はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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ᗷはお好き? 中

 

 

 

 カチリという無機質な解錠音。本日も特に目立ったトラブルも無く、無事に帰宅出来た事を告げる音。

 両親の靴は…ちゃんと二つある。よし。

 

「ただいま」

「おかえりなさい」

「おかえり、レイ」

 

 それにしても両親揃って出迎えてくれるのは珍しい。大概、お母さんは仕事で居らず、お父さんはお店の仕事で居ない事が多い。

 手洗いうがいを済ませて、いざ切り出そう。

 

「ねえ、お父さんお母さん」

「ん、なんだい」

「なあにー?」

「千葉のランドあるでしょ、あそこにカジノがあるって知ってる?」

 

 まずはジャブから。二人とも知らない可能性だってあるのだから、前置きは大事。

 

「あぁ、あのクラブ? アメリカにもあるよね」

「お母さん行ったことあるわよー! 前の仕事の付き合いで、会員証も発行してもらってね」

 

 本当に秘密裏に存在する会員制カジノなのかと疑問に思う返答が両親の口から出てきましたよ。オープン過ぎない? 

 そう、私の会員証の当てとは両親のことだ。この日本でも大っぴらに持てない銃器を、両親は軽々と手配出来る。つまりは大きなツテがあるだろうと思って聞いてみたんです。

 

「まさかレーちゃん…」

「うん、その会員証が」

「行きたいの! 千葉に!」

「うん?」

「パ…パパッ!」

「任せてほしい。こんなこともあろうかと、臨時休業の貼り紙は作ってあるよ。いつ行くんだい、私も同行…家族揃って行こう」

 

 ジェイムズ院。じゃあなくてね。

 

「ううっ…お母さん嬉しい。あのワガママを言わないレーちゃんが、やっと子供らしい事を…!」

 

 いやそれはね、私の都合で住まいを転々とする事になっていたから、あんまりワガママを言うべきじゃないと思ってたからですよ。

 

「ふふふ、ファミリーといえばなイベントだ。お父さん張り切っちゃうよ、ホテルも借りようか。一日楽しもう、全力で」

「パパかっこいいー!」

「……」

 

 一家揃って夢の国ってことですか、おめでてーな。お父さん張り切っちゃうよなんて言ってるの。もう見てらんない。もうね、アボカドバナナかと。

 

「あの…」

「本国のスタッフというか、本社勤めの知人もいるから。その人を通して裏側も見に行こう。日本だと星間戦争の展示は無いけれど、昔に使われてたパペットは見せてもらえるはずだよ。アトラクションのね」

「ポップコーンが有名なのよね! フツウのうすしお味ってあるのかしら!」

「ソルト味で売ってる筈さ。日本だとカレー味にしょうゆバター味もあったりするらしくて、他にもコーンポタージュ味も…」

「やったー! でもコーンポタージュとかカレー味はパスね?」

「おや、どうしてだい?」

「パパの手作りの方が美味しいもの!」

「ハハ、ありがとう。二人がいつも美味しそうに食べてくれるおかげだよ」

「パパ…」

「本当のことさ…」

 

 そうして二人は見つめ合い、肩を抱き寄せあって…じゃないんですよ。えぇ? 

 娘の目の前で突然怒涛の勢いでイチャつき始めましたよ、この両親。隙を見せた私が悪いのでしょうか、ははは。拳でしばいたろか。

 実際ね。親がイチャイチャいちゃいちゃキャッキャウフフとしているのを見ると、何とも言えない気恥ずかしさというか、名状し難い居心地の悪さがありますよねー。

 歳を考えなさいよ、歳を。

 

「そうじゃなくてね」

「…えっ」

「違うのぉ!?」

「違うよ」

 

 急ブレーキ成功。何ですか本当に、このまま私に妹か弟が出来るんじゃないかと思わせる話ですか。

 とりあえず話の腰をへし折って、今回の経緯を話しましょう。

 

「実はね…」

 

 いわゆるかくかく云々。

 

「ふーん?」

「そういう事か。それならもっと早く言ってくれればよかったのに…」

「………」

 

 ははは、こやつめ。変な空気になってしまうのを抑える隙がなかったでしょうが。

 

「それならそれで、手配しようか」

「そうねー。レーちゃんの分だけでいいの?」

「…うん」

 

 と、まあ。こうなると話が早い。いざって時に行動も早いのが、私の両親の特徴です。

 それからお父さんがそそくさとパソコンへ向かって行き、お母さんは携帯電話でどこかへ連絡を。二人で会員証を一つ手配してほしい訳じゃないんですけれど。本当に話聞いてたのかな? 

 

「本当はあの太陽くんと行きたいんでしょ?」

「うっ…」

「また次があれば、トーマくんを誘って四人で行こう。今回はあくまで仕事なのを忘れないようにね」

「う、うん」

 

 しっかり聞いてましたね。むしろ言ってない内心の機微にまで配慮してくれていました。流石というべきか、それともこれが親子の絆的なものか。

 

「しかし…うん」

「どうしたの?」

「トーマくんに、ショットガンとだけ伝えておいてほしい。彼ならそれだけで伝わると思う」

「…? うん」

「パパってばイジワルなのねー」

「そうかなあ。警告は必要だと思うけど」

「???」

 

 どういうことだろうか。

 

「さて、と。それじゃ、お父さんの名刺を持って行って。それをカウンターに見せれば入れるはずだよ、返信が早くて助かるね。時差もあるのに」

「お母さんの方はねぇ、後で郵送されるみたいだから待っててちょうだい。それにしても…ふふ」

「…ありがとう。お父さん、お母さん。……なに?」

「子供の成長は早いって、本当ね! ねぇラッキー?」

「まったくだ。ちょっと前までは、まだミルクを飲んでいたようだったのにね」

 

 おっと、嫌な予感がしてきましたよ。特にお母さんから。何ですかラッキーって、お父さんのミドルネームから取ったあだ名ですか。

 そういえばふと思ったんですけれど。海外の人が付けるあだ名って、名前の捩りとかじゃないものが多いよね。文化が違うのかな? 

 

 ちなみに私は自室へ退避しています。それはもう足早に。娘をダシにして、またもイチャコラする気配を察知したからですよ。

 夫婦仲がいいのは素晴らしいと思うけれど、それを目撃する娘の事も考えてほしい。切実に。

 

 ちなみに翌日、太陽くんにお父さんからの言伝であるショットガンの一言を告げると。

 

「えっ怖。ん? …ショットガンって…あっ! いや、そ、それだけは無えから。絶対に無いってジェイムズさんに言っておいてくれ、マジで。俺は正当な手続きに則る純愛派なんでって」

「うん」

 

 だそうです。顔が青かったけれど、どういう意味なんだろうねショットガン。

 

 

 

 で。ですよ。

 

「やあ。今日はよろしくね、三人とも」

「はい」

「久しぶりじゃないっすか? と思ったけど、そうでもないか」

「私は久しぶりですよ、ねえ千々石くん」

「直接会うことも少ないですからね」

 

 時は今、場所はここ。まさしく夢の国…の、駅出口です。全員カジュアルなようでいて、ドレスコードに引っ掛からない服装で集合しました。服自体そこそこ重くて夏の陽射しで気が滅入りそうになる程暑い、持ってて良かった日傘。

 

「じゃあ行こうか。えっと…その相手は夕方くらいに来るんだよね?」

「みたいっすね。依頼人曰く。チケットの予約はしたけど、いつも朝方まで酒飲んでるらしいんで。そっから寝て起きれば夕方でしょうよ」

「対象が家から出たら、私の方に連絡が来るようになっています。つまり自由時間ですよ自由時間、朝からランドを楽しめるんですよ!?」

「お、落ち着いて…」

 

 ただ遊びに来た訳じゃないんですけれど、それでもテンションは上がりますよね。わかりますよ、私も内心ワクワクですから。

 だってランドですよランド。しかも家族じゃなくて友人知人と。誤解無きように言っておきますけれど、家族と来るのが嫌ってことは無いです。

 それはいいんです。そうじゃなくて。朝からおめかししてデートスポットに行く。これって実質デートじゃないですか。え、仕事? そもそも友人程度? 私の宇宙ではデートなんですけど? 

 

「レイリー?」

「あっ、なに?」

「何ってお前、ボーっとしてると置いてかれるぞ」

「えっ?」

「見ろよ…あの浮かれっぷり」

 

 わぁ。メリーさんと千々石さんが腕を組んで歩いてるよ。メリーさんが持っていた歩行補助用の杖を千々石さんが持って、その代わりに空いた腕を絡めあってますよ。これはいけない、公序良俗に反していない範囲で周りに見せつけている。

 

 しかも見てくださいよ、あの顔。メリーさんは常の無表情が嘘のように口角が上がって、千々石さんは困ったようにはにかんでますよ。身長差もちょうどいいのかな、メリーさんも結構背が高いけれど、千々石さんもひょろりとしていて身長あるから。

 

 ま、負けられない…! 

 

「太陽くん」

「急ごうぜ、マジで置いてかれちまうよ」

「ん」

「あ?」

「ん!」

 

 腕だ! 腕を掴みなさい! 

 この私の腕を掴むか、もしくは掴ませるんですよ! 

 そして絡ませ…。

 

「手でも怪我したのか? 絆創膏なら持ってきてるけど…」

「……」

 

 何その女子力。

 

 

 

 

 太陽くんのふざけた提案に無視を決め込んで。

 やって来ました夢の国。チケット受付の人が色々と驚いていたけれど、まぁ気にせず行きましょう。

 

 時刻は朝なんですが、意外と人が居る。どうやら開園前入場券というものがあるらしく、私達は千々石さんの手配で正規開園前に入場した訳です。知らなかったけれど特別なチケットではなく、お金さえ払えば誰でも入れるんだって。これが資本主義ですか。

 

「物販は…後でいいか」

「はぁ? 何を言ってるんですか太陽くん。こういう時はですね、恥も外聞も捨てて楽しむんですよ。つまりカチューシャは必須、ポップコーンは必携です」

「一応仕事っすよね?」

「買いに行きますよ、人数分!」

「浮かれ過ぎてるぜ…」

 

 と。

 

「ふふふ、ハニーハントですよハニーハント。園内の奥まった所で確実に空いてる所から攻めるが吉です」

「優先パスなら買ってあるんで、時間は気にしなくても大丈夫ですよ。せっかくだからフォンセルランドさんも、太陽くん達も楽しんでね。いい思い出になるよ」

「ソレって滅茶苦茶割高なヤツじゃないです? 千々石さんの懐具合が心配なんですけど」

「社会人だからね…!」

「お、大人だ…ッ!」

「本当はね、あんまりお金を使わないから貯まってるだけなんだ。休みに散財することも無くてさ…」

「大人ですね」

「ああ、悲しい大人だな…」

「うん…否定は出来ないなぁ…」

「ほら暗い話してないで。早く次行きますよ次、というかハニーハント行きますよ」

 

 まあ。

 

「んんん…スプラッシュ山はちょっと…水で濡れてしまうので、私は無理ですね。太陽くんとレイリーちゃんが行ってはどうですか?」

「何だっけ、写真撮られるんですっけ。アレ」

「そうですよ。落下中のあられもない顔を激写されるんです、しかしその間の抜けた顔を共有してこそ仲が深まるという妙味です。さあ!」

「いや、さあ! って…」

「行こ」

「え、話聞いてたか? 間抜け面が撮られるんだぞ、嫌じゃねえの?」

「いいから」

「旅の恥は掻き捨てって言うんだ、二人とも行っておいで。僕らは見てるから」

「えぇー…いや引っ張るなって、わかった、行くから!」

 

 そんなこんながありまして。

 

「おい凄えな夢の国、昼飯食べんのにとんでもない値段吹き飛ぶんだけど!」

 

 現在お昼ご飯をいただいております。その明らかに暴利極まりない価格、夢は夢でも資本主義社会の夢の跡ですね。

 流石にそこまで面倒を見てもらうのは申し訳ないと思ってお財布を出した所、太陽くんが有無を言わさず先に払いました。表面上は値段に文句をつけているけれど、ただの戯けた軽口です。つまり平常運転。何よりそういう所作はどこで学んだのかな? 私以外にはしないようにね。

 

「そんで、夕方までまだまだ時間ありますけど」

「まだ半周しかしてないでしょう、若いんだからもっとはしゃぎなさい。次はマンション行きますよ」

「普通食った後に激しいアトラクション行くゥ!?」

「誰もがそう考えるんです、逆転の発想ですよ」

「そんな所で逆らっても仕方ねえよ…自然の摂理に身を任せた方が賢明じゃん…」

「落下に身を委ねるんですから同じですよ?」

「上下運動の話じゃねえよ」

 

 何だかんだ元気が満ち満ちている二人と。

 

「……」

「…二人とも、元気だよね…」

「ですね…」

 

 それを遠い目で見つめる私と千々石さん。私は人が多くなってきたので人酔いというか、まあそういった疲労が蓄積しております。

 千々石さんはメリーさんにあっちこっちと振り回されていたので、それはもうお疲れでしょう。何せ、腕をぐいぐいと引っ張っては、見た事もない速歩きで動いてましたからね。

 そしてメリーさんが速歩きでバランスを崩して転びそうになる度に、千々石さんが力を込めて体に引き寄せるんですよ。公然とスキンシップ取りよってからに。

 

 それはともかくとして。やっと人心地ついたのは間違いない。アトラクションを待つには立って並びっぱなし、そして次から次へと歩きっぱなし。これで疲弊しないのは嘘というもの。体格的にも、私が一番体力が無いでしょうし。

 

「次はもうちょっとゆっくり回るようにしてもらおうね」

「はい…」

 

 体力オバケの二人はさておき、割とノーマルな私と千々石さんは大変ですよ。

 …まぁ、楽しいからいいけど。

 

 それはそれとして、こういう時にふと思い出したかのようにお手洗いって行きたくなりますよね。

 

「あの、私ちょっと…」

「レイリーちゃん、マップです。結構待つかもしれませんが、お料理もまだ来ませんよ」

「あ、ありがとうございます」

「あ? …あぁ、トイレか」

「ふん!」

「グワー!?」

「あはは…その、気をつけて…」

 

 言わなくていい事を口走った人は、メリーさんに殴られました。慈悲はない。

 

 さてさて、お手洗いは…そんなに遠くない。

 待っている人も沢山いるでも無く、これならスムーズに、料理がテーブルに届く前には戻れるでしょう。

 

 

 

 そう思っていたのは、私の油断に過ぎない。

『噂』というものはいつ何時だろうとも、どこからともなくやってくるのだから。

 

 

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