はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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朝に投稿出来ませんでした…。


六月メランコリック

 

 

 

 

 

 

「ぅ暑っちィ〜…」

 

気温の問題じゃあない。6月のジメジメ感が気温計では測れないうっとおしさを強める。

旧暦じゃなくて、普通の6月。外国の言い方ならジューンってヤツ、ジューンブライドの語源だな。

人によっては浮足立ったり、結婚式場を運営している方々には書き入れ時って物なのかもしれない。

ただ、俺たち学生には祝日の無い月ってだけで気が滅入る。湿気や台風も目白押しだ。

湿度イコール不快指数って言うだけあるぜ。

 

「あ゛〜…」

 

今日は折角の日曜日って言っても、やることは大方済ませちまったしな。昼下がりの今から図書館に行って参考書片手に勉強するってのもなんか違う。ゲーセンは…ダメだな、下手な筐体に近寄ったら動物になっちまう、人間も動物だって? 違うよ、猿になるんだよ…ニホンザルとかに…マジで…。あと何気なくお金が飛ぶのもダメだ。俺は慎ましいんだ。

 

事務所もなぁ…今日はおやっさん居ないから、間違いなくタマさんあたりに嫌味を言われる。寂しい青春だなって言われた事もある。強く言い返せなかったぜ…!

そんじゃあどうすっか…。

 

「ゔ〜…」

「ううううぅ」

「あ゛?」

「あ!」

「うげぇ…」

 

今の会話…いや会話になってねぇな。ヒトらしき動物の鳴き声は何かというとだ。俺が嫌なものを見つけたから、つい声に出しちゃった、てへ。

 

「センパイ! 失礼ですよ、可愛い可愛い後輩の顔を見て嫌そうな声を上げるなんて!」

「ツラの事は置いといても、お前は可愛い後輩ではねぇよ。第一本当に可愛い後輩は図々しくそんな事言ってこねぇだろ」

「顔は良いって事ですね!?」

「顔だけは良いって事だな」

「じゃあ完璧じゃないですか!!」

「ルッキズムの極地かよ」

「完璧じゃないですか?」

「何で俺に聞いてんだよ、減点方式ならゼロ飛び越えてマイナスって意味で言ってんだ」

「キー!!」

 

猿か鳥かな?

 

堂々と自分の容姿を誇るコイツは上埜…ちょっと珍しい漢字のうえのって名字に…下の名前は何だっけ…まぁいいか…。

噂が憑いたことの無い一般人、それで何かやたら俺に突っかかってくる生意気なガキ、略して生ガキちゃん。腹壊しそうだな。当たる前に逃げるか。

 

「じゃあな上埜、熱中症には気をつけろよ。油断し易いこの時期も危ないらしいぜ」

「何で自然に帰ろうとしてるんですか? 先輩の予定はまさに今決まりましたよ」

「は?」

 

マジ? 知らぬ間に熱中症にやられてたのか? 会話の脈絡が欠片も掴めねぇや。それっぽい話題になってないよね?

 

「今からあたしとダンジョンに行くんです!」

「誰が?」

「センパイが!」

「誰とぉ?」

「あたしと!」

「なんでぇ…?」

「いいから! 行きましょう!」

 

さてはコイツ人の話聴いてないな?

出会った時からそうだったけど、昔より輪を掛けて酷くなってる。いつか絶対しっぺ返し来るぞ。

この自信満々な一般生ガキちゃんとの出会いは…。

 

あっ! ちょっと回想しまーす!

 

「センパイ何ぼーっとしてるんですか? とりあえずここに立ってください」

「しっ! 静かに…!」

「えぇ…何なんですか…?」

 

何なんですかって、それは訳のわかんないことに巻き込まれそうなこっちの台詞だよぉ…。

 

 

 

 

───☆

 

 

 

 

話は俺が中学生の頃、普通の生活に慣れてきて余裕も出来つつあり、真面目に真っ直ぐ学校から帰ろうとしてた時のこと。

 

「…んな!」

「……ん?」

 

囃し立てる感じの声がした、距離はかなり離れてたから普通は聴こえないと思うが。俺はちょっと他の人より耳が良い。

恐らくは歳下の、変声期も迎えてない小学生男子が騒ぐ声だ。それだけなら変な虫でも見つけたとか、何かこう…いい感じの棒きれを拾って遊んでるんじゃないかと思う。

でも違う。ふざけあって遊んでる感じじゃない、罵声に近い物が混じっていた。

 

「ち、違うもん…」

「何が違うんだよ、どうせお前が枯らしたんだろ!」

 

囃し立てるって表現は生温かった、これは糾弾ってヤツだ。その一方で、今にも泣きそうに震える声は何かを否定している。

たった数歳程度の違いとはいえ、仮にも年長者。殴り合いの喧嘩になる前に、さっさと止めたりした方が良いと思って声のする方へ近寄ると。

 

「ぅ…う…うぅ…」

 

綺麗な白髪の女の子が目に涙を溜めていた。そんなに弁の立たない子だったんだろう、もしかすると多勢に無勢ってだけだったのかもしれない。

 

日本では白髪は珍しくない、地毛の大半は黒だが。もしも苦労をしてるとか、若白髪を見つけられてしまった場合。あっという間に見事な白髪の出来上がりだ。

当然噂のせいだ。しかもこういった、誰でも言いそうな噂話の厄介な所は、発生源の特定が出来ない。誰のせいでもないが、誰も彼ものせいってワケ。

 

それでまぁピンときた。

小学生男子が手に持っているのはプラスチックの鉢植え。夏休みの前に朝顔とか植えるアレだ。その鉢から顔を覗かせている植物が茶色く枯れ果てている。

 

お前が枯らしたんだろってセリフから推測するに、白髪の女の子が元気だった植物を枯らしたって言いたいのだろう。

恐らく最初に聞こえた罵声の正体は、雪女。

短絡的な事で、何故か枯れた植物の原因を目の前の子に転嫁しているってだけ。少し考えれば、水遣りのし過ぎ、世話をサボった、根っこが虫にやられただの、理由は幾らでもありそうなもんだ。

本当に雪女になっちまってるなら、もっと大事になっている。真夏に雪が降ったりとか、氷漬けの人間が見つかったとかな。

 

しかし、人はわかりやすい方に飛び付く。自分のせいでって思う自罰的な人間より、あいつのせいでって口に出す人間の方が多いだろう。そこには大人も子供も、男女の違いもない。

そうして今、生き難くなるような噂を押し付けられそうな子供が一人いる。

 

じゃあやるべきことは決まってるよな?

 

 

 

───☆

 

 

 

それで男子小学生どもを穏便に散らして女の子を慰めて、恥を忍んで養父やおやっさんの力を借りて事を収めたってワケ。回想終わり!

 

目の前にいる上埜はその女の子の姉、回想の後に俺が何かして泣かせたって勘違いして突っかかって来てからの縁だ。

思い起こすとコイツ俺に突っかかって来すぎだな。

 

「んで、どうして俺は迷宮にいるの?」

 

わぁビックリ、いつの間にワープしたのかな?

周りが薄暗くなって、四方がレンガ造りの窮屈な洞穴みたいになってるんですけど? さっきまであった青空がどこにも見えねぇ!

 

「どうしてって…さっきマンホールの上に立ってもらいましたよね?」

「うん」

「あれ、最近出来たダンジョン行きのワープマンホールなんですよ」

「ほとんど誘拐か無理心中だぞお前!?」

「てへへ…」

 

こ、コイツ…! てへへじゃ済まねぇよ!!

 

『ワープマンホール』

見知らぬマンホール、あるいは、知らない街のマンホールの上で数秒から数分の間じっとしていると、全く知らないどこかに飛ばされる。

そんなはた迷惑で、どこにでもある非日常への入口の噂話。

 

これがまたどのマンホールか特定しづらいし、役所に言っても中々対応してくれないって理由で一般人の頭を悩ませる厄介物だ。

しかも飛ばされる場所も決まってたり決まってなかったりするし、地味に命に関わるタイプの噂なんですね~。

 

「あークソ…やられた…」

「い、いいじゃないですか。センパイ暇そうでしたし、美少女同伴でダンジョンアタックですよ?」

「はぁ~…」

 

十中八九嘘だ。暇そうだからって気軽に命のやり取りが可能な迷宮に入る程酔狂なヤツは滅多にいない、死にたくはないしな。それは上埜も同じだろう。

なんとなく、コイツがここまで無理矢理な暴挙に出た理由が推理できた。

 

「…妹さん絡みか?」

「うっ…」

「うっ…てお前、わかりやす過ぎるだろ。それならそうと先に言えよ…準備しなきゃこっちも危ねぇぞ」

「…ごめんなさい…」

「謝んなくていいから、説明はしてくれ。俺が何したらいいのかも」

「…はい」

 

最初に会った時からそうだが、コイツはどうにも妹が絡むと暴走しやすい。そりゃまぁ確かにね、あの時の状況だけで見れば金髪っぽい茶髪の中学生が妹に絡んでれば仕方ないのかもしれないけどさ。

いや違うんだって、これは地毛だし俺は真面目な男の子なんですよ!

 

さて、テンションガタ落ち、見事なまでに青菜に塩の様子の上埜が言うには。

まず、一緒に買い物をしていた帰り道。さっきまで俺たちもいたあの何の変哲もない道端で、妹さんが目の前で突然消えてしまった。

とにかく妹の携帯に通話を試みるも、応答はあるが雑音で会話もままならないし途中で切れてしまう。

ここで噂で耳にしていた話を思い出す、迷宮行きワープマンホールがどこかにある。そして、この日本で携帯の電波が入らない場所はほとんど存在しなくなっている。

この二つを繋げて考えられるのは、妹は電波が何故か乱れる迷宮の内部に入ってしまったということ。

それで、俺なら力になってくれるかもしれないって思い、こうして連れてきた…と。

 

やっぱり先に説明して欲しかったなぁ!

前もって言ってくれれば悪の宇宙人とか反物質マンとか連れてきて最強パーティ結成だよ。あと回復用塗布剤とか疲労回復飴とかも用意出来たんだけど…。

 

「ごめんなさい、あたし、本当は、い…今もちょっとパニックになっちゃってて、それで…」

「いいって、大事な家族が目の前で消えたら仕方ねぇよ。変なテンションだったのもそれだろ?」

「それは割と素なんですけど…」

「そっちの方が怖いわ…素のお前はどうなってんだよ」

 

こっちがパニック起こしそうだよ、何なの最近の女子。澄ました顔で滅茶苦茶なことばっか考えてるのかよ、世も末だなオイ。

 

最近の女子についてはさておき、現状確認しよう。

目標は簡単、上埜の妹さんを見つけて三人揃って無事にお家に帰ること!

持ち物は使えない携帯電話、財布。装備はフツーの私服のみ。これだけ! …これだけぇ!?

最早絶句だよ、呆れて物も言えないとはこの事だな。迷宮ナメてらっしゃる?

不可抗力だからどうか許してほしい。

許してくれるね?

 

「センパイ…?」

 

オッケーだな!

いや、違う違う。俺が現実逃避してどうする。兎にも角にも、この不安気な後輩が頼ってきてるんだからどうにかしなくちゃな。

 

携帯電話が使えないって事はメリーさんの助けは望めない。頼み込めば食べ物と飲み物を運んでくれると思ったんだが、無い物ねだりは意味がないな。そう考えると迷宮のバケモノどもが出なくても上埜姉妹は最大で三日程度しか保たない。そもそもこうやって考えてる間にも妹さんの命が危ないかもしれない。

迷宮の幽霊やゾンビもどきを始めとする怪物どもを殴り飛ばせるのは現在俺だけ、ついでに現在地は不明。

 

詰みかと思えばまるで手詰まりじゃあない。本当は絶対にやりたくないが、どうにか出来る手段が一つだけある。

…四の五の言える状況でもないよなぁ…。

 

「上埜、妹さん共々無事に帰れるなら何でも出来るか?」

「へ、変な事以外なら…」

「真面目な話ね!? …じゃあ、これから俺がやる事は絶対に人に言うなよ。妹さんにも絶対に喋っちゃダメって言っておいてくれ。約束できるか?」

「は、はい!」

「良い返事じゃーん、信じてるぜ。念の為で悪いけど、目隠しをしてから妹さんの携帯に発信して、ずっと大声で呼び掛けておいてくれな」

「わかり、ました…?」

 

得心いってないって感じだな!何が何やらって顔に書いてあるぜ。さて…。

 

「よっ…と」

「ちょっとセンパイ!? 何してるんですか!」

 

まず服を脱ぎます。

いや冗談だよ、全裸にはなってないよ。俺は危機的状況においてキャストオフする事に快感を覚えるタイプの変態ではない。上着類とズボンを脱いで上下の着圧式肌着を顕にしたってだけだからセーフセーフ。あっ靴も忘れずに脱いでおこう。

バイト用の服装じゃないとどうも気を使わなきゃならない。私服もタダじゃないしな。

 

「準備完了っと、ほれ。あんまり俺に見惚れてないで、目隠しと電話と呼び掛けしろって」

「はぁ!? 見惚れてませんよ! …まったく………はい、いきますよ…」

「おう、せーので頼むわ」

 

なるほど、自分の上着を被るって訳ね。って上埜の様子を見てる場合じゃねぇや。

 

「…せーの、みゆ」

 

歯を食いしばる。

 

景色が遠のく感覚。

出入り口さえ定かじゃない遮蔽物に囲まれた迷宮では、決してありえない物理現象が吹き荒ぶ。

空気と音の壁が迫る。

一分は一秒に、一秒は須臾に。

須臾から弾指、阿頼耶か阿摩羅の時の間隙。

 

 

 

───☆

 

 

 

「ここが家か、あんまり変なのに巻き込まれんなよ…ってのも難しいよなぁ」

「た、太陽さん! ありがとうございました!」

 

ここがこの姉妹のハウスね。

じゃなくて、俺と上埜姉妹は物の見事に無事に迷宮から出られました、イエーイ。

んー…結構疲れたから一段下がってウエーイって感じだ、ウエーイ。こっちの方がふざけてるな。

 

「センパイ! 聞いてるんですか!?」

「エエーイ?」

「深雪がお礼を言ってるんですよ!」

「お、お姉ちゃん! 私は大丈夫だから! お疲れなんですよね…?」

 

オエーイはなんかもう吐きそう、嗚咽、吐き気、えずきだな。かなりえずき。

…ハッ!? 意識が益体もない方向へぶっ飛んでたな。ちょっと無理し過ぎたか?

 

「あぁ、悪い…ちょっとボーッとしてたぜ。二人ともそんなに気にしないでくれ、今回は無事で良かったってだけだ。何があるかわかんねぇから、ちゃんと気をつけてな」

「な、何度も助けてもらってますから、今度お礼させてください!」

 

意を決したように頭を下げる深雪ちゃん。白い髪がふわふわ宙を舞っていて、名前とよく似合ってる。お礼なんてどうだっていいんだが、直球を面と向かって言うのも感じ悪いか。

 

「いいって、いいって。それよか約束ちゃんと守ってくれよ、それだけで十分だから」

 

実際問題、しっかりとは覚えてないけどたぶん何度も助けてる訳でもないしな。今回だって偶然と上埜の強引さが合わさった結果だ。何度も歳下の女の子に頭を下げられると、こっちが気恥ずかしいってもんだよ。いや場合によっては事案だよ。脅迫か何かだと思われたら御用だよ。

 

「ちなみにこのネタでセンパイを強請るっていうのはどうですか?」

「お前このいい感じの解散って時にそういう悪辣な事言うの? マジで?? 性格の真っ当な部分は妹に全部取られたのか?」

「ナイスなアイディアだと思ったんですけど…」

「とんだ害するアイディアだよ…」

「お姉ちゃん…」

「キー! なんですか二人とも!」

 

この猿か鳥め、家族をドン引きさせちゃあダメだろ。次会うときまでに小学生レベルの一般道徳をインストールしておけよ。

うん、まぁ流石に冗談だろう、さもなくば俺がお外を歩けなくなっちゃうぜ!

 

そういえば今更になって上埜(姉)の名前も思い出してきたわ。まさか俺ってばボケかけ!? ではないよな、高校生で若年性アルツハイマー病に罹患してたら洒落にならん。

 

「じゃあ、俺はこれで。翠香に深雪ちゃんも、姉妹仲良くな」

「はい、太陽さん。お体に気をつけてください」

「…覚えてたんですね、あたしの名前」

「そりゃそうだろ、じゃーなー」

 

手を振って自分の家を目指す。

 

…あ、危ねえ! なんかカッコつけちゃったけど、姉の方の名前を思い出すのギリギリだったぞ!?

 

上埜姉妹の名前は、姉が翠香。漢字も同じ梅の名前、スイコウから親がつけたらしい。妹さんは深い雪でみゆき。なるほどねぇ、雪に梅か。風流ってヤツを感じるね。

 

二人並んで俺が遠くなるまで手を降ってるのを見れば、仲良くなんて言うまでもなさそうだ。

あー、しかし湿度が高いぜ。これから秋になるまでずっと高温多湿って考えると嫌気がさすな、いっそ憂鬱。鬱って何回も書くと鬱になりそうだよね。

うーん、メランコリィ…はぁ…蒸し暑いわ…。

 

 

 

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