はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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文化祭・オブ・ザ・デッド 準備号 vol.2

 

 

 

 

 

 

 

「暗幕はここに置いておくでござるよー」

「おう」

「誰か百均でスズランテープと綿を買ってき…」

「買ってきたのん」

「光速い…!」

「実は寝坊しちゃったから、ゆっくり寄り道して来ただけなの。なんとなく買っておいた方がいいかなぁ〜って思って買っただけで、おやつを買うついでなのん」

「…今って二時限目だよね」

「礼には及ばないの~」

「そういうことじゃなくてね??」

 

 文化祭の準備って面倒くさいけど、何だかんだ楽しいよな。クラス一丸となって云々ってヤツ?

 

 活気があって、いい感じに騒がしくて。

 

「えぶッ」

「森山がビニール踏んで転んだぞ!」

「顔面セーフ! 顔面セーフ!」

「な訳あるか! さっさと保健室行ってこい!!」

 

 ちょっと流血沙汰があって。

 

「風間、ちょっと木材持ってきて」

「あっ、こっちにペンキもー」

「これで良いでござるか?」

「赤のペンキならこちらでござる」

「サンキュー…今、風間二人居なかった…?」

「二人ではなく実は三人故、気の所為でござるよ~」

「そっか…気のせいか…」

 

 なんか分身してる奴がいて…。

 

「どう? 最後にしらたきをヌルヌルにしてからまとわり付かせるとかのビックリを仕掛けるのって」

「クレームが来る…」

「太陽くんに押し付ければ良くない?」

「なるほど…」

「狂ってんのか」

「土屋くんはヌルヌルしたのってダメ?」

「手触りの話じゃなくて、クレームを誰かに押し付けるのがどうかと思うって話な」

 

 タチの悪い考えをしているクラスメイトに…。

 

「あわわわわ、あばばばばば…」

「出たァー! 薊の微振動釘打ち!」

「誰かと会いたくないのに震え過ぎてるぜー!」

「釘がめり込む前に止めろッ! 薊! ステイ! 薊!」

「びゃわわわわわ…!」

 

 人力電動工具と化したクラスメイトがいて…。

 

 平常運転だな、立神は後で俺が直々にクレーム入れてやる。薊みたいに震えて待て。

 

 結局出し物はおばけ屋敷のまま文化祭準備は進行中。

 教室でやるには狭すぎるということで、体育館の二階を借りる運びになった。うちの学校の体育館は広いからね、よくぶっ壊されるけど。

 

「太陽くん、私は何したらいいの」

 

 手持ち無沙汰といった様子の見た目がホワイト転校生レイリーが話しかけてくる。総指揮を執っているのは実行委員の薊なんだが、どうにも話しかけ難いんだろう。

 それに多少馴染んできたとはいえ転校生、率先して何をするべきかを考える余裕もが無いのも、まぁ、言うまでもないな。

 

 頼られたなら無碍にするのも良くない、というか薊に話しかけ難いのは仕方ない。薊の手に何らかの鈍器とか凶器が握られてるなら、近寄りたくないのは生存本能として正しい。正直に言うと俺だって怖い。

 手からノコギリとか金槌がとんでもない勢いですっぽ抜ける事が多いからな、大事故に繋がってないのは、誰かに命中する前に運動が得意な面子が見事にキャッチしてるからだ。

 

「じゃあ助っ人を頼みに行くから、ちょっと着いてきてくれよ。颯と野上から場所は教えてもらっても、まだ実験室と美術室の連中に挨拶してないだろ?」

「うん…挨拶?」

「おーい、俺ちょっとレイリーと一緒に、佐藤クン達に挨拶してくるからー!」

「あーい」

「モナさんによろしく言っといて」

「レイリーちゃんに変な事したら、市中引きずり回しの刑に処すのん」

「しねぇよ!?」

 

 市中引き回しじゃなくて引きずり回しかよ、遠回しに紅葉おろしにしてやるって言ってんじゃん。女子って怖いわ、やーねぇもう!

 

 

 

 

 

 

 

 さて、俺の通っている高校…というか日本全体、とりわけ都内では、よく魑魅魍魎が跳梁跋扈する。字面が良いし、口に出したい日本語だよね、魑魅魍魎が跳梁跋扈。

 

 えっ、そうでもない?

 

 

 

 

 

 

 

「ちーっす、佐藤クンいるゥ?」

「や、當真くんじゃないか」

「……え…?」

 

 理科実験教室に到着したらまずは挨拶、基本が大事っておやっさんも言ってた。

 

「実験室には中々来ることなくて悪いな、表面のプリント剥がされてない? 肝臓とかよく触られるだろ」

「万一剥がれてたとしても誰も文句は言わないよ、何せ肝臓は……」

「沈黙の臓器だからな!」

「そうそう」

「わはは!」

「はははっ」

「え…え?」

 

 おっと軽い談笑にレイリーが着いて来れてないな。ノリが悪いぜ転校生ちゃん、これには佐藤クンも苦笑い。まぁ佐藤クンは表情変えられないんだが。

 何故なら。

 

「うちの学校が誇る人体模型の佐藤クンだ、ちゃんと挨拶しなきゃダメだぞ」

「や、『理科実験室の動く人体模型』こと、佐藤です。はじめまして…キミは…転校生かな?」

「……」

「レイリー? どうした…レイリー??」

「や、どうにも固まってしまっているね。やっぱりね、當真くん。ボクは常々思ってるんだ…流石に人体模型とはいえ、全裸なのは良くないんじゃないかって…」

「そんなこと言うなよ、全部赤裸々なのが佐藤クンの良いところだぜ?」

「それはもう、中の臓器までさらけ出してるからね!」

 

 やるな佐藤クン、前よりも人体模型ジョークに磨きが掛かってる。座布団の一枚でも差し入れするべきかもわからんね。

 しかしどうしたことか、佐藤クンが挨拶しているのにレイリーが返事をしない。学校の大先輩がはじめましてって挨拶してくれているならちゃんと返さなくちゃダメだろうに。

 

「レイリーどうした…レイリーさーん?」

「……あ、ごめん。えっと…転校生のレイリー・ケイスです。よろしくお願いします」

「や、よろしくねレイリーさん、キレイな髪が素敵だね」

「…ど、うも?」

 

 挨拶ヨシ!

 それじゃあ転校生のお目見えが済んだところで、本題に入るとしようか。それは何かって? もちろん、おばけ屋敷への出演交渉だぜ!

 

「オッケー、佐藤クン。急で悪いんだけどさ、今年の文化祭に俺らおばけ屋敷やるんだよね。佐藤クンの都合が良ければ、ちょっと出てほし…」

「や、いいとも。およそ無償で是非協力させてもらうよ。ボクらみたいなのが大手を振って、色んな人達とお話出来る機会は早々無いからね」

 

 少し食い気味に了承アンド出演決定。佐藤クンは割と人好きだもんな、他の連中も見習ってくれないものかと思っちゃうね。

 

「サンキュー佐藤クン! じゃあ時間帯と報酬はおいおい決めようぜ、って言っても」

「や、いつも通り、運動靴でいいよ」

「太っ腹だなぁ!」

「や。まぁ、腹部はほとんどスカスカなんだけれどね。どれもこれも取り外せるし」

「確かにィ!」

「はははっ」

「………」

 

 無言で佇むレイリーから困惑が三割、ドン引き二割。残りの五割はアホに向ける視線を感じる。

 な、何がダメなんだ…!?

 

 佐藤クンは紳士的だし、人体模型ジョークだって…もしかして、その人体模型ジョークがダメなのか?

 何だよ、そのくらいでご機嫌斜めになっちゃうなんて、転校生ちゃんは手厳しいなぁ!

 

「おっと、悪い佐藤クン。そろそろ他の連中の所にも行かねぇとなんだ、また後日な!」

「や、こちらこそ引き留めてごめんよ。気をつけてね」

「おう! あんまり廊下走っちゃダメだぜー」

「野上さんに『廊下を疾走(はし)るな』って叱られちゃうから、これでも最近は控えてるんだ」

「えっそうなの? あいつ人の事言えた義理じゃねぇだろ…じゃなくて、次は美術室行かなきゃなんだ。そんじゃあまたな、佐藤クン」

「や、いってらっしゃい」

 

 レイリーの様子もあって、早々に話を切り上げる事になった。疎外感とかでほんのり不機嫌なのかもしれないけど、普通に話せば良い人…良い模型? 良い噂? なんだぞ佐藤クン。

 

 とはいえ、実験室から出る時に頭を下げてたから不機嫌じゃなくて、人見知りと困惑が綯い交ぜになってたのかもしれない。

 女子って難しいね! いや、たぶん俺の知ってる他の女子がちょっと、その…中身がアレだったりする人の割合が多いんだけどね? 仕事先に限定しても、外面はいい感じに取り繕えてる所長代理をこなすタマさんとか、受付も出来るフォンセルランドさんとか。

 女子って難しいね。うん。

 

 

 

 

 

 

 ────☆

 

 

 

 

 

「うーん…んー…んんん……」

 

 実験室から出て以来、ずっと悩まし気にうんうんと唸っているのは、わざわざ私のように幼気な女子を連れて歩くチンピラ…ではなく、當真 太陽くん。

 私ことレイリー・ケイスは、その様子を斜め後ろから眺めつつ後を追いかけている。

 

「……」

 

 私から話しかけることは無い。

 彼が意気揚々と実験室に乗り込んで、鎮座していた人体模型に話しかけた時は目を疑ったが。まぁ、急に大声を出した辺りで何か疲れていたのかなと思ったけれども。この学校では普通の事なんだろう。

 

「…レイリーってさ」

 

 半ば意を決したように彼が口を開く。なんだろうか、何を聞かれてもさして困ることも無いけれど。

 あっ、ひょっとして友達居ないタイプ? とか聞かれるのは困るかな。というか傷付く、先程の人体模型の彼のハートはプラスチック製だと思うけれど、私のハートはガラス製だ。

 

「人見知りするタイプか?」

 

 普通は多少なりともすると思うし、よしんばしなかったとしても。人体模型が話しかけてきて、そのままにこやかに会話出来たらその方がおかしいと思わないのか、この男は。

 

「うん」

「そっかァ〜…」

 

 肯定すれば合点がいったと言いたげな様子。いや私が普通なのであって、そうホイホイと意味不明な存在と会話はできないんじゃないかな。

 太陽くんは誰とでも話せるのかな? 話せそうですね。さては町中で、そこまで親しくない知り合いと会った時にそのままお話ができるタイプと見たね。いわゆる陽キャ、太陽くんだけに。

 

「…次は安心してくれ、たぶん相手がメチャクチャ気に入って、グイグイ喋ってくれるからな!」

「……」

 

 一切安心できないよ、不安と安心の比重が10:0だよ。もしかして君ってばデリカシーという言葉が頭の辞書に無い男の人?

 無神経の項目に修正液がまばらにかけてありそうだね、仕方ない。ここは一つ私が人の心というものをレクチャーしてあげねば。

 

「着いたぜ、美術室」

「…うん」

「ちわーっす、モナさんと野郎どもいるー?」

 

 冗談です、内心はともかく饒舌とは言い難いんです。っていうか到着から戸を開けるまでが早いよ、心の準備くらい、させてくれても良いんじゃないの。今日から君はデリカシー無し男だよ。

 

「今は私以外におらんよ。して、何の用向きかソールの子よ、ジョコンダ婦人なら色直し、ブルータス殿は貸し出し中だ。じきに戻ろうがな」

「相変わらず変な呼び方すんのやめてくれよ…しかしタイミング悪かったかな?まぁアグリッパだけでも大丈夫だろ」

「む…変とは失敬であるぞ。直接的ではないものの、後期ローマ帝国に縁のある名をしているのだから誇りに思うが良い。すべての道はローマに通ず、お前の名もまた偉大なりしローマの寵愛を受けて…」

「話が長ぇよ! レイリー! 挨拶しちゃってくれ!」

「うむ?」

 

 喋って動く人体模型の次は石膏像かぁ…。美術室と言われてなんとなく察してたけど、いざ直面すると…うぅん…慣れてきたと思うことにしよう。人はこれを脳死とも揶揄しますね、はい。

 

「はじめまして、レイリー・ケイスです。よろしく」

「むっ! 我等が如き白妙の肌に髪、只人でありながらまさしく雪が如しであるな。伝承にある雪の妖精も、こうまではいくまい。なるほど、得心行ったぞソルの子よ、お前のもたらした素晴らしき出会いに感謝しよう」

「どうも…」

 

 褒めてるんだよね?

一目見ただけで、本当に気に入られる? とは思わなかった。急に凄い勢いで褒めてくれるからこちらとしても困惑気味ですよ。

 けれど、出会いに感謝とまで言われるのは予想外過ぎるかな、石膏像が流暢に喋るのも結構予想外。この学校は奇想天外だね。

 

「挨拶が済んで早速なんだけどさ、アグリッパたちに俺らのクラスがやるおばけ屋敷に出てほしいんだよね」

「本題はそれか、よもや白き御子の紹介だけとは思わなんだがな。まぁ良い、私は喜んで協力しよう、ブルータス殿も報酬として望むであろうが、我等の念入りな手入れを頼むぞ」

「任せとけ、お高めのクリーニングクロスで輝く白さを取り戻してやるよ。なんなら補修もな!」

「うむ、良い。ジョコンダ婦人は新たな額を欲していたが故、丁重に吟味して差配するのだぞ」

「おーう」

 

 傍から見聞きしていると、尊大な物言いの石膏像とヤンチャボーイ高校生が普通に語り合っている訳で。なんというか、不思議が普通の世界に迷い込んでしまった錯覚すら覚える。転校してからずっと奇っ怪な光景ばかり見てるんだけどね。

 

 それにしても、どうやら太陽くんは無闇に顔が広いようだ。考えてみれば私と初対面の時も遠慮が無かったのは、このフレンドリーというか、かなり距離感が近い接し方を誰にでもしているのだろう。

 …あの人体模型の彼の時もそうだったけれど、ちょっと面白くないかも。変な意味じゃなくて。

 

「誰かお客さん?」

「モナさん」

 

 美術室の扉が音もなく開き、穏やかな声と、あまりにも平面な女性が入ってくる。

 なるほど、モナさん、ジョコンダ婦人といえば。

 

「はじめまして、私はモナ・リザの油彩画、その複製品。イタリア・フランス語圏ではジョコンダとも言います」

「…レイリーです、よろしく」

「お好きにお呼び遊ばせ、レイリーさん」

 

 お、おとなのじょせいだ!

 

 この嫋やかな物腰に惹き込まれる微笑み、心なしかいい匂いがふわりと漂っている気さえしてくる。素敵な女の人感がバリバリって感じですね。

 その形容の仕方が子供っぽい?

 思い浮かべなくてもいい事ってあるんだよ?

 

「それで、太陽さんの御用件は…文化祭への出演ね?」

「話が早いぜ。誰から聞いたんだい?」

「あのよく震える…」

「あぁ…薊か…よく話せたな…人様の成長を感じて、俺ちょっとだけ感動してるよ」

 

 薊さんって誰かと話ができたら感動する程の扱いなのかぁ…。うーん、先日のゲロっぷりを考えたら納得。

 …成長してあれなのかぁ。

 

「報酬はアグリッパのおっちゃんが言ってたけど、新しい額縁でいいのか?」

「えぇ、よしなに」

「おっけおっけー、ブルータスは授業で持ち出されてんだろ? まだ文化祭の準備があるんで一旦出直すよ、時間については、またそん時に」

「楽しみにしておりますわ、貴方達が一体、私達をどのように飾り付けて下さるのか」

「モナさんはハードル上げるなぁ…っし、用事は終わりだ。行こうぜレイリー…疲れてねぇか?」

「あっ、うん、大丈夫」

 

 ……撤収早くない?

 

 まさか、この無礼男(ブレーメン)は私のことを初対面の相手と話せないコミュ障だと思ってらっしゃる? それとも体力がなさ過ぎるモヤシとか? 白さに自信があるのは見た目だけですけど?

 馬鹿にしてるのかな、別に初対面じゃなくてもあんまり話せませんよ?

 ぶっ飛ばしますわよ…!

 

 






御意見・御感想・御評価、質問疑問、誤字脱字等々ありましたら賜りたく存じます。

や、優しくしてね…!
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