は不明ね、骨髄ごと弄られてるから血もよくわからん事になってるらしい。おかげで輸血はするもされるも出来ない。すまねえ血液・骨髄バンク、俺は助けになれない…! 

 

 血はいいんだよ血は。とにかく髪色占いも大体同じなんだよ。なんだってんだよ面倒だな。

 黒髪は真面目で清楚系、それと奥ゆかしい。日本で一番多い髪色じゃないか? 

 学校では釈先輩とか生徒会長サマが黒髪だな。二人とも真面目なのは確かだけども、釈先輩は心配になる程度にはポヤポヤしてるし、会長は真面目どころかクソ真面目っつうか、俺には嫌味言ってくる感じのクールビューティー。颯をぶつけてやろうか。

 バイト先関係では千々石さんとタマさん。依頼人だと…笹川さんがそうだったかな? あっ、竹塚サンも黒髪だわ。テンパだけど。

 千々石さんは確かに真面目だ、よくは知らないが笹川さんもたぶんそう。竹塚サンも…まあ…真面目か、ダンジョン探索で命を粗末にしてるけど。で、千々石さんは真面目だけどさ、どっちかというと優男じゃん。いや良い人だよ? でもナヨっとしてるじゃんね。気弱そうなあの人が怪獣殺しの専門家とは誰も思うまいよ、人間サイズウルト○マンだもん。必殺技兼通常技は出し放題の反物質ビームね、怖すぎ〜。

 何よりタマさんだよタマさん、仕事は確かにしてるけど仕事場で酒飲むぞあの人。しかも猫だぜ? おやっさんの言う事以外ほとんど聞かないんだぞ。いつでも飲めるようにって事務所の冷蔵庫でビール冷やすのやめろよマジで、依頼人に空き缶見られたら終わりだよこの事務所。

 

 茶髪は程よく明るくてお洒落な人。周りの人に合わせられる人、だったかな。日本では黒髪に次いで多い髪色なんじゃねえかな。

 茶髪といえば淋代姉弟、あと上埜姉妹の妹さん。周りに合わせられるというか周りの人に合わせるのは普通だろ、さもなくば社会不適合者じゃん。

 颯は確かに程々に明るい、というか普段は爽やか野郎過ぎる。周りの人に合わせてるのもそうかもしれんね。ただし、あいつの中身は周りを冷めた目で見ているようで結構な熱血野郎だ。中学の頃なんか俺と殴り合いした事あるからな。うーん、青春の一ページ感が凄まじい。上埜妹こと…えー…深雪ちゃん? は、引っ込み思案なタイプ。周りに合わせられるっていうか流されてるんじゃないか、主に姉に。

 こころさんは確かに明るくて優しい。まあ天使だからな。周りの意見も聞く人だ、天使だもんな。俺みたいなクソガキのリハビリにいくらでも付き合ってくれるエンジェルだもんよ。だがしかし言ってはならない秘密がある。茶髪はお洒落なんて言われているが、こころさんの普段着はジャージだ。しかも高校のやつ。まあね、あんまり完璧過ぎたらそりゃもうゴッドよ。俺のゴッデスでもあるが。でも休みの日にコンビニへ行く時は、誰の目があるかわからないんだからせめて着替えた方がいいぜ! 

 

 んで、緑髪、それと青か。

 緑で目立つヤツでは八月朔日しか居ないな。あの自称神のアイツね、立神とセットの問題児。立神は青だな

 。八月朔日は所々金髪も混じってるけど、まあ大体一緒だよ一緒。

 んー…緑髪は芯が強くてスポーツ好き、または病弱でちょっと暗いかも。だとさ。どこがだよ、無口で何も考えてねえだけじゃねえのか!? あいつ長距離走とか超サボるぞ! 飛んで逃げて行くぜ!? 

 青はとにかく冷静沈着、クールな君にも激しい一面が! らしい。立神は守銭奴で愉快犯でキレやすいぞ。

 

 赤髪は薊と土屋か。土屋は落ち着いた茶髪っぽい赤だけどな。薊は紫っぽいか? あっと…上埜の姉の方も赤か、しかも真っ赤なの。

 赤髪はどこまでも情熱的で熱血、青とは逆で理知的な一面も…。嘘つけェ! 薊程のビビリが居るかよ! 情熱の反対側に居るじゃねぇか! 

 土屋は情熱的っていうか頑固だし、理知的な面もありはするけど涙脆くてナイーブだぞ!! 

 上埜も捻くれてるしさぁ! 無断で人を迷宮に叩き込むとか情熱の行き先を履き違えてんだよ! 

 

 いかんいかん、冷静にな。次はピンク…ピンクね、アイちゃん先生がそうだ。あと二人クラスメイトに居るけど、世間的には珍しい髪色らしいぞ。

 ピンクは淫ら……。止めよう、髪色イジリするとあの人キレるから。グーが飛んでくるぞ、グーが。

 えーと、とってもガーリッシュで乙女感強めのロマンチスト…。休み時間にタバコパカパカ吸う上にバイク乗り回して、仕事終わりには酒をかっ食らうような人とは書いてねえな。やっぱりおかしいじゃん。

 

 銀髪はエルフの森山にシスターとおやっさんこと所長か。シスターは綺麗に銀髪で所長は黒と灰色って感じだけど。ミステリアスで神秘的、冷静で完璧主義…? 

 シスターが…神秘的で…冷静…!? あのボールとフリスビーと木の棒を追いかけるのが好きなシスターが? 雪が降れば教会の庭を駆け回るシスターが!? 病院に行く日は何処かに隠れて震えるシスターが…!? 

 おやっさんは…うーん、まあほんの少しだけミステリアスなのは合ってるかもしれん。事務所設立の話とか知らんし。普段は冷静なのもそうか、でも意外と茶目っ気あるぞ。少なくとも神秘的では決してないな、二人とも。

 森山もそうだ、完璧主義どころか一々危なっかしいというか抜けてる。今日も元気に紙で手を切って保健室に行ってるぜ、付き添いは土屋な。オイオイこれじゃあミステリアスじゃなくてポンコツじゃねえか。

 

 白髪は病弱で自分の意見が言い出せない苦労人タイプ、儚いところが魅力的。レイリーと、その母親のヴァイスさんか。いや既に何かおかしいだろ。

 レイリーは病弱どころか健康そのもの、むしろ小さい割には屈強な一面しかないじゃんか。俺を一方的にボコれる女子っておかしいだろ、言い訳するなら油断してたから仕方ないんだけども。そもそも口数が少ないだけで自分の意見が言えない程儚くねえよ、雪の妖精さんかなと思ったらその実ダイラタンシーの塊だったみたいな詐欺感が強いぞ。

 ヴァイスさんに至っては滅茶苦茶喋るし元気溌剌な母親じゃん。しかもミステリアス過ぎるだろ、掃除業者勤めってマジか? 全てが謎に包まれ過ぎて家庭的な感じが一切しないぜ。

 

「ねえ」

「………」

 

 まだまだ居るけど、最後に金髪ね、金髪。

 不本意ながら俺とフォンセルランドさん、あと黄瀬さんに坂本先生、安房さんは…染めてるからわからん。黄瀬さんも金髪よりも黄色っぽいしな、雑な分類だぜ。

 と、まぁ結構金髪に属する連中って多いんだが…んー…なんだ。とにかく明るくて悩みが少ない。

 終わり。

 えっ終わりィ…!? 

 

「…ねえってば」

「………」

 

 そう、つまりは金髪はよくオチ要因として使われる。血液型占いのB型みたいなもんで、どこもかしこも大体チャラいだの軽薄だの馬鹿そうだのと罵詈雑言の雨あられ、嫌なボキャブラリィの枚挙に暇が無いぜ! 

 黄瀬さんに関してはノータッチで行きたい所存だが、少なくとも他の金髪メンツは馬鹿じゃねえぞ!? 

 …いや待てよ? アイちゃん先生を目の前にした坂本先生、下ネタしか考えてない時のフォンセルランドさん…急に確証が集まって来やがったな。

 だがな、俺は馬鹿じゃあないぜ。国数英理社、五教科の成績は殆どトップクラスで体育も悪目立ちしない程度に上位。他の副教科もこっそり練習して上位常連の特待生だぞ。毎日寝る前と起きた時にしてる一時間半の勉強時間が効いてるんだよ、真面目なんだよ俺は、ええ!? 

 まったく許せねえよ、誰だこんな根も葉もない風説を流布してくれやがってんのは。最低限のオブラートは持っておけっての。第一さあ、誰も彼もこんなマニュアル通りの性格になんてならねぇって。

 

「聞こえてないの、お馬鹿太陽くん」

「誰が馬鹿だァ!?」

 

 人に貸してもらった雑誌をバチンと閉じる。あらやだ俺ってばはしたない、おほほ。ちなみに最初から聞こえてたぜ、骨髄どころか耳も含めてほぼ全部改造されてるからな。言ってて嫌な気分になるわ。

 

「何か用か、レイリー」

「普段のテスト対策って何してるの」

「ああ?」

 

 テ…テスト対策ゥ? なんだいこの娘ったら急に。普通の高校生みたいな事聞いてきよってからに。いや普通の高校生じゃん、最近迷宮に入ったり熊をぶん投げたりしてたから自覚が足りなくなってたみたいだな。

 まあね、高校二年の夏頃といえば、念入りに準備するヤツはとっくに入試準備から、推薦貰うための勉強に本腰を入れる時期。

 

 ちなみに俺はそこら辺抜かり無し、ノートも先生方の話を一から十まで書き取っては添削して、疑問があれば自分で調べるか聞きに行く。そうすりゃテスト範囲も先生方の癖と合わせてわかり易くなるし、わかんねえ所は重点的に予習復習可能って訳だ。発展・応用的な問題は図書館で参考書借りて演習、どうしても難しければ人に聞く。これを繰り返すだけであら不思議、大学の過去問もちょいちょい解けるって寸法よ。でもまぁ、言ってしまえば普通の事だよな。変わってるのは時間を管理して横断的に複数教科やるくらいか? 

 

「フツウだよ、普通。予習復習をしっかりやってる、そんだけだな。レイリーちゃんにおかれましては、何をお勉強してらっしゃるのォ?」

「……」

「痛え!? ちょっ、おま、やめろォ! 一昔前の暴力属性なんざ今日日流行んねえぞ!」

 

 やーね、この娘ったら。人の頭を遠慮なしにベシベシと叩いて、これ以上頭が変になったらどうすんだよ。責任取ってくれんのか? …取るって言いかねないな、怖いから何も言わないでおこう。

 

「馬鹿…!」

「おっと、根も葉もない暴言発見伝。言っておくけど成績はほぼトップだぜ、知ってるだろ?」

「数値には測れない馬鹿…!」

「酷くね?」

 

 ちなみに今は学校の昼休み、大体の連中が飯も食べ終わってお喋りにでも興じる時間。

 この金髪へのヘイトスピーチを繰り出してきやがる雑誌は、脳内ピンクニンジャこと風間が持ってきたものだ。そういやアイツの地毛って何色なんだ、いつも頭巾みたいなの被ってるからわかんねえな。

 

「當真殿は割と馬鹿でござるな。そして某ってば実は金髪でござるよ、當真殿! お揃っちお揃っち。おーいぇーえーいあはーん!」

「何だァ!? 百歩譲って金髪は仕方ないとしてもお前とお揃いなのは何か嫌だッ! 嘘だと言ってくれ風間!」

「ごーざっざっざ、マジでござる。本気と書いてマジ、マジで恋するのは桃色電脳助平遊戯。本気恋なら某はマルさんが好きでござる、おいおいドイツじゃん金髪だからって魂まで洋物かぶれかオメーなどと思ってはならぬ。男の子はああいうね…普段厳しい人がふと見せる笑顔に弱いの…そうでござろうっ!! 皆っ!!」

「応!!」

「応!!」

「モモセンいいよね」

「何だお前ら!?」

 

 駄目だ、俺よりも馬鹿な奴等が集まって来やがった! 

 

「つまりはそう! 當真ボーイも助平野郎って事だよ!」

「ちげーって! 風間が貸してきただけだって! ゲームしか起動しねえパソコンと一緒にさあ!」

「でも遊んだなら同罪でござるよ、如何なる言い訳並べようと當真殿も立派な助平野郎。教室で某と握手!」

「コイツエロエロだぜー!」

「なんだとお・・!」

「太陽くんはそういうゲーム好きなの?」

「ぅえっ!? い、いや…そんな…って、変な話題に乗っかってくんじゃねえよはしたない!」

「そのゲームって白い髪の子はいる?」

「メインでは居なかっ…じゃなくてね!?」

「レイリーちゃんって結構なグイグイ行くよな」

「オレ、當真が許せねえよ…! 後で殴るか、いや今か」

「いっ!? クソッ、誰だ肩殴ったヤツ!」

「風間くん、今後はそういうヒロインが出るゲームを太陽くんに貸してね。絶対」

「う、うぬう…わかり申した…では強接吻(きょうきす)などは如何に…」

「人の事殴ったりする前にどいつもこいつも少しは恥らえ! 特にレイリー! 公然と十八歳未満は禁止の話をすんな! まだ昼だぞ!」

「夜ならいいの?」

「ダメだよ! 女子じゃん!?」

「アッー! 性別によるレッテル貼り! そういうの良くない、良くないぞ當真ァ!」

「乙女さんいいよね」

 

 駄目だ! ブレーキが居ねえ! 

 白昼堂々いわゆるエロゲ的なマテリアルの話とか阿呆の極みだろうがよ、もっと建設的で実のある会話をするべきじゃないのか高校生として。それより周りを見ろよ、あの女子たちの冷たい視線を。共学だから当たり前じゃんね、だからモテねーんだ。…俺もか…! 

 

「男子は馬鹿なの」

「で、でっでも…レイリーさんが…」

「…まあそういう時もあるのん」

「エロエロ…?」

「伊奈帆は聞かない方がいいかもね、私は混ざって来ようかな。エロゲの話なんて早々しないし」

「…エロ…?」

「伊奈帆はカワイイなあ」

 

 野上の視線だけが異様に冷たいだけ…でもねえな! 確実に半数以上は冷たい眼をしてる、この教室空調効き過ぎじゃないか? 俺の優等生イメージが台無しじゃん。

 

「まあ當真っちもお年頃だもんねぇくだらないけどー」

「お年頃っていうかバカ過ぎでしょ、リナってああいうのダメじゃない。クソうるさいし」

「べっつにーぃ、たまには良いんじゃなーい?」

「へー、意外」

「まあ馬鹿過ぎるのは間違いないよね」

「勉強ができる馬鹿って実在するもんだねぇ」

 

 クソッ…! このままじゃあ俺の評判が爆弾でも破裂したみたく急転直下だ、どうしてくれんだ風間。勉強ができる馬鹿って褒めてないじゃんね、風間ァ! 

 

「落ち着け、皆」

「颯…!」

 

 扉をからりと開いて、春風のような爽やか野郎が飛び込んで来た。いつもは妬ましい感じさえするイケてるフェイスだが、今日は何とも頼もしいぜ! 

 どうにか止めてくれ! この変な方向に突っ走っている教室の空気を。頼めるのはお前だけだッ! 

 

「強接吻なら生徒会長かココナッツちゃんだろう」

「おお…!」

「おおじゃねえよ」

 

 おい馬鹿しか居ねえのか?? 

 どうやら待ち望んでいたブレーキは壊れていたらしいな。むしろ全力で突っ込んで来たぞコイツ。ブレーキペダルだと思ってたら、ブースト系の何かだとは思わないじゃん。どこから聞こえてたんだよお前は。

 

「そこは姉キャラじゃないのでござるか!?」

「風間…実の姉が居て、その手のキャラが好きになるのは難しいものだ。特に普段の横暴に振り回されていれば尚更な…!」

「それはまぁ…否定出来ぬでござる…!」

「実在の姉が居るとね、どうしてもチラつくよね。わかるよ…理想と現実は違うんだよね」

「でも淋代のお姉さんって美人じゃなかったか?」

「確かに文化祭で見かけた事もあるけど、可愛い感じの美人だったな。淋代、これからオレの事をお義兄さんと呼んでくれてもいいんだぞ?」

「ハハハッ、殺すぞ」

「殺す!?」

 

 馬鹿め、颯は何だかんだ言いつつシスコン野郎だぞ。こころさんも家族は大事って人だ、というか御両親もそんな感じ。あったけえな淋代一家。

 しかしこころさんが気を抜いてる時に横暴気味になるのはその通りで、特に被害を受けているのは弟の颯なのも間違いない。お金は貰ってるらしいけど、都心の有名店の人数限定スウィーツを唐突にパシらせるとか。あと颯の芸能関係のコネを使って、その手の物をどうにか入手しようとするとかな。

 何で詳しいのかって言われると、言わずもがな俺もそれに付き合ってるからだ。こころさんが喜んでくれるなら火の中水の中飛び込んで行くぜ、俺は。

 ま、結局さ。気を許してる相手にはワガママを言うってだけじゃんね、可愛いもんだよ。

 

「おうコラ、教室がきゅんきゅんに馬鹿モンが詰まっとるだよ。ほら座りゃあ、早くしやぁ」

「うーす」

「あ…悪魔先生!」

「俺は悪魔博士だよ!」

「悪魔先生は桃色電脳助平遊戯等はやらぬでござるか?」

「はぁー?」

 

 次は化学だったか。というか風間は凄えな、お前の事は特攻野郎って尊敬しておくよ。特攻って書いてブッコミね。!? が似合いそうだな、何よりそんなに世紀末でもない学校なのに治安が酷くなってきそうだぜ。

 ところできゅんきゅんに詰まっとるって何だ、胸キュン的な情緒が教室に溢れてるって事か。名古屋の方の言葉はムズイな。

 

「馬鹿言ってにゃーで準備せんか」

「やっぱ仮面で色々隠してる人はダメだな…いや悪魔か…ダメ悪魔だな。むしろダメ悪魔って心惹かれる響きがあるな!!」

「何がだてー!? ほんなことあらすか!」

 

 いやもう何語だよ。

 日本語か…日本語って難しいな? 

 

「えーから、さっさと座ってちょーよ。その口も閉じんだで、バッチリ人の話を聞く準備するんだで。さもなきゃ試作ミニミニマシーンの実験に付き合ってもらうかんな、ええか?」

「……」

「……」

「おーし、ええ子だな。ほんじゃ今日はよ、原子の結合と同素体についての話だけどもよ…」

 

 怖えよ。というか試作ミニミニマシーンって何だよ。この人…悪魔先生のことだからどこまでが冗談で、どこからが本気なのかわかんねえよ。むしろ全部本気か? さっきの本気恋的にマジなのか? 

 

 マジ云々はさておき。悪魔的ジョーク、あるいは脅迫が効いたようで、授業自体は何事も無く進んでいく。自称悪魔が教室に秩序をもたらしたってワケだ。何か間違ってる気がする、何かが…何かがおかしい…! 

 

「さぁてな。教科書通りの授業はこれで終わりっ!」

 

 授業終了のだいたい五分前、用済みと言わんばかりに悪魔先生の手から教科書が離れた。

 大体の生徒はこれを待ってたんだ、かくいう俺もな。

 

「授業の中の例えで出てきたけどよ、本物を見せたろうって思ってな。ほぉれこれだ! じゃぁーんっ!」

 

 夢野先生の袖から出てきたのは、目も眩む程の結晶体。ただし知っている物よりも黄ばんでいるような気がする。炭素の塊、この正体は。

 

「これが人工ダイヤモンドっちゅうもんだ。キレーなもんで鉛筆の芯と中身が同じとは思えんだろ? ほんでな、これをこの電球と電池の間の導線に置くと…。

 ほれ見い。電気がパターっと止まるだろ? 

 つまりな、こうやって同じ炭素でもお互いに四つの腕でびょーんと繋がればダイヤモンド。三つがぺたーっと着けば黒鉛になるっちゅうこったな。ダイヤの時と違って余った腕は外に飛び出とんだな。

 共有結合が変わりゃあよ、同素体でも性質が変わんだで。ほんでよ、この大きい黒鉛の塊を試作ミニミニマシーンに当てるとだ…」

「…光線銃じゃね?」

「ハイテクな筈なのにむしろレトロな感じの光線銃だな」

「こうして…ほれ! 

 ちぃーちゃな工業用人工ダイヤの出来上がりだで。どうだぎゃ、えりゃーこったろう」

「どうなってんだあの人の技術力?」

「わからん…」

「この試作ミニミニマシーンだとどうもよ、圧力だけがギューっと掛かっちまうみてーだな。何個かダイヤ作っとくから、欲しいやつが持ってったらええなぅ! 

 電気は通さんけど、熱は通すから気ぃつけて遊ぶんだぞ。ええか!?」

「おぉー…!」

「じゃあ授業は終わりだもんね、はーいちゃいちゃい」

「起立!」

 

 いやぁ凄え授業だな。価値が低い工業用の人工ダイヤモンドとはいえ、サッと作ってパッとプレゼントだよ。いや待てよ、普通は人工ダイヤなんざその場で作れねえよ。地上最強の生物の握力じゃあるまいし。

 ん? そういえばあの人、授業の最初に謎光線銃を生徒に向けようとしてたような…まあいいか。ジョークだろ、たぶん。

 

 と、まあこんな感じで所々聞き取りにくい箇所はあるが、悪魔先生こと夢野先生の授業は概ね好評だ。遠くにありそうな科学分野が身近に感じられる。最後の通電実験なんかは安全性的には褒められないかもしれないが、グラファイトとダイヤモンドの違いを体感出来るってのは感動だよな。ちなみに聞き取りにくいのは方言と仮面のせいね、声が籠ってんだよ。

 

「あの人も大概謎だよな。授業に文句は無えけど、素顔どころか素肌すら見た事無えもん」

「この暑いに全身ローブと仮面、手袋にブーツだからな」

「気になってくるよな。そういやツッチーさァ…偶然を装って誰かの仮面に野球ボール当てたり、偶々ローブを踏んづけたりしたくならねえ?」

「ならねーよ! 神聖な野球道具を何だと思ってんだ!」

「じゃあローブを脱がすってのは」

「しねーよ!」

「んだよォー…」

 

 んー、気になるぜ。やっぱり隠されてると逆に見たくなるよな。いつか仮面の下を見る機会があるかなァ!? 無いなら無いで剥ぎ取ってみるか。嘘だぜ、そんな事やったら捕まるだろ。

 

「やぁ諸君〜! 楽しい楽しい歴史の時間ですぞ〜!」

「来るの早いよレイフマン先生…」

「フゥギッギッギ! 本日は愉快な愉快な世界史…の中の近代史、その中でも食糧と被服の歴史なんですな!」

「レイフマン先生の笑い方って独特だよな」

「構造が違うんだろう、レプティリアンだから」

「最近身共は気付いたんですな、チャイムが煩いなら早く来て耳栓しておけばいいじゃない。これぞコペルニクス的転回ならぬマリー・アントワネット的発想、むっ…何か違う気がしますな?」

 

 レイフマン先生は本気で言ってるのか冗談なのかわかり難いぜ、だって表情がわかんないもん。

 でも考えてみれば、さっきの夢野先生も同じか、あとフォンセルランドさんも。違いは無機物か有機物かって程度だ。違いの分かる男になるぜ、俺は。

 

「おっ予鈴」

「グワァァ…! この音が身共を苦しめ…はっ耳栓! 耳栓を着ければこの不協和音が…! 耳に…耳に…入らないっ!? ギョワァァァ…!?」

「サイズが合って無かったんだろうな…」

「学びを得たぜ、試着は大事だ」

「そうだな」

「ヌワァァァ…!」

 

 レイフマン先生が早く授業に来る理由は簡単で、終鈴を聞かないように授業を早く終わらせる為だったりする。チャイムがそんなに辛いのか。まあ…辛いんだろうな。顔色? が悪いもん、いや元からかもしれんね。

 

「ハァー…! ハァー…っ! さ、さぁ子供達よ、授業を開始するんですな! 先ずは教科書の付録、世界地図を…」

 

 他の職業を選んだ方が良かったんじゃないか、レイフマン先生。まあいいか。

 

 そんなこんなで授業が開始してしまえば、そこは流石に皆真面目に受けるってワケ。今日の範囲も予習済みで、ハーバーボッシュ法と二十世紀の人類の歩み。それと被服文化。

 空気から窒素を取るってのも凄いもんだな。空気からパンを作る、そんな魔法みたいな手段で俺達は三食飯にありつけるってのも実感が湧きにくい。

 

「同年代に流行った、というか。これも工業化によって大量生産したものがあるんですな。

 それはボタン、花の名前では無いんですな。諸君らが身に着けているシャツを留めているボタンですな。発生自体は古代のインダスやエジプトに散見されたようですが、普及そのものは十四世紀近く。とはいっても貴族が金銀財宝を服に縫い付ける為で、オシャーレなボタンはロココ調初期の十八世紀初期が目立ちますな。そして一般の庶民が付けるやはり十九世紀の工業化を待たねば……」

 

 物にも歴史あり。だがボタンってのはそんなに最近の物か、一般庶民としては無いのも考えられないけど、大量生産を可能にしたオートメーションって凄えな。よく思うんだけど、結局さ、歴史ってこういう零れ話みたいなのが楽しいじゃんね。そんで興味を広げて詳しくなっていく感じ。勉強って一度嫌いになるとダメだってのがよくわかるよ。

 

「…むっ、終了三分前! これにて本日の授業は終わりですな! それでは子供らよ、号令のち解散!」

「きりーつ」

 

 流石トカゲ…じゃなくてレプティリアン。野生の勘が鋭くていらっしゃるぜ、時計を見ずとも敏感にチャイムが鳴る前の空気を悟るんだから。あれか、皮膚感覚とかでわかるのか? 

 

 さて、と。授業についてはこんなもんで、放課後の時間。俺はヘイトスピーチをデカデカと載っけていた占い系の…いやスピリチュアル系? の雑誌を風間に叩き付けてから、職員室に臨む。理由は復習の為じゃないぜ。何度か耳にする機会のあった、とある政治団体について聞いておきたいのさ。

 

「ちわーす、當真でーす。レイフマン先生居ます?」

「おやおやおやおや、どうかなされましたかな。身共は少々間食をしますが、気にせず用件を」

「…うっす」

 

 偶然なのは百も承知だが。職員室の扉を開けてすぐ、トカゲ人間が恐らくバッタ的な何かの脚を数本持ってたら呆気に取られるだろうよ。

 ヒトの食生活に文句は付けたく無いけどさぁ、絵面がパニックホラーじゃん。怪奇! 蜥蜴男現る! みたいな。

 

「んむんむ…この焦がしショウユがまた良いですな。流石ワイフ、愛情を篭めてくれてますな。當真くんも如何ですかな、おっと一本だけですぞ?」

「大丈夫っす…」

「それは不要の方ですな? 何とも日本語は難しいですな」

 

 焦がし醤油が旨いってのはわかるけど、それバッタに合うのか? 恐らく善意で勧めてくれたのはわかるんだけど、人間の腕サイズの虫は食いたくないぜ。いやまぁ脚だけなんだけど、むしろ脚が俺達の腕と同じ虫とか怖過ぎないか。

 日本語難しいネー的な事を言ってるけど、レイフマン先生の日本語はかなり流暢だ。少なくとも夢野先生よりは何を言ってるのかわかる、あの人は名古屋弁ネイティブだから話が別かもわからんがな。

 

「それで話しとは何ですかな、本日の授業についてか。それとも別の事を?」

「あー…今の日本の政党について…っていうか、政権与党の話とか知ってます?」

「ふむ…自平党ですな、勿論存じておりますぞ。當真くんは政治に興味がおありですかな」

「んや、ちょっと最近話を聞きましてね。知って損は無いだろうと思っただけっすよ」

「それは間違いありませんな。政治とは誰しも無関係ではいられませんからな、現在身共がこうして教職に就けているのも自平党の政策によるものですぞ。

 彼らの結党は新しく、諸君らが生まれた直後程。正式名称は自由平和連合党、略して自平党。主なスローガンは『誰しもに区別なく、全ての平和を差別なく』ですな。まずは衆議院選挙で、身共らのような存在に対しての権利を与える事を公約に当選し、憲法の解釈を拡大する事により労働の自由や納税・教育の義務を与えた訳ですな。それから戸籍登録と罰則規定への同意誓約書に署名する事などを経て、教員免許の取得や学問の追究を可能となった訳ですな」

「ふーん…?」

「身共らのような存在は、外見だけで人を怯えさせますからな。仕方のない事でしょうな。彼らの提出した法案が一つ一つ可決された結果、身共らは帰化と法律への恭順を条件に参政権、つまりは選挙権も得た訳ですな。それまでの軋轢も多くありましたが、現在はこうして身共らのように日常を送れる者も多く。そうした者達は自平党に投票するも多数、故に与党に登り詰めた。と、こんな所ですな。

 ざっくりとしておりますが、ご理解はいただけましたかな? 疑問に対する回答になりましたかな?」

「なるほどねぇ…バッチリだよ。サンキューレイフマン先生、あんま政治ってのは関わんねぇからさ。ちょっと聞いてみたかったんだ」

「関心が出たのなら何よりですな。選挙権という未来は諸君らの手の中にあるのですから、ちゃんと自分で考える事が肝要ですな」

「まったくだぜ、じゃ、俺はこれで。重ねてありがとうございました、失礼しましたー」

 

 なるほどね。どう聞いても、権利を平等に分け与え、その結果躍進した普通の政党。って訳だ。ご立派な事じゃねえの、フォンセルランドさんとかタマさんも恩恵に預かってるのは間違いないだろう。じゃなければ普通に働けてないしな。あ、あとオークさんもか? 

 

「………」

 

 現状、聞いた限りの印象はあまりにも普通だ。

 ただし、最近何故かよく目にするシンボルマークが、言い様のない違和感になってくる。

 あの千々石さんの仕事で吹っ飛んだ車に付いていた鷲のマーク。こちらの様子を伺うようにチサトサンが聞いてきた鷲のマーク。偶然か、それとも。

 

「第一印象だけじゃ、わかんねえもんだよな」

「そうだね」

「オワー!?」

 

 ふと独り言を呟くと、後ろから小さな同級生が! いやレイリーじゃん、心臓が止まるかと思ったじゃねえか。やめてくれよ、俺は一般的な小市民だぞ。

 

「第一印象とは大違い」

「それ褒めてるゥ?」

「そこそこ」

 

 微妙だなオイ。

 髪色にしても同じか、ヒトも見た目だけじゃないし。それは何でも同じかね。ちょっと色々と調べてみようかな。鬼が出るか蛇が出るか、この妙なひっかかりも気のせいならそれが何よりだけどさ。

 

 

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