はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です! 作:枯華院 清日
さて、着きましたるは科学部のブース。理科室は使用禁止らしく、普通の教室を一つ間借りさせて貰ったそうだ。
「ほい着きましたよ、降りてください」
「ドキドキしました?」
背中に取り憑い…取り付いたフォンセルランド降ろした時の急な言葉、何言ってくるんだこの人。頭のネジでも外れておかしくなったか、いや元からだな。
血が繋がってる訳もないけど、姉みたいな人にドキドキするわけ無いじゃんね。むしろ人形なんだからハートのドキドキじゃなくて、マットな土器土器が近いだろう。
「いやしねぇっす」
「こんなに綺麗なお姉さんとくっついてドキドキしないなんて、まさか太陽くん…イン」
「やめろや! 昼間の学校だぞ!?」
「そうですね」
「そうですねじゃねぇよ…いつか捕まるぞマジで…」
シモい系のネタを言わないと息が出来ないタイプ? 成層圏だと空気が薄いのと同じか。もっと人と同じ目線まで下がった発言を頼みたい。
違う、やめろ、人の心を読んだ上でもっと言っていいんですねって感じで目を輝かせてんじゃないよ。幸いにも周囲に知り合いの姿は無い、ワンアウトって所だな。
「親子連れの方が多いようですね」
「こういう…ワークショップ形式? とか、体験型の物ってそうなるんじゃないすか」
「ふむ…」
「だからちょっと大人しくしておきましょうね」
「元から奥ゆかしく純潔・清楚・可憐が売りですが」
「人形にも痴呆ってあるんすか? それとも言葉が逆に出るタイプですっけ」
「ふふふ、太陽くんったらイケメンで知的ですね」
「マジで思ってる事と逆の事を言ってる感じなのやめてくれますゥ?」
「いやですね、本当に心から馬鹿にしてたら今までこんなに仲良く付き合ってないでしょう」
「確かに…ッ!」
「へへへへへ…!」
「へへへへへ…!」
オープンスケベ発言に不純・猥褻・雑草を混ぜたみたいな根性してるじゃんね。少なくともちょっと前の自分が言った言葉を思い出して反省してほしい。
花も恥じらう純情どころか花が瞬時に枯れそうな不潔加減の発言だったやろがい!
でもフォンセルランドさんとはかなり仲が良いのも事実、即興ショートコントやっちゃうもん。
「相変わらずうるせぇやっちゃな、おみゃーはもうちっと慎みっちゅうモンを知ったらどうだ」
「夢野先生」
騒ぎ過ぎたか…!?
でも俺悪くねぇしな。それともショートコントがお気に召さなかったのか、あんまりお硬いのはいけねぇよ、固いのは自分の被ってる仮面だけにしてくれ。
この名古屋訛りが凄い人は夢野・R・イブリス先生、生まれも育ちも外国ながら日本で学士を取った努力の人だ。自称は悪魔博士、大学卒業なら学士だよな?
担当可能科目はたしか科学と技術と英語…なんだけれども普段は科学しかやってない科学部の顧問。
名前も喋り方も特徴的、そして見た目もかなり奇抜。
顔面には鉄じゃなくてブリキの仮面を貼っ付けて、わざわざ緑に染色したフード付きの白衣を着てそれを頭からすっぽり被っているので、普段目視できる肌面積はほぼゼロ。それでも時偶チラッと見える髪と肌は真っ白。転校生のレイリーと同じくらい白いよ。
かなり早口で名古屋弁を話すので何言ってるのかわからない時もあるのが玉に瑕のオモシロ先生だ。
「まぁいい、そっちのカワイコチャンを連れて来たっちゅうことはオメェも綿あめかカルメ焼きが目当てで来たんだな? もーちょっと待っとれ、次のお客さんがつっかえとるでよ」
「うっす」
見た目は不審者、でも気遣いの出来るナイス…ナイスガイって言おうとしたけど声は女の人なんだよな。身体も大柄とは言い難いし、もしかすると女性なんだろうか。仮面に変声機でも付けてるかもしれないからわからないんだよ、めんどくせぇなうちの教師陣は!
「なんだか愉快な方ですね」
「わかります? 結構人気なんすよ、あの人」
猫を被り始めたフォンセルランドさんの所感は間違いじゃない、名前以外に悪い要素無いしな。ほんの少し見た目が近寄り難くて、面倒な所があるだけで。人当たりは良くて面倒見もいい。
「まずな、お玉にこの砂糖をスプーン二杯入れるだろ。そこに水もスプーン一杯ざっぶぅと入れて割り箸でよーっくかき混ぜんだ。これがカルメ焼きになるんだぞ、本当に。
ほんでよ、火傷に気ぃ付けてグルグルかき混ぜんだぞ、グツグツ煮立ってきたらよ、火ぃからちっとばかし外して、割り箸にこの魔法のペースト付けてから素早くしっかり混ぜんだ。
白っぽく固まってお玉の底が見えてきたら手ぇ止めてみぃ、温度とタイミングがうみゃーこといったなら膨らむんでよ、それをもっかい火で炙って取り外せるようにして、器に移して出来上がりっちゅーことだな。
ほれ見ろ、膨らんできただろう。これをよそってみるとビッタだ。
この俺お手製のバッチリしたカルメ焼きはプレゼントしたる、タダでだぞオイ。
ほんだけども、これはサンプルだで、見本だで。一個だけにしとく、あとは親御さんと自分でやってみてちょーだい。気をつけてやんだぞ!」
子供相手にも丁寧にカルメ焼き作りの手順を説明している、しかも実演付き。教わってる子供さんも目を輝かせて感心しきりだぜ。何を言ってるのか理解してるのかは気にしないでおこう、ニュアンスは伝わってるだろうし。
「名古屋出身の方なんですか?」
「外国の…どっかの王国? 出身らしいっすよ」
「では何故あそこまで見事な名古屋弁を…」
「それは…わかんねぇっす…」
外国の人らしいのに、本当に何で流暢な名古屋弁なんだろうね、この世は不思議がいっぱいだぜ。一仕事終えた悪魔教員が近寄って来た、悪魔教員ってなんだよ。
「當真! オメェ達にはまず先に綿菓子の作り方を教えとく、カルメ焼き作りと合わせてワンコインだで。よーく覚えとけよ、わかったか?」
価格も良心的だな、何が悪魔だ。本当に悪魔ならリボ払い並に悪辣な料金システムを見せたらどうなんだい!?
…文化祭でリボ払いかそれに準ずる支払い形式をやり出したら訴えられるか…でも悪魔ならやるんじゃないのか? 本物の悪魔と話したこと無いけど。
「何をボーっとしとるんだ、この別嬪さんにイイとこ見せんだぞ、わかっとんのか」
「いや…そういうんじゃないんで…」
「相変わらずバカだなオメェは!」
「相変わらずって何だよォ! 俺のテストの点数知ってんだろ! 第一この人とはそういうんじゃねぇって言ってんだろブリキ仮面!」
「数字には出て来ねぇバカもいるっちゅう事だな」
「教員が言っていいのかそんな事!?」
「俺は悪魔博士だよ!」
「イチ教員だし学士か修士だろがい!」
ああ言えばこう言う教員だなオイ!
フォンセルランドさんはそういうんじゃないって、具体的には同僚とかそんなんだよ。しかも人の事をバカバカ言いやがって、教育委員会にチクってやろうか。
「みーんな静かにしよう!」
「そこまで騒いでねぇよ…」
「じゃあまず、この綿飴作り機の紹介でよ」
「あっスルーしちゃう感じね?」
言いたいことだけ言いやがってと思わないでもないが、こちらを遮って夢野先生が取り出したのは何とも手作り感溢れる…空き缶を半分に切った物に紐を繋げた物。
作ってるとワクワクしそうなDIY精神に溢れた逸品。
普通綿菓子や綿飴を作るのって真ん中に穴の空いた機械を使うと思っていたんだが、何かアナログだな?
「こりゃあよ、ブリキで作ってから熱に負けねぇ加工がしてあんだ。鉄より固ぇブリキで作ったんだもんなぁ! ブリキだぞオメェ」
「そのブリキへの信頼度は何なんだよ…」
「そしたらな、この缶をこっちの機械でチンチンになるまで温めて…」
「バッ…! やめろォ! 標準語で言えや!」
「あ? 何だオイ、チンチコチンの何が悪いんでよ」
「ダメだって!!」
ただの方言で熱いって意味だっていうのはわかるけど、その…とにかく不味いんだよ!
「…!」
ほら見ろ! ウチの猫かぶり系事務員さんが違う方向性でメチャクチャワクワクしてるじゃねぇか!
「変なやっちゃなオメェは…まぁええ、とにかくな、これを温めてからザラメをざっと入れんだ。そしたらこれを思いっきり振り回すんでよ、ええか、周りに人が居ねぇか確認してからクルクル回すんだぞ。
そんでもう一人がそれを追っかけるみてぇに箸持って追っかけんだ、真面目にやんだぞオイ」
「あー…なるほど…じゃあフォンセルランドさんが缶を回してください、俺が追いかけ回すんで」
「私がチンチンになった缶を回すんですね? チンチンの缶を」
「……」
言うと思ったよ。
っていうか連呼すると思ってたよ。俺にだけ聞こえる程度の囁きでアホな事抜かしてるぜ。
チンチンになった缶って言うと些細な語弊があるじゃねぇかよ、なんだよチンチンになった缶って、作ってワクワクがとんだ人体錬成じゃねぇか。チンチンの缶に至ってはなんだ、おもちゃのカンヅメか。
「私がこのチンチ…」
「夢野先生! おっ始めようぜ!?」
「随分やる気があんだな?」
「このチン…」
「早くゥ!」
「お、おーわかった…」
傍から聞いてれば精神年齢だだ下がりだよ。小学校低学年なら爆笑かもしれないけど、目の前で温められてる缶と違って俺はヒヤヒヤしてるよ。
「ホイじゃあ別嬪さん、俺が砂糖入れっから、火傷せんように元気よく回してちょーだい」
「はい」
切り替え早いなぁ!
「行きますよ太陽くん、そーれ」
「…うっす」
フォンセルランドさんとは対照的にテンションが下がった俺、それでもまぁ任されたことは真面目にやりますとも。
結構な速度でブン回される缶の底に当たる部分から、細い透明な糸が漏れ出てくる。
原理は簡単で、缶の底に小さな穴を無数に開けておいて、事前に温めてある缶の熱で溶けた砂糖を遠心力で出してるって訳ね。
意外と体験型の科学実験って楽しいよな、夢野先生が生徒に人気なのも、こういったモノを授業に盛り込んでくれてるからだ。
お手製花火で見る炎色反応の実演とか、ダイラタンシー流体をビニールプールに入れてダッシュするとか。身近な物に興味を持たせるのが上手だと思う。火薬取り扱い免許は…まぁ持ってるだろう。
「おぉ…綿飴が出来ていきますね…」
「はっ…呑気に感心してねぇ、っで…はっ…ま、まだやんのォ!?」
「もう少し大きくしましょう、私が出す白くベタつく何かをもっと回収してください」
「いっ、言い方ァ!!」
「元気が有り余っとるな」
凄いぜ遠心力、というかフォンセルランドさんの手首。モーターでも付いてるのかってくらい速いんですけど、正味数十秒全力で走りっぱなしなんですけど。
加減とかしてくれないのかと思うが、たぶんテンションが上がりに上がっていて、そこまで思考が回ってないな。缶は振り回してんのにね。
「ほらもっと走って、ゴーゴー」
「ぜっ…お、覚えてろ…はっ、く、クソッ!」
「フフフフフフ…あっ」
「がぁぁぁ! あ?」
「うわやべぇ」
握り拳大の大きさに綿菓子が膨らんできた瞬間、ブツっという何かが千切れた音。冷静にやべぇって言ってるのは夢野先生の声ね。
「缶がっ…」
「加減しとけよ!?」
か細い糸という繋がりを失った缶が、目にも留まらぬ速度で放り出される。行き先は窓、不運な事に、あるいは不慮の事故を防ぐ為の必然か、今日は換気の為に全ての窓が開け放たれていた。
遠心力の成果によりただの缶とは思えない程のスピードでレクリエーションの産物が廊下へ飛び出していく、考えてみれば中身は多少なりとも満たされている。そのうえ砂糖が溶け出す温度にまで熱せられている。もし人に当たればどうなるか、考えるまでもない。
しかも運が悪い、最悪と言っていい。
「〜♪」
鼻歌でも歌っているのか、どこか浮ついた様子の女の人の横っ面目掛けて飛来している。
本気で行けば間に合うか。
いやダメだ、缶は回収できても窓ガラスが割れて女の人がズタ袋みたいにボロボロになる。
手元の綿飴をぶつけて方向を逸らすか。
これもダメだ、缶を弾く事が出来ても箸の方が命中しかねない。
つまりこれは。
万事休す…!
「ん?」
「避けッ!」
気付いてくれた、しかし回避行動は…。
「おっと…!」
「…えっ」
間に合わない、はずだった。
危険な速度を持ったはずの缶は、事も無げに女性の手の上に鎮座している。そして缶は熱せられていた事も忘れているのか、大人しく、静かに、納まっていた。
「危ないよ? ほら、これ…君の?」
「…レイリー…?」
「…んー?」
現実的とは言い難い回避を成し遂げたそのヒトは、最近知り合った転校生によく似ていた。
御意見・御感想・御評価、質問疑問、誤字脱字等々ありましたら賜りたく存じます。
や、優しくしてね…!