はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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Bはお好き? 上

 

 

 

 

 人探しかと思いきや、実際は誘拐犯が引き起こした一連の顛末は警察との連携もあり、早々に方がついた。

 世間ではあまり騒がれることも無く。よくある新聞の一面程度、明日にはまた別の話が盛り上がって、どこにでもある『あぁ、そんなことあったね』と一笑に付されもしない、ペットボトル飲料より手軽な消費物として忘れられていくんだろう。

 

「………」

「こんにちは…?」

 

 私がどう思おうと世界は回る。私は小さな世界を守るのに精一杯だ。

 申し遅れました、私はレイリー・ケイス。どこにでも居るような、普通の高校生兼探偵事務所のアルバイトです。ちょうど今すれ違ったのは、恐らく依頼人の方でしょう。頬がこけて目が少し窪んだ、現代では中々見ないタイプの人。衰弱しているというか、憔悴しきっているというか。食事も喉を通らないんだろうと思わせるに十分な様子。

 不憫そうだなんだと決めつけるには早い。少なくとも事務所から出て来たのだから詳しい話は他の皆に聞けばわかる。そう思いつつ今日もアルバイトに精を出す日々です。挨拶をすればほら、素敵な人たちが…。

 

「仕方がないので選んでください。千葉にある某ランド(夢の国)に行くか、そこらの駅前にある夢の国(パチンコ屋)に行くか…!」

「雲泥の差じゃねえか!? ランドとパチ屋とじゃあ月とスッポンどころじゃねえよ! あと未成年は入っちゃダメだろがい!」

「どちらも夢の国ですよ!?」

「片方が汚過ぎるって話をしてんだよッ!」

「ありったけの(銀玉)を掻き集めて、探しもの(当たり設定台)を見つけに行くじゃないですか」

「銀玉掻き集めてたら既に外れてるじゃん。夢が散って無残な破片になってるじゃんね」

「ふふっ、これが本当のワンピ」

「喧嘩を売り過ぎて骨も残らねえぞ! やめろ!」

 

 We are(店の養分)…!

 

 じゃなくてね。

 何ですかこの会話は。

 

「こ、こんにちは…」

「お! レイリー!」

「こんにちは、レイリーちゃん」

「ちょっと聞いてくれよォ! このポンコツ人形ってば何考えてんだか、こちとら未成年だっつうのにパチ屋に行けって」

「ついさっきまで依頼人の方がいらしたのですが、すれ違いませんでした?」

「痩せた感じの人、ですか?」

「そうです」

「ガン無視だとォ…!?」

「どんなお仕事なんですか」

「これが厄介でして…」

 

 さて。

 今回のお仕事内容は単純明快。依頼人の恋人が本当は何をしているか調査してほしい、というもの。

 

「依頼者の氏名は、鉢屋 霞さん。普通の会社にお勤めになっている…うーん、普通の方ですね。どことなく幸薄い感じがしますけど、かといって変な『噂』も憑いている感じもなく」

「じゃあどうして恋人の素行調査なんて…」

「借金です」

「借金…?」

「単刀直入に言えばいいでしょうがよ。ヒモだよ、ヒモ。鉢屋さんの恋人とは言うけど、金の無心までしてくるヤツなんだとさ。休日に鉢屋さんから金をせびって、そんで仕事を探しに行くって出かけては借金まで拵えてくるから、本当かどうか調べてほしいってさ」

「…はぁ、なるほど」

 

 よくある…といえば、よくある話な気もする。事実として目の当たりにした事は無いけれど、DVとセットになって聞くタイプの話。大体は警察に駆け込んだりもせず、その人にも良いところがあるとか言って生傷を増やしていく。という感じの。

 

 いやぁ私も大変ですよ。あっ、彼氏とかじゃなくてね。家庭の話です。

 

 だってお母さんからは筋トレとか掃除の練習とか、お父さんからは銃の訓練だのと。慣れないうちの、小さな頃は生傷が増えたりもしましたよ。でもお母さん曰く普通のことらしいので、各ご家庭なりにそういったルール的なものはあるんじゃないでしょうか。

 個人的には、家だと裸族の方がいらっしゃるという方が信じ難い。家族間でも恥ずかしくないのかな。

 

「それで。借金でパチンコ屋は何となくわかりますけど、何で夢の国に?」

 

 変な事といえばだ。パチンコとか…スロット? で、多額の借金を背負ってしまう、そんな話ならいくらでもありそうだけれど。どうして某県のランドの話もあるのだろうか、それこそ借金をしてまで行くような場所ではないだろうに。

 

「…ちょっと言い難いんですが」

「消されかね無ぇ話でな…」

「?」

「ちょっと前に、あのランドに行ってから借金の金額が跳ね上がったらしいんだよ」

「なんで?」

「フォンセルランドさん…!」

「仕方ないですね。レイリーちゃん、一度しか言いませんよ。それと周りに言い触らしたらダメです、闇に葬られますよ」

「え……」

 

 

 

『夢の国の地下にはカジノがある』

 

 某ランドのリゾート。その地下に秘密のカジノが存在するという。

 この都市伝説は、アメリカの方の本家パークにあった会員制レストランであるクラブ33や、一般には公開されていないキャスト用通路など地下空間兼通路の存在が、年月を経て尾ひれがついて出回った話である。

 

 クラブ33は完全会員制のレストランであり、入り口に看板は存在せず。そして目立たない場所にある為、限られたVIPにのみ開かれた社交場として、この噂話の発端になった。

 そして実在する地下空間が、その噂を補強した。また社名を冠するウォルト氏本人がギャンブル好きであったというのも、余計に信憑性をもたせてしまった。

 当然だが、本来は純会員制の飲食施設。特段後ろ暗い事もないので、クラブ33はカジノではないと公式から説明もなされている。

 

 これは夢の国の、更なる夢の話。

 

 

 

「と、いうわけです…が…」

「噂が出回ればマジに存在しちまう。ってことはだ」

「あるんだ、カジノ」

「………」

「………」

 

 触れたら危険な話だね。

 これから黒い丸を三つくっつけたような形には気をつけなきゃいけない、そんな気がする。

 

「ま、まぁ。日本でも会員制クラブは実在していたんです。確か会員券が無くとも、とあるカード会社の最上位クラス所持者であれば利用出来たとか」

「へーぇ、そりゃあ知らなかった。会員制って割には結構開けてたんすね」

「主に接待用で使われていたそうですよ? グッズ等の物販も特別な物が置かれているそうです。カジノはさておき、いつか行ってみたいですね」

「メリーさん、小物好きですもんね」

「カワイイものは何でも好きですよ!」

 

 メリーさんは結構ファンシーな物が好きだ。書類をまとめる為のクリップ入れは、小さいハートがワンポイントになっている陶器製の小物入れ。私物のティーカップにはキャラクターが印刷されていたりする。私とは女子力が違うね、環さんもかな。やだ……私達のガール感無さすぎ…!? 

 

「そんで、問題はどうやってそこに入るか。パチ屋に入る瞬間を撮る程度だったら楽勝だ、見た目の写真もあるし住所も割れてんだからな」

「じゃあわざわざランドに行かなくていいんじゃない?」

「言ったろ? 借金が膨れ上がったんだよ」

「どうやら借入先が違うんです。パチンコ屋の軍資金には大手ローン会社から…ですが、こちらは鉢屋さんが返せる程度の金額だそうな」

「意外と…少ないんですか?」

「信用の無い個人が借りられる金額ですからね、バックがヤの付く方々からは借りない程度には理性があるようです」

 

 よかった…闇金的な話にはならないんですね。流石にただの女子高生としては、今日からヤの付く自営業の人たちとは対峙したくない。というかお近付きになりたくない、だって怖いでしょ。

 それにしても鉢屋さんって凄いんですね、恋人の借金が増える度に返せるなんて。甲斐甲斐しいと言えばいいのか、自己犠牲精神に歯止めが効かないのか。

 

「借金をした本人には見せないようにしているそうですが、この謎の督促状が問題でして」

「………」

 

 うわぁ督促状ですって、本当に督促状って書いてあるんだね、生まれてこの方始めて見ますよ。

 書いてある内容は…何だろう…? 

 

「月に一度、カラスが鳴く…?」

「カラス金、というものでしょうね。朝に借りて、夕方までに返さなければ高利率で利子が付く。もしくは夕方に借りたお金を朝までに返さないと…など。由来は様々ですが、カラスがカァと鳴けば返す額が跳ね上がるということです。

 現在伝わっている金利でも高いもので最高一日一割、当たり前ですけど、正しく法外ですよ」

「一割…!?」

 

 一割、それはつまり10%ですね。百万円借りれば一日で百十万…こ、怖い、正気じゃない契約と言わざるを得ない。借金には気をつけよう。

 

「契約内容もわかってはいませんし、この督促状も金額と振込先と、現金で渡す場合の窓口についてのみ。そして窓口の場所も住所があの舞浜です」

「なるほど」

「ついでに…ってのも変だけど。流石にヤバい借金が何度も増えるのは勘弁って話で、ヒモが会員証を持ってんならどうにかして無効にするか、店に掛け合って出禁にしてくれとさ。

 電話ならさっきフォンセルランドさんが掛けたんだけど、そんな施設は実在しておりませんの一点張り。強盗紛いの事をして会員証をぶん取る訳にもいかねぇし。こうなったら、ヒモ野郎の後を尾けて店に入るしかねぇんだが…」

「肝心の会員証が無いんだ」

「私は年パスなら持ってるんですけどね」

「え、凄い…」

「マジすかフォンセルランドさん…」

 

 年間パスポート所有者…実在してたんだ…! 

 いや流石に年パスが実在してるのは知ってますよ、でも本当に持ってる人が身近に居るとは思わないじゃないですか。メリーさんのカワイイ物好きが、まさかここまで極まってるとは思わないよね。

 

「月イチで元は取れますからね、本当に予定の無い時にふらっと行くんですよ。平日ならアトラクションも乗りやすくて良いんです、パレードも前列で見れてお得!」

「わぁ…」

「いやマジ凄いっすね」

「ふふふ、そうでしょうそうでしょう」

「寂しい一人モンの疲れたOLみてえだ!」

「は?」

 

 あっ…。

 

「ふー…それで、私が夢の国に行くのは良いとして」

「前が見えねえ」

「………」

 

 顔面がブラックホールみたいになったノンデリくんはさておき。メリーさんは夢の国に年パスで入れるとして、他はどうするべきか。

 

「私だけというのは難しいですからね。速く歩けませんから、尾行に向いていません。経費として請求するにしても事務所の全員ともいきませんから。空振りに終わってしまった場合、事務所持ちになりますし…」

「会員証の問題もあるんですよね」

「ええ」

 

 不謹慎ながら、ちょっとだけワクワクしている自分がいる。あくまでお仕事だし、悩みを抱えた人が切っ掛けなのだから、そういった心持ちが適さないのはわかってる。

 けれど潜入や尾行、まして中々見ることさえできない場所に行くかもなんて、どこか浮ついた気分が出て来てしまうものではなかろうか。

 

「早くした方がいいのはわかっていますが…さて…」

「もしかしたら、あてがあるかもしれないです」

「あら! 本当ですか!」

「はい。私の…」

 

 可能性の話ですけれどね。外した時は申し訳ないけれど。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。一つの可能性に賭けてみるのもいいんじゃないでしょうか。

 と、私が話し始める前に事務所の扉が遠慮なく開く。

 

「会員の当てが見つかったぞ」

「所長!」

「………」

 

 この…何ですか。私のバイト先こと、この探偵事務所に所属している男性陣は。形容し難い間の悪さというか、むしろ逆にタイミングが良いと言いますかね。

 ……はぁ。

 

 

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