はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です! 作:枯華院 清日
敗北感に打ちひしがれる私はさておき。いえ、さておきというか、どこかに捨て置かれず二人の両手に捕まってズルズルと引き摺られ……浮いている格好です。
ちょうど宇宙人捕獲のアレと同じですね。誰が宇宙人ですか、誰が。
私が知っている宇宙人は筋骨隆々のトンデモマッスルで、とてもじゃないけれど抱えられる体はしていませんでしたよ。他の宇宙人は会ったことがないので、あの人がスタンダードなのかもわかりませんからね。そもそも前提として宇宙人のスタンダードって何でしょうね、銀色の卵みたいな頭してるアレ?
「で。服買いに行くって言っても何処に行くんだよ、先に言っとくけど俺は詳しくねえぞ」
「安心してほしい。オレはどっちでも大丈夫だ」
「どういう意味で言ってんの? 普通は服屋ならどちらでも詳しいとか言うんじゃねえの??」
「ああ、ちなみにだがわざわざブティックには行かない。ショッピングモールやデパートで一式をいくつか揃えた方がいいだろう」
「……なんで?」
「復活したなら歩いてくれよ……」
もうちょっと甘えても良い感じがする。けれど自分の足で歩いて彼の腕を独占するのもまた趣が違う、それと変な誤解もされなくて済みそうだ。
太陽くんの腕に絡み付きながら、疑問の顔を颯くんに向ける。察しのいい颯くんなら、これだけで説明してくれるだろうと期待していますよ。
「理由は二つ。まず一つ目に當真は服飾品に金銭を使いたがらない事、普段から休みの日でも制服が多いだろう? 制服の替えと寝間着に使っているシャツとズボンとパンツぐらいしか持っていないのさ」
「いやだってお前……布だぜ!? ただの布に何万も払ってられるかよ、それと俺が着るとダメにしやすいじゃん。コストが嵩んでしょうがねえよ」
この男、布だぜ。と来ましたか。その気持ちの一切がわからないではないけれど。それはそれとして、ある程度身なりに気を使うべきじゃなかろうか。
「その点制服ってのは便利じゃん。破れにくい布地に壊れにくい装飾、基本的に誰が着てもダサくならない。
俺は学ランタイプだから校章ピンを付ければ所属が一目瞭然、そしてピンを外せば何かやらかしても通報が学校にはいかねえだろ。
何よりここが大事だ、そうッ諸々込みで安い! 品質的にはあり得ねえ安さだッ!」
「ほらね?」
「私生活が割とカスだね」
「カス!!?」
控えめに言ってカスだよ。そういえば、彼のプライベートな空間に入ったというのに私が取り乱さなかった理由がそれに付随するものです。
さっきの彼のお住いから出る時のことですが。
「出る前に部屋見ていい?」
「あん? 俺の部屋か? 面白いものとか無えぞ」
「レイリーさん、オススメしないよ」
「いいから」
「押しが強えよ……ほれ」
まるで何か恥じらうでもなく、感慨が湧いた様子もなく。自分の部屋の扉を開けてくれました。
家の中でも公共的なリビングでは、私の方も何の感慨も湧きようがない。せっかくのお宅訪問だから見れるものは見たい、そう思っていたんです。
が。
「…………」
「な、別に面白いもんとか無いだろ?」
彼の部屋にあった物は。ここに越してきた時から使っているであろう勉強机、それとベッド。図書館から借りてきたラベルの付いた参考書だとかを除けばほぼそれだけ。そうです、彼は私物らしい私物をほとんど持っていなかったのです。
数少ない服はハンガーに掛けて干しっぱなしにしてあるか、隅っこにまとめて畳んであるだけ。タンスさえも無し。面白いものの有無どころか、何かがごっそりと抜け落ちているような部屋。
ええ、あまりの殺風景な部屋に引きました。
私とした事が非常に甘い目算だったと言わざるを得ません。鬼の首でも取ったようにスケベブックの一つや二つを探し当ててみせようかと思ったら、現実はまったく何も無い空っぽな部屋。
颯くんも止める訳ですね。普通の人は高校生男子がこんな空虚な部屋に住んでいるのを知らずに見れば、私物を持つことを許されない、受刑者か何かの部屋かと勘違いしてしまうようなミニマリストっぷりです。
今日という日は始まったばかりですが、一番の恐怖体験だったと言えますよ。たぶん。
そして、凄惨とも形容できる彼の部屋を見て。私はいつか必ず彼に説教をしないといけないと心に決めました。本当に、しょうがないんだから。
と、そんな訳で。できるだけふざけた受け答えになるように個人的に控えてあげてるんだから、むしろ感謝してほしい。もっとズタボロになるまで言ってもいいんだよ? 冗談です、言いません。
「二つ目の理由は簡単だ。コイツが途中で逃げる前に決める為だよ。二人で捕まえておけば逃げられない。それに折角だからユニセックス物で何着か揃えておけば、後でどうなろうと着られるだろう?」
「なるほど」
「よ……よくわかってんじゃねえの」
敵前逃亡は武士の恥じゃないの。
武士じゃないからいいのかな。あっ、違う…武士は食わねど高楊枝? 据膳食わぬは男の恥? …まあいいか。
そんな事を話しつつ太陽くんの腕に絡み付いて逃がさないようにしつつ。やって来ました割とご近所のショッピングモール。移動には電車を使いましたが、電車内であろうと太陽くんの腕に絡み付いていたのは逃さない為で他意はございません。
嘘です、他意しかありません。
夏休み期間とくれば、この手のモールは毎日繁盛しているものです。家族連れのキッズは多いし、同級生くらいの人影もちらほらと見えます。
子供だけの集団もキャッキャと歩いていたりもして、なるほど平和とはこういうものかと納得しますね。よく考えたら未成年イコール子供と考えれば、私たち三人も子供だけの集団ですね、平和。太陽くんの身に起こっている異常以外は平和。
「先ずはどこにしようか」
「下着でしょ」
「えっ!? したァ!!?」
「じゃないと服が選べないでしょ」
「ハードルゥ!!」
「高いなら潜ればいいよ」
「覚悟を決めろ」
「お前らノリがおかしいって!」
「形が崩れたらどうするの!?」
「知らねえよッ!」
世の中には補整下着という物もございます。というか普通物であっても寄せて上げる・背中側から肉を集める等のテクニックも存在している訳です。
このベイビー同然の女子一年……一日生に、いろいろと叩き込んであげましょう。
「えっ、マジで入んの? このパステル空間に?」
「当然」
「オレはここで待っておこう。こちらは気にしないが、當真が嫌がるだろうからね」
「むしろ入ってこいよ! 気不味くて死にそうだよ!」
「うるさい」
「助けてェー!」
「はっはっは、ごゆっくり」
「クソッ離……! こ、コイツ、糸で結んでやがる!?」
死が二人を分かつまでって所ですね。
───☆
皆は男のホースが消失して、しかもそれが友人にバレて、よりによってそのまま女性物下着売り場に連行されたらどうする!?
「店員さん」
「はーいお呼びでしょうかぁー?」
「この娘のサイズ測ってあげてください」
「かしこまりましたぁー」
アパレル系の女性店員さんってさ、なんか語尾を伸ばして上げるよな。アレって癖なのかね、それとも厳しく指導されんのかな。じゃねえよ。ど、どうする!?
「え、ちょ」
「はいこちらへどうぞぉー」
「……マジすか」
混乱してる場合でもねえよ。滅茶苦茶手早く案内するじゃん、息つく間も無いぜ。
流石に耐え切れない。何がって今の状態がだよ、何が悲しくて男が公衆で半裸を晒さなきゃいけねえんだ。ここから回避可能な保険とか、ハンサムな太陽が逆転ウルトラCなアイディアをポンと浮かぶとかないか、浮かばねえわ。現実は非情である。
くっ……レイリー! 助けてくれ!
お前に人の心があるのなら……!
「…………」
ダメだあの目は。まるで、ああ可哀想に明日には養豚場に連れて行かれてその内食卓に並ぶのねって感じの目だ。むしろ欠片でも人の心を持ち合わせてたら、いつの間にか解いてたけど糸で人を拘束しねえよな。
お姉さん、違うんですよ。俺は男なんですよ。現状だと頭がおかしくなったと思われそうなんですけど、俺は確かにメンズだったんですよ。
うわ、めっちゃ脱がすの速くね。抵抗したら怪我させるのは確実だから何も出来ねえんだけど。
「お客様、普段お使いの下着は……は……!?」
「デビューなんです、優しくしてあげてください」
「えっ!?」
えっじゃないんだよ。女子デビュー自体今日だわ、何ならデビュー数時間だわ。いいや諦めてなるものかよ。今朝方から大分煩くしてたから、ちょっとうんざりしてそうな奴に声を大にして話しかけてやる。
……おい。オイ!
──うるさい……。
お前本当に何もしてないんだよな!?
──していない。またぞろ変な事に首を突っ込んだ弊害だろう。我らがお前の肉体を変化させることは出来るが、性別まではまだ出来ない。
まだ!? まだって言った!? 望みはあるのかッ!
──…………。
おォい! オース、オースくゥーん!!
やぁねえ、オースくんったらシャイなんだから。
ちなみにオースっていうのは便宜上の名前ね、正体は地下で出会った魂の方々。その代表的な人格らしい奴のお名前だ。オースってのもどういう意味で付けたんだか聞いても答えてくれないんだよね、というか普段から全然喋ってくれないし。もっとコミュニケーション取ろうぜ。
ちなみに既に何度か変身してるけど、あの黒い骸骨っぽくなるのはオースが貼り付いてるからだぞ。身バレしなくて便利ィー……でもないか、喋れなくなるし。
しかし万策尽きた。こうなりゃもう後は野となれ山となれ、俺は同級生の前で服をひん剥かれて、元男のスリーサイズという珍妙な情報を知られるしかないのか。事実ではあるんだが、思いつく限りの変な情報を羅列した感じが酷いな。
この思考の間、時間にして僅か数秒だ。
「はーい、腕も持ち上げてくださいねぇー。腕、も、ですよぉー? アンダーから測りますからねぇー」
「はい……」
この店員さんも何かおかしくないか、手際がとんでもねえよ。もしかして俺みたいに何かヤバイ感じの存在だったりする?
「胸を持てって意味ですよぉー?」
「はい……」
すまねえ、たぶん顔も見た事がない両親。俺は今日、何か大事な尊厳を削られるらしい。
尊厳を無くすの二回目じゃね? 改造手術を合わせて。ハハッジョークジョーク、改造人間ジョーク。
「これは…差が29.8……!」
「……そすか」
「I寄りのHです……ッ!」
「エッッッ!?」
「……そうすか」
世界は俺に厳しい。
それとレイリーは変な悲鳴を上げていた。驚きのエッなのか、それともエッとはカップ数とやらの復唱なのか。疑問は尽きることがない、尽きちまえこんなの。
「ありがとうございましたぁー」
「…………」
「いい買い物だったね」
「……そうか?」
へい。そういう色々があってね、こうしてパステルカラーの辺獄から退店した訳ですよォ。
最近のリンボってヤツはどうやらファンシーな空気と甘やかな芳香剤と新品の布のニオイがするらしいぜ。皆も気をつけろよ。ちなみに下着は高かった。皆も気をつけろよ!
「ややっ、レイリー殿!」
「……戻って来てしまったか」
このトボけた二人称と顔面をほとんど隠した面頬を着けた変なのは……ッ!
「風間くん」
「そうでござ……エッッッッヤダァ…! 其方の御仁は如何なるお方でござるか!? お姉さぁん! 某は其処な淋代殿とレイリー殿のフレンズ、風間と申すでござるぅ! 御名前の方をお伺いしてもっ!?」
「うるさっ……」
「しかしねえレイリー殿、このような方にお会いしたらまずは自己紹介のアイサツこそ基本でござるよ?」
エッ、って何だよ流行ってんのか。アイサツも何も知ってるよ。学校で何度も顔合わせてるっていうか、俺の席と隣接してんだよ。テンションクソ高えな、お前の所のお姫様に見つかって殴られてこいよ。
……じゃねえや。そういやどうしたらいいんだ、名乗った方がいいのか、それとも他人のフリをした方がいいのか!?
この馬鹿野郎に俺がこんなんなってるって言ったら……うん、絶対ロクな事しねえ。男の友情とか言ってボディタッチしてくるぞ。何が悲しくて男に男がベタベタ触られなきゃいけないんだ、最悪だよ。
ああ学校の問題もあるじゃん。最悪の場合、この状態が夏休み明けまで続いたらどうすんだ。他人として名乗ったとしても、いやむしろ名乗ったが故に俺の諸々は引き継げないとしたら。
「風間、そのまま待っててくれ。レイリーさん、こっちに。少し話そうじゃないか」
「! ……うん」
はっ、颯! レイリー!
何か名案を閃いたのか!?
「…………」
「…………」
「やだ、内緒話でござるって。某寂しい……というか、お二人べらぼうに仲良くなってるでござる。お姉さんは何かご存知で候?」
知らねえよ。昨日から何か仲良くなってるんだよ。まあ喜ばしい変化だと思うぜ、二人とももっと人と仲良くなるべきだと思ってたからな。
いつどこで何があるかわからないこんな世の中。いざって時に助けてくれるかもしれない交友関係なんて広いに越したことないんだからさ。
っていうか話し声が聞こえねえな、いつの間に変なスキルでも身に付けたのか。わからんもんだね。
「待たせた」
「お待たせ」
「……おう」
「アッララ、ラァ! お声も素敵でいらっしゃるで候!」
「…………」
「この人はオレと當真の共通の知り合いでね。レイリーさんが是非お近付きになりたいと話していたんだ。
しかし休みまで時期が合わなくて、それでこうしてやっと遊びに来た訳だ」
「口が悪い蓮っ葉なところもあるけど、優しい人だよ」
そういう設定!?
そういう設定で本当にいいんだな!?
「この人は…月宮ひまわりさん。ひまわりさん、コイツは風間。俺達のクラスの変人だ仲良くしてやってくれ」
「ウワァー! 御名前も可憐だぁー!?
あれっ、淋代殿? 某のこと友人じゃなくて変人って仰られた? 一字で大変な違いでござるよ?」
「その……よろしく」
「私と同じくらい人見知りだから気をつけてね」
「ええまことにぃ!? ウヒョー!」
何かヤバイ物でもおキメになってらっしゃる? ってテンションだなコイツ。というか完全に他人の体でいくんだな、名前までちゃっかり考えてるし。
待てよ? おいおいなんてこった、この歳で名付け親が一人出来ちまうとはな。正気じゃねえな。
「私も考えたよ」
「あぁそう……今さっきそんなコト話してたのか?」
「うん」
名付け親二人だったわ。
こんにちは新たな俺、月宮ひまわり。どっちも俺の下の名前から来てないか、月にヒマワリってお前。まぁいいか、そう長い付き合いにはならないだろうし。
……事態がどんどん変な方向に行ってるよなァ!?
「それで? 風間はどうしてここに」
「某でござるか。某も買い物でござるよ、とは言ってもお三方の付き合いで来ているだけでござるが」
「三人?」
「明察にござる。土屋殿と森山殿と某、そして珍しい事に此度はもう一人いるでござる。某が助平の波動を感じて走り出してしまったので、森山殿が転んでしまい仕方無しに置いてきてしまいまして候」
えぇ…嫌だァ…。同級生四人とエンカウントする前に、この場から離れるべきじゃねえかな。今の所ボロが出てねえけど、これ以上となるとどうなるかわからないじゃんね。
「そうか。じゃあオレたちはこれで」
「おや噂をすれば影が射すとはこの事。
おうい土屋殿ー!」
颯! お前もうちょっとハッキリ言えよ!
逃げ出そうとしたら回り込まれちゃったじゃねえか!
「ッ……クソッ……!」
「おっと……」
「隠れさせろ……馬鹿……!」
「あぁ、どうぞ」
颯が無駄に身長高くて助かったぜ。仲間を呼び出した卑劣な風間め、こんな状態が見られれば見られる程後で面倒になるなんて目に見えてるじゃんね。
ウチの学校のデコボコ仲良しコンビ、土屋と森山が来ちゃったじゃねえか。森山は相変わらず怪我してるし……今日は鼻血か、服に血が付いてるのってちょっとしたホラーだな。
「風間お前、急に走り出すんじゃねーよ。歩幅とか森山の事を考えろっての、なあ?」
「詰め物を持っていて助かったよね」
「大丈夫……?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとうレイリーさん」
「いや失敬失敬。某は桃色気配に敏感で候、怪我も大事に成らず済んで一安心!」
大事に成らずってどこがだよ、思いっ切り鼻に詰め物した銀髪エルフがいるじゃねえか。
レイリーも引き気味の出血量って中々だぜ、サッカーだったら退場食らってるぞ。
「ひゅー……ふひゅー……」
「ああっナイトウが死にかけてる!」
土屋達に更に一歩遅れて、髪の長い瓶底眼鏡くんが息も絶え絶えになりつつ到着した。学校じゃあそんなに喋る方じゃねえんだよな。
死にかけの眼鏡、こいつの名前はナイトウ……ではない。ナイトウってのはあだ名だ。
「誰……?」
レイリー? 相手は一応クラスメイトだぞ?
まあ確かにレイリーが話すタイプの人間じゃない。何故ならコイツは……。
「んんwwし、失礼……ぉふッ……HPが尽きかけで…。せ、拙者の姓は月を見る里と書いてヤマナシ、名は騎士と書いてナイト。皆を健全にお護りする、月見里 騎士ですぞ……! ぺゃwwww」
「……!?」
ステレオタイプでストロングタイプかつオールドタイプのオタクくんだ。ほら見てくれよ、レイリーが絶句してるぞ。初対面で度肝を抜くとはやるなナイトウ。
というか、そりゃそうだ。ナイトウと一対一で喋る機会なんて無かっただろうからな。
ちなみにコイツ、眼鏡を外して真面目な顔をすればそこそこ整った顔をしてるぞ。ズルしてねえか、何かしらの不正が行われていらっしゃるんじゃないのか。
「こ……こんにちは……?」
「レイリーさん落ち着いて、ナイトウは珍獣じゃない」
「ペロペロは一考しておりますが、実際には噛みませぬぞ! 拙者はイエスロリータノータッチの紳士協定に批准しておりま」
「っ!!」
「グワーッ御褒美!」
「うわキモ……」
「ありがとう、いい薬です!」
太田胃○かよ。お前相手ならおお退散だろ。ロリ扱いに怒ったレイリーに殴られて喜んでるんじゃねえよ。
と、コイツはずっとこんな調子のクセして学校だと女子に話しかけられないんだよ。シャイボーイなんだろうな、そういう事にしといてくれ。
月見里は大概ややこしい名前だ。山が無ければ月がよく見えるから月見の里でヤマナシ、携帯でも一発で変換できるから割とメジャー寄りの、マイナーメジャーなカッコイイ名字をしている。
それとキラキラしてらっしゃる下の名前、騎士。これでナイトだぞ、よく真っ当に育ったな。俺だったらグレてたかもわからんね。
何より月見里でヤマナシっていうのは山梨県と混同してややこしい。しかも下の名前は大声で呼ぶには気が引ける、っていう理由で大半はナイトをもじってナイトウって呼んでる。
ついでに言っておくが、風間が俺に大分セクシーなゲームを貸してきた事もあったが元はと言えばナイトウが元凶だ。学校に勉強と関係ない物を持ってくるんじゃねえよ、小学中学で教わんなかったのか。
「して。何故月宮殿は隠れておいででござる?」
「ッ!」
風間こ、この野郎ッ! 人が隠れてるって解ってんなら放っておけよ……! マナーだろ、何かしらの。
ダンボールがガタガタ動いてても、何だ気のせいか、っていう程度には一般的なマナーじゃないのかよ。
「ひまわりさんはその…シャイなんだ。多人数の異性が相手となればそれはもう、とても酷いあがり症が発揮されてしまう」
「そう、だから近寄らないであげて」
「そんな……! それは属性過積載でござろう…ッ!」
サンキュー颯、レイリー。風間の馬鹿野郎は何言ってやがんだ。属性ってアレか、火とか水みたいな話か。俺はたぶん火だぞ、燃えるから。
「淋代達は何してたんだ?」
「あ、ああ。ちょっと服をね」
「レイリーさんもいるのに當真が居ないのは珍しいかな? ところでそこの人は?」
ポンコツエルフゥ!
お前ッ変な所だけ敏感になってんじゃねえぞ!
「……無理そうじゃない?」
「難しいな……」
「諦めんなよ……ッ」
そんな簡単に諦めるのか!?
実際問題、颯の影に隠れてるよくわかんない人ってめっちゃ目立つよね。というか隠れ切れてねえもん。
何だかんだこんな風な体になっても身長170近くはありそうだしな。クソッ……俺がもっとレイリーみたいにちびっ子だった……。
「!!」
「ぐへぇ!?」
「悪口を検知したようだな」
「何が!?」
おい普通に殴ってきたぞコイツ。殴るっていうか肘で抉るようにドスってやってきやがったぞ。
「あ」
「あァ?」
「あぁ……」
あって何だよ、あって。
「…………」
「…………」
「……ウカツ!」
「ひぇ……」
あっ。
さて、現状の確認といこうか。
俺は當真 太陽。一般的な高校生のバケモノで、今日の朝まで普通の男子高校生だった。
何故過去形なのかというと、女子になっていたから。自分が、現在進行系で。女子に。
それをクラスメイトに隠すかバラしてしまうか、答えの出ない日々を藻掻くようにしていたんだが……あっそこまで大それてないぜ。だって今日だし、隠すかどうかってのもついさっきだ。
「…………」
「よし……」
俺は覚悟を決めたぜッ!
何をって?
身バレに決まってんだろ。
「まず落ち着いて聞いてほしいんだけ」
「お姉さんっ!!」
「あァ!?」
ど、どうしたんだい土屋っティ、急に大声を出して。というか人の話を遮ってんじゃないよ。俺が大事な話をする所だろうがよ。
そもそもお姉さんじゃねえよ、同級生だよ。更に男だよ、お兄さんだ馬鹿野郎。
「一目惚れですっ! 付き合ってくださいっ!!」
「!?」
……ちょっと予想外じゃねえ?
人の好みにはとやかく言わないよ、言えねえもん。それにしたってどうだい、女になっちまった姿が同級生のストライクゾーンド真ん中っていうのは。
いやぁゾッとしない話だな。許せ土屋、お前の一目惚れは今から死ぬことになる。
「まてよ土屋、俺だぞ」
「……ん?」
「當真 太陽だよ」
「誰が?」
「俺が」
「……何で?」
「俺だって知りてえよ」
「…………エッッ!?」
何だよそのリアクション、流行ってんのか。
ここまで御読了有難う存じます。
お気に入り・御感想・御評価賜りますと励みになります。