はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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遅れて申し訳ありませんッ!!
ゴルフで放送時間が遅れたということにしておいて下さい…!


怪奇!sから始まる話 下

 

 

 

 場所は恵比寿駅周辺。立ち並ぶビル群は高く、威圧的で色が無い。それによじ登って叫ぶ者がいた。時間は白昼そのもの、全てが明白に見える。

 

「…あった!」

 

 まずは一つ。自身の思いつきが外れていない事を歓喜する声。声の主は自称一般高校生、當真 太陽。

 

「あったぞォー!」

 

 予想が当たるのは心地が良い。金銀財宝でも見つけたような声が木霊する。

 場所は恵比寿である。日本の都心における、どことなく垢抜けたオフィスビルの郡立する都市。

 

「………」

「…通報した方がいいんじゃないかしら…」

「泥棒?」

「撮影とか…?」

「…アッ…!」

 

 人の視線には気をつけよう。

 行き交う有閑マダムから企業戦士、暇を持て余した学生程の男女。ビルによじ登って奇声を上げる、誰が見てもちょっと危険な高校生らしき子供に不審の目を浴びせる。通報するかしまいかで逡巡している方々に感謝をすべきだろう。

 これはどう見ても不審者だ。さもなくば何か危ないおクスリでもキメてらっしゃるに違いない。

 

「はい、こっち見てー。ルックアットミー」

「なんだとう!?」

「はいポーズ、ポーズ取って」

「こ、こうか!?」

「はーい、いい感じいい感じ」

 

 不意に向けられるカメラ。

 そして不意打ちのポーズ要求。

 人は不可解な出来事に直面した場合、安易な結論に飛びつく。正常性バイアスとも言い、都合の悪い情報を隠してしまう。それが今回、どのように作用するか。

 

「撮影か…」

「やーね、許可取ってるのかしら」

 

 案外と上手く誤魔化せたようだ。

 衆目が散らばっていく事に安堵しつつ、當真が猿もかくやというべき速さで地上へ戻った。

 

「サンキューレイリー、いや本当にマジで助かった。正直死ぬかと思ったぜ、社会的に…」

「環さんに任せれば良かったのに」

「善は急げって言うじゃん!」

「不審者として捕まったら本末転倒でしょ」

「あぁ…結構さ、正論で殴ってくるよね…」

「で。あったの?」

「お、おう…」

 

 何も衆人環視の耳目を一身に引き受けたいような、破滅的願望の半歩手前の活動が目的ではない。

 當真の手に握られているのは、レイリーが咄嗟に誤魔化す為に使用したカメラと同型の物。そして手紙。

 意味するモノは間違いなく。

 

「それと同じヤツがバッチリな。どうにも回収前みてえだ、これで犯人の一歩先ってワケ」

「よかったね」

「おうよ!」

 

 當真の推理。それは地図を広げ、カメラがあったであろう場所と、手紙が置いてあった地点を線で結んだ時に現れる形。

 高輪ゲートウェイ駅、白金高輪、広尾、不動前、大崎。そして今見つかった恵比寿。それぞれを直線で結べば。

 

「円形っぽいよな?」

「そうだね、ちょっと歪だけど」

 

 歪んだ円に近い形が浮かぶ。

 無論、その事は他の探偵事務所の人員にも伝えてある。現在二人で、當真の推理を確固たるものにしているのは無駄足を踏ませない為だ。

 

「これでこのカメラから悪趣味な盗撮写真が出て来たら、それと指紋を証拠にしてもう一回警察に行けばいい。流石に動いてくれるだろ、消息不明ってのはマジだし蘭々さんが居なくなってから何日か経ってんだ」

 

 公的機関の介入により、これにて一件落着も近付くだろう。何より警察も無能ではない。まことしやかに囁かれる『噂』は有れど、全てが凡骨たり得ないのだから。

 

 考えられる捜査活動として、カメラの購入履歴から電化製品売り場を虱潰しに探るだろう。探し当てたカメラは決してインスタントカメラのような安物ではない。拭き取っていなければ指紋も付着しているのだから、あとは人海戦術で捜査網は狭まる。

 

「私達に出来る事は終わり、だね」

「そういうこった。ま、俺なんかに先回りされるようなマヌケなら、時間さえありゃ捕まるさ。

 にしても…何かベタつくんだよな、このカメラ。手袋しといて正解だぜ、全くナイスアイデアだレイリー」

「私達の指紋が付いてたら勘違いされるでしょ」

「だな。んじゃ戻ろうぜ……最近やたらと腹が減るから、ちょっと寄り道していいか? ちょうど昼だし」

「デート?」

「違えよ??」

 

 残る疑問は時が解決する。

 如何様な動機とて、人を攫う悪人に容赦は不要か。

 

 

 

 

 しかしながら、時が解決するというのは被害者の身からすれば、あまりに悠長な言い分だ。

 

 

 

 

 不夜城とも称される東京。特に新宿であれば、目に優しくない電飾の明かりが夜を焼く。

 闊歩する人々は、それぞれが項垂れ、または酩酊し。陰気に、あるいは陽気を振りまく。

 そんな東京でも有数の地価を誇り、住む人々は別称を誇る場所が一つ。

 

 白金。

 

 成金も多く住むが、いわゆる落ち着いた金持ちのステイタスとなり得る住所。ここも例に漏れず、街灯や二十四時間営業の店舗が光源となり、昼間程とは言わないまでも夜の帳を撥ね退けるには充分に眩い。さりとて暗い影が覆う場所は必ず在る。

 

 不夜城の光が届かぬ都会の間隙。その中でも一際暗い、改修予定の廃ビルが一室。

 予定通りであればとうに取り壊されている筈なのだが、とある男が工事を遅らせている。

 

 男は金を持っていた。

 本人が稼いだ訳ではない。かといって天運に委ねた賭博の結果でもない。転がり込んだのは親の遺産。

 男は働いたことが無い。

 男の親は義務教育から高校、大学と一通り面倒を見た後。これで独り立ちすると思っていた。しかし就職しても長続きせず、両者比較して長いのは無職である期間。とうとう困った両親は、ただ金子で甘やかし、男を腫れ物のように扱った。

 

 親が死んだとしても、別段男は困りはしなかった。

 唸るほどの金銭はあり、土地の権利やビルの一室等、数々の財産も残っている。この廃ビルの一室も同じで、男の親が遺した物。

 

 金はある。それでも生きていく上で腹は減る。

 糞尿もすれば食事も必須、誰とも話さなくなった男であろうと欲求は例外なく身体を突き動かす。

 

「いらっしゃいませー」

 

 仕方無しに足を運んだコンビニエンスストアで、男は天使を見た。

 手に触れた。

 言葉を交わした。

 彼女を知った。

 彼女の名前は田中 蘭々。

 男にとって、久し振りの光だった。

 

 それからは彼女をもっと知ろうと思った。

 ひとり親に育てられている。彼女の母は昼はパートタイム、夜は水商売のくだらぬ女。

 学費の足しになるよう、自身もアルバイトで細々と稼いでいる。嗚呼何と健気なことか。

 身長・体重・血液型・今に至るまでの全ての情報を金で仕入れた。

 

 もっと知りたい。

 

 彼女には夢があるようだ。

 どうやら恥ずかしくて、親しい友人にしか言っていない将来の展望がある。何て眩しいんだ。

 

 その夢は、芸能活動。テレビジョンは機能のほとんどを放棄している現代で、そのような事をして何になるのか。コンビニで働き、笑顔で応対するのも練習になればと思ってのこと。なんだ、それは。

 

 誰かを元気付けたい。

 ぼくだけでいい。

 早く沢山稼いでお母さんを安心させたい。

 ぼくだけでいい。

 

 ぼくだけがいい。

 

 それから。それからは簡単だった。

 彼女の家は知っている、だから手紙を出した。未だに小さく残る芸能プロダクションや広告企業の名を使って、ある場所まで移動してもらった。

 写真はその時のもの。自然な姿を撮りたいと言って、お金も払えば本当にすぐに出来た。

 

 後は楽なもので。糸で固定したカメラ使って遠隔で撮影、それを順番に、円を描くようにして撮っていった。そうすれば自分の移動は最低限で済む。

 ああ。でもまるでこの形は……。

 

「ブッサイクな蜘蛛の巣みてえだよなァ?」

「っ!? だ、誰だ!」

 

 背格好と服装からして、中学生や高校生のそれ。

 手には地図を持った、金髪気味の頭の悪そうな不良がいた。なんだコイツは? 

 

「こっ、ここは私有地だぞ! 廃墟めっ巡りなら…」

「知ってるよ。取り壊し予定の廃ビルだろ? あくまでこの一室だけがアンタの権利が及ぶ場所であって、全体からすりゃアンタの持ち物じゃない…土地の権利ってのは面倒だな。

 まあ、それはどうでもいいんだ。

 アンタもどうでもいいだろ?」

 

 訳知り顔で喋る馬鹿っぽいガキ。

 肝試しのつもりでここに来たのか、いや違う。度胸試しの一環だとすれば、こんな所に足を運ばない。

 

「一つ。先に聞いておくぜ。

 最近行方不明になった…えーっと…あっ、田中さん。そうそう、田中って人に心当たりは?」

「…っ!」

 

 何故それを知っている。どこでバレた。

 逃げるべきか。

 彼女を連れて。

 いや…。

 

「な、何の事か。わからない、な。誰だよ、その人。田中なんて、よくある名前…」

「てめえに情報を売ったヤツがゲロってくれたぜ? 田中さんの親に写真を送りつけるなんて、笑えねえ趣味だな。上手くやったつもりだろうけど、カメラの指紋と封筒の糊に移った指紋が同じってのは…杜撰っていうかクソマヌケっていうか…」

 

 ぼくには、この『力』がある。

 

「ベッ!!」

「んなぁッ!?」

 

 やった! この薄暗い中で、今のを避けられる奴なんて居ない。彼らの言っていた通りだ、この力を使えば何でも上手くいく。

 

「は…はっ、はぁっ…!」

「………」

 

 この生意気なガキは放置して、早く彼女の元に戻ろう。そうしたらもっと遠くに逃げればいい。彼らに連絡を取れば、きっと逃してくれるだろう。

 

「…ふ、ふっ。こ、これで蘭々ちゃんと」

「俺は田中さんって言ったんだ。下の名前は言ってねえぞ? …はーめっちゃ痛えなクソッ。ちなみに指紋どうこうもハッタリだよ、カマかけってヤツだ」

「え…?」

「これは…やっぱ糸か。あのカメラも変にベタついててさァ、まったく気持ち悪いったらねえよ。でもこれで三つわかったぜ。

 一つは、アンタが誘拐犯のクソッタレであること。実は自信が無くてさ、高いカメラを複数使い捨て気分で買えるヤツ。その中でも白金に住んでる人、何故かレンズは拘らない珍しい金持ち。探すのに手間取ってこんな時間になっちまった。

 もう一つは、カメラをどうやって固定したのか。正体はこの糸、結構な太さの糸で吊り下げて画角を誤魔化してたってワケだ。しかもこの糸は時間が経てば経つ程脆くなる。

 最後の一つは、てめえに憑いてる『噂』。

『蜘蛛の糸は旅客機も止められる』その辺りだろ?」

「…なんっおお、ま…!」

 

 何故生きているのか、何故わかったのか。それをまるで咎めるように、怒声を張り上げようとしても口が上手く動かない。

 

 

 

『蜘蛛の糸は旅客機も止められる』

 

 様々なフィクション作品で取り沙汰される話。

 不快害虫であって、人間に不利益を齎す訳ではないその節足動物門の虫。日本だけでも一千種を超える蜘蛛が存在する。

 蜘蛛の糸の強度は並外れており、同じ太さの鉄糸と比べれば約4倍以上の強度を持ち。撚り合わせられたと仮定した場合、給水ホース程度の太さになれば旅客機をして2機相当の重さを支える事を可能とする。

 

 だが、あくまで理論上の話である。

 現実にはそこまで糸を束ねる事は不可能だ。理由は単純で、生体から取り出すタンパク質由来の物であるが故に、どうしても劣化してしまう。しかも蜘蛛の種類によっては性能も別々、量の確保も難しい。

 技術の進歩。それが自然の驚異に追い付くのは何時になるのかこそ視界を遮られているようだ。

 

 これは、何かを絡め取る話。

 

 

 

「蜘蛛ってのは体内で縦糸横糸とを使い分けるようにしてるらしいぜ。自然ってのは凄えよな? でも時間が経つとボロボロになるから、何度も張り直すんだとよ。

 ところで、アンタに二つ聞きたい事が出来た。その『噂』はどうやって憑いた? それこそ自然に憑いちまったんじゃねえなら、どこのどいつにやられたのか。これが一つ。

 まぁ、そうは言っても…」

「う、うる、うるるささっ、ギッ!」

 

 男の身体が変形──否。

 これは『変身』である。

 

 肩甲骨辺りから、両腕と更に一対の腕。腰骨から伸びるように新たな脚が、またも一対。額には複数の眼が新たに出現し、口が裂けて牙が生えた。

 蜘蛛。

 そう。人の姿を模した大蜘蛛へと、身を変えた。

 

「あーあー、その調子じゃ普通に喋れねえだろ。最初の質問は後回しだな。じゃあ最後の質問だ──」

「ギギィッ! 死ぃっ、ジネぇ!!」

 

 鋭く、疾く。先刻と同様に口から硬質の糸玉を吐き出す蜘蛛男。様相としては乱射と言って過言ではない。

 当たらぬ糸は空を切っては壁を穿ち、床を刳り。糸という言葉から想像の及ばぬほどの破壊を撒き散らす。故に当たった筈。コンクリートを削る威力の弾丸を、顔も残らないように吹き飛ばして…。

 

「アンタだけに言うんじゃ無いんだが…気にすんな」

「ギヂィ!?」

 

 黒い靄から声がする。

 圧し折れて捩じ切れた筈の首と頭から。

 

「準備は出来たか? 引きこもり蜘蛛男」

「ナ゛ッニ゛ヲ!」

「この部屋から出て、ブタ箱に入る準備だよッ!!」

 

 顕れたのは、黒い骸骨。

 

 

 

 

 

 

 明くる日、何事も無かったように日々は巡る。言ってしまえば迷子や家出、人物捜索は探偵業にとっては日常茶飯。特段の珍しさはない。

 カタカタと軽やかにワードプロセッサの鍵盤を叩く音と共に、當真が口を開く。一連の事件について、報告書作りの為だ。相手は脳内桃色人形なので一抹の不安があったが、背に腹は代えられない。

 

「んで、犯人の男ってのはどうなったんです?」

「大人しく捕まったそうですよ。何でも裸の変質者が出たと通報があって、捕まえてみれば蘭々さんを誘拐した犯人だったとか」

「ストーカーでストリーキング野郎…ってコト!?」

「これには白金ーゼの方々も苦笑いですね。中々レベルの高い変態だとは思いもしなかったでしょう」

 

 捕らえてみれば名うての変態だとは思うまい。世間を騒がせていないので、名うてと言うには半端だが。

 まさか犯人は変態でしたと直球で書くに憚られると、當真が頭を悩ましていた。その時、ふと真面目な疑問を投げ掛けた。

 

「そういえば、俺は聞いて無いんですけど」

「蘭々さんのスリーサイズですか?」

「聞くわけねえだろ! じゃなくて、結局田中さん親娘は何で喧嘩してたんです?」

「単純ですよ、しかもよくある話です」

「ドラマチックなのは期待してねーですよ」

「あら」

 

 高校生のクセに枯れてる…。と咄嗟に言いそうになったのを喉奥で堪えて、メリーが続けた。

 

「蘭々さんは芸能活動に憧れていたそうです。親からすれば夢は応援したくとも、もっと地に足のついた目標がいい。その話を何度もして…ということですね」

「はぁ、なるほどねぇ。やっぱりキラキラして羽振りも良く見えるんですかね、颯を見てると大変そうだなァーとしか思いませんけど」

「少々ヤクザでも、稼ぎが良いのは事実ですから。娘さんは家計のために。親は娘の事を思って…と。何より人はキラキラしたものに惹かれるでしょう?」

「思いやりの玉突き事故みてえな話っすね」

「タマ…!?」

「オッケー、俺の言葉選びが悪かった感じだな!」

 

 親の心子知らず。

 翻っても逆もまた然り。

 明るい東京の夜だけでなく、夢や希望はどうにも輝いて見えるらしい。それが例えどのような色で、偽物かもしれなくとも。

 

「キラキラしたもの…夢、ねぇ…」

「太陽くんは夢ってあるの」

「おわっ、何だよレイリー。俺の心臓が止まったらどうすんだ!?」

「AED持ってきて人工呼吸するね」

「手順バッチリかよ」

 

 一足先に上階の所長室へ報告書を提出していたレイリーが、何となくの疑問を當真へ向けた。相も変わらず足音や気配が無く、話しかけられる側からすれば本当に心臓が縮み上がるかと錯覚してしまう。

 

「それで、夢は?」

「無い…って前なら言ってたけど…」

「けど?」

「やりたい事って言い換えれば、山程出来たぜ」

「…そうなの?」

「おう。夢追い人と呼んでくれッ!」

「ダサ…」

「酷くない??」

 

 なにはともあれ、一件落着。探偵事務所の日常とはこれこの通り。大袈裟な夢のような殺人事件は起きずとも、この世は事件に満ちている。

 

 

 





第一話の怪人といえば…!?
というお話です。
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