はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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文化祭・オブ・ザ・クエスチョン

 

 

 

 

 

 

 

 猛獣の突進じみた狂気の速度で突進してきた缶を、くるりくるりと手のひらの上で手懐けた女性。

 見た目は転校生によく似ている、しかし転校生、レイリー本人よりも身長は高く、そもそも私服だ。年齢はそこまで離れているように見えない、姉か親戚だろうか。

 

「レイリーの…お姉さんか親戚の方…?」

「えっ本当に!? そんなに若く見える!?」

 

 俺の余計な一言でとんでもなくキャッキャとはしゃいでる…この反応は違うわ。お姉さんとか親戚じゃなくておそらく母親だな、凄い嬉しそうっすね。

 

「…もしかしたら刺激的なナンパかなぁと思ったけど、流石にこれは違いそうだね。ほら、返してあげる。まぁナンパは受け付けてないけどね。次は気をつけて、當真くん?」

「えっいや、あの、すんません…?」

 

 ナンパなんてする訳無いじゃん! っていうか顔に怪我させられそうになったのに、軽い人だな。

 烈火の如く怒るべきだと、俺から言うのも変だけれども。普通はもっと驚いたり怒ったりはするもんじゃないのかと思う。

 …いや待て、それ以前に、俺、名乗ってないよな?

 

「何で俺の名前を…」

「それはいいじゃない、レーちゃんから話を聞いてたってことで。ところでお姉さんねぇ二人とはぐれちゃったの、あっ、二人っていうのは私の夫と娘のレーちゃん…レイリーのことね。それで、迷惑料として出来れば君、當真 太陽くんに学校の案内をしてほしいんだけれど、どう!?」

「ど、どう? って言われましても…!?」

 

 さらっとお姉さんを自称したな?

 それにしてももの凄い喋りますね、レイリーと似てるのは顔と髪色だけなのか、それとも家の中ではあいつもこのくらい本当は喋るのかもしれない。家の時と学校じゃキャラが違うっていうのもよくある話だろう。

 

「申し訳ありません、お怪我はしておりませんか」

「おっ…?」

 

 ゆったりぎこちない動きで、手首にモーターを入れてる疑惑が浮上しているフォンセルランドさんが申し訳無さげに近寄って来た。レイリーの母親も少々面食らった様子。

 

「こんにちは! 怪我なんて無いからあんまり気にしないで、私はヴァイスって言うの。『バ』じゃなくて『ヴァ』下唇を柔らか〜く噛む感じで発音してね。貴方は當真くんの知り合い? それとももしかして當真くんは知り合いじゃなくて、単純に彼は持ち前の正義感で私に駆け寄ってきただけだったり?」

「メリー・フォンセルランドと申します、彼の保護者です、この度は本当に申し訳…」

「いいのいいの! 次は気をつけてね! それより大丈夫? 綿アメとか脚とか…」

「は…えぇ、こちらは何も…」

 

 フォンセルランドさん、今サラッと保護者ヅラしなかった? ちょっと厚かましくない? 未成年におんぶにだっこされてる保護者なんざ見たことねえよ。

 それよりも、本当によく喋る人だな…えっと、ヴァイスさんね。娘さんと足して2で割ればちょうどいいんじゃないか?

 

「それにしても保護者かぁ…良かったぁ。私に怪我は無いけど気にするようだったら當真くん借りてもいい?」

「えっ」

「それは…その…」

「だめぇ?」

「本人次第かと…」

「だって! どう!?」

 

 ぐ、グイグイ来るなこの人…!

 

 顔付きはレイリーそっくりなのに、俺と同じくらいの身長やメリハリのあるスタイルだからどうにも違和感がある。馬鹿にしてるわけじゃないよ、あいつにもきっとまだ成長の余地があるんだって希望の話だよ。

 行動というか動きと表情と発声もはっきりしていて、この顔と髪色だけをそのままに、他の全てをすげ替えた目の前の不思議な別人が、レイリーとは全く違う人なんだと意識を無理矢理納得に追いやってくる。そんな強烈な違和感。

 

「ほ…保護者同伴ならいいっすよ?」

「えー、ほんとにー!? やったあ!」

 

 何がそこまで嬉しいのか、文字通り小躍りして全身で狂喜乱舞している。

 いやその、別にどうって訳じゃないんですけど。ヴァイスさんってレイリーの母親なら、どんなに若くても三十代以上だよな? 所作が娘さんよりキャピキャピしてるじゃん、なんか凄いな。他の同級生の親御さん達にも見た目の若い人はいたけど、年齢相応の落ち着きはあったぜ。

 

「じゃあ綿アメとカルメ焼きってどんな味か気になるから、まずはここから付き合ってくれる? お代も込みで! いやーガマグチを旦那に預けちゃってて、色々と楽しそうなのに参加出来なくって困ってたんだよね。こういうの何て言うんだっけ…怪我の功名? 合ってる? 怪我はしてないから、災い転じて福となすって方が合ってるかな? でも、福とナスってどういう事だろうね、そういう品種なのかな福とナス」

「悪い事が結果的に良いことに成るから、成すっていうだけで野菜の茄子は関係無いっすね」

「そうなんだ!?」

「…はぁ」

 

 なんとなく小さくため息を吐きたくなるのもわかるけど、自業自得なので自重してくれフォンセルランドさん。俺なんてどこからどう見ても、完全なとばっちりってヤツだ。

 

「楽しみだなー!」

 

 見てくれよこの満面の笑みを。頑張れフォンセルランドさん、持ってくれよフォンセルランドさんの財布。強制的なダイエットが目前に控えているけれど、持ち主のやらかしが原因だから耐えてくれ。

 

「お邪魔します!」

 

 奢りと決まればほとんど間髪入れずに教室に入ったぞこの人、マジで遠慮が無いな?

 

「おっ…これまた別嬪さんでねーの、まったく當真のヤツがえりゃー事してくれたと思ったけど、怪我もなさそうで何よりだ、ええ事なんだな。ほんで、けったくそわりぃ事にならんかったけどもよ、やってくんかい」

「おー…oh…?」

「面食らってますね」

「そりゃそうでしょ」

 

 名古屋弁はな…あんまり聞かないしな…。

 それはそれとして。

 

「頑張れ當真くん! ほらほらほら!!」

「けっ、結局! 俺が、はっ走んのかよ!」

「こうやって面白い程膨らむんですね、カルメ焼き」

「食感もホロホロホロホロして面白ぇもんでよ、砂糖一つなのにアプローチを変えればこうも変わんだから科学ってのはいいもんだな、ええことなんだな」

「後ほど自宅でいただきます」

「おう、包み紙はサービスだで、手作りのモンっちゅーのはまた一味違ってうみゃーもんだぞ」

「あまーい!!」

「はっはっ…つ、疲れた…!」

 

 科学部の出店を堪能して、本日二度目の円回転風全力疾走を披露した俺は疲労。ラップ的だなマジファッ○だぜ。家族に感謝しとけばいいんだろ? もう居ないからみんなに感謝、んなわけあるか。

 

 次に行ったのは屋外グラウンドで出店している野球部のストラックアウト。カラフルなゴムボールを固定された的に当てる初心者向け、そこから遠くに離れた的に当てる中級者向け。そして防具を纏って走る野球部員が掲げている的に命中させる上級者向けコースと別れている。

 どなたでも楽しめる配慮ってヤツを感じるな、的の数は全コース共通で九個、しかも球数は二十球と太っ腹な親切設計。景品は…缶の飲み物に駄菓子か、まぁ普通だな。

 

「私上級者コースね!」

「私は…中級者コースでお願いします」

「毎度っすー」

 

 迷惑料としての奢りは継続中なので、二人分の料金を払うフォンセルランドさん。俺は不参加だよ、下手に参加したら現在球拾い中である洞穴暮らしのツチヤッティに文句言われるからな。

 おっ…二人とも所定の位置についたな。腕なんか回しちゃって、やる気に満ち溢れてるぜ。大人でもこういうのは楽しいものなんだろう。

 さぁ第一球…?

 

「ほいほいっと」

「フッ…!」

 

 ──バンッ!!

 

 ちょっと待ってくれ、めちゃくちゃ大人げないフォンセルランドさんの全力投球はともかく。軽いかけ声で放り投げた感じがしたヴァイスさんの手元が見えなかったんだけど? 俺の目がおかしくなったのか?

 

「ま、的がぶっ壊れてる…」

「えぇ…?」

「橋田の的がバキバキに折れてんだけど…」

「う…腕が痺れ…」

 

 何がどうなってんだよ。

 呪いのピッチングマシン・メリー号と化したフォンセルランドさんはさておき。ヴァイスさんは何なんだよ、その狂った投球速度とコントロール。おそらく一瞬で二十球全部投げて的を壊す人は初めて見たぞ。

 当たった音も重なり過ぎて一個分しか聞こえなかったし、もしかして新手の怪奇現象だったりする?

 

「當真、お前アレか。ひょっとしてウチを潰そうと刺客でも送り込みに来たのか?」

 

 困惑半分怒り半分な土屋が詰め寄って来た。備品壊されたらそりゃあキレる、でも故意にやった訳じゃないから許してくれねぇかな…。

 

「待ってくれツチヤッティ、これには事情が…」

「自重をしねぇ大人を連れてきたのに事情もクソもあるかァ!? 見ろよ! 他の客がビビってんじゃんか!」

 

 ははは、まさかそんな…。

 

「…うわぁ」

「なにあれ…」

 

 控え目な歓声かもしれないじゃんね?

 

 …無理があるか、突然ストラックアウトじゃなくてターゲットデストロイが始まったらそりゃ怖いよな!

 本当は俺もちょっとびっくりしてるもん!

 

「遠慮なく剛速球投げる人なんて知らなかったんだよ!」

「連帯責任で体育倉庫に置いてある的のスペア持ってこい、ダッシュで…!」

「しょうがねぇなぁ…心が狭いぜ土屋くぅん」

「めっちゃ広いわ! ってか出禁だバカタレ!」

 

 んー…むべなるかなってヤツだな。

 自分がやらかしたんじゃないけどね。

 

「景品を根こそぎ渡す用意は良いですか? 良いですね」

「勘弁してください…」

 

 自重が足んねぇ大人がよ…!

 

 

 

 

 

 

 哀れなり、ちょっとした事件で半壊した野球部のストラックアウト。可哀想に…いったい誰がこんな酷いことを…! 許せねぇ…! 俺は義憤に駆られたッ!

 しかし腹が減っては戦はできぬ、この正当な憤怒を犯人にぶつける為にはまず燃料補給をしなくっちゃな。犯人はすぐ隣にいるか背中に背負ってるって?

 いいから腹ごしらえだ!

 

 そうと決まれば話は早い。割りかし腹の膨れそうな食べ物を提供していてなおかつ安全な所、そう、弓道部のカレー屋だ。

 料理部は安全じゃないからパス、詳しくは聞いてないが何かの解体ショーとか絶対ロクでもねぇよ。連中の事だからチュパカブラの刺し身とか出してくるぞ。

 

「家以外でカレー食べるのは初めてなんですけど!」

 

 目を輝かせたヴァイスさんが、カレーの容器を前にワクワクを隠しもせずはしゃいでいる。

 ちなみにフォンセルランドさんはカレーが苦手なので、大人しく席に座って、飲まれることのない水入りの紙コップを片手に佇んでいる。静かなのは人目があるからだ、内弁慶め。

 

「あっ、そうなんすか。あんまりカレー好きじゃないとかです? 献立として便利っすよね、カレー。いただきまーす」

 

 一回作ってしまえば、冷凍も可能なカレー。何だかんだ自炊している俺もお世話になってます、手間をかけようとしなければ材料は市販のルーと具材だけだから楽でいいんだよね。

 

「普段料理するのはレーちゃんか旦那だよ。私の仕事の帰りが遅いのもあるけどさぁ、何か作ろうとしたら、座って待っててとか言ってくるんだよねぇ」

「へー…」

 

 仕事で疲れてるだろうから、って理由か?

 レイリーの優しい一面が垣間見えるエピソードで合ってる? それとも母親の料理は美味しくないとか?

 

「でもね、二人が作る料理って味が濃くて…」

 

 会話の内容に不満が混じりそうな瞬間、せっかくのカレーが冷めるのもどうかと思って一口。うん、美味い美味い。去年よりも全体的に甘口かな、子供でも食べられる程度の辛さだ。

 この様子を見ていたヴァイスさんも追うように一口。

 …手が止まったな。何か苦手な物でも入ってたのか?

 

「どうしたんすか」

「辛ぁぁぁい゛!」

 

 えぇぇ?

 いや、これ甘口じゃねぇ? でも自分の味覚に絶対の自信があるでもないからなぁ。仕方ない、第三者の意見を聞こう。

 

「…そうすか? …フォンセルランドさんも一口どうです? はいどうぞ、あーん」

「まあ一口だけなら…んん、そこまで強烈に辛くはないと思いますが」

 

 だよなぁ。

 なんというか、本当にレイリーの親かと疑ってしまう程挙動が大袈裟な人だ。似てるのは見た目だけだな?

 …見た目も頭部以外は似てないな!

 

「しょっぱくてあまーい!」

「味覚っつーか感想が雑っすね」

 

 福神漬けを食べた感想か? これが…。

 

 

 

 

 結局のところ、紆余曲折あって弓道部のカレーを騒ぎながら食べたりして、文化祭を結構楽しんでいた。

 その中で気付いた事がある。

 

 まず、この人。レイリー母ことヴァイスさんはよくわからない人、そしてかなりエンジョイアンドアクティブでミステリアスって事。

 ストラックアウトの時には百発百中で異常な腕前、綿菓子作りの時も結構な速度で缶を振り回していた。

 一方で綿菓子を食べた感想は甘いの一言、甘口カレーでは辛い、福神漬けはしょっぱくて甘い。

 子供みたいにからから笑って大はしゃぎ。不思議な人だ、この人に育てられたレイリーはどうして物静かな感じに仕上がったのか、ちょっと気になるな。

 

「あっ! そういえば用事があるんだったわ!」

「唐突ですね、大事な用がおありでしたか?」

「ちょっと行ってくるね! レーちゃんか旦那を見かけたら後で教えて!」

「いや俺ら旦那さんの顔とか知らな…行っちまった…」

 

 この人、人の話とか聞かないタイプだな?

 油断はしていないのに、一言残してからふっと消えるみたいに人混みの中に消えていった。幽霊か何かじゃないかと勘繰っちゃうぜ。

 

「…凄い人でしたね」

「色々と、そうっすね」

 

 よくわかんないけど置いてけぼり食らった感覚だよ、嵐みたいな人って言葉があるけれども、本当にそうとしか形容できないって人はあんまりいないんだと実感が湧いてくるな。

 

「にゃぁぁぁ…!」

「環っ! 待て…!」

「あら」

「お?」

 

 もはや聞き間違えることのない、何度も聞いたことのある声。片方からは焦燥の色も感じられる。

 うん、タマさんとおやっさんじゃんね。

 

 まさかと思うが痴話喧嘩ってヤツ? このシチュエーションが学校じゃなくて砂浜だったら、たぶんバカップルの一幕なんだけどなぁ。

 

「二人ともなにして…」

「にゃぁぁ!」

「くっ…!」

「スルーですね」

「何してんすかねあの二人、マジで」

 

 二人の世界ってコレのことかな、BGMがあるならトレンディな感じでお願いしたい。学校の所在地が東京だから、東京のラブストーリーな感じで。

 ちょっと古いか? そこは不朽の名作って事で許してくれ。

 

「はっ…はっ…」

「ん?」

 

 見た目がちびっこくて、白っぽい。

 最近転校してきた女の子に似ている人影。

 

「レイリー?」

 

 こちらに向かってくる彼女に声を掛けた。何をしてるのやら、もしかして何らかの理由でおやっさん達を追っていたのだろうか。知り合いが増えて良かったな。

 

「はっ…は…あ、當真くん?」

「あん…?」

 

 顔、背格好、服装。

 揃いも揃って全てが同じ。

 

 

 しかし決定的な違い、壊滅的な違和感。

 

 

「…アンタ、誰だ」

 

 

 

 






御意見・御感想・御評価、質問疑問、誤字脱字等々ありましたら賜りたく存じます。

や、優しくしてね…!

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