はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です! 作:枯華院 清日
ホラーマシ、ギャグ少な目、シリアスカラメはとりあえずここまでです。
結果だけ言えば、あの夏に出来た友人は今も尚戻らない。
坊ちゃんこと、灯里。フルネーム湯澤 灯里は、俺の見当違いな行動の結果、病床から動く事も、話すことも無い植物状態で静かに横たわっている。
何故誰も助けられなかったか。
恐らくは『八尺様』に魅入られている友人を助けようと考えた、単純馬鹿なクソガキが 『八尺様』に該当するであろう人の所へ行って大暴れしてたから。場所は地元の名士、八坂家の邸宅。そこの一人娘を殴れば事件解決と思って突っ込んで行ったってワケ。
ちなみに名前は違うけれど釈先輩の実家である。
それで勘違いに大暴れの厄介事の顛末として、事務所総出で平謝り。一件の手打ちとして、釈先輩が都心の学校へ通うために、俺たちが責任持って保護者代わりというか…最終安全装置を務めることになった。
釈先輩に八尺様の噂が憑いていたのは事実、だからいつ誰かに危害を加えるかわからないので自宅で囲っていたってこと。今でもどうなるかわからないから、いざって時は体を張って止めたり、万が一何かやってしまった時の責任を取るために、彼女の高校卒業までは、過去にやらかした俺が近くに居なきゃならない。命を持って詫びるってやつだな。
ただ、後始末や実質的な連帯責任者になったことよりも、何よりもキツかったのは。
誰も、俺を責めないこと。
坊ちゃんの大叔父、大叔母にあたる湯澤 清一郎さんと湯澤 トメさんは俺を責めることは無かった。部屋の四隅に盛塩を置くことや御札による精一杯の対策は講じたのに、それを破って侵入されたのだから。
誰が悪いでもない、たまたま、坊ちゃんが狙われて。偶然、壊れた仏像に近付いてしまったから、そうなってしまったのだと。
俺を、責めなかった。
事務所の人たちも同じ。独断で突っ走った事についてのダメ出しはあったが、所長は…。
『後悔しているなら、次に活かせ。忘れるな、お前はまだ子供だ、誰かを頼る事は決して恥じる事ではない』
所長代理は。
『ガキが一人で無理するんじゃねーよ、人生は長いぞ』
フォンセルランドさんと千々石さんは。
『私達のミスです…貴方はまだ中学生で、責任を取るべきは大人である私達なのに、こうして太陽くんに負債を背負わせてしまいました…』
『あんまり自分を責めちゃ駄目だよ。未然に防げたはずって言うのは後出しの結果論だ、いざその時になっても誰もが最善の選択を取れる訳じゃないからね。だから…次は、なんて無いように頑張ろうね』
まったく優しい人たちだ。
俺がもっと灯里の話を聞いていたら。大人を頼って、誰かがあいつを守ってくれるように言っていたら。一人で短慮軽率な行動をせずに、ちゃんと相談していたら。
もし、たら、れば。
そんなどうしようもない、無意味な言葉だけが頭の中に木霊する。
いっそ、お前のせいだと責めてくれれば多少は楽なのかもしれないといつも思う。
俺が一方的に、この事件の関係者とも言えない、ただの被害者である釈先輩が苦手なのはこういう経緯があったから。
どうにも俺が見殺しにした友人の顔と、声までもチラついてしまう。
またな、なんて軽い言葉は紡ぐべきではなかった。出来もしない約束は、一生引きずる重い後悔になった。
だから俺は、後悔しないように、とか。後悔なんてしない、とかの言葉を言うやつは信じられない。
───から、からり。
とある市内の病院、その一室。扉を誰かが開く音。
「よっ、一年ぶりだな坊ちゃん」
素朴な部屋。恐らくは換気中なのだろう、カーテンが細やかにたなびいて手を振っている。
「なんだよ増々真っ白になっちまって、アカリだけに白色灯にクラスチェンジか? …なんてな」
病室に入った少年の手には花。
人工呼吸器の横にある机に置いてある花とはまた別種のもの。数日おきに誰かが持ってきているのだろう、花瓶の中の花は陽射しを受けて凛と顔を上げている。
「清一郎さん達もマメだよな、あそこからならバスとか使っても片道一時間は掛かるってのに。愛されボーイだな坊ちゃん。ほい、追加の花だぜ。何が良いとかわかんねぇから店員さんのオススメだけどな」
───ピッ…ピッ…。
「そういえばさ、釈先輩なんだけど。また何か身長伸びてたらしいぜ、これじゃそのうち八尺様じゃなくて九尺様になっちまうな? 寝る子は育つって言うから、坊ちゃんも目指せ2メートルだな」
規則正しい機械の音が響く。
「俺は控えめに百八十くらいでいいかな…あんまり身長高過ぎても怖がられちゃうじゃん?」
静かに花瓶へと花を移す。先に花瓶の住人となっていたマリーゴールドの赤・黄色、新しくやって来たアヤメの青紫。
「ワォ…なんてこった…想定外の色彩バランス、ディスティニー感じるぜ!」
夏にしては穏やかな光と温度が部屋を緩やかに暖めていた。消毒液と病院特有のにおい、備え付けの椅子に座る少年が独り言ちる、返事はない、語らいの静謐。
彼は夏休みの間、一年に一度は必ずこうして顔を見せるようにしていた。贖罪つもりはなく、懺悔でもないと言う。
ただ、またな、という言葉を嘘にしないため。
「清一郎さんの畑さ、最近だとピーマンにカボチャが増えてたぜ。話には聞いてたけどカボチャの生命力ってとんでもねえな、間引きで切った蔓から再生するんだってよ。トメさんは相変わらず話が止まんねえし……二人とも元気だよ…って知ってたか」
───ピッ…ピッ…。
「…じゃあ、そろそろ帰るわ」
都合一時間ほど。途中で窓を閉めたが故に濃くなった病院の香り、シーツのにおい、機械の音。どれも返事にはならない。
「また、な」
返事はない。
ただ規則的な音が残響する箱を後にした。
これは、ある少年の後悔の一つ。
一夏の懺悔。
───からり、ぱたん。
御見舞じゃなくて気分は日帰り旅行だな、いや冗談冗談。結局どこ行っても暑いし、とてもじゃないけど気楽な一人旅って気分でもない。
無事に帰宅出来たし、さっさと夕飯の用意でもするかな。その前にシャワーか?
「ふぅー、あっつ…ただいまー」
「……おかえり」
「うぉ!?」
想定外だ、返事があったよ!
しかしこの元気の無い返事は…!
「貞雄さん!」
俺の養父、貞雄さんの返事だ。長めの出張っておやっさんが言ってたけど、帰ってくる日は知らなかった。
いや、うん。たぶん最初から俺らには教える気がないんだろうけどね。
無愛想、無口。その割には男手一つで子供を引き取るなんて無鉄砲、そして連日連夜休まず仕事で飛び回るなんて無茶をする。放っておけば食生活はカップ麺とかばっかりの健康については無配慮、服装も普段着からしてスーツだけとかなり無頓着。無い無い尽くしで切りが無い。
あっ、わ、悪い人じゃないんだぜ!?
俺を拾ってくれた恩人な訳だからさ! な!?
「び、びっくりした…! 今日帰ってきたんです?」
「…ん」
「言ってくれてれば豪勢な夕飯にしたのにィ…!」
「明日の昼からまた出る」
「またァ!?」
「…今回は東北と沖縄、海外にも行くから当分は戻らない。必要な分は口座に振り込んでおく」
「いや、平気ですって。食い扶持くらいは稼げてますし」
「………」
…無言の圧…!
貞雄さん、マジで喋らないんだよね。これでおやっさんとは知り合い…友人…? というのだから、よくわからんね。おやっさんも多弁ではないから、ちょうどいいのか?
余計なお世話だろうけれども、仕事とか平気なのか。結構喋る機会あるはずなんだけどな。
「じゃ…じゃあ、夕飯はどうします?」
「いい、もう寝る」
「…っす」
飯、風呂、寝る、よりも酷いな、これが世に言う亭主関白か…なるほどね。
「べ、弁当作っておきますんで、持って行ってくださいね。あんまり栄養偏る食生活じゃマズイっすよ」
「………」
…無言…!
ただただ無言…!
ゆらりと無気力に自室に向かう貞雄さんへ、とにかく挨拶。そう、挨拶は大事だ。たぶん日本書紀か霊異記にも書かれている。
「お、おやすみなさい…ッ!」
「…ん」
んもー、この人ったらそればっかり!
貞雄さんの職業は、なんと。俺の通ってる学校の理事長。結構若いはずなんだけれども、立派な物だ。
俺を孤児院から拾ったのもそうだが、色々よくわからん人だ。仕事内容も詳しくは知らないし、謎が深まるぜ。
聞いても喋らないだけだろって?
それは…そうなんですけどォ…。
「まぁ、いいか!」
気にしてたって仕方ない、否が応でも時間は経つし明日は来る。そろそろ夏休みも終わって学校再開だ。
とにかく夕飯食べて、風呂入って、寝て起きたら弁当作って事務所でお仕事。
さて、明日はどんな事件が飛び込んで来るやら。
御意見・御感想・御評価、質問疑問、誤字脱字等々ありましたら賜りたく存じます。
や、優しくしてね…!