はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です! 作:枯華院 清日
今明かされる衝撃の真実ゥ!
「というわけで、こんなナリしてるけど俺だぜ」
「どうして……ドウシテ……」
「土屋、ドンマイ」
「ぢぐじょうー!!」
す、すげぇ……これが男泣きってヤツか。土屋、お前も高校球児なら泣いていいのは試合に勝った負けたした時だけだぞ。森山の慰めの言葉も意味を成してないなあれは、ちょっと可哀想かもわからんね。
「はーい質問にござる!」
「何だよ」
「さっき某を欺こうとしたのは何ゆえっ!!」
「オレから答えよう。風間は當真がこうなったと知れば、今がチャンスとばかりに胸を揉んだりしようとするだろう。流石にそれは看過できない」
「事務所を通してね」
「事務所を!? そっ、そんなっ某はそんなこと……!」
「しないか?」
「する!!」
「そこは嘘でもしないって言えよ気持ち悪いな」
「すーるっ!!」
驚く程力強い答えだ。一回強めに頭を打ったほうがいいぞ。もしくは殴った後に救急車を呼んでやるよ、黄色いやつをな。
それにしても、ナイトウがずっと無言だ。いつも男子で話す時は絶好調なのに野上とか鳥羽が近付くと黙るし、派手目な雰囲気の女子が苦手なんだろうか。
待てよ? 俺の見た目って派手なのか?
「……た……!」
「どうしたよナイトウ。た、ってなんだ」
「実在したんだ……!」
「UFOとかなら普通に飛んでるぞ、マジでどうした」
「オタクに優しいギャルはッ! 実在するッ!!」
「お前も何なの??」
友達付き合いってどうなんだろうって考える夏だな。
待てよ? この言い草だと、ナイトウにとっての俺はオタクに優しいヤンキーとかそんなのだったのか。
俺ほどの優等生はそう居ないぞ。っていうかヤンキーでもねえしギャルでもねえよ。
「しかもデカパ」
「えいっ」
「ぬぁぁっ、ありがとうございます! ありがとうございます! 拙者も実在するとは思わなかったんでござるよ、こげなデッケツデカパ」
「えいっ」
「ありがとうございます!!」
どうしたんだいレイリーちゃん、ナイトウをグーで殴って。俺は心配だよ、お前がどんどん暴力的になっていくのが。
「ウッ! ……それで、どうして當真氏はこう……素晴らしい感じのギャルに?」
「ウッてなんだよ……まあいいや、ギャルになったつもりもねえし、自分が女になった理由は俺もわかんねえんだ。だからいつ戻るかもわからん、って事で変な劣情を持ったりすんなよ。明日には戻ってるかもしれないからな」
「……いいんだ!」
「土屋??」
「罠でもいい……罠でもいいんだっ!!」
「良くねえよ。人を罠扱いすんな」
「土屋氏の言葉も拙者は正しいと思う所存。わかりますか當真氏、人生一度きり、後悔先に立たず。やらないよりやってから後悔、これが全てだと」
「殴るぞ」
「ありがとうございます!!」
いや饒舌だな。そろそろ殴った方がいいか。でも喜びそうで気持ち悪いな、やめておこう。
「拙者としては、正直TSもアリと言わざるを得ないですぞ。だって恥じらいがあるじゃない、最高かな?
モロよりチラがいい、その恥じらいのスパイスでただの布が浪漫と神秘を纏うのと同じですな。つまりモロなスケベブックより少年誌でtoラブった方が興奮する、拙者はそう言いたい」
「某も某も! 某も直接的なのより間接的な方がいいと思うでござる! 風情があるでござるもん!
電脳遊戯の全裸MODとか入れると最初は興奮するけど、何か逆に冷めてくるでござる。そして少年は大人になって、あぁ隠された財宝がいざ美術館に並んでるとあんまりワクワクしないよねって理解していくのでござる!」
「わかってくださるか風間氏」
「わかるでござるよナイトウ殿」
「こうなると話が違ってきますぞ、拙者としては擬似的な百合でありノーマルなレイ×當が熱いと思いまするが。風間氏は?」
「は……? 淋×當でござろう? お主まさか……」
「うはwwww無理wwwwサポシwww」
「ちょっと音楽性の違いが転び出てござるな」
……?
「あれ? 何か急に険悪な感じになってんな」
「當真はわからなくていい。そのままでいいんだ」
ど、どういう事だ。こいつら日本語を喋ってるのに八割方意味がわからねえ。そもそも風間と被ってないか、ござる口調とか妙なオタク趣味とか。
奇妙に通じ合ってる最中の一瞬、何か剣呑な感じの空気が風間とナイトウの間に流れたが。気にしない方がいいのか、信じるぞ颯。
というか風間よりもナイトウが何言ってるのかわからない時があるんだよな。やっぱりオールドタイプは一味違うぜ。俺はニュータイプだな。
オタクとはスーパーハカーですぞって言いつつ、違法だっていうのに自宅でインターネットを使ったりしてる筈だから、俺より変な知識があるのかもしれん。
無言で見詰め合ってる恐らくニンジャと市井の隠者を他所に、土屋が意を決した感じで話しかけてきた。あいつらは地域の変わり者。二人はちいかわ。ナイトウは薄らデカいから、でかきも。これもう悪口だろ、とにかくそっとしておくのが吉だな。
「あの馬鹿二匹は放っといて、だ。當真ぁっ!」
「お、おう。なんだよ」
「その状態で、試合に応援に来てくれっ!」
「えっ嫌だ、絶対嫌だ。他の誰かに頼めよ、薊とか」
「薊が来たら泡吹いて死ぬだろ!?」
「可能性に賭けてやれよ」
「クラスメイトに死ねとは言えないっつうの!」
やってみなきゃわかんないじゃん。薊が奇跡的に揺れたり震えたりしないで応援出来るかもしれないじゃん。土屋は信頼が足りないな。
「土屋くん、事務所通してね」
「レイリーさん! 後生だっ!!」
「颯くん」
「ああ。まずは俺を通してもらおうか」
「えっ俺の事務所ってお前らなの?」
「男の時の當真のユニフォーム写真を出すからっ!」
「二枚か?」
「二枚ならいいよ」
「事務所オッケーだ!」
「買収早くね? 何の為にあるんだよ事務所」
これが糞の役にも立たねえってヤツか、せめてトタンかブリキ程度の防御力を誇ってほしい。
ブリキはダメか、ウチの学校の悪魔先生が誇りを持っていらっしゃるからな。
ブリキは置いといて。土屋の野郎本気で言ってるのか、野球の応援ってことは人が多い場所に行くってことじゃん。これ以上奇異の目で見られたくねえんだけど。
言わなきゃ男だとバレないとしても、自認は男のまんまだよ。当たり前だろ、ある意味生後一日未満だぞ。この……自分が着けてると不安になる薄布二つセットもだ、苦渋の決断で着けてるんだぞ。その気苦労の一割でもいいからわかってくれよな。
「行こっか」
「嫌だっての」
「残念ながら無理矢理にでも連れて行く事が今さっき確定してしまった、許してくれ當真」
「買収の現場見せられて行くヤツはいねえよ。事務所抜けてフリーに転向するわ」
気苦労の欠片もわかってなさそうなヤツらが来やがったな。むしろわかった上で言ってんのか?
そもそも事務所ってなんだよ、俺が所属してる事務所は探偵事務所だよ。何か胡乱な感じのフワッとした概念的事務所じゃねえんだよ。
「まだ予選二回戦目だから! 間に合うから!」
「土屋は何でそんな必死なんだよ」
「一目惚れだっ! この際中身が當真だってのはどうでもよくなるくらいにっ!」
「俺がどうでもよくねえんだけど?」
土屋は情熱的だなぁ、その情熱の矛先は野球に向けて注ぎ込んでくれよ。高校球児にとって全力且つ灼熱の時期だろ、真っ当でもない色恋的な要素が混じった何かに全力疾走してる場合じゃないって。
「土×當は拙者よくないかなって……」
「しかし身長差的におねショタの近似値と考えればどうでござろう、某的には万事肯定(オールオッケー)! だってぇー仲魔召喚というか薄汚い小鬼(ゴブリン)じゃないでござるもん!」
「こ、こやつまさか、情報を……食ってる……!」
「バカ舌で結構! 情報(ラード)マシマシの方が美味しいでござる! 美味しい物は脂肪と糖で出来ているのでござるよ」
「このダメオタク共はさっきからなんの話してんのォ?」
「わからなくていい。本当に」
わからなくていいのか。そっか……。
だったらこんな会話に付き合ってる場合じゃねえな、さっさと目的を終わらせるのが吉だ。
「じゃあ俺らは服買いに行くから」
「俺達も付いていくよぉ! 置いていかないでくれ!」
「お前らの用事を済ませろよ……」
「大した用事じゃないんだって、俺のグローブ買いに来ただけだし。あとナイトウの服も」
「ナイトウの服? 珍しいじゃん」
土屋のグローブはさておき。ナイトウの服を買いに来たってのはかなり珍しい気がするぜ。
ナイトウはまるで服に頓着しないっていうか、今もそうだけど夏場は謎ワードプリントTシャツと長ズボンしか着てる所を見たことがない。
……ま、俺が言えた義理じゃねえな!
「月見里くんのこと言えないでしょ」
「まだ言ってないじゃん、心の中で思ってただけじゃん」
「自覚があって何よりだが。改善しないのはいただけないな、下着は買ったんだから次に行こう」
「あーい……」
「下着ぃ!? 下着買ったのぉ!?」
「参考までにサイズを教えてプリーズですぞ!」
「上がなんだっけか、Hの……」
「エッッッ!?」
「エッッッ!?」
「えいっ」
「グワーッ! 目潰し!」
「どうしてだレイリーさん! 目の前にあるのは男の夢、男の望み!」
「ただの業でしょ」
「……」
馬鹿どもは無視しよう。
あのさぁ、結局は布じゃん。下着も布だけどさ、シャツだのは輪を掛けて布じゃん。それに数千から数万円も支払うっておかしくない?
悪いのはブランドか? あのよくわかんねえロゴマークが入るだけで値段が跳ね上がるのか?
「俺の理想が行っちまう!!」
「ナイトウは細いからYシャツとかでいいのかな」
「デュフ、拙者は何も……何もわかりませぬ……!」
「恥ずかしくない格好をすればいいのでござるよ、印字シャツでは晴れの場に出れぬでござろう」
「風間殿はその服装でいいのですかな!?」
「はっはっは! 某に恥ずかしい事など何も無いでござるよ、どこに出しても恥ずかしくない大和男子でござる」
「どこに出しても恥ずかしい?」
「恥ずかしくないでござるもん!」
「お前らも引き止めろよ! 俺のビーナスだぞ!?」
何がビーナスだ。お前らはオタンコナスだろ。
おたんこナスどもはさておき、男子諸君とはこうして別れも告げずにクールに去ったぜ。
……そういやおたんこなすってどういう語源なんだ? ナスか? ナスって悪口をなのか? そもそもおたんこって何なんだ。
「一説では、吉原の頃の悪口らしい。この場で詳しく言うのは憚られる意味の場合もあるから、後で自分で調べてくれ」
「へぇ、吉原の……サンキュー颯」
当意即妙ってヤツか。颯の歩く電子辞書みたいな所は頼りになるぜ、喋ってないのに考えを読まれるのも慣れたもんだよ。
レイリーは何かムッとしてるけどな。本人はしてないつもりだろうけど、意外と顔に出てるぞ。
「で、どこで服買うんだよ」
「ここ」
「あ? ここォ……お……!?」
看板、パステルピンク。ショウウィンドウから見えるヒラヒラした布、パステルピンク。
彩度上げ過ぎたか、はたまた白地の紙に滲ませすぎたのか。このカーテンみてえな布切れどもは。
「なあレイリー」
「なに」
「俺の見間違いじゃなければ、ロリータファッション専門店って文字と、カーテンの端切れみてえな布の塊が見えるんだけど?」
「合ってるよ」
合ってんのかよ。
「帰るぜ!」
「颯くん」
「ああ」
「ウオォォ! 離せェ! 何が悲しくてこんなッ、ヒラヒラした訳のわかんねぇ服をオススメされんだよ!?
颯、お前さっき男女兼用ならって話してたよな!?」
「大丈夫だ、最近では男も女の子として扱えば女の子になると聞いたことがある」
「んなワケねえだろ!」
「落ち着け。女性から男性に戻ったとしても着られるだろう、よく考えてくれ。女性に女装は出来ない。つまり男が女装をするのは最も男らしい行為の一つだ」
「文字を書けるのが人間だって言っても、最も人間らしい行為が筆記にはなんねえよッ!」
どうした颯、とうとう凡人には理解の出来ない深淵に至っちまったのか。それともさっきまでのポンコツな会話が伝染したのか。
馬鹿と天才は紙一重って言うもんな。でもその一枚の紙って厚紙より分厚くて頑丈だと思うんだよ。
「ダメか?」
「ダメだって! 本当は女物の下着もそうだけどさ、こんなロリータ服なんて買ってもどうすりゃいいんだよ!」
「着るんだよ?」
「第一意地でも着ねえし、置き場に困るって話してんの! 貞雄さんが見たらドン引きだろ!?」
「若気の至りだと理解してくれるかもしれない」
「かもしれないは大事だけど、こういう時は使わなくていいんだよその希望的観測は!
っていうか考えろよ、金髪のヤンキーだかギャルにしか見えねえヤツがこんなの似合うか? 着ようとしたら何らかの法に触れるだろ」
「たぶん似合うよ?」
「ああ、きっと似合う」
「えっホントにィー? …ってなるかボケェ!!」
揃って頭がおかしくなったのか、変な熱視線を浴びせてきやがるアホ二名。夏の陽気は人の頭を狂わせる何かがあるみたいだな。
似合う似合わないじゃねえんだわ。何処に出ても恥ずかしくない……いや別にね、こういったロリータファッションが恥ずかしいって意味じゃなくてさ。俺の中で普通の服装がしたいんだよ。
出来る事ならスカートだってNGだぜ、パンツスタイルって言うの? ズボンでいいじゃんね。下手にスカートなんて履いたら、俺のことだからスカートが確実に捲れるぞ。まさかそれが狙いか? それを見て何が楽しいんだ……!?
「と、まあ」
「伸びる素材のカラーシャツにジーンズか……」
「普通に服買った訳なんだけどさ」
「誰に喋ってるの」
「何でもねえよ、どっちかっていうと喋ってるっていうか言い聞かせてんだよ。お前らがトチ狂ったセンスしてなくて良かったって」
結局、全力で俺が嫌がった結果お値段も普通、選択としてもかなり無難な服に落ち着いたってワケ。
上下揃ってちょっと大きめのサイズ、これでいつ男の体に戻ろうと破ける心配も無い。レイリーも颯も本気でフリフリとしたレースだらけの服を着せたかった訳じゃなかったようで、他の店に行って選ぶまでが速かったぜ。
「替えのヤツ含めて三着か…結構な出費だぜ…」
布じゃん!?
何でこれで数千円からなんだ、値札見るだけで動悸が止まらなかったっての。数日分の労働の対価が布に消えていくってどうなんだよ。モヤシとかタマゴとかの何個分だと思ってんだ、炒め物とバケツプリンが何個作れちゃうかなァ!
……何よりも、自発的にお洒落なんてするべきじゃあないって俺は思っている。
そりゃあそうだろ?
……あぁ、クソったれ…春は春で苦手だが、夏は夏で苦手だ。気を抜くと考えないようにしていた事が顔を覗かせてくる。
「ねぇ」
「おぁ!?」
「話を聞いてなかったようだ」
レイリーは思考のカットが上手だな?
それかもしかするとレイリー程じゃなくても、俺も考えが顔に出るのかもわからんね。あんまり暗くなっても仕方ねえよな、人と出かけてるんだしさ。
「ああ悪い、何の話だ?」
「お昼ご飯はどうするの」
「昼飯ィ? フードコートって高いじゃん、っていうか往々にして外食って高くね?」
「うわ」
「言うと思ったよ……」
レイリーは若干引いてて、颯は呆れ顔だ。でもさぁ、考えてみてほしいんだよ。こういう所に入ってる店ってランチセットだろうが軒並み千円前後はするじゃん。バイトで稼いでる割にはケチと言われればそれまでだけど、勿体なくないか? 自分で作れば一食数百円で賄えるんだぜ?
「いいから行くよ」
「あっ、お、おい……!」
「ふむ……」
前から思ってたけどさ、レイリーってグイグイ来るよね。いやもう驚く程だぜ、控え目なのは見た目だけだな。
「……へっ」
「なに?」
「何でもねえよ」
まあ…悪い気分じゃあない。
「…………」
「颯くん?」
「颯? どうした」
「ン、いや。ちょっとな……」
颯が考え事でボーっとするなんて珍しいな?
俺がこう感じるのも仕方がないんだよ、颯が考え事をして上の空になるっていうのは本当に珍しい。
何故ならなんて言うまでも無い、颯のヤバい所の一つは思考の並列処理速度だ。流石天才サマなんて茶化しはしないが、異様な視野の広さと思考の速度で大抵の事は分析してベターな答を見つける。
あくまでベターであって、ベストかどうかは結果が出るまでわからない。だとしてもまったく凄いヤツだよ。
「太陽くんは何が食べたい?」
「特に無えな。レイリーは普段の昼飯通りにすんのか? 大体麺かパンが多いじゃん、俺もそうしようかね」
「……わかるんだ」
「見てればわかるっての」
「……そっか」
おいどうしたレイリー、口角上がってるぞ。
ああそうか、何だかんだ普段は野上と朝倉と昼飯食べてるもんな。いわゆるいつメンとは違う面子で食べられるのが嬉しいのか。
俺は颯と……あとはその時によって違うな、席の近い風間だったり、土屋と森山が学食行ってなければ一緒に食べるし。たまに八月朔日が米の炊き具合チェックとか言い出して弁当の米を強奪しにくる、そしてセットで立神が俺の弁当のおかずを横取りしにくる。どうやら俺のクラスには賊が出るらしい。
そうでなくとも男子連中で集まって馬鹿話しながら食べる事もある。ナイトウとかな、すぐに変な話するんだよ。普通に飯食えよ。
「當真」
「あん?」
ガンガングイグイ突き進むレイリーに腕を引かれながら、フードコートへ向かっているんだが。何か思いついたように颯が呼んでくる。
レイリーの顔はどうにも見えない、角度が悪いな。ちょうど斜め下で振り向きもしない。
「……いや、後で話すよ」
「おーう?」
えぇー気になるゥー!