はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

106 / 115
(en)count. 探しものはなんですか?

 

 

 

 

 連日連夜の跡地捜索、というかまぁ…馬鹿みたいな妄念っていうかね。昔への執着と言ってもいい。

 成果は今のところ何も無し。ただの不審な高校生が深夜徘徊をしているだけってのが現状だ。お陰で寝不足だよ、でも寝不足程度で済んでるんだからこの身体も便利なもんだ。全く感謝なんてしてないがな。

 

「アア、オワッタ………!」

「の、のっ…野上さん…」

 

 今は全科目での試験が終わった所だ。

 銀河の英雄にでもなったかのような台詞とリアクションで、机上に顔面をへばりくっつけているのは野上だ。野上はね…勉強が不得意でいらっしゃるからね…。どういう意味で終わったのかは聞かないでおこう、これも武士の情けってヤツだ。なんか違うな? 

 それと野上に話しかけてる薊の点数もよくわかんねえな、目立つ程悪いってのも聞かないし。

 …まあいいか。

 

「當真はどうだ?」

「あん? そりゃあもうバッチリよ、そっちは?」

「いつも通りだな。しかし意地の悪い問題というか、数学の漸化式はいいんだが…」

「階比と対数型まで出す事無いよな、絶対に満点取らせないって暗い情熱を感じるぜ…」

 

 さらりと出来を確かめてくる颯。残念だったな俺がいる限り、お前の成績は学年で二番目だ! 全学年合わせたらたぶん生徒会長サマが一番だ!! …あの人本当に普通の人間か? 

 それにしても受験や入試に片足突っ込んでる問題を出す人って何考えてんだろうな、俺はビックリしちまったよ。一次分数型までは出してねえから手心がある…のかもしれない。そうでもないな、生徒イビリが好きなんだろうたぶん。

 

「…そういやレイリーは?」

「彼女は…」

 

 普段だったら野上に話しかけているか、それとも俺の後ろに出現する小さな同級生を探す。テスト終わりなんだから、はしゃいでそうなもんだが。

 

「……ぅ…ぅ…」

「レイリーさ…と、溶けてる…!」

 

 なんてこった、哀れにもレイリーはメルトダウンを起こしていた。最後の科目が地理と古文だったから脳が限界に来ていたみたいだな、かわいそ…。

 白色スライムと化したレイリーはさておき。やっぱりテスト終了ともくれば、クラス全体が悲喜交交。その解放感は言わずもがな、間近に迫る夏休みへの期待が教室の空気をどこか軽くしているんだろう。

 それでも自前でテスト結果を予測して悲しみに暮れるヤツもいるけどな、野上とか。あと俺の席の前。

 

「これは一寸危険域でござる…古文、古文ってなんだ」

「愛だぜ。アイちゃん先生の」

「愛ってのは躊躇わない事でござるぅ! されど難問を出すのは躊躇うべきだと思う所存!!」

「愛の鞭っていうから、それじゃないか?」

「はっ…まさか、某と補習という名の愛の個人授業を先生はお望みでいらっしゃる!?」

「そんな訳ねーだろ」

「おおこれぞまさしく蜂蜜授業、なんと甘美な響き。某はねぇ! カワイイおなごとイチャイチャするのも、学生の本分だと愚考するでござるよ!」

「聞いてねーし…」

「愚考って言って本当に愚かな発言するの初めて見た…」

「馬鹿で結構滑稽考古!」

 

 なんだよ滑稽考古、あぁコケコッコーってか。お前に足りないのは考古への敬意だよ。

 

「當真はどうする?」

「ん? 何かあったっけか」

「打ち上げをするそうだが」

「あー…」

 

 あったなそんなの。テスト終わりの解放感に任せて、カラオケだの何だので騒ぐアレね。こうして聞きに来るって事は颯が幹事って事か、大変だな颯も。それと音頭を取ってるのが颯っていうことは、クラスの連中は大体が参加するだろうし、俺も参加するのはやぶさかでない。

 が、それよりも優先させたい事がある。

 

「俺はパスで、また次にでも誘ってくれ」

「何か用事でもあるのか?」

「野暮用ってのがあるんだよ。あっ、いやデートって事にしといてくれ、いいじゃんデート。口にするだけで青春を謳歌してる感じがあるよな」

「何故見栄を張る必要が…?」

「まだ見ぬ出会いってのがあるかもしれねえじゃん!」

「誰と?」

「これから探すんだよォ!」

「おい…當真…」

「え、アッ…!?」

「探すんだ、出会い」

 

 さ、再起動だとォ…! 

 なんと溶けかけていたレイリーはいつの間にやら復活を果たし、颯の陰に隠れるようにして会話に参加していたのだッ! 何だお前ニンジャか、ニンジャなら俺の前にいるぞ。

 

 じゃなくてね。凄く冷たいというか口に出すにも憚られるしかなり最悪だとは思うんだが。レイリーがこんなのに好意を持ってくれるのは嬉しいよ? そりゃあもう嬉しいさ。だって男の子だもん。でもその…こ、告白ってヤツを一度断っているワケだよ。告白ってスゴイな、思い浮かべるだけで気恥ずかしくてヤバイ、現在の俺の語彙力もヤバイ。

 

 つまりはさ、あの時断ったのと似た理由なんだよ。俺みたいなバケモノに惚れるのはダメだって、一族郎党から縁者友人を悲しみのどん底に突き落とすつもりかって思うね。ガワだけ人間っぽく見える、得体の知れない怪物の例えが俺に対して適当じゃあないなら…。そうだな、人の皮を被った人食い熊を好きになった、なんて言われたら誰だって止めるだろ。

 だから可能性としては友人が精一杯、それでも努力してくれてると思うぜ。更にだ、こ…恋仲でも無いんだから、咎めだてられる理由も無いじゃんね。

 

「じゃあ私もパス。淋代くん、また誘ってね」

「あぁ、野上さんもオレも残念だがそう伝えておこう」

「…あれ!?」

「メリーさんから聞いてるよ、探しものあるんでしょ?」

「自分から変な事態に巻き込まれに行くのは、得策じゃないとオレは思うが。まぁ當真は止めても無駄だろう、怪我だけはするなよ。姉さんが泣くぞ」

「や、ヤダァ…! 二人とも聞き分けがいいじゃないッ」

「何その口調」

「恥ずかしがってるのさ」

「冷静に解説してんじゃねえよ!?」

 

 こういう時に極めて冷静に扱われると逆に困る。ギャグのつもりの発言を解説される羞恥に似てるよな、似てるっていうかそのまんまだけども。

 

 …ん? 

 何か引っ掛かるな。俺が何を探しているかレイリーには直接話してないが、本人の言う通りフォンセルランドさんから聞いたんだろう。それはわかる、うん。

 でも何で颯が知ってる体で話してるんだ? 

 

「話は聞いている、というヤツさ。當真の暴走癖は今更止めようもないだろう、余程の危機に陥ったら手助けはするが。説教をしても無駄なのは以前から変わらない」

「お、俺のプライバシーは…!?」

「危なっかしい奴相手でも、首輪もリードも着けない程度の良識はある。そういうことさ」

「首輪…!?」

 

 俺ってそんなに危なっかしいかなァ!? 

 むしろ普通だよな、極めて一般的かつ善良な方だと思ってるんだけど。

 というかレイリー。首輪、なるほどその手があったか。みたいな事を気付いた表情してるんじゃないよ、倒錯し過ぎてるぞ。

 

「フッ…レイリーさん、そろそろ席に戻ろう。真中先生が来ると思うよ、最近どうも…体調が優れてないように見えるから、あまり心労をかけないようにしよう」

「うん」

「そういやそうだな。テスト前後はいつもより酒とタバコの臭いが酷えけど、ここ最近はマジで疲れてる感じだ。悩み事でも出来たか…? まさかこ…恋…!?」

「えっ恋…?」

「可能性は無きにしもあらず、だがな…噂をすればだ」

 

 ま、まさかそんな。アイちゃん先生に限ってそんな…いやあり得るか。見た目だけはアイドルって方々顔負けだもんな、実物のアイドルなんざ見た事ないけど。昔のアイドル写真とか見るに、あの先生まるで見劣りしないし。でもなぁ、アイドルが酒とタバコに溺れそうってのもダメだよなぁ。坂本先生みたいに、そういうのが良いっていうか、そういうのでも良いってニッチな人がファンになるかもしれんけど。

 

「うーぃガキども…席に着けぇ…」

「テンション低っ!」

 

 カラリと力無く教室の扉を開けて開口一番がこれかよ。言うに事欠いてガキどもはマズイよ先生、PTAとかが黙ってねえぞ。

 

「悪い、先生ちょっと最近疲れてんだ。大人として情けないってのは百も承知してるんだけどさ…」

「私生活ですかー?」

「どうかな…あー…半分ぐらいは私生活かもしれない。まぁあんまり気にしないでくれ。大した話じゃないし」

「えっ気になる!」

「恋愛ですかなァ!?」

「ちげーよ…!」

 

 あっ違うのね。なんだぁ、てっきりアイちゃん先生の愉快な恋愛事情かと思ってたのにィ。

 

「アレかな…」

「…ん?」

「先生の話はいいんだよ、ほれ号令しろぉー。テスト期間でとっとと帰れるんだから、早く帰りたいだろ?」

「たしかにー」

「きりーつ」

 

 レイリーがポツリと、誰にも聞こえない程度の声量で呟いていた。何か心当たりがあるのか? 

 んー…気になるといえば気になる。が、あまり踏み込まない方がいい気もする。プライバシーって大事だよな。

 

「さて…別にこれといって説教をするような事件は起きてないし。ウチのクラスは平和そのもの、先生嬉しいよ。特に當真と立神がおとなしかったのが大きいな」

「えっ俺ェ…?」

「アイちゃん先生ひどーい! 當真くんはともかく、私は元から犯罪なんてしてないのに!」

「俺だって犯罪はしてねえよ!」

「やかましいぞー…。犯罪じゃなければいいって問題じゃないんだから、あまり人様に迷惑かけないように」

「あれ…本当に元気無いですねぇ真中先生?」

「おれの事はいいんだって…。ま、高校二年なんて慎ましくしておくのが肝心だ。何かあれば受験に響くし、それは将来にも影響するんだよ。先生はそれがわからない奴はこのクラスにいないと思ってる」

 

 学期末、帰りのショートホームルームに相応しいお説教だなぁ。誰もが思う事だろうけど、何で教員の方々ってのは話が長くなりがちなんだろうな。

 

「折角のテスト明けと長い夏休みを台無しにしたくなかったら、穏やかに過ごしてくれ。もしも犯罪に巻き込まれたんならちゃんと親・警察、もしくは先生たちに相談すること。頭の一つくらい、先生たちも下げてやるから。馬鹿な事はすんなよ。あー…以上、テスト後だからって気を緩め過ぎんなって事だ。号令ー」

 

 何だかんだ言うけど、アイちゃん先生ってば優しいんだよなァ。根拠も無しに悩みを解決してやるとも言わないし、分別のある大人じゃんね。

 

「きりー…」

「あ゛!?」

「うおっ!?」

 

 え、なになにィ? アイちゃん先生ってば急にドスの効いた声を出すじゃん。大事な連絡でも忘れてたのか? 

 

「チッ…クソが…。あーいや何でもない、悪い悪い。用事を思い出しただけだから。っセイッ…! 

 よし、さっさと解散しよう」

「…思いっ切り拳を素振りしなかったか?」

「何でもないって。豚…じゃない、虫がいたんだよ、うるさい虫が。ほら、中断して悪かった、号令号令」

「き、きりーつ…」

 

 見事に何かをぶん殴った感じに見えたけどな。虫も見当たらないし。なんだ? アイちゃん先生、新しく格闘技でも始めたのか? 昔は空手だの柔道だのをやってたって聞いたことはあるんだけど、それをまた再開して疲れてるのかね。

 

「じゃ、先生ちょっと席外すから! 教室の鍵閉めたら後で職員室に持ってこいよ、日誌も!」

 

 …何か急に焦りだしたな。火急の用件だったのか? 

 先生こそ慎ましく過ごしてほしいもんだね。大人しくって意味じゃなくて、心穏やかにって意味でさ。

 

 

 

 さてと。

 こっちこそ火急の用事があるでもなし、バイトも今日は同じく、急ぎの依頼が舞い込んでいるわけでも無し。時間はまだまだ昼下がり、家に戻って出題範囲の復習と洒落混むのもいいが。

 

「夜に探す場合は、通話してなきゃいけない。

 じゃあ昼と夕方なら通話しなくても平気って事だろ」

 

 誰に聞かせるわけでもない言い訳をしつつ、ひっそりこっそりと探しものを続けていく。

 都合のいい解釈、それはそうだ。

 だが考えてもみてくれよ、真っ昼間に後ろ暗い連中が堂々と何かするか? しないだろ? ごめん、するかもしれん。空き巣は早朝を狙うって言うしな、おやっさんが言ってたからたぶんそうなんだろう。

 違う違う、白昼堂々犯罪行為に人が手を染めるか否かはどうでもいいんだよ。俺がやらなきゃいけない事は素晴らしくシンプルだ。

 

 あの孤児院の生き残りはいるのか。自平党ってのはモンデンキントと繋がりがあるのか。そして、あの人の身体を弄ったイカレたジジイは生きてやがるのか。

 

 たったこの三つ。

 願わくば、兄弟同然に過ごした孤児院の皆は元気に生きていて。自平党ってのに後ろ暗い所があるなんていうのは俺の思い過ごしで。あのジジイはどっかで死んでるか、それとも刑務所にぶち込まれてるか。

 そうだったらいいなって話。

 

「…ハズレか」

 

 一つ当てが外れる度に、どこか安心している自分がいる。今更どれかを見つけた所で、何か変わるのかもわかりゃしないんだから当たり前だ。

 だったら普通に生活をしてればいい。学校の担任だって同じ事を言っていたんだ、それが普通ってものだろう。わざわざ自分から変な事に首をつっこむのは感心しないってのは、親友にも言われた通り。

 

 でも普通っていうのは、意外と難しい。

 出来るだけ目立たないように生きるのは、まあそこそこ上手くやれてると思う。本当に目立ちたかったら運動系の部活で暴れてイキり散らかせばいい。個人種目でなら、そう難しくない。

 しかし、それをやってしまったが最後。バケモノとしてのレッテルが貼られて消えない物になる。

 望んでこんな体になったんじゃないが。普通に努力をして、人としての枠内で思い出を作る。それはもう出来なくなった。

 

「…次だ」

 

 結局。俺は臆病で馬鹿で羨ましがってるだけの怪物だ。だからこそ知りたい、理由があるなら何で俺だったのかって。

 何で俺には家族が居ない。

 何で俺が改造された。

 …俺じゃなくても、よかっただろ。

 

「……ん…?」

 

 ああ、ダメだダメだ。何か集中して取り組んでる時でもないのに一人でいると、つい暗い事を考えちまう。

 ここは…何だっけ、自平党の東京都内地方組織の元事務所だったっけ。たしかそうだ。しかし面倒っていうか、こんなに多くの事務所とか本部があるってのは凄えな。下世話なのは間違いないけど、お金とか有り余ってらっしゃるじゃん。

 

 これもハズレかと思って立ち去ろうとした時、何か物音が聞こえた気がする。周りに人気は無いし、前みたく元宿舎を改装した住宅でもないんだから、物音がするのは不自然だ。

 

「……開いてる、ってか…」

 

 誰も使ってない場所の筈なのに、自動ドアが開く。おいおいホラーかよ、それとも保守作業とか点検の時に電源を切り忘れたのか。不用心ったら無いな。

 

 よーし…申し訳ねえアイちゃん先生、俺は住居不法侵入の罪をこっそり犯すぜ。だ、大丈夫、周りに監視カメラは無いし、人の目も無い。バレなきゃセーフだって、物盗りでもないんだから。そうこれはひと夏の冒険ってヤツ、誰だってガキの頃に私有地かもわからねえ空地で秘密基地とかやってたろ? それの延長だよ、え? 違うか…? 

 

 一歩、また一歩。足音を消して、物音がした方向を探り歩く。もしも警備の人が居たら困るな、急に後ろから話しかけられたら驚いて失神しちまうぜ。

 

「……何だこれ」

 

 そうして見つけたのは、廊下の突き当り。

 あった筈のカーペットが剥がされて、地下への入り口がそこにある。人が二人は余裕を持って入れそうな大きさの、奇妙そのもの。

 

「こ、虎穴に入らずんば虎子を得ずって言うじゃん。鳴るなアルソ○ク、やってやるぜ…!」

 

 流石にね、霊長類最強には勝てない気がするじゃんね。ところで改造人間は霊長類カテゴリで合ってる? 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。