はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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本編と然程関係しない話です。


小品で小粒な話 その2

 

 

 

 いやぁさ、体育ってテンション上がるといえばテンション上がるよね。やっぱ身体を動かすっていうのが良いんだろうな、日常的に運動を嗜めば血圧とか血糖値だのが下がるって言うし。

 

 ──じじむさいな…。

 

 な、なんだとお……! 

 頭に響くのは俺の中に憑いた魂の代表的な存在。それぞれに名前はあるんだが、便宜上の呼び名は……まぁいいか。とりあえず、わかり易く考えるならもう一人のボク的なね、そういうのって認識でいいんじゃないかな。あるいは脳内フレンズ、これだと俺がメチャクチャ寂しい人みたいじゃねーか。

 

 ──おい、上だ。

 

 えっ、何が? 

 

「お゛んッ!?」

「當真っ!」

「フライ命中しとる!」

「顔面セーフか」

「野球に顔面セーフはねーよ!」

 

 これは俺が悪い。だって集中してなかったんだもんな、これはもう自業自得だぜ。

 そっか……森山の日常ってこんな感じかァ…! 

 

「ナメんじゃねえぞこの野郎ッ!?」

 

 やたらと生傷の絶えない友人の一人が傷を増やす理由に、妙に納得する…ワケ無えじゃんか。

 こうなりゃマジだぜ。野球のルール上、地面に球が落ちればセーフ。落ちてなければ捕球の可否次第ではアウトだ。

 俺の頭を地面と勘違いした白球くんは、バットに軽く当てたのかと思う程またも空高く跳ね上がっている。俺の頭が軽いって言ってんのか!? 

 

 ──言っていないが。

 

 あ、そう!? 

 今は関係ねえよ、ブッアウトにしてやる!! 

 

 ──語呂が悪い。

 

 俺もそう思う! 

 

「があぁァァ!」

「うわ速」

「キレ過ぎじゃないか?」

「うーわ、捕りやがった」

「アウトー!」

 

 どうだよオイ。本気出しゃこんなもんだぜ? 

 

「見たかッ!」

「見てねーよ!」

「はーい終了終了」

「當真の頭に当たって随分跳ねたなぁ」

「空っぽなんじゃね?」

「………」

 

 見てろよォ!! 

 っていうか誹謗中傷じゃん、頭が空っぽなのはもう暴言じゃん。むしろいいだろ、頭空っぽなの。夢が詰め込めそうでさ。

 

 と、まあ俺の全力疾走でチェンジになった訳だ。時期としては夏頃なんで、攻守交代の時に見計らいつつ給水や休憩をグダグダと挟みながら駄弁る。

 一応言っておくが、体育教師公認だぜ。熱中症は初期症状が出る前に対策しなきゃな。

 

「おうコラ、あんま体育館に近付くなよー!」

「わかってますよォ」

「しかしねぇズッキー…こういう時にしか女子の爽やかな成分を摂取出来ないのだから…」

「よく喋る…! だったら運動部に入ればいい話だ!」

「死ねと言いたいのか!? 教師の言うことか、そんなの!」

「死ぬもんかよォ!」

 

 ウチのクラスの馬鹿がズッキーこと鈴木体育教師とガタガタ言い合ってるぜ。ちなみに鈴木先生のフルネームは鈴木二三彦、柔道・剣道・薙刀部の顧問であり既婚者だ。

 武道の段位が空手も含めれば合計二十三段の危険な男、それが鈴木二三彦先生。俺とはあんまり関わりが無いぞ。だって俺、帰宅部だもん! 

 あっ、前言撤回。運動部の助っ人を頼まれた時にはたまに顔合わせてるわ。まあいいじゃん、そういうの。

 

 ズッキーこと鈴木先生はいいんだ。重要な事じゃない。

 クラスの馬鹿と言ったが男子は往々にして馬鹿だ。それには当然俺も含まれる。自覚はあるぜ。

 何か喧々諤々の言い合いになってんなぁ…と思いつつ給水を終えて、体育館の横を通り過ぎると。確かに女子が運動に精を出していらっしゃる。

 

 何チームかに別れてやっているのは…あー…バレーボールか? ネットでバレーのコートみたいに区切ってるし。

 いや…? よくよく見てみればボールが小さいじゃん? 目の錯覚じゃなければな。ネットも低いし。バレーボールじゃないのか? 

 

「行くよー!」

 

 あ、立神だ。体育館壊すなよ…ん…? 

 

 立神が掛け声と同時に、ソフトボール程の球を斜め上に蹴り上げた。相手側のコートへ向かう球、ラリーに応じるも手は使わず攻防の応酬は蹴り込みのみ。

 背中に羽が無いだけで、行われるは空中戦。明らかにバレーボールではない異質な動き。あれは…あれこそまさしく和名は籐球、異名は空中の格闘技…! 

 

「セパタクロー…ッ!?」

 

 そう、セパタクローだ。

 いや待てよ、普通の高校では絶対にやらない難度の球技じゃん。普通はラリーさえ出来ねえよ、何をトチ狂ってこんな競技を…。あぁ、ズッキーか。どうせマイナースポーツもやってみようとか、そんな所じゃないかね。加減がわかってねえんだよな、一般的に考えたら難しいし怪我もしやすいだろうに。

 しっかし凄まじいな。ラリーが続いてるのも驚きだけどさ。殺意が混じっててもおかしくない程度に熱が入ってて、あまりの恐怖に薊が半泣きで動いてるじゃん。

 

「どうしてぇ…!」

 

 うん…どうしてだろうな…。本当は皆、和気藹々と体育をしたいはずなのにな。たぶんだけど、立神が周りを煽ったからとかそんなんじゃねえかな…。体育の時でさえのんびりしてるはずの野上が、やたらとアグレッシブに動いて跳んでるし。

 

「ッ! レイリーちゃん!」

「うん」

 

 レイリーもアグレッシブだったわ。というかアイツ自分の身長より跳んでないか? ちっこいのに凄いじゃんね。

 よくよく思い出してみると、レイリーも謎が多いな。野上の運動神経が抜群なのは言わずもがなってモンだが、同じバイト先の荒事慣れ過ぎ同級生だぜ。どこからともなく凶器が出てくるし、しかも使い慣れてるしさ。通信教育で習ったのかな? 

 

「あっ! ぐ…ぐぬぬぅ〜」

「っシャアー!」

「やったね」

 

 お、一点入った。しかもレイリーのシュート? アタック? で。いったいどこにそんなパワーがあるんだか。

 

「…!」

「あっ」

 

 やべえ目が合った。

 このままだとマズい、俺が女子の飛んだり跳ねたりをコソコソ楽しむスケベ野郎だと勘違いされちまう。風間じゃねえんだから。

 

「……」

「が、がんばれよー」

「ん」

 

 だが特に糾弾されることも無く。どうにか聞こえる程度の音量で激励すれば、返ってきたのは微笑みと細やかな手振り。うーん…黙ってれば美少女だな。

 

 少しばかり失礼な事を胸に秘めつつ、グラウンドに戻る。俺の打順はまだ遠いし、何か注意されるでもない。というか熱中症の心配だってあるんだ、適宜休憩は大事ってコトで文句を言われる筋合いも無い。

 

「うーし、じゃあ俺達の攻撃だぜー!」

「テンション高いな」

「某は知ってるでござる!! 當真殿は今し方、体育館にて青春の汗を煌めかせている女子を堪能してきた次第であると! ずるーい! 許せぬー!」

「言い方が気持ち悪ィんだよ! たまたまだ馬鹿!」

「えー、本当かなぁ〜? 女子を物色してたんじゃなくてぇ〜?」

「しつけえよ! してねえって!」

 

 最悪の濡れ衣だよ。コイツらの中で俺はどんな人間なんだ、暇さえあれば女子にいやらしい目線を浴びせてるのは風間だけだろ。俺は真っ当だぞ。

 

「じゃあアレでござるか? 体操服からほんのり透ける淡い色彩を堪能するでなし。あー頑張ってるなー程度の感想しか持たぬと?」

「枯れてんなぁ……」

「いや失礼だろ、俺に!」

「枯れてないって言うなら、ユーは誰が目当てなんだいっ。ミー達のクラスは意外と綺麗どころが揃ってるじゃあーりませんか」

「なんだお前」

 

 え、何。急にコイバナ的なものに舵を切るの? 風間のセクハラ暴走トークでいいじゃん。俺はこの手の話が苦手なんだよ。

 

「……野球に集中しようぜ! 次のバッターは!?」

「次のっていうか、今は森山だ」

「ああ…」

 

 どうにか回避して話を逸らそうとしても、負傷率ナンバーワンエルフが試合を半ば中断させているらしい。

 森山の事だから言うまでもなく打撲か突き指をしたんだろう。そして暇だからそういった色恋沙汰の話がしたいと。修学旅行の夜かコイツら。

 

「で、誰が好きなのぉ〜?」

「恋の話!? 聞かせてェ…!」

「変なのまで寄って来ちまったじゃねえか…」

 

 俺はね、硬派で居たいんですよ。恋だの愛だのって軟派じゃないですか、ええ? 

 それがどうだ、大の男…男子高校生どもが寄って集ってさぁ。恥ずかしくねえのか、目ぇキラキラさせやがって。蛇口に突っ込んで水垢で曇らせて来なさいよ。

 

「好きなピーポゥ略して好きピが居ないっていうならさァ! 誰かと付き合ったらって話でもいいんだよッ!」

「守備の連中は突っ立ってろや!」

「鈴木先生も付き添いで居ないんでな、休憩は大事だろう?」

「颯、お前もか」

「いいんだ。ほら、気軽に、仮定の話だから…同じクラス内だと例えばって程度さ…。そう、スタローンとヴァンダム、もしくはチャック・ノリスの誰が強い程度の話だよ…」

「か、仮定のォ…? それはもうチャック・ノリスじゃないのォ…?」

「淋代ってヤバい勧誘させたらダメなタイプだよな」

「被害者が個人じゃあなくて団体になりそうだ」

「アイツたぶん姉の話に持ってかれたくないからだぞ」

「シスコン野郎…」

 

 仮定…仮定の?? 

 もしも誰かと…えーその…お、お付き合いをする…か。今さっき目についた同じクラスの女子とすると…。

 

 野上? 無理だ。たぶん蹴られるかアスファルトのシミにさせられる。

 立神? 元男らしいぞ。あと知らぬ間に犯罪の片棒担がされそうじゃん、無理だ。

 薊? 無茶言うなよ。そもそもスムーズに意思疎通が図れないじゃん。

 じゃあ…。

 

「なぁもしも…もしもだぜ? そりゃもうあり得ないっていうか、あっちゃいけないけど、万が一の事で…」

「言い訳がましいわーっ!」

「いやだって後ろめたいんだよ!」

「いいから、お兄さんに話してごらん?」

「誰だよテメーは」

「ユーのフレンドデース!」

「いやマジで誰だよ」

 

 さっきから妙にカタコトのコイツは相良楽々、サガラ・ララ。ラが三つであだ名はラララ。と覚え…なくていい。

 純日本人なのにカタコトなのはおかしいだろ。

 …ひょっとしてなんだが、ウチのクラスって変なのしか居ないんじゃないか? 

 俺は普通だって、極めてノーマル。思想が。

 

「えっとォ、じゃ、じゃあさ…。

 もし俺がレイリーと付き合ったらどう思う…?」

 

 いやまさか、まさかね。お付き合い云々は以前こっ酷くゴミみてえな発言をして断ってるんだから、今更あり得ない。それはわかってるんだけどさ。

 この針の筵っていう感じの視線に晒されて、やっぱ思い付かないわ〜なんて言えないじゃん。すまんレイリー…! 

 

「ロリコン野郎」

「ちょっと距離を取るよね」

「ロリコン野郎」

「サンシャインロリコン」

「合ロリクソ野郎」

「オイ! 同級生だぞ!?」

「美ロリスキー」

「美ロリスキー伯爵」

「おいィ!!?」

 

 口々に言いたいこと言ってくれてんねえ! 

 っていうかシレッと戻ってきてんじゃねえぞ森山! 距離を取るとか言うなよ! 

 しかしなんだこの野郎ども、そして言いたいことを言いまくるこんな世の中はなんだ、毒の逆で薬か? ドラッグはダメだろ、倫理的に。

 

「差し入れは持っていこう」

「サンキュー颯…じゃねえんだよ」

「自首はお考えでいらっしゃらない?」

「お前らレイリーにも失礼だからな、謝っとけよマジで」

「ところで身長差が四十センチ以上あると、まぐわ…うむ。おセッセが出来ぬと申し聞きたり候。後学に活かせそう故、身長差の云々について聞きたくなるでござるなぁ!」

「うわ」

「何が後学だよ」

「ゲス野郎」

「だッ、誰が!?」

「二人とも」

「心外でござる…!」

「最近皆さんの俺への扱いが本当に酷い。風間と一緒にするとか人権を何だと思ってんだ…」

「當真殿?」

 

 ここ最近では最悪の印象操作だね、間違いねえ。

 

「っていう話があったんですよ。酷くね? 

 俺はともかく、レイリーに失礼ったら無いでしょ」

「ふむ…レイリーちゃんは立派な高校生、なのですが…見た目の印象は大事ですね。人は内面と言いつつ、パッと見た時の第一印象を気にしますから」

 

 で。今は俺に対する恐るべき風評被害が醸成されつつあった出来事を、見た目だけはすこぶるよろしいフォンセルランドさんに愚痴ってるってワケ。

 

 美人は得って言うし、この人も持ち前の優れた外面…じゃなくて外見で何度か得をしていたのを見た事がある。

 例えば弁当屋とか。持ち帰りの食べ物を主に販売している個人の飲食店では、フォンセルランドさんが頼んだ時には明らかに盛りが良かったりしている。頼んでないのに甘い物が付いてきたりとかね。

 他にもスーパーマーケットでは、あのちょっとした集会とか御墓に供えてあるような内容量の小さなお茶の缶をオマケとして、付けてもらったりとかもね…う、羨ましくなんてないんだからねッ! 

 

「そう、印象は大事です」

「まあ否定はしないっすよ」

「例なんていくらでもあります。たとえば、太っている人は運動が苦手とか」

「あー…まあそう、か? 力士みたいなのも居ますけど」

「日焼けしている人の方が健康的だとか」

「ちょっと断言し難いすね。ああでも、あくまで健康的であって断言はしてねえからいいのか?」

「ええ。とにかく、こういうものは実在の人でイメージするより、フィクション作品の方が顕著ですよ。個性の記号化ですからね」

 

 なるほど? そう言われると一理あるかもしれんね。

 ほんの少しの納得、奇天烈な話の中にも一点の合理性があるかもと考えたのを感じ取ったのか、フォンセルランドさんが得意気に続ける。

 

「いいですか? 

 緑髪の女性キャラは大体負けヒロインです」

「少年日曜(サンデイ)のレジェンドに謝ってこい、話はそっからだ」

「メガネが瓶底レベルで厚ければ大体頭脳キャラです」

「え、続けんの? この与太話」

「しかもデータが役に立たず負けます」

「そうかな…」

「メガネで顔が見えなければ、メガネを取ったときに美形ですし。大体陰キャとか言われる面倒な性格です」

「そうかも…」

「金髪で目付きが悪くて高校生ならチャラ男です」

「俺じゃん」

「そして年齢を問わず大体寝取り竿です」

「アンタ俺のことそう見てたのか?」

「紫髪でおさげのツインテールでメガネでそばかすでチャイナ服で関西弁の発明」

「李○蘭ッ!」

「正解っ!」

「うるッせえよ!」

 

 ちなみに李紅○については調べてみるか、サ○ラ大戦をプレイしてみてほしい。

 

 にしても、やっぱりダメだわ。見た目がいくら良くったって、この会話から滲み出る品性に関しては言葉すら持て余すじゃんね。

 見ろよ、アホみたいな会話でフォンセルランドさんってば上機嫌だぜ? 

 

「ふふっ…魑魑魍魅魍魅(ちちもみもみ)

「怖…近寄らんとこ…」

 

 いや上機嫌だからってそれは無えよ。

 この世の全てが桃色に見えてそうな危険物から、バレない程度に距離を取って報告書の打ち込みをしていると。普段は聞かないタイプの騒々しい足音、と同時に事務所の扉が無遠慮な力加減で開かれた。

 誰だか知らねえけど壊したら弁償だぞ。実費な。

 

「ちっすー! 教会から逃げてきた、黄瀬ちゃんっスよ!」

「あっ、天野神父? 今アホ吸血鬼が事務所に」

「ちょちょちょ!」

 

 俺より明るい金髪っていうかほぼ黄色の髪を、煙草のニオイと一緒に振りまくような暴れっぷりで、俺の動きをを制止してくる元気な女性。見た目は二十代、中身は確か三十代の吸血鬼。久しぶりに見るが、黄瀬さんだ。

 吸血鬼って老けねえのかな…枝蔵くんの両親も老けてないから、恐らく老けないのか。便利だな。

 

「待っでぇ〜…禁酒と禁煙が辛いのぉ〜…!」

「いや近寄んないでくださいよ、ヤニ臭えのが付くでしょうが」

「太陽ぐんが冷だぃ〜あ゛あ゛〜!」

「ちょ…やめろッ、オイ! 携帯に触んな! あーじゃなくて、ヨダレが垂れてんだよきったねえな!?」

「ん゛あ゛あ゛〜!」

 

 そしてこのアホ具合である。んああじゃねえんだわ、これで三十代ってマジ? 日本って凄いよな。この人ってばこの仕上がりで普通に社会人やってたんだろ、これでさ。選挙権があるだけが大人の条件じゃねえな。

 

「はぁ…ったく冗談ですよ冗談。そんなすぐに電話かけられねえっての、ほら離れろ離れろ」

「えっ、ほんとぉ!? やったぁー!」

「離れろって言ってんだよッ、こ、このッいでででで!」

 

 ギチギチ言ってる! ギチギチ言ってる!! 

 これは抱擁なんて甘っちょろいもんじゃないぜ。これぞヘッドロック、吸血鬼の馬鹿力で頭蓋骨が悲鳴を上げてるよ。力加減をお忘れでいらっしゃるのかな、この阿呆吸血鬼さんは。

 俺じゃなかったら誰もが目を背けたくなるようなスプラッタ映像が記録できちまうところじゃんね。

 

「はっ離せッ…この馬鹿…ッ!」

「あー! 太陽くんが馬鹿って言ったっス! 同じ金髪仲間なのにい!」

「はァ!? 馬鹿に馬鹿って言って何が悪いんだよォ! 第一、俺はどっちかって言うと茶髪だろ!?」

「馬鹿って言う方が馬鹿なんスよ!」

「小学生かアンタ!?」

 

 こういう金髪のマジな阿呆がいるだけで、金髪=アホの理屈に拍車が掛かって正論になっちゃうじゃん。

 世の中ね、第一印象が大事なんだよ。

 そもそも派手な髪色っていうだけで、未だに偏見が強いんだからさ。坂本先生とかアイちゃん先生を見ろよ。あの人達ってば地味な髪色に染めてるんだぞ。生徒は染髪禁止だっていうのに、教師は落ち着いた髪色にさせられる。社会の悲哀を感じるな。

 あぁ…でも昔からあったんだっけか。大学生活でははっちゃけた髪色に染めてたのを、いわゆる就活の時期には真っ黒だったり茶色にするって。

 お陰で坂本先生とかアイちゃん先生が忙しくなって、髪の毛を染める暇も無くなるとだ。片やカラメルソースの比重が狂った逆プリン頭、片やいちご部分が侵食していく○ポロチョコが見れるぞ。

 ……話が逸れたな? 

 

「ふーむ、頭の良し悪しですか。髪色だけでは確かにそう……頭の悪さに累乗されそうですね」

「なるほど馬鹿掛ける馬鹿、って言われる程馬鹿じゃねえよ! 俺が金髪っぽいからって、十把一絡げに馬鹿扱いされるのは納得いかねえぞ…ッ!」

「メリーさんも金髪っスよ、三人揃って金髪トリオっス!」

「ええぇ…ヤダァ…」

「私もちょっとそれは……」

 

 何だかんだ、金髪っぽいというだけで細かく見れば髪色も千差万別だしな。何より頭の天辺から爪先までアレな方と一緒くたにされたくない。

 という事で俺の地毛は茶髪って事にならねえかな。ダメか? ダメか……。

 

「…はっ!」

「どーしたんスか?」

「黄瀬さんダメだ、あれはろくでもねえ事を思いついたって感じだ」

 

 天啓…ッ! まさしく蒙が啓くが如し! 

 フォンセルランドさんがそんな事を言いたげな声を出したが、絶対にまともな何かじゃない。

 最低限毒電波を受信した、最大限では見ただけで正気を喪う何かに囁かれた。そんな所がスタートの閃きだぞ。

 

「頭のいい人は催眠術に掛かりやすいと言いますよ」

「やらねえよ?」

「お馬鹿!」

「お馬鹿!?」

「童貞!」

「それは関係ねえだろ!」

 

 ほら見ろ、また変な事を言い始めたじゃねえか。あまつさえ馬鹿とは何だ馬鹿とは。俺はスマートな一面をもっと押し出していこうかと思ってるんだよ。

 何かこう…安楽椅子探偵的なね、ダメか。恐らく創作上世界一著名な安楽椅子探偵は薬物使用者で、性格もよろしくないしな。

 

「………」

「いや、やんないっすよ……」

「……………」

「やらねえって……」

 

 …………く、くそォ! 

 

「……しょうがねえな、お試しですよ、お試し」

「ヤッター! それではこちらの5円玉を見つめてください」

 

 俺は…弱いッ! 

 自身の非力さを嘆いても、明日はやってくるんだぜ。

 そうじゃないな。クレイジードールことフォンセルランドさんの手に握られているのは、紛う事なく5円玉。いつの間に用意したのか、糸だか紐だかも括り付けてある。

 

「用意してあんのォ…っていうか今時5円玉に紐ってのは古典的どころじゃねえよ…」

「50円じゃダメなんスか?」

「こういうのは5円玉と相場が決まっているんですよ」

「はえー……」

 

 化石レベルじゃねえか。もっとこう…あるだろ、携帯電話を使っての催眠アプリとかそういうの。

 黄瀬さんの言う事も尤もで、確かに何で50円玉じゃあしっくりこないんだろうな? 極端だが寛永通宝だって真ん中に穴が開いてるじゃん。

 

「はぁーい、あなたはだんだん眠くなーる…」

「心の準備とか必要じゃねえのか!?」

 

 胡乱な催眠術の矛先は俺だ。しかも前置き無し。そこはさぁ、黄瀬さんをチュートリアル的なね、練習台にしてから本番に挑んでほしいじゃんね。

 吸血鬼なら、よしんば頭が破裂しても平気だろ? 

 物騒過ぎる例えだとしても、まず考えてみてくれ呪殺人形直々の催眠術とかさ、首がねじ切れたりしそうじゃん。怖過ぎるぜ……そういや怖い存在だったなフォンセルランドさん。

 

「眠くなーる眠くなーる……」

「無視かよ」

「眠くなーる……!」

「…………」

 

 いや効かねえ、これっぽっちも眠くならねえ。

 むしろ何をされるかわからない緊張感で目が冴えて仕方がないぜ。フォンセルランドさんの前で寝るとか、熊の目の前で死んだふりをするよりも危険だからな。

 

「……あなたはロードオブザリ○グ・エクステンデッド版しか見れなくなーる」

「新手の拷問かッ!?」

 

 四時間超えだぞ!? 

 例え名作だとしても一本で四時間以上は無理だって! 

 

「エクステっスか?」

「違えよ。何で部分的なカツラの話になってんだよ」

「やはり効きませんか」

「やはりって言ったか? アンタ普段から俺のこと馬鹿だと思ってたんだな??」

「お馬鹿!」

「なんだとぉ……!」

 

 言うに事欠いてこのアホドールめ、好き勝手人を馬鹿馬鹿と言いまくりやがってよぉ! 

 

「やっぱり太陽くんも馬鹿なんスね!」

「やっぱりィ!? いや待ってくれよ黄瀬さん、人の事を馬鹿にする前に一つ質問いいです?」

「なんスか?」

「飛行機って何で飛ぶか知ってます?」

「気合いっスね!」

「……そっかァ」

 

 こ、これと同類に扱われなきゃいけねえのか!? 

 そこは計算式とか出さなくてもいいから、推力とか浮力とか揚力って単語が出てくるもんじゃないか、そんな事を期待していた俺はお笑いだったぜ。

 義務教育っていうか、この人高校も大学も出てるんだよな。義務教育じゃなくて教育そのものが脆くも崩れて風化した気配を感じ、呆気に取られていたその時。

 

「こんにちは」

「お、おお! レイリー!」

 

 遅れてやってきた同級生、レイリーがエントリーだ。何か……韻を踏んでるような感じで嫌だな……! 

 それはいいんだ。この脳みそが融けそうな場の雰囲気をどうにかしてくれ! 

 

「なに…どうしたの。あれ、黄瀬さん……?」

「おひさっスー! 相変わらずちんまくてカワイイっスね、ウチが見ない間にまたカワイイに磨きがかかったんじゃないっスか?」

「…………」

「あぁ……」

「黄瀬さんはちょっとアレだな……」

 

 何ていうかさ、人の事を言えた義理じゃないけど、デリカシーってモノがあるよね。

 レイリーが滅茶苦茶冷たい目してるじゃん。いつか十字架でぶっ刺されるぞマジで。

 

「カワイイだけじゃなくて、レイリーちゃんは目もキレイっスね!」

「…………」

「黄瀬さん、ちょっと静かにしてましょうよ……!」

「ホントの事っスよ?」

「確かに綺麗な目ぇしてるけどさァ!」

 

 もっとこう…あるじゃん。

 とにかく褒めに褒めて褒めちぎれば良いって事じゃないじゃんね。

 

「…………」

「レ、レイリー? 黄瀬さんも悪気がある訳じゃないと思うんだよ。ほら、この人アホだからさ…」

「あー! アホってゆったー!」

「ほらな? 言葉の端々からアホが漏れ出てるだろ」

「…………」

「その、だ、だからさ。目が綺麗ってのはマジだから、そんなに気を悪くしないでほしいっていうか。

 ……レイリー?」

「……っ!」

「照れてるんですよ、黙ってなさいお馬鹿」

「え!?」

 

 ど、どこに照れる要素が!? 

 やっぱりあれか、大人の見え見えの打算よりも無邪気な褒め言葉の方が、スッと心に響く的なヤツか。

 恐るべし黄瀬さん……。レイリーのこの反応まで計算尽くだったとしたら、とんでもねえよ。社会人としての処世術、その片鱗なのかもわからんね。

 でもまあ黄瀬さんが言うまでもなく、レイリーの眼は綺麗だと思うぜ。

 

「あ、あの……」

「んー……」

 

 照れてるのか。それにしたって頬が赤くなったりはしていないし、顔色が極端に変化している訳でもない。

 強いて言うなら、目が泳いでる程度か? 本当に照れてる? フォンセルランドが適当言ってるだけだったりするんじゃないか。

 

 後日、人に……俺の天使様に聞いてから本で調べた事なんだが。レイリーのような目は部分的虹彩異色症(ヘテロクロミア)、もしくはアースカラーというらしい。

 普通の虹彩異色症とは違って、目の虹彩の一部に色が混じって見えるから部分的ってコト。アースカラーは両目ともに緑や青や茶色が混じるらしい。でもレイリーの場合、両目ともに黒と青が混じってるから、正確にどっちなのかというのも難しいな。

 

「あ……あんまり、見ないで……」

「ん? あぁ、悪い」

 

 流石に見つめられるのは嫌だよな。俺としたことが、またデリカシーが無いって言われるような事をしちまった。これじゃあ黄瀬さんの事を言えないぜ。

 

「アラマァー! 見ましたか黄瀬さん」

「若いっスね、青いっスねぇ!」

 

 アホ人形とアホ吸血鬼がいつのまにか隅で固まって、何か言ってやがる。アホ人形の方は仕事漬けでおかしくなったんだろうな。そもそもアホ吸血鬼の方は、一体何をしにここに来たんだ。まさかとは思うが本当に禁酒・禁煙に耐えかねたってだけなのか、まったくよォ。

 

「暇なおばさんかよ……」

「は?」

「は?」

「あっ」

 

 と、いうわけでね。

 あんまり人の見た目や心情について、とやかく言わない方がいい。気にしてなさそうでも、案外人ってのは気にしてるもんだよ。

 

「太陽くんって、ちょっと馬鹿だよね」

「前が見えねえ」

 

 こういうのを、ぐうの音も出ないって言うんだろう。

 

 

 

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