はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です! 作:枯華院 清日
からころからころ。
よく油の差してあるホワイトボードが滑るようにして表に出される。まっさらな白が何を書かれるのかと期待しているようにさえ見え、黒いマーカーに染められるのを今か今かと待っていた。
「さて。では現状をまとめよう」
「はーい!」
犬飼はマーカーのキャップをかぱりと外し、白の壁面にコピーした写真を飾り付ける。依頼人から聞き出した内容も滑らかに添えて書き出しつつ、今回の事件概要を共有する。
「依頼者は浜姫 露草。捜索対象は双子の弟、浜姫 丑寅。容姿はこの写真の通りだ。便宜上、下の名前で呼んだ方が誤解も減る」
「双子ですもんね」
「ああ。見た目が似ていないのは二卵性双生児だから、露草女史が濡女であるのに対して弟の方は普通の人間だそうだ。身体的特徴も彼女ほどわかり易くない」
視線を集める為にホワイトボードを指先で鳴らす。
写真に浮かび上がっている人の姿に、異常性は見られない。髪は黒く、肌色も日本人の黄色。双子の姉である露草とは似ている点も確かに無い。犬飼の言葉の通り、水分が多分に滴ってもいない。
「年齢は依頼人と同じく二十代後半、背格好は160後半。痩せ型。髪型はいわゆる天然パーマだな」
「なんつうか、すげえ普通っすね」
どこにでも居るような。それこそ外を歩く人に目を向ければ、何事もなく歩いていそうな顔立ちをしている。目立つ黒子も無く、強いて言うなら眠たげな一重まぶたが特徴かもしれない。
髪がカラフルになった日本人においても割合として最も多い黒髪、つまりは普通。太陽が言った言葉を否定しようもないので、犬飼は何も言わなかった。
「仕事はー?」
「イベント会場のスタッフだそうだ。普段は映画館のモギリや劇場での受付案内、野球場でも同様に働いていた。これもまた目立ったクレームや賞賛を受けるでもなく、日々労働をしていたらしい」
「ふーん、まずはそっからかな?」
「そうなるな」
「うわ野球場……」
「何かあるのか?」
「いや何でもねえっす……」
「そうか」
それにしては何か含みがあるような。後で聞くべきだろうか、身体を動かすのは嫌いではなかったはずだが、最近野球に悪い思い出でも出来たのか。
今は重要ではないか。疑問を思考の隅に追いやって、話し合いを進めていく。
「趣味は野球観戦、服装は……恐らく着て行った物は上が白いTシャツに黄色のハーフシャツ。下は青のジーンズと、黒いスニーカー。ブランドは……」
「…………」
「ふ、普通ゥ〜……」
「強いて極めて目立つ点があるとするなら、野球帽を被っている所だ。また仕事も野球観戦の趣味が高じて、野球場の近くに。というところだな」
「双子の姉は目立つのににゃ、姉弟仲は?」
「良好……とは言っていたが。過干渉のきらいがある、双子の姉弟とて服装を押し付けたり食事の管理もしていたようだ。一般の範疇から少々逸脱している程に」
「服装の押し付け?」
「二人で出かけて、自分の購入したものだけを着させる。食事も同じだ、朝食は手料理で昼食は持参させた弁当、夕食は言わずもがな。仕事の付き合いで飲食に行こうものなら昼夜問わず連絡は必須」
「束縛のキツイ彼女みてえだ」
「嫌なの?」
「好きってヤツの方が少ないだろ……」
「一般論じゃなくて」
「相手次第ってコトで」
「答えになってないよ」
「……話を続けるぞ」
若人達の話が脱線し始めた。色恋沙汰は御法度ではないものの、今は仕事が先決。一言の中にさておけの意を言外に滲ませれば意図が読めない訳でもない。
「普段使っている飲食店や交遊関係の類も聞いてある。後は、これらを元にローラーするしかない」
「んじゃあ昼間は俺が」
「私も」
「暑いからやめとけって」
「いいから」
「よくねえよ」
「うるさい」
「ひ、人の話を聞く気がねえ……!」
「二人で行ってこい。夜は俺と環……いつも通りだな」
「まだ出てってから時間も経ってにゃいんでしょ?」
「丸二日目、今日で三日目だそうだ」
「早っ……貴重品も持ち出してそれなら、そりゃ警察に捜索願も受理されにゃいわ」
「そう、自殺の線は薄い。他の探偵社と合い見積もりも勧めたがウチで即断即決だった。不安で気が逸っているのか、それとも一刻一秒我慢がならないのか」
人を探す、これ自体に速さは大いに関係しているので、探偵側としてはむしろ歓迎したい。
失踪時間が長ければ長い程、痕跡は薄れていく。そのうえどこかで見たという目撃情報も記憶のように揮発し難い。公共交通機関や自家用車での移動半径も時間次第で狭まるか広まるかは決まっていく。
「車の免許は?」
「無し。危ない物には乗せられない、だそうだ」
「過保護ってレベルじゃねーにゃ……」
「現金はどんくらい入ってそうですって?」
「下ろしていなければ一万前後。通帳は共用のものらしいカードも今朝の時点では使用履歴が無い……早速探すとしよう。メリー」
「はい。当たり障りない記録にしてます、データベースは確認中です。出る人は無線とカメラとレコーダーをお忘れなく、写真のコピーもですよ」
探偵業には探偵業のネットワークが存在する。他の探偵社との直接的な繋がりだけでなく、各探偵社が情報をアップロードしているデータベースがインターネット上に存在していた。
また官報を含めた公的情報を検索する場合もある。例として登記情報、法人登記、自己破産・成年後見歴。図書館の古い電話帳や住宅地図を使うこと、また官報のバックナンバーを閲覧することも失踪人探しでは常套手段の一つ。
「うぃーっす。じゃ、行ってきますか。仕事先とかの細かい情報は携帯に入れといてくださいよ、知り合いの人たちはタマさん頼めます?」
「あいよ。って言っても……少ねーにゃあ、友達」
犬飼が露草から聞き出してまとめた、丑寅の交遊関係メモを環が弄ぶ。ぺんぺんと猫の指先で鳴らされている一枚の紙は、大き過ぎる余白の領土が友人の少なさを如実に物語っていた。
「……姉が意図的に切っていたようだ」
「うわッコワ〜……」
「わぁ、ミザリー……」
「あまり触れない方が身の為だろう……」
行き過ぎた束縛、ここまで来たら束縛という手段だけでもホラーの一つに数えられるのではなかろうか。
そんなことをメリーと太陽、そして犬飼はスティーブン・キング原作の映画に類似したものがあると思い出していた。
ひょっとすると、捜索対象である丑寅は姉の束縛が耐えられなくなったのではなかろうか。
探偵事務所の面々は胸中に同情にも似た感情を浮かべつつ、仕事は仕事と割り切って探すことにした。違法ではないなら気にしていても仕方がない。
そういった揉め事の類は弁護士に任せる手筈となっている。ひとまず、ただ愚直に探す。これ以外にない。
まず太陽が足を運んだのは浜姫 丑寅の職場。狭い都心で乱立しているとも言える、都内のそこそこ大きな映画館が一つ。そう、映画館は過去のフィルムを流すだけであっても有難がられている、故に乱立。
開館時間の直後、客の大半は上映中のモノクロ映画に吸い込まれて受付自体は閑散としている。
「すんませーん!」
「…………」
「はーい。チケットのお求めですか? それとも館内で落とし物や迷子でしたら……」
「俺達こういう者なんですけど手間は取らせないんで、ちょっとお話伺ってもよろしいですか?」
太陽が差し出したのは聞き込みに際して普段使いしている名刺、名前は胡散臭いものの決して偽物ではないと思える真面目な作りだ。ただし、名前が表記されているのは事務所の名前のみ。
しかし映画館の職員は、ああやっぱり。という納得を思わせる表情を浮かべた。それと同時に名刺差し出してきた太陽と、その陰に隠れるようにしているレイリーを見て。
「……姉妹?」
「いえ全く、似てないでしょ?」
「こいび」
「あァー! そうだ、その名刺名前書いて無いんだった!
俺は探偵事務所の調査員アルバイトで、とう……」
「今は、本名はやめた方がいいよ」
「……つ、月宮 ひまわりですゥ。こっちはレイリー・ケイス。こちらで働いていた浜姫 丑寅さんに関して、どんな人だったか、とかでもいいのでお教え願えます?」
「うーん……?」
本名を名乗らないように、というのは一種の抵抗に他ならない。人々を取り巻く『噂』というモノは『誰が』『どうだった』などから派生しやすい。
つまり太陽がなんの気無しに名乗り。女性となってしまった身体を晒せば、市井においての認識は當真 太陽は女性である、となってしまう。
使わなくて済むだろうと思っていた偽名が、こんな所で役に立つとは思わなかったが。どことなくやるせないような感覚を當真は押し殺した。
それはさておき。ある程度でも聞き出すには流石に弱いか。職員の一人が見せる表情のどことなく納得がいかない様子を見て、信用を得るにはまずこちらから、人間関係の鉄則を準える事にした。
まずはどうしてアルバイトとはいえ探偵が探しにきたか、法に触れない範囲で、出来うる限りの情報を開示するべきなのは間違いない。太陽が理由の為に口を開こうとした直前。
「た……月宮さん」
「あ? ……あ、俺か」
「ちょっとこっち」
「お、おう?」
レイリーが服の端を引っ張って、物陰へ連れて行く。
そして有無を言わせぬ手捌きで。
「……よし」
「え、何。開けていいのか? 暑いから助かるけど」
ボタンシャツの留具を一つ解放した。
おお何たる奸計か、シャツからチラリと見える程度の肌面積は、小さなオアシスから広大な渓谷が露わとなった豊穣の大地へ。
見よ! 雄大な巨峰がその偉影を人目に映さんとしているッ! 何が巨峰だ、これではスイカではないか。
……結論として。レイリーの行いは奇行ではなく……傍から見れば奇行に違いないが。とにかく、当人は無自覚な色香を、いっそのこと周囲へ噴霧させればスムーズに調査も進むだろう。そう思ってのこと。
別名色仕掛け、本人は背伸びしても不可能だと自覚している。何より恐ろしいのは、レイリーはどうやら手段を選ばない傾向があるということだ。
「失礼しました」
「いやすんませんね、話の続きなんですけど」
「…………」
「お兄さんたち? 聞いてます??」
「デッッッ」
「エッッッ」
「それ流行ってるんです?」
兎角、効果は覿面だった。
映画館職員の視線が顔と胸の辺りを忙しなく往復している。レイリーは自分が仕出かした事態にも関わらず少し不機嫌になり、太陽は協力的になってくれてありがたいと思っていた。それと同時に同じ男として情けないやら悲しいやら、複雑でもある。
男も女もちょっとスケベなものは隠していても好物。これはレイリー調べである。確実にデータが偏っている、それはさておき。
「……っつう訳なんすよ、お兄さん達何か知りませんか? 些細な事でもいいんで、三日前の様子とか」
「いやぁ、こっちもさぁ浜姫くんが急に来なくなって困ってるんだよ。だって急に無断欠勤だもん……連絡もつかないからシフトもねえ、どうしたもんだか」
「ああー……」
「変な様子も無かったしい。いつも通りだったわ」
「なんだろね、俺達としては悩んでるなら相談してくれたってよかったのに。ちょっと悲しいよ」
同僚の口振りからして丑寅は職場から嫌われてはいないどころか、むしろ好感を持たれていたようだ。いつかそうなると思っていた、とか。居なくなって清々した、等の意を込めた発言は聞こえてこない。
「普段は電話だってすぐ出るのに……」
「事件には巻き込まれてないんだよね?」
「急にぱったりだ。どうしたのか、こっちも知りたいよ」
やはりといえばやはり。
計画的な行方不明者が職場に顔を出す訳もなし。携帯電話の電源も意図的に切っている様子だと、映画館に勤めている者たちが口々に言う。
「彼さ、真面目だったんだよ?」
「みたいっすね。
双子のお姉さんも普段から真面目にって……」
「ああっ! そう! お姉さんな!」
「お姉さん……露草さんが何か?」
姉の話が出た瞬間に、周囲の空気が変化した。ああ、そう。の言葉の通り、まるで何かに気づいたような。
レイリーが続きの言葉を促す。
「悪口っぽいから気が乗らないけど……丑寅くんのお姉さん、露草さんだっけ。あのお姉さんがさ、ちょっとその……ちょっとね、怖いんだよ」
「丑寅くんはいい子なんだけどね」
「……それは、どういう意味ですか?」
「あー……その、なあ?」
映画館の館内にあるエアコンの音が、一段強く聴こえる。しんと静まる職員たちが、どうした言ったものかと口篭っている。
誰も二の句を告げない沈黙。目配せだけで口火を切るのは誰かと期待する無駄な時間。
「……そういえば聞いたんですけど、車も危ないから乗っちゃいけないとか。だから免許も取れないって話、知ってます?」
「ああ、やっぱり……」
「俺もその話聞いたことあるよ。本人も言ってた」
「凄いよね……この間も丑寅くんの仕事が終わるまで、その柱の影でずっと待ってたもん」
「普通の家族以上に過保護っていうかね」
「お姉さんとふたり暮らしだっけか。実家がキツくてこっちに出てきたって話、だよな」
姉の異常性、ひいては束縛癖とも言うべき悪癖は職場でも広く知られているようだ。
何より案の定。丑寅本人に不満は無くとも、視点を変えるように差し向ければ捜索対象の話がより深く出てくる。呼び水は撒いた。あとは聞くのみ。
「キツかったって言ってたのは何だっけ。格闘技?」
「古武術ですよ、ナントカ流ってヤツ」
「へえ〜」
「こっちに出るのに親父さんの許可が出るまでがめちゃくちゃキツかったって言ってたね。野球もやりたいのに出来なかったってさあ」
「野球お好きだったんですねえ」
「みたいだよ。でもやっぱり親にもお姉さんにも止められて、武道? の練習ばっかりだって」
「観るのも好きだけど、いつかちゃんとやってみたいって言ってたよね。お姉さんが待ってない時は近所のバッセンに行こうとしてたし」
「だから野球が出来ないのはちょっと辛いけど。前にやらされてた武術のトレーニングよりも、ずっと仕事は楽しいってさぁ。
やっぱり連絡くらいしてくれてもよかったのに……。バッセンもな、もっと仕事終わりの時間を融通して連れて行ってやってればなぁ」
「連絡は無理じゃないですか? 今もお姉さんが鬼電しまくるから切ってるとか考えられますよね」
「時間通りに終わってないと睨んできたもんな……」
「ああ、なるほどォ」
やはり束縛を嫌っての逃避行か。
相槌を打つだけで話が掘り下げられていく。どうやら実家では姉だけでなく親からの抑圧もあったようだ。と、くれば、ついに我慢の限界が訪れたのかもしれない。一度耐え切れなくなれば行動も早いだろう。
「それと、最近知り合いが出来たって言ってたな」
「ドーム近くでの知り合いですっけ」
「ああ何か球団マスコットの被り物してた変な人って」
「へえー……」
「ちょっと」
「いっってぇ!?」
被り物。被り物とはつまり。
瞬時にそこまで思考が至って、太陽の声が一段低くなったのをレイリーは聞き逃さなかった。
眼光も細やかながら鋭くなっていたが、幸いにして周囲の映画館職員たちは気に留めていないようだ。太陽が脇腹に指を押し込まれて跳ねるのを、何だ何だと見るばかり。
その後も取り留めのない話は続き、特筆して記憶しておくべき内容も、大きな手掛かりになるような話も出ることはなかった。
「ところで月宮さん!」
「……ん、あっはい。何でしょう?」
動機としては充分か。そう思って話を切り上げ事務所に戻らんとしていたところに太陽……月宮が強めの語気で声をかけられた。声を浴びせられた当人からすれば知った事ではないが、相手の眼は真剣そのもの。
「ウチで働かない!?」
「えっ」
「こんなデカパ美人さん看板娘待ったなしだよっ!」
「……遠慮しますゥ」
「……チッ」
「レイリー??」
断固拒否、それしかない。レイリーが何か不満気だったのは、はたして自分が勧誘されない悔しさか。あるいは勧誘しようとした人間が口を滑らせそうになった胸部への文句に対する殺意かもしれない。あるいはその両方。
「とまあ、こんな感じっすね」
「なるほどな……」
探偵業は椅子に座った知的労働と思われがちだが、真実、体力勝負の面が強い。特に張り込み・尾行は数日以上時間を費やす事もざらにあるのだから当然。真夏は容赦の無い日射しに体力を奪われ、真冬は切りつけるような寒風に身を削られる。
体力という観点のみで言えば、張り込みに比べ人探しはまだ楽な方と言えた。詳細な報告書作りの為と得られた情報を共有する為に、帰社せねばならない機会が多いからである。
「暑い……」
「だから付いてこなくていいってのに」
「一人だと何するかわからないでしょ……」
「わかってるよ。ったく、ほれ冷たい麦茶と飴」
「ありがと……」
今日も元気だ麦茶が美味い。酷暑で水分を失った体によく冷えた麦茶は格別の味わい。ついでの塩飴も口内に染み入る甘露。事務所に戻るや否や事務用机に突っ伏しているレイリーの様子を見て、世話を焼きつつも言わんこっちゃないと太陽は呆れていた。
二人は未だ燦々と照りつける日光と、半ば下世話な目的が含まれていそうな勧誘から逃げるようにして探偵事務所に戻っていた。
「こちらも収穫があった」
「外出たんです? あぁ、今日は平気か」
「その代わり鼻は効かんがな」
「そこはアタシが手伝うしぃー」
「……そういう事だ」
「流石っすねえ!」
不足は補う、ただそれだけの事。
犬の嗅覚の代わりに猫の嗅覚、更に経験則としての人間の嗅覚。特異かつ得意を存分に発揮すればこそ、人間一人の追跡も容易い。
普段は浮気調査で猫の利便性を使う環、しかしながら人型とて動物の五感は錆びず衰えず。本気を出せばちょろいもんよ、と不敵な顔を見せる。人類よ、猫は強い。
「携帯の電源さえ入っていれば、私だってすぐに役に立てるんですけどね? というかイチコロですよ」
「今回は相手が悪かったってコトで……」
「あぁ、携帯の……」
「何を隠そう、ウチの事務所は探しモノめっちゃ得意だからな!」
太陽は自分の事でもないのに得意気である。
今回はたまたま携帯電話の不通が続いているものの、一度でも行方不明者の端末に着信が入るのならばメリーが位置を特定可能。
犬の嗅覚、猫の聴覚、人形の追跡能力、こと何かを探すという点では他の探偵会社よりも上を行く。物言わぬはずの人形や動物が特異能力を持ちながら、全員が正確に意思の疎通を図れるというのも大きい。
「太陽くんは何の役に立つの?」
「お前ね、そういう人が気にしてる事は言っちゃダメなんだよ。ヘコむぞマジで。ベコベコに」
「ごめんね」
何気ない一言がコンプレックスを刺激することはままある。レイリーは気を許した相手にはかなり無礼な面が散見されるが、そこそこ長めの付き合いとなった太陽はあまり気にしない方がいいと思うようになった。
「話を戻すぞ。
まず一つ目、浜姫 丑寅は然程遠くに行ってはいない」
「現金持ってないっすもんね」
「ああ。手持ちの金額から考えて電車でも行けそうな範囲……関東一円の中に必ず居る。というか、公共交通機関の類は使っていないようだ。なので自宅から離れていても丸一日徒歩で移動できる程度の距離だろう」
「最寄りの駅と何個か先の駅近くの猫にも聞いたから間違いねーよ。出てった時の服装と系統の似てる近くの服屋に行っても、丑寅みてーな客はナシってさ」
「はーん? なるほどォ」
「ラブなホテルも含めて付近の格安宿に連絡しましたが、こちらも目新しいお客さんは居ないそうです」
「じゃあ野宿ですか?」
「それならそれで必ず足がつく」
ではどこに?
恐らく目星が付いている面々に、レイリーが目で問いかける。近場、宿泊施設は使用していない、野宿でもない。まさしく家出といった身近さがある。されど失踪は失踪、真面目に向き合ってみれば答えは出る。
「ネカフェ……じゃなくてコミックカフェっすよね、たぶん。しかもシャワーも借りられる所とか」
「その辺りだろう。遠ざかりたいのか、そうでないのかはわからんが。それと何の近辺かも絞れる……が」
「問題は見つけてからっすね……」
見つけるまでが探偵の仕事ではない。
見つけてからどうするかも探偵の仕事である。
また依頼人と引き合せることも、場合によっては無い。内容如何によっては、一目会うだけというものや所在さえ判れば良いというものもある。
今回の場合は……。
「どうします?」
「先にこちらが接触して、丑寅の都合次第で弁護士かカウンセラーに連絡をする。今回は特に、出奔の原因が依頼人にある可能性も高い」
「ですよねー。じゃあ善は急げ、説明は俺が行きますよ」
「先方に失礼のないようにな」
「まっかせてくださいよォ!」
「不安だにゃ」
「不安ですねぇ」
「不安」
「あれ!!?」
「……対象の居そうな候補地を挙げておこう」
最近色々とあり過ぎて信用はともかく信頼に欠ける、それが當真 太陽というアルバイト兼男子高校生だった。
哀しいかな信頼回復は一日にしてならず、いつか時間が解決するかもしれない。もっとも、時間をかけ過ぎれば男ですらなくなるが。
ここまで御読了有難う存じます。
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