はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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リザルト&ネクスト

 

 

 

 

 自分で色々と国政政党を調べて見るに、現代日本ってヤツはまさしく激動の時代ってのを迎えていたと気付く。大変だなこりゃ、マジで。

 

 下手にノーマルな人間と近いが故の半端者扱い、それが発端となった『ホビット民権運動』。一般からは自分達に似ている異物。妖怪なんかの『噂』連中からは、ヒトモドキ扱い。就職も不利どころか商売にも影響があって、不平等な契約が結ばれに結ばれまくった結果、暴動に近い事が起きた、と。

 

 事を収めたのは自平党。当時の党首がエルフやホビット並びに妖怪だのを含めた人外達に、平等な労働形態と賃金の支払いをする事を企業側に義務付ける条例を議会に提出してから承認。その後罰則のある法案に格上げ。そこに至るまで不等な労働・賃金の搾取だのは沢山あったらしい。ストライキ権は労働者の正当な権利ってのも含めて、ただの人間以外にもその権利は拡充されていったと。

 まあな、ホビットの方々は大人になっても子供サイズだ。そこに漬け込んで賃金を渋ったり、会社側が大人どころか人間だと認識してなかったとか言い訳して、気に入らないヤツからスパッと首を切るなんてのもあったりか。

 

 次は…えー…『転生者人格殺人』ね。

 ある時、自分の子供の性格・嗜好が全く別の何かに変わってしまった事に気付いた夫妻が、子供を精神科の医師の下に連れて行くと、夫妻の聞いたこともない名前を名乗り、自身を転生した存在だと口述。(以下該当する子供を甲と表記する)甲は本当の子供であった当時の記憶は所持していながらも、いわゆる魔法と称されるような能力を振るいたがるようになり、罪の概念を知りつつも脅迫や器物損壊、最悪の場合殺人未遂にさえ至るようになった。甲の後の弁明では『自己防衛』や『殺意は無かった』といった責任認識能力が欠けている様子が見られ……。

 

 …いや、もうこれを聞くだけで怖いじゃん。つまりさ、一般的には愛の結晶とも言われる子供が、ある日突然誰かに乗っ取られるんだろ? 記憶の有無はさておいても、サイコホラーじゃんね。ま、それは置いといて続きだ続き。

 

 甲は精神鑑定の結果、その精神を転生者(以降乙と表記する)に奪われており。脅迫等に対しての責任能力は無いと弁護側は主張。しかし検察側は、甲は乙の精神によって上書きされた為、この時点で刑法204条『傷害罪』にあたり以降の犯罪行為についても一定の責任能力があると反論。傷害罪には精神的な損害も含まれると解釈されているので、刑事責任上は傷害罪を始めとした罪状を鑑みて懲役十年、民事責任についても民法709条の不法行為の相当するとして不利益を被った被害者等に第一審では請求権も認めた。

 これに乙は控訴。第二審では甲の両親が証言し、乙との親子関係を否定。乙もまた過去の経験の齟齬、複数回に及ぶ更なる精神鑑定の結果により精神的連続性が否定された。この事から肉体は同一ながらも、そこに宿る精神つまり甲の人格を殺害・消去せしめたとして傷害罪ではなく殺人罪の適用とされる。

 これが日本で行われた最初の『転生者人格殺人』の判決であり、その後の裁判にも引用される判例となった。

 

 ふーむ…まぁ妥当じゃねえのかな? 

 誰かでいた時の記憶で、誰かの人格を塗り潰してれば、それは洗脳とかその手の物と変わらないよな。視点の違いってヤツかもしれないけど、その子の将来や経験に対して、人生ってモノの操縦桿を勝手に握っておきながら、前より良くなったからイイだろうってのは。やったのは神サマだか何だか知らねえけど。そこらの木を無断で切り倒して、素晴らしい芸術作品にしてやったんだから許してくれ。って理屈みたいで俺は受け入れられねえな、あくまで個人の意見ね。

 

 さて、やはりこういった混乱が予期される存在に対し法整備を進めたのは自平党。

 市政の混乱を非常に招きやすい彼ら『転生者』に対して、発見と抑止を兼ねた精神鑑定を義務教育期間に行う事を強く推奨した。診察料は無償で、不振に思った親族やそれに近しい者達が連れて行くか、教育機関に勤める教員の日常的な観察による報告で診察を促される場合も多い。

 そして『転生者』には。犯罪行為が発覚等の緊急時に限り、マイクロチップによる追跡同意許可。また人格を上書きしていた場合、既に先述の傷害罪が適用される事が妥当として重大な犯罪でなくとも執行猶予がほぼ付かない等の罰則規定法案を提出し、これを採択。

 あくまで上記の対象は『転生者』である。児童がそうだと発覚した場合には肉体の縁故者。つまり両親から『転生者』の戸籍を外す事も可能。これは縁故者が『転生者』が起こしかねない騒動に起因する風評被害を防ぐ目的に行なわれる措置の一環とする。

 しかしながら、これらの罰則や実質的な行動の制限に関しては。憲法13条の個人の尊厳を前提に18条、31条、33条のように奴隷的拘束の禁止、罪刑法定主義、身体の不拘束を鑑みた場合。法の不当な拘束として目下改正の議論が行われている。

 

「…ふーむ…」

 

 ざっくりと書籍や資料に目を通してみたが、自平党って連中が通した法案で目立つのはこれらだな。まだまだあるが、大体こんな感じ。

 

 近年に施行された法案や条例は、およそ自平党が通したもので、世の中ってのは大概上手く行っている。わざわざ今みたいに自分から判例集の雑誌を見る、そんな人間も少ない。経世済民なら言わずもがな、政治もまた同じって所だな。

 

「さて、と…」

 

 何だか気怠くなった腰を持ち上げて、図書館の資料を戻したりカウンターに持って行ってと。

 ここは国会図書館、蔵書数は当然国内一を誇る素晴らしい知の宝庫。ただ面倒だなと思うのは館外貸出はしていないので、クッソ高いコピー代を払うか、それとも読んだ物を頭に叩き込むか、手間を惜しまず全部書き写すかのどれかしか持ち出しの術が無いんだよね。

 

 どこからどう見ても勤勉な高校生っぷりを披露しつつ、いつものバイト先へゴーだ。金髪といえばちょっとお馬鹿、そんなイメージを払拭していきたい所存。こういうね、草の根活動が必要なんだよ。

 

 いや待てよ。バイト先に向かう前にあそこに行っておこう、会えるかどうかは別としてやる事はやっておかなきゃな。

 

 という訳で国会図書館から、歩いて電車に揺られてまた歩いてほんの数十分。

 

「おーんおんおん…!」

「……」

 

 場所は新宿。そう、ここは迷宮所在地。物騒で猥雑で無情な混沌そのもの。大概の人間に近い連中は、ここで迷宮に命を投げ捨てに行ったりする。もしくは真面目に店をやったりもしてるんだろうが、人口と比例しているかといえばそうでも無いんじゃねえかな。

 

「おーんおーんおんおんおーん!!」

「………」

 

 小さな子供だって、ここじゃあ物盗りだってのも珍しくない。そう、目の前で泣いてるガキが居ても放置しておくのが無難な判断ってワケ。

 

「おーんおーん!」

「おいどうした、お前さっきから矢鱈とギャン泣きしてるけどよ。母ちゃんと逸れたか、それとも何か盗まれたか?」

「おーん?」

「おーんって何だよ…」

 

 ひょっとして喧嘩売ってんのか、このガキィ…! 

 すぐ近くでこれみよがしにギャン泣きしやがって、男は簡単に泣くもんじゃないって教わらねえのか? …教わらねえのか、そっか。俺は晴子センセイからそう教わってるぜ、ちょっと前時代的な人だったからな。普通に拳骨食らわせてくるし。

 

「にいちゃん、誰?」

「お前こそ誰だよ、人に名前を聞く時にはまず自分からって教わってねえのか。親と逸れたのか?」

「白樺 大樹…」

「あー、あー…悪かったよタイキ? でいいんだよな」

「父ちゃんどっか行っちゃった…だから母ちゃんが探してて、それで、母ちゃんもどっか行って…」

「わかった、わかったって! 泣くなよ大樹!」

「おーん…」

「お前それ返事なの? マジで…?」

 

 最近のお子さんってのは返事が曖昧でいらっしゃるね。返事はハイかイエスだろ、これは違うか。

 

「俺は當真 太陽、ここらへんは詳しくねえから…迷子センター的な物は無えのかな、クソッ…」

「おーん?」

 

 こんな事になるんだったら待ち合わせでもしておけば良かったぜ。辺りをくるくる見回しても、こっちには目もくれず…っていうかわざと目を逸らして足早に去っていく周囲の人間。なるほど、東京砂漠って感じだ。東京砂漠、隣は何をする人ぞってな。

 

「えー…大樹、俺の服の端っこ掴んでついて来い。管理センターに行くぞ、あそこなら迷子くらい引き取ってくれんだろ…たぶん…」

「おおーん」

「その返事やめとけよ、承諾してんのか反対してんのか全くわからねえじゃん」

 

 まあいいか。幸いにして迷宮管理センターまで遠くない。俺から腕を引っ張ってなければ人攫いに勘違いされる事も無いだろう。冤罪は回避したいから、服の端を無遠慮に引っ張られるのも厭わない、苦肉の策ってヤツだ。

 

「にいちゃん」

「なんだよ」

「お腹すいた」

「お前…!」

 

 無遠慮も甚だしいなオイ。出会って数分で空腹をアピールしてくるとか、どういった厚かましさだ? 

 その健康的な同年代よりもちょいポチャ系のボディが持っている蓄えを、今こそ消費して耐える時じゃないのか。というか、そもそも俺が悪人だったらどうすんだよコイツ。いや俺は悪い事しないけど。

 

「お腹すいた…」

「わかった、わかったよ! グズんのが早えんだよ! ちょっとあっちの屋台に寄るから泣くなよ!?」

 

 何だこのワガママキッズ、今更になってそこらに放り投げても許されるんじゃないのかと思わんでもない。冗談だよ、そんな事しねえよ。ただちょっと、何で見ず知らずの子供に屋台の料理を食わせなきゃいけないんだって思ってるだけで。

 

 で、肝心の屋台は…えー何ィ…フィリー・チーズステーキ? 何だそれ…。ちょっとレイリーか、そのご両親を呼んできてくれ。悪いが俺も外国の料理に詳しい訳じゃあないんだよ、一般高校生だぞ。

 

 さっさと近寄ってみれば、まあ流石に正体もわかろう物。フィリー・チーズステーキ。凄いな、カロリーの暴力が目の前で構築されていってるんだけど。

 

「すんませーん、コレ一つお願いしまーす!」

「あいよぉ! 千円でーすっ!」

「…うす」

「おーん?」

 

 おーん、じゃねえよ。思った以上にバカ高えなって考えてんだよ、高校生の懐事情がビックリしてんだよ。周りは暑いのにここだけ寒波襲来しちゃってるじゃねえか。

 

「どうぞー!」

「ああ、あざっす。ほら大樹、食っとけ」

「おーん!」

「そこはありがとうって言うんだぞ?」

「ありがとおーん!」

「………」

 

 わざとやってるんじゃないだろうなコイツ…。

 

「美味しい!」

「そりゃ良かったな」

「にいちゃんも!」

「俺ぇ? 俺はいらねえよ」

「一口!」

「ああったくわかった…ってか、いや一口以上は食わねえよ、お前は渡されたら全部食うのか」

「うん!」

「そうかあ…」

 

 道理でそういうボディをしてる訳だな。オークさんが居たら親子と勘違いされるぞ。

 まあいいや…仕方ないから一口だけ齧るか。

 

「……うん」

「美味しいね!」

「なんつーか…脂、だな…!」

 

 フィリー・チーズステーキ。それは、肉と脂の暴力。パニーニってあるじゃん、あのフランスパンの親戚みたいなアレ。あれに塩コショウで味付けした牛の細切れ肉と申し訳程度の飴色玉ねぎをしこたま挟んで、そこに血管を詰まらせる思惑がありそうな量のチーズソースをパンが溺れる程かけた物。玉ねぎと小麦は野菜だからヘルシーって理論か? 

 

 とにかく知り合いの女性陣が聞いたら卒倒しそうな油、脂、アブラと塩気の暴力が口内を蹂躙していく。肉の脂とチーズの油で、怖くなる程度に喉越しがいい、噛む事を念頭に入れてないんじゃねえかな。

 

 後から知ったが、どうやらこのデブ生産ワイルドカードはアメリカの名物料理が一つらしい。だろうな。

 

「美味しかったぁー」

「早くね!?」

 

 若い内から高脂血症になっても知らねえぞ…!? 

 

 

 

 

 

 将来的にメタボリックシンドローム、あるいは成人病に悩まされそうな腕白ボーイ。白樺 大樹を連れて、人混みを分け入りつつ迷宮管理センターへ向かう。あればいいな、迷子センター。字面が似てるからありそうじゃないか。関係ない? そうか? 

 

「んで、お前の親は居そうか?」

「おーん…」

 

 居るのか居ねえのか、どっちなんだよ。と思ったが、そうか。身長が低いから見渡せないのか。食いっぷりに目を瞑れば、ギリ未就学児くらいだもんな。うん、食欲は旺盛でいらっしゃるがな。

 ならやる事は一つッ…! 

 

「大樹、暴れんなよォッとい…!」

「お、おー! 高ーい!」

 

 そう、肩車だぜ! 

 これで俺の身長約170cmに大樹の座高…たぶん40cmくらい! 普通の人間を超える二百万パワー! いやパワーは関係ないわ、2m程度は行ってると思うけどな。

 

「どうだ、居たかァー」

「おーん…」

「どっちなんだよ」

 

 つい疑問が口から出たじゃねえか。だがまあ考えてもみればわかるか、大樹のパッと目に付く所に居ないんだろう。親御さんも必死になって探してるだろうし、そこにこんな奇行をしてるヤツが目に入らない訳もない。ハズレかね。

 

「これはこれは、トーマくんではないですか」

「ん?」

 

 このどことなく人の名前に慣れてないニュアンスを含んだ呼び方。複数人心当たりはあるが、迷宮近くでそう呼んでくる人…人? は一人しか居ない。

 

「オークさん…か?」

「はい、オーク・紳士・教師です。君は金銭の授受に来たのだと思いますが、そちらのお子さんは…」

「おー…」

「ああ、何か迷子みたいで」

「誘拐ですか?」

「違えよ!?」

 

 流石オークだ、人間的な社交辞令とかは期待しない方が良さそうか。ほぼ第一声で人攫い扱いしてくるとは、中々やってくれるな。誤解されたらどうすんだよ、警察に事情聴取されるのは勘弁だぜ。

 

「冗談ですよ。君はそんな事はしないでしょう、レイリーさんもそうですが。何処かで拾って来たのですね?」

「まあそんな所っすね、話が早くて助かりますよ。ついでと言ったら何ですけど、ここらに迷子センターとかあります? コイツを連れてってやりたいんですけど」

「迷子…センター…?」

 

 おっとカルチャーショック。どうやらオーク文化圏には迷子センターといった児童保護施設や設備は無いらしい。探してた知り合いに会えてラッキーと思ったが、万事上手くは行かないらしい。

 あぁそう、俺の用事は先日の迷宮探索、その分け前についてね。貯金というのもしっくり来ないし、どうするかは決めてあるんで、その話をしようと思ってこんな物騒な所に寄った訳だな。

 

「子供であればこそ、個人で解決すべきなのでは…?」

「この国じゃあそうはいかないんすよ。迷子センターが無えなら参ったな…」

 

 オークって種族はどうやら、獅子は自らの子を千尋の谷に突き落とす的なスパルタ教育が主流らしい。子供が大人の庇護下じゃないってのは…んー、まあ色々な考え方があるよな。そういう事にしておこうぜ。

 

「お困りですか」

「ぅお!?」

「おーん?」

「おや」

 

 この…不気味にぬるっとした感じ。失礼かもしれないが、とにかくそんな女性。全体的に濃紫の髪と白髪が束になって所々に散らばった髪色。それと事務員らしさがあるオフィススーツに身を包んで、目には真っ黒な目隠し。

 先日に竹塚サン達から聞いた所感から、この迷宮所在地での危険人物上位な人。レイリーにとっては、が付くけどな。

 

「目処雨サン…で合ってるよな?」

「おやおやおやおや、覚えておいででしたか。先日はどうも、迷宮管理センターを御利用いただきありがとうございます。ところで、あの女の子は? いらっしゃらない?」

「居ないっすね。居たとしても絶対ここにはっていうかアンタには近寄らせないですけど」

「私の趣味を知ってしまいましたか。小賢しいガキめ…」

「結構口悪いっすよね?」

「あら失礼、うふふふふ…」

 

 癖と口の悪さが誤魔化せて無いぜ、危険な石像コレクター。どうやって人間を石像にするのかは、ほんの少しだけ気になるが…あっ、手口的な意味ね。人を永遠に保存したいとか、そんな倒錯的な話じゃなくてね。

 

「そちらのお子様は?」

「おー…」

「迷子っすよ迷子。あっそうか、ちょうど良かった。職員の目処雨サンに質問なんすけど、迷子センターとかあります?」

「非常食ですか?」

「話聞いてた??」

「……」

「こわい…」

 

 ほら見ろよ、大樹がビビっちまったじゃねえか。オークさんもちょっと呆れてるしさぁ。迷宮近くにはジョークのタチが悪い人しか居ねえのか? 

 

「ふふふふふ、ジョークですよ。目処雨さんジョーク」

「ああそうすか…」

「何処までが冗談なのやら…」

 

 目は口ほどに物を言う。そんな言葉もあるっていうのに、目処雨さんの目は見えない、視力的な事じゃなくて、こっちからは黒い布しか見えてないって話。だからこそジョークも何もわかりにくい、困った受付事務員さんだぜ。

 困った受付兼事務員…? 

 心当たりがもう一人いるな…!? 

 

「本来はそのようなサービスはありませんが、流石の目処雨さんも困った子供は放置致しません。マイクとスピーカーユニットはありますので、こちらで御声がけいたします」

「マジ!?」

「ええ。今ならなんと無料で」

「む、無料で!?」

「おーん…?」

 

 ヤバイ人なんて思っててすまねえ目処雨さん、こんな所で有り難い無料サービスの恩恵を受けられるとは思わなんだ。

 そういえば最初に大樹に気付いてたのも不思議だったんだが、本当に見えてないのか? 何なんだよその目隠し、それも趣味だったりする? 

 

「じゃあ大樹…この子供も任せていいです? これから用事があるんですよ、俺」

「ふふふ、任せれますよ。うふふふ…」

「コイツに何かやったら殴りますよ、本気で」

「あらあら怖い、何もしませんよぉ…ふふっ…ふふふ…」

 

 ふ…不安…! 口の端だけ持ち上げて、下弦の月みたいにニタァっとした笑いで任せろとか言うか普通。やっぱ迷宮近くってのはダメだな、モラルがハザードしてる感じがプンプンするじゃんね。

 

「じゃ、そういう訳で。大樹、気を付けろよ。何かされたら警察に逃げ込め。そんで父ちゃん母ちゃんが見つかるといいな」

「にいちゃん…」

「ん?」

「…ありがとおー!」

「…別にいいって、じゃあな」

 

 まったく、変な話し方と変な返事のワガママボーイだぜ。さっさと両親見つけて、お家に帰りなッ! 子供にこんな物騒な所は似合わないぜ! 俺も含めてな!! 

 あーあー、そんな律儀にこっちに手ぇ振らなくていいんだよ。前見て歩けよ、転ぶぞ。…っていうか目処雨さんってマジで見えてるな、あれで。大樹と手を繋ぎながら、誰にもぶつかる事なくスルスル歩いてるもん。どうなってんだ…? 

 

「…うっし、これで野暮用は終わり。そんでオークさん、金の話なんすけどぉ…」

「やはりそうでしたか、ここに現金は無いので一度私達の住居に…」

「いいや。その金さ、チサトさんの生活費にでも充ててくれよ。事の発端はウチのレイリーだし、一回助けといて後はハイサヨナラってのも心苦しいじゃん?」

「…ふむ…?」

 

 まあ何というか、迷惑料っていうかね。人ってのは生きてるだけで金銭を含めてコストが掛かるもんだよな。いや、人に限らず生き物って大体そうか。だからまあ否が応でも働かなきゃいけないんだし。

 そうすると、だ。

 そもそもの戸籍や出自が怪しいチサトさんってのは、何処で働けってんだよ。という話。竹塚さん達と一緒に迷宮探索しに行くにしろ、戸籍を用意して普通に働くにしろ先立つ物は必要だろう。袖振り合うも多生の縁、泡銭で悪いけど、支度金にしてくれればいいよな。俺が大金持ってても使わないし。

 

「これからの支度金にでもしておいてくれよ。拾ったヤツには拾った責任ってのが、人間にはあるんだぜ?」

「ふーむ…」

 

 真っ茶色の顎下を片手で撫で付けるオーク氏。いたく感心しているというかね、珍しいモノを見たって言いたげな声色だ。そういやオークの毛色って髪色占いにカウントされんのか? 

 

「俺、何か変な事言いました?」

「トーマくんが来る前、といってもほんの数日前ですが。レイリーさんも私達に似たような事を言って来たのですよ、人間とは何とも面白いですね。これが一蓮托生というのか、困った時はお互い様というのか。人間の助け合いの精神には目を見張るものがあります」

「えぇー?」

 

 何だよカッコつかねぇな、先越されてるじゃんね。

 ま、いいさ。兎にも角にも分不相応な金なんて高校生には過ぎた物だっていうのは間違いない。下手に裕福になったら知らない親戚が増えそうじゃん。こちとら天涯孤独だっていうのに。

 

「…と、とりあえず。そういうコトで…」

「ええ、わかりました。チヒロにしっかり伝えておきます。もしも気が変わったらまた会いましょう、何があるかわかりませんからね」

「はっはァ、そりゃ確かに。そんじゃまた!」

「はい。また会える時を楽しみにしてますよ」

 

 男に二言は無いぜ! 

 もし金で困ったら…そうだな…千々石さんとかにまずは相談だ! フォンセルランドさんとタマさんはダメだ、利息が酷いことになる予感がするからな。

 

 さて、そんなこんなで用事は大体終わり。

 本格的にちょっとした探しモノでもしようかね。金の話じゃないから、大人の手も借りてさ。

 

 

 





う、うわあああ(PC書き文字)
作品評価とお気に入りが増えている!

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