はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です! 作:枯華院 清日
ゆるして…ゆるして…。
残暑厳し…いや、残暑厳しいじゃない。
残暑どころかどう考えてもただの酷暑だよこれ…。
時間は放課後、場所は学校。
皆さんにおかれましては、このクソ暑い中如何お過ごしでしょうか。俺は元気に下校中です。
こちらは新学期早々、秋の訪れなんて微塵も感じず。残暑どころかやたらに大きな顔で堂々と居座ってる、余りにも強い夏の余韻に汗がとまりませんことよ。
「ファーストー!」
「ナイスピッチー!」
野球部は元気だなオイ…。
このサドンデス炎天下の中でも、元気良く青春の液体を垂れ流してるよ。あぁうん、汗ね、汗。いかがわしい何かと誤解しちゃダメだぜ。
…そんなダメな誤解をやらかす輩はウチの事務所の受付兼事務員だけだろうな。
そういえば小さな友人、土屋ことツッチーは野球部だったな。何か知らんけどずっとテンション低くて話しかけ難かった、夏バテかな??
故障しやすい系エルフの森山は気にせず話しかけてたけれども、結局うわの空というか、心ここにあらずというか。なんかぼーっとしてたんだよね。
ふと思い当たる。
夏、野球部、高校生。
…なるほどね…!
さてはあんまり触れない方が良いやつだな?
森山は普通にベタベタ触りそうだがな! デリカシー無しかよ、エルフってのはとんでもねぇな。そちらの文化ではオブラートは所持してらっしゃらない感じか?
ノンデリ野郎は置いといて、ウチの野球部結構強かったよな…?
「うーん…」
噂をすれば影ってか。無遠慮エルフの森山クンじゃねーの。難しい顔で部活動を見つめてるのも絵になるなァ美形ってヤツはよォ…!
友人じゃなかったら遠巻きにひっそりと呪ってるところだぜ、具体的には、一日三回程度足の小指をどこかしらにぶつけてほしいとか、そんな感じのささやかな願いをな!
「よう、スペ森。なにしてんの、明るい時間にゆっくり帰らねぇと怪我すんぞ」
これは煽ってるとかじゃなくて事実だ。
あっ、スペ森ってのは森山のあだ名ね。座学でノートに板書してるだけでも怪我するんだよ、凄いよな。よく今まで死ななかったな…実は残機制で生きてるのか? 見えないところで1upしてる?
「…あぁ、當真か」
「さっきぶり〜☆ 待ったァ〜?」
「…? 何か約束してたっけ…」
「オッケー、俺が悪かったよ」
このボケ殺し…! これだから天然は恐ろしい。
純朴っていうかね、森山はとにかく悪気は一切ないタイプなのが余計に質が悪い。
コイツ見た目は滅茶苦茶に良いから、別学年の先輩後輩からよくラブレターなんて貰うんだよ。それで、先輩から付き合ってなんて言われた日には。
「先輩、今は受験勉強しなきゃダメですよ。それに、遠距離恋愛になったりしたら確実に破綻します。軽い気持ちでこれからを棒に振るのは良くないです。じゃあボクはこれで…イ゛ッ!」
「も…森山!?」
とか言ってた。
凄いよな、返答が真面目すぎて出歯亀してた俺らがドン引きだよ。告白した先輩も困惑してたわ。
あっ、最後の悲鳴は立ち去ろうとした森山が、足をグネっと捻挫した時の声と助けようとした俺らの声ね。
後輩ちゃんの時には。
「いいかい、お互いの事をよく知らないのに軽々しく告白なんてするべきじゃないよ。こうして勇気を出す事は素晴らしいと思うけど、今は友達を作ったり、部活動を頑張ったりする方がずっと良いもしも困った事があったら相談に乗…痛っ!?」
「キャー!?」
「メディーック!!」
真面目か? …真面目か。
ちなみに最後のは後輩ちゃんに近寄った森山が転んだんだよ、顔面から綺麗に転んで鼻血出してた。そして怪我を見兼ねて保健室に運んだのは、これまた出歯亀してた俺ら。
森山はどこかバリアフリー施設で保護すべきじゃないか。というのが同級生一同の見解だ、俺もそう思う。
出歯亀っつーか覗きがバレても。
「心配してくれてたんじゃなくて?」
だってさ、毒気が抜かれるよ本当に。
さて、そんな純朴天然マンが何をしてたのやら。
「…うーん…土屋が落ち込んでたんだ」
「あぁそれか、何か理由言ってたん?」
「この間の地区予選で二回戦敗退したって」
「…まぁそのあたりだよなぁ」
ですよね!
野球部の夏といえば、いわゆる甲子園。
正式名称は全国高校…なんだっけ、まぁいいか。とにかくそれで敗退したのが悔しいってコト? その割には何かえらく複雑そうな感じだったけどな。
「一回戦は別の先輩が投げて勝ったから、二回戦は土屋が全部投げようとしてたらしい…んだけどさ」
「ツチヤッティの球凄いからな、速度も角度も」
マジで凄いんすよ。身長を活かして斜め下からストライクゾーンまで球が浮かんでくるんだぜ? ただのストレートもプロ並みの速度、150キロは出てるって公道最速ウーマンである、のんびりのんちゃんが対抗心燃やしてたもん。
「うん、それが、途中まで勝ってたんだけど。ほんの一回だけ交代したんだよ」
「へぇ?」
「それであっという間に、打たれに打たれて負けちゃった」
「あぁ〜……ちなみに、交代の理由は?」
「どうしてもって、また他の三年の先輩が言うからだって」
「なるほどそういう…」
大体わかった。そりゃあやるせないわ。
要は勝てると思った試合で、思い出作りの為に交代したら大炎上。そのまま点差を返せず負けたってわけか。
うぅん…強いて言うなら、差配した監督の油断が悪い…のかね?
それでも折角の晴れ舞台に、お前が出ると負けるからダメとは監督も言えないだろうし。
選手側としても投げたい気持ちは有るのは間違いないしな、誰を責める訳にもいかないよなぁ。何も知らない外野からであれば、投げたいって言ったアイツのせいだの、交代させたコイツが悪い、点差を返せなかった打手陣が…だの何とでも言えるけどさ。
「そんで、土屋はずっとモヤモヤしてるって事ね」
「そうみたいだ」
「…結局森山は何で野球部覗いてんだ?」
「なんて声を掛けたら良いのかなって」
俺らが何か言ってもどうしようもなくない??
…これは言えないな、うん。
不幸中の幸いとして、土屋含めて俺達は二年生。また来年もあるから気にすんなって言っても、正しく気休めだしな。生きてりゃいい事ある、という言葉と同じ、当事者からすれば何の慰めにもならない話だ。
パッと遊ぶ…って気分でもないだろう。
こういった手合は本人の中で消化されるまで待つしかないんだが…。
よし、最終手段だ!
「一緒に帰って、話でもするしかねぇな! 俺はバイトがあるから無理だけど!」
奥義丸投げ。
いや違うんだよ、俺より純粋な森山くんならきっと最善の結果になるって信じてるんだ。つまりこれは信頼ってヤツなんだよ。
颯なら何かイイ感じの言葉を伝えそうだが、俺はちょっと専門外だ。口が上手いタイプじゃないんです。自分、不器用なんで。
上手く切り替えろとかの話でもないしな。人間、案外いつまでもうじうじと悩んではいられないもんだよ。それこそ、かなり仲のいい森山と、もう少し話せば踏ん切りもつくんじゃないかね。
「…そうだよな」
「そうそう、んじゃあ俺はこれで」
「気をつけて!」
「おうよー」
お前に言われたくない…!
目を離すとすぐ怪我するんだからさぁ、人の心配する前に自分が注意しようぜ。注意一秒後遺症が死ぬまでって言うじゃんね。
え? 言わない??
───☆
「土屋!」
「…ん、森山か」
日が伸びている、とはいえ彼岸前。暑さ寒さも去る前の、暗くなり始める夕暮れ。
互いの影は伸びに伸びて、それは夕陽から逃げようとしているようにも見えた。
「お疲れ」
「あぁ、サンキュ」
涼し気に労う銀髪の少年と、額に汗を浮かべる余りにも小柄な少年。
手渡される飲み物も残暑にやられて汗をかいている。
「なぁ…土屋」
「悪いな」
「え?」
一口飲む合間に落ち着いていくのは、揺らめく外気だけではない。
「気ぃ使ってたんだろ、當真とか、クラスのみんな」
「……」
「色々思うところは今もあるよ、テメーの思い出作りなんて知ったこっちゃねぇって。こっちは勝ちたいから毎日必死に練習して、試合に出てんだって、さ」
「うん」
「…試合が終わればノーサイド、だよな」
「良く聞く言葉だけどな」
「ホントな」
しかし、熱を持つのは冷え行く夏の大気だけでもない。
「次、来年は、負けねぇ。俺らの思い出作りに、全員負かしてやる。ストレート一本でも、かすりもしねぇ速さで投げてやる」
「そっか」
「おう、見てろよ。優勝の決め手になった投手は、俺で決まりだ」
少年の決心は願いか。それとも。
「はー! 何か腹減ってきた、適当なハンバーガー屋寄ろうぜ。Mの字ピエロの所以外で!」
「ミミズ使ってるんだっけ?」
「そうそう、噂のせいでな。考えてもみれば、泥抜きやらで普通の肉より原価かかる羽目になるってわかりそうなもんだが…」
「ミミズは食べた事ないなぁ。飼ってる人も見たことないし…現実的に考えると、迷宮産の大ミミズとか使ってるのかな」
「じゃないと無理じゃ…ってお前、虫食ったことあんの…??」
「え? うん」
「エルフの食生活ってわかんねぇわ…」
「普通だよ? この前は……」
「何だその食い物、聞いたことねぇよ…方言か何かじゃ……」
誓いか、祈りか。
御意見・御感想・御評価、質問疑問、誤字脱字等々ありましたら賜りたく存じます。
や、優しくしてね…!