はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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Backgroundはお好き?

 

 

 

 

 実銃どころか空気式であっても当たりどころが悪ければとても危ない。それが銃。

 にも関わらず、命中しても全くの無傷で大立ち回りしている自称悪の宇宙人さん。銃を振り回す相手には、夢だというなら正しく悪夢のような光景だろう…夢の国だけに。

 

「ふん…他愛無しッ」

 

 いや怖過ぎますよ。身長2mはありそうな全身青黒マント付きタイツの筋骨隆々大男が、銃弾をものともせず悠々と歩いては全部を粉砕していくのは。

 

「して、直に管理室のようであるが」

「そうなんですか?」

 

 地図とか持ってるんでしょうか。迷う素振りすら見せずに、振り向く事もなくゆったりと進む…えー…タイターさん。私は宇宙人の後ろに隠れる一般人です。

 管理室がどんな所なのかは知らないけれど、マントとマッチョボディの隙間から見える扉が、たぶんそうなんだろうか。

 

「我輩はここを完膚無きまでに破壊しに来た。レイリー、お主の目的は何だ」

 

 目的は何かと言われましても。

 別のお仕事の時間まで遊んでいて、たまたまこんな事態に巻き込まれたたけですし。まあ成行きといえばそれまでですよね。未成年略取というか誘拐の現行犯を見てみぬふりできる程、私は無関心ではなくなったというだけ。

 

「悪い事をしている人がいたら止める。それだけです」

「ふゥむ…人間らしい返答であるなァ!」

「タイターさんは違うんですか」

「ほう! 我輩に事の是非を問うかッ」

 

 そこまで大袈裟じゃないんですけれど。私の行動を人間らしいと言うなら、自称悪の宇宙人さんであるタイターさんは違うのかというだけです。

 どう答えるか決まっていたかのように、マントを翻してタイターさんがこちらを向く。毅然とした表情の中に、皮肉そうな笑いが混じった顔が見えた。

 

「なれば逆に問おう少女よッ、悪とは何であるかッ!?」

「……」

 

 悪とは…? 

 辞書的に答えるなら。人道・倫理・道徳に反する行いのこと。そして、正義の反対。道徳になぞらえて言うのなら、悟りを邪魔する…とかだろうか。

 恐らくはそれが普通の答えだ。かくいう私も普通なのでそれ以上の答えを持ち合わせていない。

 

「善くない事をすることとか?」

「否! お主が答えようとしているのは、社会通念上の規範を破る行いに過ぎぬ。大多数こそが社会秩序であれば、その均衡を保つ為に弱きを捨てる事もまた善に成り得る」

「それは、確かに?」

 

 タイターさんが言っているのは、トロッコ問題的な事だろう。一殺多生であれば、人を見捨てるのも正解なのだからそれは善いこと。あくまで機械的な発想で、トータルがプラスなら善行とも言い変えられる。

 

「貴様等地球人どもは、性善説・性悪説なる物を唱えた。性善説とは人間には善の心が備わっており、それを正しく教育して修養する事によって善なるものを伸ばす思想。

 性悪説とは、人間の心には元より悪があり其れは性善の四端をなぞ無く。教育や修養無くしては悪に呑み込まれるという思想。

 つまりはどちらも教育・修養を蔑ろにしてはならぬという思想である。ではその教育や修養を正しいと断ずるのは誰だ? 答えは単純それは社会や権力者である」

「……勉強家ですね」

「これしきは嗜みである!」

 

 この程度は当然、という顔で語る宇宙人。宇宙人、めっちゃ頭いい。いえね、私が古典・漢文が苦手というのもありますが。だとしても、宇宙人を自称する人がここまで浪々と漢籍について語れますか。

 結構間の抜けた顔をしていたであろう私に、身体ごと向き合うタイターさん。それとは別に、さっきまで進行方向だった場所、彼が背を向けた方向から扉が開く音と騒がしい足音が聴こえた。

 

「いるぞ! 排除しろ!」

「後ろにもバケモノがいるってのに!」

「人攫いが何人いるんだか…!」

「…我輩は二度、正義の味方に負けている。一つは既に滅ぼした星で。一つはこの青き星で」

「…えっ」

「されど悪は滅びぬッ! 

 少女レイリーよッ!! 悪とは何たるかを教えてやろうッ!」

 

 くるりと更に振り向き。マントをはためかせて悪の宇宙人が進んで行く。銃弾の雨を、まるで小雨か淡雪だとでもいうように。

 

「悪とは即ちッ! 総てを捨てぬ事ッ!! 

 何故ならばッ!!」

 

 雨粒が顔に当たっても物ともしない巨体が、悪寒すらする程の力を込めた。

 

「ばっ…バケモノ…!」

「撃て! いいから撃て!」

「その総てをッ! 我輩が支配するからであぁぁぁるッ!」

 

 瞬間。

 空気が爆ぜた。

 

 目の前で起きた事は、常識から外れた何か。悪の宇宙人が思いっ切り拳を振り抜いた一瞬で、空間が歪んだと錯覚する程の空気圧を生んだ。

 風速が何メートルかはわからない。でも、銃を構えていたはずのきぐるみ達は吹き飛んで、開きかけた扉を巻き添えに吹き飛んでしまった。

 

「この星の総て! 即ち我輩の手に入れる物ッ、それを勝手に消費しようとは言語道断ッ! 

 覚悟するがいい信念無き木っ端ども、悪を背負う我輩が打ち砕いてくれようぞ!!」

「え、ちょっと…」

「控えておれいッ!!」

 

 えぇー…。

 私の困惑を他所に、タイターさんはずんずん進んでいく。誘拐犯達が銃器とかを持っているならクリアリングとか必要では? と思ったけれど、宇宙人に常識は通用しないのかもしれない。

 スーツが防弾なのかもと思っていたけれど、顔面に弾を浴びても無傷なんだもん。宇宙って凄いね。

 

「さぁ! 悪がやってきたぞッ! 恐れ慄け地球人ど…も?」

「…あれ?」

「あ、うっ、うわぁぁぁ!?」

「ひ、がはぁっ」

「……」

「……」

 

 マスターキーと化したきぐるみ達の後を辿って部屋内に入ると、またも不可解な何かが。

 ふっ飛ばされたきぐるみ以外にも大挙していたきぐるみ達。それが、黒い靄を巻き付けた骸骨のような何かに襲われていました。

 これには私もタイターさんもビックリ。

 しかも更に驚きなのは、私は見覚えがあること。…って考えてる場合じゃない。

 

「っ!」

「ぬっ、待てい! レイリー!」

 

 止めなきゃいけない。ひたすらにそう思って、気が付けば黒い骸骨の前に飛び出していました。

 

「───!」

「…それ以上はダメだよ」

 

 はっきり言って無謀、それと無策。それでも放っておいてはいけないと、片手に持った刃物を硬く握り込んでいた。

 この時点でわかっている事がいくつかある。

 目の前に佇む黒骸骨には銃弾さえ効かないこと。太陽くんを探して迷い込んだ、政治団体の建物の地下でもそうだった。流れ弾が当たろうとも意に介さない、本物の怪物。力そのものも異常に強くて、仮面を被った集団が組み付いても、虫を片手で払うような気軽さで壁に叩き付けていた。

 それよりも大事なことが一つ、分の悪い賭けだけれど。私が震えながら前に躍り出た理由。

 

「……───」

「それ以上やると、普通の人が死んじゃうよ」

「──!」

 

 殺意までは感じない。たったそれだけ。

 これは地下でも同じだった。この黒骸骨に触れられて倒れる仮面の人たちはいたけれど、とんでもない力に任せて首を折ったり頭を潰したりはしていない。

 特に私と淋代くんに対しては目もくれず…というか、守るような動きさえあった。

 つまり、この骸骨は見た目こそおどろおどろしいけれど、対話の出来ない怪物ではない…と思う。

 

「…言ってる意味、わかる?」

「────」

 

 なんて格好つけてますが、滅茶苦茶怖いです。人間見た目じゃないって言うけど、見た目も大事だよ。黒い靄が邪魔で全部がくっきり見えてる訳じゃなくても、見ているだけで震えるような怪物っぽい何かに話しかけてるんですよ。

 大丈夫、人は襲わないから〜って言われても、映画に出てくるような蛇とか、目が血走ってる虎に近寄りたくないのと同じです。

 

「──グルル…」

「……」

 

 ねえグルルって言ってる、グルルって言ってるよ。今更ながら冷や汗が背中を伝ってますよ。さっきの例えは間違ってました、どんな猛獣でも通用するような武器を持っていれば怖くないかもしれない。

 けど目の前の相手はそれどころじゃない。つい今さっきも銃に撃たれてたのに無傷だったもん。あれ、タイターさんも同じですね。ひょっとしてこの骸骨さんも宇宙人だったりする? 

 

「………」

「──グルゥ…」

 

 そうして骸骨はもう一度、獣みたいな唸り声と一緒に私からゆっくり離れていく。

 さっきの声と違って少しだけ悲しそうな声に聞こえたのは、私の気のせいだっただろうか。

 

「貴様…我輩の手を煩わせぬその気遣いは賞賛してやろう。しかしッ…!」

「あ」

 

 忘れてた。

 

「この場に似つかわしくないその容姿ッ! 

 さては貴様も悪かッ!?」

「…違うんじゃないですか」

「────」

「何ィ!?」

「──グルル…」

「ほら、たぶん嫌がってますよ」

「何とッ……!」

 

 骸骨さんから、いや自分そういうんじゃないんで…って気配がしてます。なんというか、遠くから友だちだと思って手を振ってたら別人だったような空気というか、そういう居た堪れない感じが漂ってます。

 私は最近一度やらかしましたよ、そもそも友だちと胸を張って言える人が出来たのも最近ですからね。

 

「しかし…あわよくば…ッ!?」

「何がですか」

「────」

「ぬあっ、待てい!」

「───グル…!」

 

 タイターさんが同胞か何かかもしれないと期待したのか。どこかへ移動しようとしている骸骨さんを引き留めようとしたその時。

 

「わ…」

「ぬ…!」

「────」

 

 尋常じゃない打撃音が響いた。打撃音とは形容したけれど、骸骨の手がタイターさんの顔に刺さっただけだというのに、車と車がぶつかったような重みのある衝突音。

 かなり無遠慮に人が紙切れのように飛ぶ一撃を食らったタイターさんは…。

 

「ふむ…そうか、貴様は…」

 

 何かに気付いた顔をして、微動だにしていませんでした。宇宙人って凄いね。これさっきも思ったね。

 

「前よりはマシだが、まだ軽い。その程度では我輩を倒す事など出来ぬと知れいッ!」

「───!」

「あっ」

「む、逃げるかッ!」

 

 骸骨さんはタイターさんが喋っている最中、とても人が追い掛けられない速さでどこかへと消えて行ってしまいました。

 

「……」

「フッ! まあよい、これにて雑魚共は一掃である!」

 

 あの骸骨は何者なんだろう。そんな単純な、答えの出ない疑問が頭の中をぐるぐる回る。

 悪い人…人? ではないだろうけれど、正体を隠さなきゃならない理由でもあるんだろうか。

 

「管理用端末は…うむ。この程度のシステムか、データを抹消してから破壊するも児戯よッ。レイリー!」

「え、あ、はい」

「貴様はそこの関係者用通路から出るがいい。地図で確認した所、そのまま地上に繋がっている。我輩はこの施設を破壊してから子供らを解放するッ!」

「あの、一つ聞きたい事があるんですけど」

「ほう? 言ってみるがよい」

 

 自称悪の侵略宇宙人。

 名前はタイター・E。

 真っ黒い髪と二本のアンテナ髭。青黒の全身タイツに黒いマント。

 

「…何で私とか、子どもを助けるんですか?」

「フッフッフ…! そんなに聞きたいかッ!」

「そこまでじゃないです」

「そうかッそこまで聞きたいかッならば言おうッ!!」

「……」

 

 背中に【悪】の一文字。

 それと、結構人の話を聞かない変な人。

 

「子とは宝ッ! ならば未来、我輩が手にする物ッ! 我輩のみが害して良いのであぁぁる!」

 

 ……子どもに好かれる悪人というのも変だけれど。何となく好かれるだけの理由がわかった。

 

 と。まあ、そんな事がありまして。

 

「…すみません、色々あって」

「レイリーちゃん!」

「よ、良かったぁ…嫌がるかもしれないけど、迷子センターとかに行くべきかって話をしてたんだよ…!」

「いえ、本当に…ご心配おかけしました」

 

 夢の国誘拐事件については、大々的な問題になる事もなく闇の中に葬られました。

 というか、派手に破壊活動をしたタイターさんとしても園内がパニックになるのは避けたいらしく。きぐるみを着て悪事に手を染めていた人達を宇宙科学力で記憶の消去から洗脳までを行って…。

 いや、えっと…その…。と、とりあえず、二度と夢の国ではこんな事は起こらないようにしておいた、とのことです。

 私が姿を消した事に関しては、道に迷ったとか人混みに流されたとかで誤魔化してます。

 

「…太陽くんは?」

「トイレだそうです、まったくもう。自分まで迷子になったらどうするんでしょうね」

「はは、フォンセルランドさん、それは大丈夫みたいですよ。ほらあそこ」

「あら」

「ぅおーい! トイレメチャクチャ混んでたんですけど! っていうかレイリー居るじゃん! いやさぁ、俺もビックリだよ。まさか高校生にもなって迷子になる訳ねえと思ってたら俺も迷いそうになったもん、夢の国コワすぎ!」

 

 本当は迷子になってた訳じゃないんですけどね。

 まあいいけど。

 

「で、レイリーは大丈夫か? 怪我とかしてねえよな」

「する訳ないでしょ」

「だよな。はー、何か疲れたぜ」

「何を疲れたんですか。それより行きますよ!」

「え、何にィ?」

「パレードですよ、パレード! 夕方までまだまだ楽しめますよ! じゃあ楽しまないと!」

「メチャ元気じゃん…まあいいか!」

「場所の予約はしてあるから、のんびり行こう」

「千々石さん手を回すの早いっすね。あっ、そうだ。途中で食べ物買ってきましょうよ、レイリー何も食べてないじゃん?」

「…ありがと」

 

 遊園地は楽しむ所だよね。

 あ、そうだ。

 

「千々石さん」

「うん? どうかした?」

「言伝を頼まれたんです」

「えっ…こ、ここで…?」

「はい」

 

 まさかまさかだよね。

 

「正義の味方よ、次は無いぞ。って」

「…レイリーさん、彼と会ったの?」

「はい」

 

 悪の侵略宇宙人を撃退した正義の味方、その一人がこの優しそうな千々石さんだなんて。

 

 

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