はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です! 作:枯華院 清日
七夕スペシャルです。
環(探偵事務所所長代理)(猫)視点です。
「あぁ〜…」
眠い。
知っているだろうか、猫の睡眠時間は十時間を優に超えて十四時間以上眠る。
アタシの場合は普通の猫ではないので、人間のソレと変わらない程度の睡眠時間だが。昔ながらの習性か、それとも人に寄り添うには無理があるのか、人間で言うところの昼夜逆転生活を送っているからか、結局眠いものは眠い。
大きい欠伸と伸びをしてリビングに向かう。人間どももやった方がいいぞ、屈伸。
「起きたか環、今日はどっちにする」
大きめのソファでだらけていると、アタシの主人がリビングに来た。この人は犬飼 歩。探偵事務所を営んでおり、そこの所長を務めている。アタシはそこの所長代理。
申し遅れた、アタシの名前は環。
名前はあるが名字は無い。いつか主人と籍を入れるつもりである。
「同じので〜」
「そうか」
訊かれていたのは朝食についてだ。主人とは付き合いも長いので、主語やら色々な物を省いた会話も成立する。
朝ごはんの用意をしてくれるマイダーリンの後ろ姿を見れば、いつだって新婚気分。アタシは主人が好きだ。普通の野良の頃から面倒を見てくれた優しい彼、家族と言っても過言ではない。
そうそう、猫は人間どもを大きくてどんくさい無害な猫だと思っていると言われるが、個体差はある。
人間だって言うあれだ『同じ人間とは思えない』って表現そのもの。少なくともアタシは昔から人間のことを同じ存在とは思っていない。変な行動をする何かとは思っていたが。
これが本当かどうか試したいなら猫流の毛繕いを飼い猫にしてみるといい、舌で整えるヤツ。これも個体差はあるだろうが、大抵はドン引きするんじゃないか。
「いただきまぁす」
「いただきます」
向かい合ってトーストを食む。今日の朝ごはんはレタスとトマトのサラダに冷たいカフェオレ、バターを塗ってから少し冷ましてあるトーストと、同じく熱々とは言い難い目玉焼き。
何で冷ましてあるかって? アタシは猫だし主人は猫舌だからだよ。慣れの問題だけれど、動物は猫じゃなくても基本的に猫舌だぞ。
「……」
食事中は無言だ。事務所の事務員兼受付かアルバイトの高校生とかが居るなら話は別だが、アタシ達だけの食事では会話は無い。
主人も普段から多弁ではないし、アタシも静かな方が落ち着くからちょうどいい。静かな咀嚼音が豊かな朝のBGMだ。
それにしても今回買った食パンは、個人的にはハズレだな。そのまま焼いてこれだけを食べる分にはいいかもしれないが、どうにも甘過ぎる。
甘いお菓子と一緒にサラダと目玉焼きを食べてる感じがする。カフェオレとは合うけど、ここにジャムなんか塗ってたら甘味の交通事故だった。
主人も何ともいえない顔をして食べているので、リピートは無いな。高級食パンと謳うから期待したけれども…まぁ、勉強代だと思おう。
そんな中でもトマトもレタスも実に美味しい、そういえばどちらも旬か。人間に近い私の味覚でも驚く程の瑞々しさと柔らかな酸味だ。昨今甘い野菜が持て囃される中で、なんともトマトらしいトマトの味がする。
普通の猫は酸っぱいものが嫌いな者も多いが、アタシは化猫なので一味違う、少し苦手なだけだ。何せネギもイカもチョコも普通に食べるし飲酒もする、冷えた日本酒にイカ刺しとかこの時期には最高だ。アタシは違いのわかるグルメキャットなのだよ人類。
でもちゅうるも好きだ、更に言うとカリカリよりもウェット派。
「ごちそうさま〜」
「下げるぞ」
「アタシが洗うからいいよ」
「いいのか?」
「いいのいいの」
猫は水場を嫌う、というのもこれは本能的なものだ。毛が濡れたままでいると、野良の場合は命に関わるリスクになる。それを悟って避けてのもの。
人型にも成れるようになってからは入浴も皿洗いもお手の物だ、むしろシャワーなら毎日浴びたい。
そんな訳で食後の皿洗いを済ませると、アタシのグラスにカフェオレが補充されていた。牛乳仕立てで、水出しコーヒーから作られた甘さ控えめの物。
食事中の物と同じだが、主人の手作りの逸品。最高。
「んん〜」
皿を片付けた後、食後の食休み。
人型をやめて猫の姿で主人に甘える。こちらが人間の姿でじゃれつくと、撫でられる面積が違うからか幸福度がまるで違う。猫の状態で撫でられる度に当社比三割増しの幸せを実感する。
「ゴロゴロ…グルル…」
…ヤバい、このまま寝たら最高に幸せだと思う。
どうにかして主人を布団に引きずり込んで、クーラーの効いた部屋でこのまま一緒に寝れないものか…。
「そろそろか」
「ぬぁ…」
主人の手が離れていってしまった…。夢の世界からこの世の終わりへまっしぐら。
時計を見れば、撫でられてからおよそ十分以上は経過していたようだ。あと一時間もすれば事務所を開ける時間が来てしまう。
毎度毎度考えることだが、人間はどうにも働き過ぎではないだろうか?
猫が普段からよく寝るのは、狩猟の時の体力を温存するため。ならばせっせと日常的に働く人間は、いざという時に動くだけの体力が無いのではないか。
なのでここは主人にも休む事の重要性を説いて、のんびりとすることの素晴らしさを…。
「依頼の確認をしてくる」
「…は〜い」
ダメかぁ…。
「おはよーっす」
【愛に溢れる探偵事務所】
事務所入口に立て掛けてある看板を横目に鍵のかかってない所内にそのまま入る。不用心なのではない。
挨拶はどうせ自宅に一度も帰っていない、ちょっとしたセコム代わりになっている友人に向けてのものだ。
「おはようございます、環」
「また帰ってにゃいのか…」
メリー・フォンセルランド、アタシの友人であり事務所の事務員兼受付。基本的な電話応対なんかも行う、お喋り好きの『メリーさん』のうちの一人。
「っていうか蒸し暑い…冷房入れにゃよ…」
「汗も出ませんから、一人の時は入れません。勿体ないでしょう?」
「暑さ寒さもわかるんだから、入れとけばいいじゃん…」
「無駄遣いは駄目ですよ」
ああ言えばこう言う、我が友人ながら頑固なものだ。
「それと鍵も閉めときにゃって、泥棒が来たり襲われたりしたらどうすんの」
「大声を上げます。そうすれば上階のあなた達が助けてくれますよね」
「そりゃそうだけどさぁ」
信頼はありがたいが、そういう話ではない。未然に防げるものは防ぐべきだと思うし、泥棒に入られた探偵事務所なんて、随分と外聞が悪い。
「それとも何ですか、夜な夜な行われる深夜の運動会な乱痴気騒ぎで、私の絹を裂くような悲鳴が聞こえない可能性があるっていうんですか」
「そういうのはしてにゃい。にしてもあっちぃにゃ〜…汗でベタつく感じがどうにも」
「汁でベトベト!?!?!!」
「汗でだよ、一本抜くにゃ」
「一発ぬ」
「これ駅チカの高い食パン。食べ残しっぽくて悪いけど、甘過ぎて食事に向いてにゃかったから残りはあげる」
「わぁい」
チョロいなメリー、それでいいのか。
「アタシは見回り行ってくるわ。迷子の依頼もついでに片付けてくるからよろしく」
「行ってらっしゃい、水分補給も忘れちゃ駄目ですよ」
「あいよ。水分は主人のお手製カフェオレでたっぷり摂ってるから大丈夫、日々の潤いって大事よねぇ」
「サラっと喧嘩売ってます? 買いますよ??」
「にゃははは、んじゃあにゃ」
今日は日曜日、主人もオフなので仕事はさっさと片付けておきたい。
口だけの下ネタ人形な友人を尻目に、猫用出入り口からいつも通りの仕事をこなしに向かう。
迷い猫の捜索依頼は二件ほど舞い込んで来ている。依頼人の住所も覚えてるので手早くやってしまおうか。
うちの雑用係はただの散歩と勘違いしてそうだが、アタシが外を出歩いているのは仕事の見回りが多い。
昔ながらの探偵の仕事は大抵このまま達成可能だ。
片田舎に限らず都市部では殊更に見つかりにくい迷い猫を始めとする迷い動物も。
『よっす〜』
『チッス! タマキさん!』
『最近見慣れない子来なかった? 白くて毛の長い子と、逆に毛の全く生えてない子』
『白くて毛の長い…あ、それなら駐輪場近くで見ましたよ、毛の無いって奴は見てないっスね』
『おう、サンキュ。情報料として後でデカい煮干し持ってきてやるよ』
『あざっす!』
これぞ猫ネットワーク。
傍目にはニャアニャア喚いているか、無言で対峙しているだけに見えるだろう。愚かな人間どもよ、猫は何でもお見通しだ。猫を敬うがいい。
『ついでにさぁ、ちょっと近くのホテルの前で待機しててくんない? 昼過ぎにアタシも向かうから。缶詰めも何個か持ってくるからさ、頼める?』
『任せてくださいよ、そんなもんで食い物が手に入るんですからいくらでもやりますって。何よりガキどもが最近食べ盛りなんで助かります』
『そうだっけ? じゃあ子供用のカリカリも付けるわ』
『ざっす!!』
更に仕事の仕込みもやっておく。自分は平気だ、絶対バレない。などと高を括る間抜けへのプレゼントを用意しておくのだ。
町中で火遊びに勤しむ愚かな人類よ、逃げ場は無いぞ。猫を畏れるがいい。
『んじゃアタシは他の所回ってくるから、よろしく』
『うっす』
こうして着実に仕事をこなしていくって訳だ。猫の手も借りたいって言葉もあるが、本当に借りられれば人の悩みも簡単解決。
迷子の方は見回りがてら捕まえて、その足で届けてしまおう。あとは事務所に戻ってからカメラと煮干しと缶詰めとカリカリを持ってホテル前へ。
『さて、居るかな〜?』
着きましたるは近所の駐輪場、朝早いと人も多いが昼前なら静かで日陰も多い中々の休憩場所だ。
『…スー……スー…』
居たわ、無防備に腹を空に向けて曝け出して寝ている世間知らず丸出しのが。
声掛けするのも面倒だからこのまま静かに運ぼうかな、完全な野良じゃないから人の姿を見て滅茶苦茶に暴れはしないだろう。
「よっと…」
首筋を掴んで回収完了、それにしてもこいつ凄いな。触られて持ち上げられてるのに起きもしない。野生が死んでるんじゃないか。
これでよく家出しようと思ったものだ、しかもめっちゃ重いし。こんなんじゃ鈍くさ過ぎて虫も鳥も鼠も狩れないだろうに。
しかも毛艶もかなり良い、これで野良は無理でしょ。というか依頼人の家、ここからかなり近いし。急に小さな自由を手にしたくなったのか。
まぁいいか。家庭の事情に踏み込み過ぎない、これこそ探偵の仕事のコツだ。
「奥田さーん、私【愛に溢れる探偵事務所】の所長代理の環です。先日からお探しの迷い猫、こむぎちゃん捕まえましたのでお届けにあがりました」
インターホンを押して所属と用件を並べる、人間のこういう煩雑な所は面倒で仕方がない。
「えっ、本当に!? ちょ、ちょっと待っててください!」
「はぁい」
在宅で良かった、事務所に持って帰ると事務員が嫌がる。猫は好きだが引っかかれると大変だし、関節に毛が入り込むと地味に辛いらしい。人形の身体も難儀なものだ。
「あぁこむぎちゃん! ありがとうございます〜!」
「近くの駐輪場に居ましたよ、ドアの開け閉めの際は気をつけてくださいね。後日封筒で書類を送りますので、お手数ですがそちらに確認後にサインと返送を、料金の方は口座にお振り込み願います。それではまた何かありましたら【愛に溢れる探偵事務所】を是非ご贔屓ください」
「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」
口に出して助言しないけれど、そんなに涙目で頭を下げるくらいならドアの手前に柵でも置いたほうが良いと思うよマダム。こんなどんくさ猫でも出て行ける程度には隙が多いのは問題だよ。
「では失礼しますぅ〜」
『あれ!? えっ!?』
しきりに周囲を確認してるけど今起きて気が付いたのか…。本当によく家出できたなこむぎちゃん、あまりの緊張感皆無っぷりで同じ猫として引くわ…。
「さぁて」
ともかく他の溜まり場を回ってから事務所に戻ろう。人間の姿、特にこのスーツとパンプスというのは窮屈で仕方がない。
身だしなみを整えるのも毛繕いだけで済ませたいアタシには、どうにも礼服というのは面倒にしか思えない。人間社会もまた窮屈だ。
「戻ったぞ〜」
見回りと追加の買い出しを済ませてから事務所に帰宅、事務所兼自宅だから間違いではない。
「おかえりなさい環」
「代理、おかえりっす。買い物してたんすか」
「そんなとこだにゃ」
冷房の効いた事務所に馴染むアルバイトの姿。雑用と荒事を引き受ける高校生、當真 太陽。ちょっと間の抜けた所のある、見た目の派手な子だ。
以前はもっと生意気だったが、今は結構素直になったと思う。敬語はしっかり使うべきだとも思うけど、まったく使えないよりはいいだろう。
「ただの散歩じゃないってのも珍しいっすね」
「あぁ? そんにゃ時もあるってだけだ。お前こそどうした、今日は日曜だぞ? 高校生のくせに暇を持て余しすぎじゃにゃいの」
「二人してなんだよォ! 俺は報告書仕上げた後に颯と遊びに行くんですゥ!」
「お、おう…」
既にメリーにもイジられてたのか…。休日出勤の世知辛い感覚に染まるには高校生はまだ早い。仕事熱心なのは良いが一長一短ある、少しは遊んだ方がいいというのが持論だ。メリーも同じ考えだろう…たぶん。
「それは置いといて、二人とも昼はもう食べたか?」
「いやまだっすよ、出前でも取ります?」
「私は先程のパンをいただこうかと」
「パン貰ったんすか? いいなぁ俺には何か無いんですか代理ぃ」
…なんかイラッとするな。だがまぁいいだろう、今日は甘やかしてやるか。元よりそのつもりなのも含めて買い物をしてきたのだ。
「今日はアタシが作ってやるから軽く食べてから行け」
「マジィ!? やったー!」
「あら…珍しいですね」
「つっても簡単にゃヤツだぞ、主人の分のついでだ」
「ご相伴に預かります」
「あったけぇ…タマさんの優しさが染みるぜ…」
「太陽くん? 私も優しいですよね?」
「本当に優しい人は、働きに来た高校生の事を寂しい奴だなんだとイジったりしませーん」
「私の半分はバファリンと同じで優しさで出来てるんですよ?」
「残り半分は?」
「砂糖とスパイス、それと何か素敵なものと性よ…」
「やめろやめろ! 最後で台無しだよ!!」
バカ丸出しの会話を聞き流して自宅へ上がることにした、猫より知性の無い会話だ。痴性は溢れてるが、時間帯的に自重した方がいいんじゃないか。
「たっだいまー!」
「…おかえり。どうした何かあったか?」
出迎えてくれる人のいる喜び、猫の身なれど嬉しい。でもエアコンを切ってトレーニングをしていたのか、匂いはともかくとして、ムワッとした纏わりつくような空気はいただけない。
「んーん、にゃんでも。主人もお昼まだでしょ? 今日はアタシが作るね」
「いいのか?」
「任せてよ〜」
「そうか…ありがとう。俺は汗を流してくる」
「いってらっしゃい!」
風呂場へ向かう主人を見送って、すかさずエアコンを入れてキッチンに。我慢大会をしてるんじゃないんだから、涼しくしておけばいいのに。
「よし…」
お昼の献立は決まっている、スーパーでの買い物中に決めておいたのだ。冷蔵庫の中身も当然考慮してある。アタシは出来る猫なのだよ。
まず、冷凍してある玄米ご飯を電子レンジで解凍します。玄米ご飯の理由は主人の健康に気を遣ってのこと。健康は日々の食事が大切だ。
次にフライパンでウィンナーを焼く、ウィンナーとソーセージの違いは大まかに言うと羊の腸を使っている物がウィンナー。ソーセージは肉の腸詰めの総称。
ウィンナーを焼くときのコツは最初に少しの水を入れて蒸し焼きにしてから油を足して炒めること。水が無くなる前に他のおかずを作るのだが、火加減を忘れて長時間炒めすぎると無様に弾けるので注意。
もう一品は関東風の甘めの卵焼き。卵を割って砂糖と牛乳、顆粒だしを少々ずつ入れて混ぜ溶く。もちろんその前に卵焼き器は温めて油を薄く引いておく。それで卵を焼く訳だが、最初にフライ返しを使ってしっかり焼き固めておかないと後で崩れやすくなるから注意。それと欲張って卵液を入れ過ぎないことも大事だ。焼き上がったら冷めるまで放置、じゃないと切り分けにくい。
先に出来た卵焼きの切れ端をつまみ食いするのは、作った者の特権だ。
「熱っあっつ…!…おっ」
冷まし足りなかった卵焼きに苦悶していると電子レンジが仕事を終えたと告げる、ご飯が温まったようだ。
今日の昼のメインにはおにぎりを二種。メリーの分は小さく、主人とアタシのは中くらい、太陽のは大きく作る。
具材は塩昆布とかつお節に醤油を垂らしておかかを作って混ぜ込みおにぎりにする。それと夏場なのでノーマルな梅干しおにぎり。塩分控えめのはちみつ仕立ての物を真ん中にあしらった定番メニュー。
米を握る時は齧った時に零さないよう固めに仕上げる、ここでラップを使うと手洗いの手間も減るのでおすすめ、海苔を巻くのは形が出来た後にしておこう。
「よしよし」
白と茶色と黒が映えるおにぎり、たんぽぽみたいな卵焼き、焦げ目のついた今にも皮が弾けそうな焼きウィンナー。箸休めのたくあんも添えて…。
うんうん、我ながら完璧な仕上がり。猫を崇めよ人類。
「出来たよぉ〜」
「ん、下で皆と食べるか」
「そうしよっか」
シャワーから上がった主人と実は二人っきりで食べたかったが、提案を無碍にすることもない。皆で食べよう。…この匂いもいいよね。
「おら出来たぞ〜こっち来て座んにゃ」
「はい、所長もこちらで食べるんですね」
「あぁ来客も無い、たまにはこういうのも良いだろう」
「タマさんの手料理って久しぶりっすね」
「ほれ手を合わせて、いただきます」
「いただきます」
「いっただっきまーす」
「…いただきます」
少し騒がしい食事もたまには良いか。
「んむ…ぬぁ…!」
先に梅おにぎり、アタシは苦手な物は先に食べる派。
酸味のきつい物はどうにも得意ではない、柑橘類も苦手だ。動物は大抵そうだと思うが、人間は別だったか。他の動物と比べればかなり悪食だな。
減塩はちみつ仕立てとは銘打ってあるものの、うぅ…酸っぱい…。卵焼きで緩和させよう…。
うん…卵焼きと合わせれば良い感じだ、ふんわりとして優しい甘みが梅の酸味を覆ってくれる。食感の柔らかさは牛乳のお陰、お弁当にする時は入れない方がいいけれど、こういう時は別だ。
「んまいっすよタマさん!」
「えぇ本当に、やる気になれば環は器用ですよね」
「メリーは一言余計だにゃ」
「どれもよく出来ている、美味いぞ」
「えぇ〜本当にぃ〜?」
「あぁ」
「うわ…」
「太陽くん、お茶を淹れてください。渋めの物をお願いします」
「奇遇っすね…俺もそんな気分です」
「お前ら言いたいことがあるにゃら言ったらどうだ」
嫉妬? 嫉妬なのか?
何か言いたければハッキリ言えよ!
「けっ…」
落ち着けアタシ。
ウィンナーは少し冷めても皮の張りが焼きたてそのまま、皮目に歯を立てれば肉汁の詰まった風船がパツンと歯切れよく破裂する。
ちょっと熱いか、猫舌の主人は…大丈夫そうだ。
今回の個人的なメインディッシュ、おかかおにぎり。
どこから食べてもかつお節の香りと塩昆布の甘じょっぱい味わい、海苔の青っぽい匂いも醤油と引き立てあっている。玄米のぷちぷちとする食感も楽しい。
箸休めのたくあんとの相性も良い、かりこりしゃりしゃりと噛めば噛むほどまた他の物、更に別の物の味わいを求めて舌の中の飽きが遠のく。
「この梅干しおにぎりが特に良いですね、何だか可愛いですしコントラストも鮮やかです」
「梅干しが可愛いって、またよくわかんにゃい感性してんにゃ…」
小さくて丸っこいドーナツも好きだったし、そういう好みがあるんだろうか。味とはあまり関係ないが…料理は目でも楽しむって言うからいいか…。
「俺はウィンナーと卵焼きっすね、どっちも何かコツとかあります?」
「純粋に美味いって言わにゃいのがお前らしいよ…」
「何か変でした!?」
主夫かよ。
子どもは子どもらしく、美味い美味いって食べとけばいいものを…。こいつらしいと言えばこいつらしいので良しとしよう。
股間のポークビッツ取っちまえば、きっといい嫁さんになれるぞ…!
「ごちそうさま。美味かったぞ、梅干しが苦手なのに入れてたのは俺達を気遣ってだろう。ありがとう環」
「えへへへ…」
「……」
「…お茶っす」
「間に合いましたか…ありがとうございます太陽くん…」
「いいんすよ…」
何か言いたげな連中を無視して、満ち足りてくるような甘美な一言に酔いしれる。
何見てんだ、見せもんじゃねーぞ!
「片付けは俺がやろう、環はゆっくり…」
「ありがと、でも用があるからすぐ出なきゃ」
「そうか、気を付けて行くといい」
「うん!」
最高、好き。
「……」
「……」
「にゃんだよ」
「いえ…」
「っす…」
形容し難い顔をしてないで言いたい事があるならハッキリ言えばいいのに、変な奴らだ。
メリーは半眼でトボけた表情を作っているし、珍妙な器用さを発揮してんじゃないよ。