はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です! 作:枯華院 清日
春、それはつまり出合いの季節。
春、または別れの季節。
詩人だな、俺…。
登校中にこうも生ぬるーい空気を浴びると、つい感慨深くなる。動物は発情期を迎え、桜は咲いて、山菜は美味しい。タマさんの機嫌の上下は凄いことになる、間違っても発情期の話題を振ってはいけない。
人によってはスギ花粉やヒノキ花粉に殺意を持っていたこの季節。
花粉症は最早過去の病となっていた。
それは何故か?
そうだね、噂の力だね。
噂の具現化による警察の弱体化、それに伴う治安の悪化。他にも悪の忍者軍団や名前の知られてる悪の秘密結社、自称悪の地球侵略宇宙人など悪い影響を挙げればそれこそ枚挙にいとまがない。
あっ自称悪の地球侵略宇宙人はよくゴミ拾いとかしてるぞ。見た目はすげぇガタイのマッチョメンだ。つい興味本位で、悪の地球侵略者がなんでゴミ拾いなんてしてんだと聞いたら。
「地球を!我が侵略するに値する、美しき星に近付ける為であァる!」
だそうだ。
悪の宇宙人ちょっとカッコイイかもしれん…。
あの宇宙人も悪い影響の例外でいいか…。気を取り直して。
しかし!数少ない恩恵もあった、それは。
花粉症の克服だ。
花粉症の緩和をする、という枕詞をすっ飛ばして。治るみたいよと近所の奥様が勧めたヨーグルトを食べれば鼻水が引き。アロエを齧ればくしゃみは収まる。
冗談みたいな話ばかりだが、これが噂の力である。
花粉症は置いといても、更には叩くだけで骨折とかを直せるようにも…。
「當真!」
「んあ…?」
春風を思わせる爽やかボイス。
許せねぇな。
周囲が輝度を上げたようなイケてるフェイス。
タダでは済ませたくねぇな。
沸き上がる黄色い声の波を受け止めるモデルボディ。
生かしちゃおけねぇな。
「なんだよ、颯か…」
「どうした? 季節の変わり目か新年度で体調がおかしくなったのか?」
この高校において、王子様と影で囁かれるヤツが二人いる。一人は教師の坂本先生、俺たち二年生の学年主任で二年・三年生の進路指導主事。中性的な、いわゆるズカ系の美形、噂で男になった元女性だ。
担当科目は音楽、声楽をやらせると教室が劇場になる。割りと面白い人だけど、女子にモテるから俺たちの敵だ。
もう一人が俺を心配してくる目の前の好青年。最早俺たちの敵じゃなくてアークエネミー。
名前は淋代 颯、サビオじゃなくてサビヨ、ソウじゃなくてハヤテ。
やめろ、なに俺の額に手を当ててんだ。
「…どうやら熱は無いようだな、念の為に保健室に連れて行こうか?」
たった今体温が上がってきたよ。お前の一連の動作を見ていた周りの歓声を聞いた俺の内なる怒りでな…!
「新学期でも相変わらずちょっとキモ…相変わらずだな」
「男子三日会わざれば刮目して見よ、とは言うが。現実はそう簡単には変わらないさ。ところで當真、いまこっちが傷つく事を言いそうにならなかったか?」
「いいや? 耳に花粉が詰まったんじゃねえか」
「なるほど…念入りに耳掃除をするとしよう。新学期といえば、部活はどうするんだ?」
部活…部活かぁ。
うちの学校は結構な生徒数だから、その分部活動も多い。十人十色で選り取り見取りってやつだ。
野球サッカーバスケなんて王道は勿論のこと、ラジオ放送部にオカルト研究会も有れば、学校非公認の迷宮探索部もある。
真面目な話として、迷宮探索部は絶対に入ってはいけない。保護者や教員の目が届かない所で危ない事をしたい不良が多いし、何より運が悪いとサクッと死ぬ。
自衛隊の部隊が戦車ごと壁に生き埋めになった話とか知らんのかと言わざるを得ない。それでも一攫千金を夢見て入る奴が跡を絶たないのは、何かしらの魅力があるのかもしれない。
「今年も帰宅部だなぁ、バイトもあるし」
「またか、ずっと勧誘されてるのに勿体無いな」
「今更入ってもさ…確実に後輩からは白い目で見られるし、先輩からはイビられるだろうし…」
「當真も相変わらず、変なところでマイナス思考だな」
部活内の上下関係がまだるっこしいのは本当。けど中学からずっと帰宅部を選び続けてる理由は別のところにある。
我ながらわかりやすいとは思うが、バイトの為が一番の理由。二番目が学業に専念したいから。3つ目は…俺が勧誘をよく受けているスポーツ系の部活に入るのはちょっとズルいからだ、なので時間がある時に助っ人で呼ばれるくらいがちょうどいい。
「ってか、お前だって帰宅部じゃん!」
「オレは良いのさ。何より、生徒会活動もある。片手間で参加するのは不義理だろう」
ちょっとシニカルな笑みを浮かべて、ファッキ○爽やかな口答えをするこの友人は。我が校を代表する生徒会役員、副会長でもある。
でも他の部活連中に頼られれば助っ人としてどこでも行く。しかも大半は誰より上手くこなす。
ちょっと不平等じゃないか?
しかもスカウトを受けてたまにモデル業までやってる。マスメディアとしての雑誌が廃れはしたものの、ポスターを始めとする検閲済広告でよく見る男だ。
なのでこいつに部活の助っ人を頼みに来るのは女子マネージャーとかが多い。
俺の時?同級生か男子か、男子の先輩だよ?
…やっぱりおかしいって!人生の不平等条約がどこかで締結してるって!
助けて綺麗な女神様!俺にささやかな祝福を!願わくば可愛い彼女とか!!
───聞こえていますか、太陽くん…諦めるメリ…。
ちげーよ!綺麗な女神様じゃなくて擬態なメリーさんじゃん!
しかもさらっと脳内で諦めろって言わないで!!
諦めません、勝つまでは。
今季の標語が決まったな。
「おらー、進路調査票配るぞー」
「あれ? 早くね?」
「事前調査だろう、夏近くの三者面談の時に確認する為じゃないか」
「あー…なるほどね」
「當真、淋代。口閉じろー」
「はーい」
「失礼」
「當真は放課後職員室な」
「は!?」
えっ…凄い理不尽…。俺だけなんかやらかした?
新学期、新学年デビューと勘違いされたか?確かに黒髪じゃないけど髪色は地毛だし制服は何もイジってないしな…。
そもそもクラス持ち上がりで先生も色々知ってるだろうに。まさかこれがクラス内差別か。
「災難だな」
「なんも思い当たらん」
先程一緒に注意された颯が、後ろの席から小声で話し掛けてくる。悲しいかな、こいつとは今のところ中高ずっとクラスが同じ。しかも席も近いことが多い。
神は我を見放し給うたようだな…!
いやさ、あるじゃないですか。憧れってやつが。
具体的に言うと、可愛い幼馴染が朝起こしに来て一緒に登校して。お昼ごはんはその子の作ってくれたお弁当で、甘い卵焼きを食べたりする感じの、卵焼きに蜂蜜をぶち撒けたようなハチミツ授業な憧れが。
え、無い?マジ?早口で気持ち悪い?
男子高校生なんてこんなもんだろ。違う? なぁにを大人ぶってんですか。健康な高校生なんて、うちのメリーさんよりは抑え目のピンクな事ばっかりですよ。
「明日の教科の宿題提出はちゃんと用意しとけよ。忘れた、やってないだのは先生が聞いたら反省文な、んじゃ号令」
反省文と聞いて俄にざわつく放課後直前の教室内。
俺の嘆きはさておき、新学期早々に授業も無いのであっという間に放課後だ。俺は宿題を初日に終わらせる派だ。
真面目なんですよ!俺は!
学活やらなんやらが終わってもまだ昼間だぜ?こういう時ってテンション上がるゥ。アガっても目の前には職員室、テンション下がるゥ…。
「當真でーす」
「やぁ、當真くん。真中先生は少し外していてね、桜散り切る前には戻るだろうけれど、ほんのすこしばかり待っていたまえ」
「タバコっすかね」
「うん、まぁ…そうなんだがね。禁煙した方が良いとは言ってるんだが…」
「アイ先生言ってましたよ。おれは禁煙のプロだ、いままでで十回は辞めてる。って」
「全部失敗してるじゃないか…!」
「ははは」
どこか仰々しいというか、芝居がかった喋り方なのは坂本先生。すらっとした長身の元女性。高校大学と演劇をやっていて、男役ばかりやっていたら噂が立って気付けば男になっていた。
本人的にはこれはこれで良い、らしい。良いんだ…?
ちなみに俺のクラス担任の名前は真中 愛之助、男らしい名前してるだろ…。女なんだぜ…。しかも見た目は完璧な美少女…。
真中先生ことアイ先生は今しがたの会話の通り喫煙者、見た目は未成年なのにヘビースモーカーで飲酒もする。
酒もタバコも買う時に一々運転免許証を出すのが面倒で、坂本先生に買いに行ってもらってるらしい。美少女が美青年をパシリに使う様は、クラスメイト曰く何だかロマンチックだそうだ。…そうかぁ?
「悪い、待たせたな」
「おぉ…真中先生…!」
「いっすよ」
ジャージ姿の俺のクラス担任、アイ先生の登場と同時に歓喜にうち震える坂本先生。大袈裟な言い方じゃなくてマジで身震いしている。一見して何かしらの中毒症状だが、いつも通りだ。
何故なら坂本先生はアイ先生に惚れてる、邪推ではない。自分から公言している。
これ、扱いってどうなるんだろうな。アイ先生たちの元の性別と今の性別からすれば至ってノーマルな恋愛だし。二人の精神的なあれこれがわからん、これは薔薇か百合かノーマル植物か。この人たちの恋の花ってやつは咲くのかね、あんま興味無いけど。
アイ先生は自身を男と言って憚らないので、相手は女の人が良いって言ってたしな。色々とこだわりの強いめんどくさい人だ。
めんどくさい人ってだけじゃなくて、性格と言動はおっさんくさいが。素行もか、終電間際の電車でチューハイ飲んでる所を見られてたもんな。
「そんじゃ空き教室探すぞ、カバンも持っとけ」
「へい」
「真中先生ッ! 良くないですよ、生徒と空き教室で二人きりとはッ!!」
「何言ってんですか、進路の話ですよ」
「幼気な貴方とうら若き高校生が二人きり、もしも何か間違いがあったらと思うと…嗚呼!この胸が張り裂けてしまいますッ!」
「坂本先生は俺のことなんだと思ってるんです?」
「若き熱情を秘めた獣ッ!!」
「…行くぞー」
アイ先生が絡むと坂本先生はだいたいこうなる。
ケモノってなんだよ、俺はまだギリ人間だよ。
「あゝ無情なる時の流れよ…」
なんか遠い目をして変なことを呟いている不審な教員を尻目にアイ先生を追う。これでも卒業式の後よりはマシな暴走具合だ。
何故卒業式後に坂本先生が狂い出すか。
それは。毎年卒業生数人が、アイ先生に告白するからだ。そんで動揺した坂本先生が歌い出す。うちの学校の卒業式名物、っていうか風物詩だな。
当然のように成功者は一人として居ない。
アイ先生は倫理観のしっかりしたお方…。
「んで、何の話ですか」
「お前のバイトだよ」
「またっすか」
学校の二階にある少し埃っぽい空き教室で、何を話すのかと思えばいつものお説教だった。
うちの探偵事務所の性質と、自分が受け持つ生徒の身の安全を考えれば仕方ない。
「えー、アイ先生心配してくれるのぉ?」
「茶化すな、それと真中先生と呼べ。また怪我したそうだな。あんまり危ないことばっかりするなら、今からでもバイトの許可を取り消ししちまうぞ」
真中先生はアイ先生と呼ばれると少しムッとする、可愛い感じがして嫌なんだとさ。そういう所が余計に周りを狂わせているとは本人の知る由もない。
この人は俺のバイト内容を快く思ってない。まぁね、命の危険もある訳だからしょうがない。学校側も生徒をみすみす死なせましたなんて周りに言えたもんじゃないだろう。
探偵業。
失せ物失せ人探しや浮気調査とか、その証拠固めにちょっとした尾行。昔はそれが普通だったお仕事で、殺人事件の解決や名探偵の推理に警察との協力なんてのは縁遠いもの…だった。
根も葉もない噂話が大木になって次々現れるこの日本では、その仕事内容が大きく増えた。
殺人現場にとんでもない頻度で出くわす探偵もいれば。警察からの協力要請で名推理を披露する奴。何だかよくわからない事件全てを一手に担う仕事、それこそが探偵業だと思われてしまった。
だから探偵事務所の雑用なんてのは生傷が増える。都市伝説や変な噂で生まれた連中をどうにかするには、結局実力行使しかない。基本的に話が通じないから体を張って止めるのだ。
「怪我には気を付けてるんですけどねぇ」
「いくら注意しても限界はあるだろ。なあ、何度か言ってるが別の所で働く気は…」
「無いっす」
命の危険がある、だから報酬の額も良いし俺のバイト代も中々の物だ。これが危険行為手当ですか。
将来に向けて貯金もしたいのでこのバイトを手放す気は無い。人より頑丈なので、早々死にはしないのもあって俺にぴったりだよ。
紹介してくれた養父への義理もある、所長たちへの恩義なんて言わずもがなってやつだ。
調子に乗りそうな一匹と一体に言う気は無いが、俺はあの事務所の人達みんな気に入ってる。絶対面と向かって言わないけどな!
「話はそんだけっすか?」
「頑固だなお前も…。本題はもう一つある、進学希望校ずっと変えてないがいいのか?」
「そっちかぁ…んー…特待で入れるならどっちでもいいんですけどね」
「三重と渋谷はだいぶ違うだろ、入試の傾向も違うから片方に比重を置いとけよ」
「真中先生の今日のオススメは?」
「定食屋にオススメ聞くみたいな言い方すんな。おれじゃなくてお前の進路のことだぞ…。まぁ、おれなら三重だな」
「あれ、意外っすね」
「渋谷はダンジョンがあるから治安が悪い、新宿も同じようなもんだが。お前もあんまり近寄るなよ、ダンジョンに入るなんて論外だぞ」
アイ先生の優しさが五臓六腑にしみわたる…。
つまりは危ないから進学先に渋谷はやめとけって話だろ、あまりの優しさに涙が出そう。涙が本当に出たらアイ先生の胸に飛び込んでいいかな。
ジャージの下にはサラシでガッチガチと聞くがマジなんだろうか、ふむ、いっちょやってみっか!?
「話はそんなもんだ、怪我すんなよ。あと希望先もどっちにするか考えとけ」
「了解っす」
「おし、また明日な。気ぃつけて帰れよー」
機を逸したか…!
嘘でーす。もし抱き着いたなんて坂本先生にバレたら生徒指導室でオペラが始まっちゃうぜ。
君子危うきに近寄らずだ。
ふと窓の外を見ると坂本先生がいた。
ここ二階だよな?
三十六計逃げるに如かずだ!
「ただいまー」
返事は無い、養父は仕事に行ってるから当たり前なんだがな。
寂しいとはあんまり思わない。孤児院の騒がしさは確かに懐かしく思うけど、あそこに戻りたくはない。
うーん、こうなると暇だな。部活があるでもなく、予定も特にない。いつもは暇そうな連中も溜め込んでた宿題に追われてるから今日はいなさそうだし…。
颯もさっさと帰ってたしな…。
用もなく病院に行くのもあの人に悪いよな、笑顔で歓迎してくれるだろうけど絶対忙しいもん。もし嫌われたら立ち直れない、数カ月は寝込む。
じゃあ病院の近くの迷宮に行くか?
遊びで一攫千金を掬いに行っても足元が掬われるわ。
飯食うにしたって時間が半端だ。
こうなりゃしょうがないか…。
「ただいまー」
「あら太陽くん、お帰りください」
「おかえりなさいじゃなくて!?」
「ここは探偵事務所ですよ」
「知ってますよ、俺従業員すよ」
バイト先こと【愛に溢れる探偵事務所】。
フルで言うと言い様のない困惑が胸を満たすな?
ともかく探偵事務所に来た、まだ仕事の時間じゃないのでタイムカード印字は無し。
やる事がなくても職場に来るって考えると、とんでもなく寂しい大人のビターな味わいがある。
待ってくれ、俺はまだ学生だ。まだ取り返しがつくはずなんだ。
「それで、何しに来たんですか? 今日は授業も無くて早く帰宅できるんですから、家でゆっくりしていればいいのに」
「それはそうなんですけど…」
凄いまともな事言われちゃったよ。
もうダメかもしれんね。
「まさか太陽くん…ぼっちなんですか。遊ぶ友人の一人もいなくてこうして仕事場に…」
「友達はいますよ!マジで!」
「いいんですよ、誤魔化さなくても…」
「本当ですって!!」
「悲しい太陽くん…。仕方ないのでお姉さんが遊び相手になってあげます、早速ですがオトナの火遊びを…」
「誤解、誤解です!火遊びはしません!!」
「はぁー…わかりました、お友達になりましょう。フレンドです、ただしセッ」
「先に掃除しとこっかな!」
「グラスの茶渋取りをお願いします」
「はーい」
危なかった、ぼっち兼ワーカーホリック予備軍の烙印を押されるところだった。
略してぼっち・ざ・わーく! これただの一人仕事か、一人で残業してるだけじゃん。
社会の闇を垣間見ちまったな…。
「あー? 太陽、早いにゃ?」
事務所の猫用出入り口から黒猫が入ってくる。今日は猫形態な環所長代理だ。後で撫でさせてもらおう。
「学校が早くに終わったんすよ」
「お前も暇だにゃ」
「ウッ…!」
剛速球が飛び込んできた。
これはハートブレイクショット…!
この傷を手遅れになる前に癒やすにはすぐに猫を撫でなくてはならない…!
「…タマさん、ほら、ししゃもの干物っすよ」
「チッ」
「舌打ち!?」
どうやらご機嫌斜めだったようだ。猫は気まぐれ。
数十分後、足元に擦り寄ってきたので撫でさせてもらった。猫は気まぐれ。
そうしてタマさんを撫でていると。
「太陽、居るな? 冷蔵庫に差し入れが入っている。時間もちょうどいい、3人で分けて食べろ」
「おやっさん!了解っす」
所長席のパソコンに映像が映る、席を外していたおやっさんが戻ってきたようだ。挨拶する前から呼ばれたので、映像だけ切ってたのかな。
来る人の少ない昼下がりで今日は来客予定もないから、遅めの昼飯でも食べてたんだろうか。
考えてみれば、俺を除いた事務所で働く三人ってさ。ほぼ毎日二十四時間働くメリーさんと、週休一日のおやっさんにピンチヒッターなタマさん。
タマさん以外の二人のせいで労働基準法が息してない!ただのブラックじゃねえぞ、ブラックを超えたブラック労働、ド級のブラック事務所だ!
「おぉ高そうなチョコレート…」
ドブラック労働に目を逸らして冷蔵庫を開けるとそこには、いかにも高級そうなチョコの箱。ドブ食う時にチョコの話をすんなよな! 逆か。
なんと、ご婦人が馬に跨っているブランドのだ。
以前セクハラメリーさんに教わったが、このご婦人は全裸で馬に乗ってたんだってね。その話を聞いて俺にどうしろってんだ。
三人で分けろって言われたけど、どうかな。
うちのメリーさんの好物って感じの小さいチョコの詰合せ。どうせなら彼女に多く食べてほしいね。
猫又タマ代理も食べるだろう、彼女はその辺の野良猫とはひと味違う。猫だけれどタマさんはネギもイカもチョコも普通に食べる。味覚は猫っぽいけど、人間の食べ物も平気なのは猫又ならではだ。
この前仕事が終わって閉めた事務所内で、ちゅぅる舐めながらビール飲んでたもん。どういうことだよ。
疲れたOLが酒のアテにつまむ物が無くて、家から出る気力も湧かないまま、とうとうペットのオヤツに手を伸ばしちゃった新手の地獄みたいな雰囲気の光景だったぞ。
まぁ俺の分を少なくしておけばいいか。元より望外のおやつだ、時間もだいたい午後三時。
「所長から、おやつの差し入れですよー」
仕事の時間はまだ来ない、楽しい人たちと過ごすとしよう。