はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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ちょっと短めです。


学校のかいだん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こつん、こつん、こつん。

 

 緑の地面、窓枠から覗く青色。眼前に広がる緑青に染まった段差。進んで一つ、空気が薄くなる錯覚。

 

 こつん、こつん、こつん。

 

 一定の音律、内履きが叩きつけられて音色が響く。

 誰もいない波打つ硬い海。

 

 こつん、こつん、こつん。

 

 誰もいない朝の校舎、早く来ればそうもなる。

 自分の足音と息遣い以外には何も聞こえることもない。世界には誰もいない、自分以外は消えてしまったと思えて。

 

 こつん、こつん、こつん。

 

 そういえば。階段の数が十三段あると、何かがあるなんて誰かが言っていた。

 それは踊り場を一段と数えるかどうかが問題なのではないかと思う。

 

 こつ。

 

 ではこの一段は何なのか。

 ここは踊り場ではない、この段差はなんの為に。

 

 ズルッ…。

 

「きゃ…」

 

 ふと階段の上で振り向いた一瞬。重力、あるいは引力から解き放たれた。下手人は自分、緩やかに宙を舞う朝。

 

 緑青色の学校の地面、その海に叩きつけられるならば、なんとも間抜けなことだ。思考が速まるのは何故だろうか。一瞬の時間が数分に引き伸ばされている。

 

 走馬灯とはこれのことだろうか。

 

 

 

 あぁ、頭だけは守った方がいいのだろうか。

 

 

 

 纏まらない白黒の回想が始まりかける寸前。

 

 

 

 ──カチッ

 

 

 

 聞き覚えのない音が確かに聞こえた。

 

 

 

 

「だぁぁぁぁ! あっぶねえ…!?」

 

 何者かに柔らかく受け止められる、踊り場の海に強かに打ち付けられると思っていたが。どうやら助かったらしい。さっきまでは、誰の影も形もないはずだったが。

 

「アンタ、大丈夫か?」

「…え? う、うん…?」

「なんで疑問形なんだよ、足とか挫いてないよな」

 

 踊り場の窓枠から見える恒星の輝き。それに負けじと光る、眼前の金糸。いや違う、金髪なのかな。うちの学校は染髪不可のはず、まさかヤンキー…不良なのか。

 

 よく見れば服装もかなりボロボロだ。朝から喧嘩でもしてきたという風体、これは…間違いなく不良…!

 

「不良…?」

「えっ足が? 怪我したのか?」

「キミが」

「えっ俺が? 不良??」

 

 おぉ、困惑している。そういえばまだ朝早い、最近の不良は朝早くから非行に勤しむ程度には意外と勤勉なのだろうか。

 

「あっ…まさか俺の髪色か? 確かに黒じゃないけどね? いや、アンタに言われたくないんだけどさ」

「失礼だね」

「自宅に鏡とか無い感じの人? このまま安全な所にぶん投げた方がいいのかなァ!?」

 

 本当に失礼な不良だ。私の髪色はナチュラルな自前の物、天然自然な白だ。周りから遠巻きにされることもあるけれど、親譲りであるこの白を私は気に入っている。

 

 あっ、そういえば…。

 

「そろそろ降ろして」

「あぁ…じゃなくて。いや、だから怪我は無ぇのか? 何だったら保健室にこのまま運ぶぞ」

「無いから」

「…あっ、そ」

 

 素っ気ない返答かと思えば、意外なほど丁寧に地面へと降ろされる。もっと粗暴な手付きで着陸させるつもりかと警戒していたが、人は見かけによらない。

 

 ふわりと浮かんだ私の受け止め方もいわゆるお姫様抱っこだった…まさか、これがマイルドヤンキー?

 

「ひょっとして、また失礼なこと考えてねぇか」

 

 意外なのは私への優しげな扱いだけではなかったようだ。中々鋭いじゃないかマイルドヤンキー。

 

「言っておくけどさぁ、俺のは地毛だぜ。アンタのもそうだろ…って…あれ、違うのか?」

 

 やっぱりダメだな。出会って数分程度の間柄だけれど、どうにも失礼なのはお互い様だ。この口の悪さ、もしかして、マイルドなヤンキーじゃなくて、ただの不良男子なのではないか。

 

「マジな不良だったらこんな朝早くに学校来ねぇだろ」

 

 なるほど、一理ある。始業時間にはまだ早い。私はちょっとした探検のつもりで登校した訳だが、この不良はそうではないのだろう。

 

「やっぱりさっきから失礼なこと考えてるよな?」

「全然」

「………嘘だな?」

「うん」

「こ、コイツ…!」

 

 コイツとは失礼千万、それはともかく。結構ノリが良い不良くんだ。チンピラではなくこれではキンピラ、海苔との相性がいい。髪の色もどちらかというとキンピラゴボウ色、お弁当に入ってそう。

 

「あっ」

「あん?」

 

 こんな所で親切で愉快なキンピラと戯れている場合ではない、そろそろ職員室に向かわねば。学生生活は真面目さが大事。

 

「行かなきゃ」

「お、おう。気ぃつけろよ…?」

「ん」

 

 さらば結構真面目なキンピラくん。私はちょっと急ぐ、次に会うまでに味を馴染ませておくといい。さすればお弁当のおかずにバッチリ。お昼ご飯はパン派なので食べないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 職員室はどの学校もコーヒーの匂いがすると思う、もしくはお茶の香り。全国共通の不思議だ。大人たちの喧騒はさておき、この漂う芳香は嫌いじゃない。

 

「それで、何か聞いておきたいことはあるか?」

 

 ふと低い位置の視線から睨めあげられる。わざとではないはずだ、相手は私より身長が低いうえに、椅子に座っているが故に致し方ない。

 

「大丈夫です」

 

 見つめ返す先は非常に整った可愛らしい顔立ち、同級生の美少女と言って差し支えないだろう。しかし身を包む服装が、一人の生徒ではなく、この学校の教職員であると高らかに述べている。

 

「じゃあ朝のホームルームの後の自己紹介を考えておいてくれ。歓迎は…してくれるだろ」

「はい」

 

 そこは自信満々に、大歓迎してくれると言ってくれても良かったのではないか。まさか素行不良な連中が山のように居るクラス? これはちょっと不安だ。でも、さっきのキンピラくんみたいなのが多いのならなんとかなるか。

 

「そういえば」

「なんだ?」

「先生は何故スーツの上にジャージを?」

「…ちょっとな、うん。保険みたいなもんだ」

 

 つい疑問が口を突いた。何の保険だろうか、流石に重ね着をする程暑くはないと思うのだが。病的な冷え性か、何かコンプレックスでもあるのかもしれない。あまり触れない方が良かったかな。

 

「真中先生、そろそろお時間では?」

「ん…そうですね。じゃあおれの後に着いてきて、最後に呼ぶからその時に入ってくれ」

 

 何とも間のいいことに、スッと近寄ってくる男性教員。良いのは空気の読み方だけでなく、顔面偏差値も高いな、この学校の教職員は容姿も審査されたりするのだろうか。

 

「私が着いて行きましょうか!?」

「何でですか、授業の用意しておきましょうよ」

「くっ…この残暑よりも尚熱い、燃えるような熱情のやり場は何処に!」

「ほっとけば冷めるんじゃないですか」

「私はエネルギー保存の法則と死闘を繰り広げますが!」

「蓄熱効率からしてノーベル賞物ですね」

 

 顔の良い変人だった。これはちょっと不安だな、私の学校生活はどうなってしまうんだ。

 

「ただ風が吹いていても、私の心は不動ですが!!」

「ノーベル文学賞ですか?」

「答えは風に舞っているそうですが、揺らがぬ物もあります。例えばそう、この……」

「んじゃ、おれは行きますね」

「貴方は貫一! どうかいま一時は!」

「尾崎紅葉は縁起悪すぎますよ、っていうか金色夜叉は現代だと大分危ないです」

「君の笑顔を見つめてたいのォ!!」

「今の若い子がわかんないネタですね」

「だ・い・迷惑ッ!!!」

「…行くぞー」

 

 顔は良い変人だった。不安が確信に変わりそうだ。前途洋々じゃなくて前途多難の気配しかしない。どうなる私の学校生活。

 

「悪い人じゃないんだよ。困った事があったら、おれか、あの先生…坂本先生に相談してくれ」

「はい」

「あー…同性じゃないと相談しにくいこともあるだろうから、その時は坂本先生にな」

「真中先生はダメなんですか」

「おれは…その…ちょっと困る。理由はおいおいな、うん」

「そうですか」

 

 深く踏み込み過ぎてもよくない。せめて最低限は色々教えてほしいけれど、この先生の言うとおり、おいおい知る事が出来るだろう。

 

「ゆっくり歩くから、教室までの道は覚えておいてくれ。まぁ後で案内も着かせるから心配しなくていいぞ」

「はい」

 

 目標は普通の学校生活、平穏無事が一番だ。

 

 

 

 






御意見・御感想・御評価、質問疑問、誤字脱字等々ありましたら賜りたく存じます。

や、優しくしてね…!
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