はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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BETはお好き?

 

 

 さて。

 

 所在地は舞浜、名前には東京という話だけ聞けば混乱を避けられない夢の国。イメージするにオランダ村とかドイツ村のようなものだとすれば、すんなりと想像がつくかもしれない。あっ、あと志摩スペイン村も同じかな。それとムーミ○バレーパーク。

 本場はアメリカである事を念頭に入れれば、東京の名を冠しておきながら東京には無い事は些末なのだろう。ムー○ンだって本場はフィンランドだもんね。あと船橋アンデルセン公園とかも。

 

「ほい、チュロスとホットドッグ」

「もがもが…」

「急がなくていいぜ、急いでねえんだから」

「……」

「チュロス美味しいよね、これは直線で違うけど交差してる砂糖のかかった所が特に甘くて」

 

 そして今、私は太陽くんがダッシュで買ってきたワンハンドフードを頬張っております。パシリ適性が高過ぎるね。

 何故今になって私だけ食事しているのか? 誘拐騒動でお昼ご飯を食べ損ねましたからね、しょうがない。

 それにしてもこの…。

 

「………」

「あぁ、ほらケチャップ付いちまってる」

「ん!?」

「拭くから動くなって。チュロスは持っとくから、食べたくなったら言えよ。あ、今? …あーん」

「……んぐんぐ」

「何だか青春だなぁ」

 

 周囲から注目されまくりつつ食べるのって、すんごく気恥ずかしいですね。ケチャップの赤と私の顔の赤さ、どちらが本当の赤かいい勝負ですよ。いやさり気なく好きな人に顔を拭かれて赤くなった顔以上に赤いものがありましょうか、いや無い。反語。

 それにしても、メリーさんがずっと静かに見つめてくるのが不穏ですね。何か考え事でもしてるのかな。

 

「フォンセルランドさん、どうかしました?」

「…うら若き少年の手ずから、見目麗しい少女に棒状の何かを差し込まれる…っ! いいですね!!」

「ええ…?」

「ブフッ」

「おいマジかこのイカレ人形」

 

 言い方。言い方が悪いとは思いませんか。私は決して公序良俗に反するような行為をしている訳ではありませんし、人間の生命活動に必要不可欠な食事という行為をしているに過ぎないのです。いや、摂食していたが正しいですね。たった今吹き出しましたからね。

 

「あっ! そろそろパレードですよ、パレード!」

「話を逸らすにしても限度があんだろ!」

「………」

「まあその…そ、そろそろ行こうか。行儀が悪いけど、食べながら移動しよう」

 

 同性間でもセクハラはセクハラですよ。

 

 文句の一つも言いたい気持ちをぐっと堪えて、口内の内容物を飲み込んでは更に詰め込み終える。

 急いで食べ終えて行く先はパレードを全力で楽しめる最前列。どうにも夢の国のパレードは観る場所も肝心らしく、メリーさんがベストと思う所を聞いた千々石さんが押さえていた。連携が取れてますね。

 

「良い場所です…これなら写真からキャラのファンサまで全てを楽しめると言っても過言ではありませんよ」

「俺、まーるで詳しくないんですけど。パレードって何するんです? 連中に石でも投げんの?」

「フーリガンじゃないんだから」

「手を振ればいいんですよ!」

「声掛けとかも…かな?」

「あ、そうなのォ? 何か普通だな」

 

 発想が過激な少年兵みたいな人もいますね。パレードで石は投げないでしょう、ダラスの教科書ビルならありえるかもしれないけれど。

 そうは思いつつも、私もディ○ニーランド初心者。パレードってどうやって楽しむんでしょうか。罪がない者のみ石を投げて楽しむとか? 

 

「第一さぁ、キャラが動くってんならそこらでふれあうのと変わんなくないです? そこのミッ…もパレードに出てくるネズミも一緒じゃん」

「違うよ?」

「これだから素人はダメです」

 

 おっと危ない、私も同じことを考えていました。危うく素人になる所でしたよ。夢の国のプロって何ですかね、夢遊病の方とかでしょうか。

 

「まず衣装が違うんだよ。それと…あの神輿みたいな、山車みたいな物に、その作品のキャラクターが纏まって乗ってるんだ」

「へーえ…えっ、そんだけ?」

「はー……」

「た、ため息だとォ!?」

「いいですか? このパレードは決まったダンスや振り付け以外、全部がアドリブで進むんです。言うなれば一期一会、今回を逃せば二度とは見れないのです。

 また手足を使ったパントマイム的な表現、小さな子供向けには手遊びなどでコントーションのようなコミュニケーションもしてくれます。つまり、小さなお子さんも退屈することなくキラキラとした空間を楽しめるんですよ。わかりますか?」

「………」

「この人デ○ズニーの話になると早口になるのキモ…」

「シッ! 太陽くん、ダメだよ…」

 

 好きな物に夢中になれるのって素敵だと思いますよ。

 他意はありません。本当に。

 

「季節イベントが多いのも目が離せません、特に今回なんてベストもベスト。雲の少ない晴れ模様で、尚且つシンデレラ城がすぐ近く。各プリンセスの雰囲気と合わされば夢の国とはこういうものかと実感出来ること請け合いです」

「メチャ語るゥ〜」

「ま、まあ。作品を一つでも知ってれば楽しめると思うよ? 音楽もバンドの生演奏だから迫力あるしさ。聴いた事のある曲だなーって、うん」

「千々石さんは詳しいんですか?」

「僕? 僕は…うーん…そこそこかな、フォンセルランドさんのオススメを何作か見たくらいだから」

「千々石くんに布教したのは私ですからね!」

 

 へー…やっぱり仲がいいんですね。

 それはそれとして気になる所ですが。今の二人からレクチャーされた感じだと、事前知識が無いとあまり楽しめないって事になりませんか。幸いにして私はそこそこ関連作品群を楽しんできましたけれど、太陽くんはどうかな…? 

 

「んー…どうかなぁ、あんま知らねえから…」

「むっ!」

「あっ、あれかな? 始まるみたいだね」

「わぁ…」

「でっけえな!? 思った以上にデケえ!」

 

 軍楽隊もかくやの人数。音の主役たる演奏隊が脇に控えつつ、パレードの主役たちがこちらへ意気揚々と、あるいは威風堂々と迫ってくる。

 

 内容については…あまり触れないようにしよう。いつか行く人にも悪いから。

 でも、音も迫力満点で演出も豪華。キャラクター達が乗っている乗り物のようなやつからは、暑ければ水が霧状に吹いて虹を掛けたりするようだ。私達の時にはシャボン玉。

 プリンセスに扮する人達は笑顔で、みんな明るく手を振って。青空にシャボンと相まって、本当に夢みたいな空間だった。ついさっきまでの楽しめるかどうかの不安は払拭されるどころか、最初から無かったかのよう。ふざけた誘拐騒ぎで現れた猜疑心の暗い影まで、思い出さなければどこかへ行ってしまったほどだ。

 

「手、手ェ振ってくれたぜ! こっちに!」

「良かったねぇ」

「……わ、わ…!」

「ピっ、ピノキオー! こっち! こっち向いてくださーい! ホワー!」

 

 結局の話。太陽くんも、私も。大いに楽しみましたとも。メリーさんの方が凄かったけど、まあ皆楽しんだということで。

 

「いやァー…ありゃあ凄いっすね、フォンセルランドさんが夢中になる訳だ」

「でしょう!?」

「終わるまであっという間でした」

「夢中になると時間を忘れるよね。うん。いい息抜きになったかな?」

「千々石さんだって楽しんでたじゃーん!」

「ま、まあね…でも、うん。皆楽しかったならそれが一番だよ、たまには仕事中だって笑えた方がいいからさ。何より、思い出は沢山あっていいんだよ」

「大人な感想ですね」

「えっ? そうかな、そういうつもりは無いんだけど…」

 

 どことなく俯瞰的というか、保護者目線と言いますか。いい話にまとめようとしているというか。

 とにかく、落ち着いた感想だと思います。

 

「一歩引いた感想ですけど、千々石くんも楽しんでましたよね?」

「メチャクチャ笑顔で手ェ振ってじゃないすか」

「え、み、見てたの!?」

「カメラで撮っておきましたよ、ほら」

「マジすか。うわー…満面の笑みじゃん」

「ちょ、二人とも!?」

「レイリーちゃんのも」

「ホントだ、いつもより口角上がって目尻下がってら。見た目は可愛いんだし、女の子はちゃんと笑ってた方がいいっすよねえ?」

「…そうだねえ」

「馬鹿」

「馬鹿ですね」

「何で俺は今罵倒を…?」

「あはは…」

 

 何で罵倒されたか、明日まで考えておいてください。ずっと。

 そんなこんなでパレードもアトラクションも楽しみまして。残るは本命のお仕事の時間です。

 

 日は傾き掛けていて、じきに夕暮れ。

 夜の帳が落ちきる前に、メリーさんの電話から着信音が鳴った。

 

「はいもしもし…そろそろですか? 

 わかってます、当然忘れてませんよ。……そうですか。ではこちらも向かいます。ところで環、お土産は…ポップコーン? 何味ですか…おつまみになる味…?」

「環さんの電話かな」

「だろうな」

「おつまみのポップコーンかぁ…」

 

 流石に携帯電話の音が漏れている訳もなく、内容は察するしかない。でも十中八九、今回の相手…ヒモさんが現地に着いたか向かっているという連絡だろう。

 

「ふむ…あら。もう現地に? わかりました、こちらも向かいます。えぇ、では。

 私達が居ないからって事務所でズッコンバッコン、あっ、環! ……切りましたか…」

「そりゃ切るでしょ…」

「どうやらヒモ氏は現地、ここに着いたようです。向こうの方が先にカジノには着くでしょうけど、こちらも早く行きましょう。これ以上借金を増やされても困りますから」

「報酬が払われない程スられても困るってコトですね、ヒモってのは怖いぜ」

「ヒモでもいいよ」

「俺は嫌なんだって! それ前も言ってたな!?」

「はは…服装はこのままで平気だから、向かおうか。場所は案内するよ」

 

 むしろ首輪を着けて飼うくらいの気概があります。危なっかしいし。……決して独占欲とかではありませんよ、本当だよ。

 

 千々石さんから案内された先。

 思った以上に園内の出入り口から近い、お土産なんかをよく買う場所にそこはありました。

 表向き、というか外から見える席には白いカーテンが緩やかに閉められていて、普通のレストランのような雰囲気。落ち着いた照明に、給仕服を着こなす人たちが静かに且つにこやかに迎え入れてくれた。

 

「地下に」

「…! かしこまりました、こちらへ」

 

 しかし、好印象を与えるウェイターさんも、人数分のカードと招待状を手渡して一言告げると。柔和な笑顔は鳴りを潜め、厳粛なボディーガードのような顔になる。切り替えの速さから察するに、いわゆるプロなのだろう。

 

 全員無言のまま、クラシックな壁紙と装飾のエレベーターに入った。息が詰まるのは緊張感からか、それとも地下に落ちてゆくからか。

 私の考えを他所に、ちりん、と到着を報せるエレベーターの鈴音。

 ウェイターさんが、黒茶色の大きな木製扉に堂々としつらえられた金のドアノブに手を掛ける。

 

「どうぞ、ごゆっくりお楽しみください」

 

 地上で聴いた時よりも、幾許か冷えた声だと思った。

 

「これが…」

 

 開かれた扉の先には暖色系の柔らかな照明、薄暗いと言ってもいいだろう。大きなテーブルがいくつもあって、濃緑のクロスがまるで木々のよう。

 

 ディーラーと言うのだったか、スーツ姿にチョッキは揃えてあっても男女様々。老若男女問わずにお客さんの目、カード、ボールの行く先を見つめている。

 見つめられている筈の人たちはそれを気にするでもなく。手札を見る人、カクテルを楽しむ人、笑う人、脂汗を滲ませる人と表情や行動も多種多様だ。

 

「目的は、わかっていますね?」

「このカジノに入って借金を重ねている現場の証拠写真を撮ることですよね」

「はい、それだけです」

 

 努めて小声で話す。カジノ側に聞かれて良い印象を持たれはしない話だから、それも当然。カメラはメリーさんが持っている。パレードでフィルムを使い切ってはいないだろうし、シャッター音もしないように加工してあるそうで心配する事もない。

 

「……が」

「が…?」

「借金まみれより、ハッピーエンドが一番って事でしょ?」

「はい。ヒモ氏にある程度稼がせてから出禁にさせます」

「あの〜…僕はそういうの苦手ですからね?」

「大丈夫ですよ、私に一計アリです」

「…つまり?」

「イカサマをします」

「えぇ…?」

 

 清々しいまでのイカサマ宣言…! 

 

「けど。とりあえず、観察をしましょう。

 大体三十分後にまた集合で」

「ノープランだったりしないよな…?」

「ふふ…ふふふ…!」

「本当に大丈夫だよな!?」

 

 太陽くんの不安もわかる。うーん…まぁ…最悪の場合になったとしても、写真を撮るという条件は達成出来るでしょう。

 

 一時解散からほんの少し。

 未成年らしく、私には賭け事の知識が全く無い。

 それぞれの卓上を見回ってみても…て、てきさすほーるでむ? とか、ブラックジャックとか。日常生活で耳にする事のないものばかりだ。ブラックジャックはあれかな、昔の漫画でなら聞いたことがある…えっ違うの? 

 あとは、私でも断言できるようなルーレットくらいだろうか。円盤がくるくる回っている赤と黒のアレ。

 カード系が多いのはわかるけれど、本当にわからない。何がって、ルールが。それと同時に賭け事の楽しさもわからない…のは、いい事だと思う。

 

 私は賭けをしに来た訳じゃない。暇潰しとして、ルールがギリギリわかっている、あの円盤でも見ていよう。

 三十八個の窪みにそれぞれ数字が割り振られている、恐らく一般的なルーレット。

 ディーラーさんは、目が開いていないようにさえ見える老紳士。髪の毛は真っ白で、お揃いの色をした口ひげが何だか可愛い感じの印象だ。

 

「ノーモアベット」

「……」

「……」

「…16です」

「ぐぅ…勝てない…!」

「ダーメだこりゃ、ヤメヤメ」

「いえいえ、とても惜しゅうございましたよ。勝負は時の運と言います、またお越しください」

 

 えっ、今の一瞬で終わり? 

 今のでお金無くなるの?? 

 

「おや…」

「あっ…」

 

 気付かぬ内にまじまじと見過ぎていたのだろう。というか近寄り過ぎたみたいで、老紳士の顔がこちらを向いた。微笑んだまま、白くて小さなボールを優しく手に取って話しかけてくる。

 

「お嬢様、賭けますか?」

「あ、あの…未成年なので…」

「これはしたり。申し訳ございません、であれば勝負は大人になってからですな」

「は、はい」

「ですが。何もしない、というのは退屈でしょう? 

 ここは一つ、年寄りの手管をご覧にいれましょう。お嬢様、お好きな数字はありますか?」

「え…あ…」

 

 好きな数字…!? 

 

「あの、じゃあ十二…」

「ふふふ…そう緊張なさらぬよう。では、少々お時間拝借致します。ボールをよくご覧ください」

 

 何故十二かというと、私の誕生月だからです。

 そんな特に理由もない、咄嗟に口から出た数字。

 好々爺をそのまま象ったようなおじいさんが、白いボールを円盤の外周へ投げ込んだ。

 

 鋭く、からからと回る白球。

 1、2、3、4……。

 

「…あっ!」

「如何でしょう?」

 

 ボールが外周を十回以上周り、次第に力を無くして。行き着いたポケットに刻まれた数字は12。さっき私が述べた数字に他ならない。

 

「…す、ごい…」

「ご安心ください。普段はこのような真似、全くしておりませんよ。それに、偶然やもしれません。他にお好きな数字はございますか?」

「じゃ、じゃあ…ゼロとか…」

「かしこまりました」

 

 からりからりと回る球。

 吸い込まれるように入った先の番号は、ゼロ。

 

「狙った所に入れられるんですね…!」

「ふふふ…さて…」

「魔法みたい…」

 

 絵本の中の出来事みたいな。そんなありえないものを見た。後から聞いた話では。ルーレットの出目をもしも操作出来るとするならば、その難しさは数百メートル先の小さな穴に小石を投げ込めるようなものだそうだ。

 

「レイリー、時間だぜ」

「あっ太陽くん」

「お迎えですかな?」

 

 事も無げに行われた奇跡のような二投。時間を忘れるには十分な魔法だったようです。

 

「ありがとうございました、あの…また…!」

「ええ、大人になったらまたお会いしましょう」

 

 濃密な時間でした。

 うん、世界って広いね。

 …というわけで迎えに来た太陽くんを追いかけて、再び出入り口付近に全員集合しました。表情はほとんど変わらないけれど、メリーさんから放たれる雰囲気から、何か糸口を見つけたような気配がします。

 

「んで、俺は賭け事なんざサッパリですけど?」

「安心してください。何で負けさせて、そして何で勝たせるか。全て決めてあります…というか、そう仕向けるだけですから」

「僕達は何か手伝うんですか…?」

「ふふっ…少しだけ手伝ってもらいます」

 

 さっきの事を思い出しては、ちょっとだけ申し訳ない気分になりつつ。メリーさんのよからぬ計画を聞くのでした。

 

 

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