はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です! 作:枯華院 清日
「太陽は……」
「前が見えねえ」
「………」
「いつも通りじゃないですか」
「そうか…」
所長さんが諦めた…!
顔面が四次元殺法的な風味を醸し出している太陽くんを尻目に話が続く。いつも通りで本当にいいのかな!?
「どうやら千々石が接待を受けた事があるそうだ」
「ず…ズルい! 所長! 千々石くんがズルしてます!」
「狡い事は無いだろう、俺達と千々石ではそもそも立場が違う。とはいえ俺達を全員揃って連れ歩く訳にもいかない。他の会員も探すが、これはどうなるかだな」
「家族という設定はどうでしょうか?」
「無理があるだろう…」
全員似てませんからね。顔から体格、性格も全部。
ふーむ…いっそのこと連れ子とか…ダメそう…! というか滅茶苦茶揉める気がする、母親役で。
私? 私は太陽くんのお姉さんでしょう。
「あとは依頼の対象が何時ランドに行くかについて、これは難しくない」
「…そうなんですか?」
「ああ」
ギャンブラーの思考。というより、ヒモの思考かな? そういったものにも詳しいのは、伊達に探偵ではないんだろう。
「負けが込めば、そういった連中は必ず大きく取り戻そうとする。つまり対象がそこらのパチンコ屋で大負けをしてから動向を探ればいい。
更に言うと、ランドにある賭博はパチンコやスロットといった表にあるモノとは違う、恐らく生身の人間が相手をするカジノだ」
「…どういうことですか?」
「機械はあくまで淡々と負けを続けさせるが…」
「人間なら、もっと負けさせる為に敢えて勝たせたりするってコトだよ。賭けた側はそれでとんでもねえ負け方をしても気付かない。
途中で借金までしてチップに変えてるのに、手元にだけ元とトントンくらいの額が残ってれば、トータルで勝ってるなんて言うのさ」
「太陽くん」
「そういう事だ」
顔面陥没から復帰した途端に、朗々と話すじゃありませんか。どうやら過不足のない説明だったのか、所長さんも深く頷くのみで、言おうとした事を先に喋られたのを気にも留めていないようだ。
整理すると。
まずは鉢屋さんの恋人。対象がパチンコ屋で負け続けて、それを取り返そうと躍起になる時まで待つ。それでいいって事ですよね。
「むしろギャンブル中毒にまでなってんなら、そっちの方が楽しいのかもしれねえけどな。
名前は忘れたけど『賭博は絶対に使っちゃいけない金に手を出してからが本当の勝負だ』なんて言った作家もいるらしいぜ?」
「えぇ…?」
「菊池寛ですね。ギャンブルのヒリつきをよく表しているのかもしれません。本人は文藝春秋を立ち上げた売れっ子作家兼実業家なので、ノーダメージだったと思われますが」
「芥川賞や直木賞の設置も行った人物だ。事実はどうあれ、本人の人柄と功績は別けて考えるべきだろう」
有名人の実はクズエピソード…!
というか皆さん博識でいらっしゃいますね。菊池寛なんて名前、転校前の学校の教科書か中学の教科書でしか見た事ないんですが。
「とにかく。俺達は対象が勝とうが負けようがどうでもいい、やるべき事は素行調査だ。ランド内で借金を重ねている、その証拠さえ握る事が出来ればいい」
「それこそ公安のガサ入れじゃないって事っすね」
「そうだ」
カジノをどうこうするというのは公安…つまりは警察の人達の領分であって、私達のような探偵事務所が何かする訳でもない。深入りしない方がいい、ということでもあるんだろう。
蛇の道は蛇とも言いますけれど、無闇に藪をつついて蛇を出すことも無い。そういう事ですね。
「でっ、でっ! ランドには誰が行くんですか!? 名目上経費で行けるんですよ!」
おおっとメリーさん、とうとう耐えかねて本題を切り出しましたね。私としても気になる所はまさしくそこ、誰があの夢の国に入国するかですよ。
実は個人的には楽しそうだけれど、それはそれとしてノリ気じゃない部分もあったりします。だって人が多いじゃないですか、人が多いのって嫌なんですよ。怖いし。わかりますか、この複雑な感覚が。
でも興味が無いわけでもない、むしろちょっと憧れるよね。好きな人と二人で遊園地とかね。付き合いたてのカップルが夢の国に行くと別れるという『噂』もありますけれど、その点私達はまったく問題無し。付き合ってすらないですからね、ふふふ。言ってて悲しくなってきますね。
「俺は…恐らく無理だな。新月か満月であれば行けるだろうが、相手のいる事だ。確実性に欠ける」
「夢の国なら包帯グルグル巻きでもいいんじゃないですか?」
周りも大概浮かれてるだろうから、包帯男のコスプレくらいにしか思われないんじゃないでしょうか。
包帯で顔が見えないなんて、あのネズ耳カチューシャと傍から見れば同じじゃない?
「俺の顔が割れると、後々に響く可能性がある。VIPが居るとすれば、それはつまり政財界の人間も多かろうということだよ。園内ではどこで誰が見ているかわからん、俺の背格好からそのまま身元も割れて、元警官がカジノに来店しようとしたとあれば臨時休店になりかねない」
「なるほど…でも…」
そういえば所長さんの前職は警察官でしたね。菱先グループのあれこれの時、そんな話も聞いていました。
でも、具体的にどんな部署に居たのかは知らない。普通のお巡りさんだったら、そこまで気にする事も無いんじゃないでしょうか。
「…正確にはマトリから警察でな。この顔になったのもそれからだ」
「マトリ?」
「麻薬取締官の略ですね」
「はぇー…それは俺も知らなかった」
「麻薬取締官の管轄は厚労省、警察は公安。と、そもそもの大元が違っている。後ろ暗い輩から恨みを買うのは変わらんがな」
意外な過去…でもないかな?
「昔から厭に鼻が効いてな。元より国家の犬扱いされていたが、そういった奴らの間での、俺のあだ名が『犬』だ。まさか本当に犬に関連する噂が憑くとは思ってもみなかったが…少し喋り過ぎたか。
とにかく、俺は行けないということだ。千々石とメリーか、レイリーくんが行った方が目立たない。環は本人が嫌がるのもあるが、別件の仕事もあるんでな」
「しょ、所長! 俺は!?」
「…まず、千々石が同行する時点で相手は限られる。男二人で遊園地は、無くはないだろうが目立つ。カジノに入るなら尚の事だ」
「ぐうの音も出ねえ…!」
おやおや結構ノリ気だったんだね太陽くん。いつもならこういう時、考え込んでからやっぱりパスで、なんて言い出しそうだけれど。
「何だよレイリー、俺は人生楽しむって決めたんだぜ!」
「そうなの?」
「そうなのォ!」
そうなんだ。自罰的というか、人生楽しんじゃダメくらい考えてそうだったのに。思わぬ心境の変化があったんだろうか? うん、個人的にもその方がいいと思うよ。
「さて、話は終わりだ。あとは向こうの動きがあるまで、こちらは普段通り仕事をして待つ」
「わかりました」
「はぁーい」
「はいっ…ふふ…」
「…?」
おや…メリーさんが喜びが漏れ出たような笑い方をしていらっしゃいますよ?
そんなに嬉しかったのかな、某ランドに行くの。まぁ年パス持ってるくらいだから嬉しいよね、しかも普通は行けない所に行けるんだもんね。
「レイリー、あんま突っ込むなよ」
「なんで?」
太陽くんがメリーさんとの距離を取りつつ、こっそりと耳打ちをしてきた。
「人の恋路ってのは邪魔するもんじゃない、だろ?」
「えっ」
だ、誰が?
誰と!?
「千々石さんとフォンセルランドさんだよ」
「なっ…!」
「メチャ驚くじゃん」
そりゃあ驚くでしょうが!
え、いつから? 私知らなかったんですけど。そりゃそうか、一番新参者だもの。いやそうじゃなくて、ええ? あの言動さえ見なかった事にすれば完璧なメリーさんと、凄くくたびれてる千々石さんが?
「何があって…ってのは俺も知らねえ。もしかしたら無いのかもしれねえしな。
でも、だ。フォンセルランドさんの持ってる小物入れとか、いつの間にか増えてたりするだろ?」
「プレゼントなの…千々石さんの…!」
「そうみたいだぜ。しかもフォンセルランドさんと休みが合う時には、二人でスポーツ観戦だの映画館だのに行ってんだよ。っていうかフォンセルランドさんが誘ってるんだけどな…。プレゼントはその度に千々石さんが買ってるらしい」
おやおやおやおや。何ですかその…何ですか…? 元同僚、友達以上恋人未満という…あの!? 何だかそういう物語的な…!?
これは…っ!
「太陽くん」
「んあ?」
「絶対について行こう」
「なん…だと…?」
出歯亀…じゃなくて。気になるじゃないですか、大人のそういういざこざというか、何か甘酸っぱそうな話。これは是非覗き…でもなくて。最前列の齧り付きで見たいじゃないですか。
今まで、というか転校してここに来るまで人間関係が希薄どころじゃない私ですが、それはそれとして当然他の人の色恋沙汰なんて興味津々ですよ。
数少ない私の周りで言えば。いつもは手早く素早くな野上氏ことのんちゃんは、淋代くんに対してそういう気があるだろうに焦れったいし。しかも行動に移さない、誰かちょっといやらしい空気にしてきてください。出来るだけ光速く。じゃないと生徒会長さんも狙っているそうですから、大変な事になってしまいますよ。
「いや出歯亀はちょっとさァ…」
「いいから」
朝倉さん…というか風間くんは、某はちょっと…そういうんじゃないっていうか…わかれ! わかってほしいでござる! とか言ってたけれど、何がですか。もっと当たって砕けなさい。
とにかく。そういう栄養素が足りないんです。
別にね下卑た噂話にしようというんじゃないんです、必須栄養素が足りないって話をしてるんです。わかりますか?
普段の学校でなら、ちょっと味が違うけれど真中先生と坂本先生で摂取出来てるんですけどね。休みとなるとそうはいかない。
「…グイグイくるよな、やっぱり」
「そう?」
「そうだよ…」
何ですか。大体みんな好きでしょう、ラブがコメしてるの。昔の人だって源氏物語が好きなんだから、現代人は語るに及ばず。源氏物語は異様にドロドロしてる少女漫画みたいな話って真中先生が言ってました!
「ついて行くにしても、会員証とか持ってねえからカジノまでは入れないぜ?」
「任せて。頑張るから」
「お、おう…」
いくつか当てがあるんですよ。
培ってきたコネクションってこういう時の為に使う物だと思います、たぶん、きっと。
今回の更新も少なく、そして展開もあまり進展せず申し訳ありません…。