はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です! 作:枯華院 清日
本年も何卒宜しくお願いします。
特に私には年末年始の休みなど関係なく、繁忙極めております。
よって少々短めです、申し訳ありません。
寒風吹き荒ぶ今日此頃。
この日はいつにも増して世間の沈黙は強く、そしてどことなく皆一様に浮かれ気味だ。
初日の出の光に焼かれては誰もが志を新たにする日、日常的には顔をしかめる路地の臭いも、今日だけは静謐な気がする。
つまるところ今日は新年その初日、日常のカウントは本日から始まる。
実際は他の三ヶ日や初七日、成人式とか仕事初めの区切りもそれぞれ個人ではあるだろう。それでもめでたいと誰もが言う日。
「あけましておめでとうございますッ!」
「あけおめ〜…テンションたっけぇにゃ…」
「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとう、今年もよろしく頼む」
これは所謂初詣。
休み無しで働いていただろう証拠に眼下の隈を色濃くした代理…タマさんに、顔色は当然変わらないが髪が少しボサついて声にも張りがないフォンセルランドさん。毛が萎れているうえに冬のみ許される不審者系コーディネートのおやっさん。
我らが【愛に溢れる探偵事務所】総出の年始行事。
つまりは業務時間外の休日。
疲労困憊の様子は神前にしては無礼じゃないかと思われても、こういうのは気の持ちよう。鰯の頭も信心から、年中行事は大事にしようね、ってことだ。
今は都内のデカい神社の境内で順番待ちです。人がごった返してるからもうね、全自動おしくらまんじゅう大会が開催中って感じ。
押されて泣かねえよ、弾き飛ばしてやろうか!?
「毎年人が多くてうるせーしうぜぇにゃあ…こういう所来るとさぁ、百裂張り手したくにゃらにゃい?」
「思ってても言っちゃダメっすよ…」
人混み嫌いなタマさんは人の群れを見ると町中でファイトをしたくなるのかな?
ボーナスステージじゃねぇんだぞ、壊していい車も無いんだから落ち着いてほしい。壊していい車ってなんだよ、器物損壊だろ。
「私は好きですけれど…人それぞれ、ですね」
「メリーは特にそうだな。人の往来が多く、移動も緩やかであればなお良しだろう」
「本当はもっとイベント事に参加したいのですけれど、電車移動ですと時間が取られすぎますからね…駐輪場や駐車場が無いことも多いですし」
「連休を取ってゆっくりしても構わないが」
「それこそ、退屈しますわ。人形の時間は悠久ですの…ほほほ…」
「苦労をかける…」
何か…大人っぽい会話だ…!
あらやだアダルティ、シモい話じゃなくても洒脱な会話ができるんだったらいつもそうして欲しい。
「やだア・ナ・タ♡ってば…それは言わないお約束です」
「お゛あ゛ぁ゛ん゛!?」
「環、メリーの冗談だ」
やべーぞからかいモードだ!
教育テレビで聞くような猫の声を出してるのはタマさんね、にゃんち○うじゃないよ。
猫のクセに独占欲強過ぎるぜ、戯れ言だってわかっているだろうに。仕事疲れで判断力とか抑えが効かなくなってるんじゃ…いや、いつもの事だな。
「行けず後家の口だけ耳年増人形がよぉ…!」
「な゛っ!」
「タマさん! ダメですって! ほら、アーモンド小魚とそこで貰ってきた甘酒でも飲んで…」
「チッ…」
おいおいおい、売り言葉に買い言葉だ。すわ新年早々キャットファイト勃発の危機、猫が喧嘩するからマジのキャットファイトじゃんね。
「ガリガリ…んぐんぐ…っかぁー!!」
これじゃ猫じゃなくてオッサンだよ。持ってて良かった個包装タイプのアーモンド小魚、カルシウム補給でイライラが収まることを期待しよう。
「ところで太陽、社務所での御守はどうする?」
ナイスアシストおやっさん!
話の流れと空気を変えちゃおうぜ!
「そりゃもう家内安全と学業成就っすよ、来年から…じゃなくて今年か。とうとう受験本番ですし。おやっさんの方は…事務所の御守とかどうします?」
「事務所の方は商売繁盛と大麻だな個人的には家内安全と無病息災が妥当なところか」
「無病息災って…どこか体の調子がおかしくなったりしそうなんすか?」
「太陽、歳を取るとな…体にガタが来るものだ…」
げ、現実的…!
大人ってそういうものか? 大人になるって悲しいことなのってこういう…?
どこか遠い目をしている気配のするおやっさん。背中が哀愁を漂わせてるよ。
まぁ背中じゃなくて、その腕にはタマさんが絡みついてるんだけどね。なんだよイチャついちゃってさァ!
ケッ、見せ付けてくれがってよォ……でも、いい歳して世界征服とか祈念しちゃうよりはいいか。
「あっ」
「むん?」
ピッチリしたスーツにアンテナ髭、そして人の波に揉まれてそうな謎のマントに身を包んだ、パッと見偉丈夫な自称悪の侵略宇宙人がいた。神社に。
こちらの顔を確認するや堂々と人を掻き分け…てないな、歩いてるだけでデカい図体の威圧感からか人が避けて行くよ。モーセの如しだ。
うーん、いい歳して世界征服とか侵略を願ってそうな奴がいたな。ごめん、いい歳って言ったけど宇宙人の年齢とかわかんねえや、見た目は完全に四・五十代の男性なんだけど。
「何でいるんだよおっさん…」
「此処は神仏に信念の成就を告げる場と聞いたが?」
「それはそうだけどさぁ、ってか詳しいなオイ」
「フンッ! 当然であァァる!」
しかしこのおっさんずっと声がデケェな。
それに当然ってなんだよ、少なくとも宇宙人がこんな小さな島国の信仰に詳しいとは思わねえよ。しかも何で周りに馴染んでんだよ、悪の宇宙人が神社の境内に居るなら悲鳴の一つでも上がるもんじゃないのか?
「たいたぁさん、どうかなさったの?」
「むっ!」
横からゆっくり歩いて来たのは見事な白髪の女性、上品そうな顔には深いも浅いも多様なシワが刻まれている。若い頃は美人だったと思わせるに十分な容貌と柔らかな雰囲気。
宇宙人? お前悪いことしてないよな??
「おっさんよォ…いくら悪の宇宙人を自称してるからってお婆さんをだまくらかしたりしてんじゃ…」
「馬鹿者ォッ! 此奴はただの隣人である! 先日偶然危機を救ったが故に縁が出来たに過ぎん!」
「声が大きいですよぉ、たいたぁさん」
「むっ…」
お婆さんに諌められてどうにもバツの悪そうなおっさん、見た目年齢的には正しい構図。二人の実年齢は知らないし片方は宇宙人なんだよな。
「こんちにはぁ、はじめまして。私寿々川っていうの、よろしくね?」
「俺、當真 太陽っていいます。よろしく寿々川さん」
「あーらぁ、元気な子ねぇ…お名前にぴったり。よろしくね、太陽ちゃん」
何て穏やかな人なんだ…許せねぇな宇宙人、一体どんな悪事を働いてこのお婆さんと知り合ったんだ…。
「たいたぁさんはねぇ、この前私が歩道橋で荷物を落とした時に助けてくれたのよぉ。他にも足を挫いちゃった時には病院に連れていってくれたり…」
…そんな事だろうと思ってたよ!!
真面目に侵略する気があるのか、この悪の宇宙人。そんなんだから自称悪の、って付けられんだよ。困ってるご老人を助ける宇宙人とか宮沢賢治もビックリだわ。
「フン、当然の事をしたのみである」
「…いや俺は何も言ってねぇよ」
「また善行を積んだと勘違いをしているのだと顔に書いてあったのである。よいか、あくまでこれは我輩の侵略の一環に過ぎぬのであって…」
「たいたぁさん、そろそろ帰りましょう。お家に戻ったらおせちとお雑煮を御馳走しますねぇ」
「むぅ…」
「またねぇ太陽ちゃん」
「うす、寿々川さんお気をつけて!」
寿々川おばあちゃん鬼強ぇな、悪の宇宙人がタジタジって感じで推し負けてたぜ。
時折こちらに振り向いてはひらひらと手を振って、ゆっくりと帰宅しているご老人の後ろに寄り添う筋肉ムキムキ、マッチョマンの宇宙人。ノイズが酷いな、ここ神社なんだから控えようぜ。
神社といえばそうだ、初詣中だったわ。
すっかり宇宙規模の存在で忘れてたよ。おやっさん達ともはぐれちゃったじゃんね。
ど、どうする。流石にこの歳で迷子は気まずいぞ!?
とりあえず拝殿に向かって進めば合流出来るか…うぅん…ちょっと不安だ。
いざとなればフォンセルランドさんが見付けてくれるだろうから何とかなるなるー。
ヨシ! ポジティブに行こうぜ! 新年早々落ち込んでなんかいられないよなァ!?
と、思考を切り替えて周囲の人集りを見渡せば。改めて人、人、人の団子が浮かぶ丸石と石畳の海。
パッと目につくのは、恐らく自分の知り合いだったりする人たちとか。あるいは顔も名前も全く知らない人たち、後者が大半かな。
これが東京砂漠ってヤツ? 人が多い時のほうが孤独が強まる気がするのは、人間って名前の砂粒だけが増えるからじゃないかと思う。
そんな砂漠の真っ只中、明らかに縮尺とシチュエーションが間違ってるタイプの電信柱、じゃなくて。砂漠に電信柱がある訳ないだろ、そもそもポストアポカリプス物でもなければここは神社だっての。
さて、はぐれちまったなら仕方ない。こういった場所での人探しが得意そうな、あの見るからに黒髪がキュートな電柱先輩とか知り合いに新年のご挨拶でもするとしようか。
誰が電柱だの電信柱だの言ってんだよ、失礼だろ!
御意見・御感想・御評価、質問疑問、誤字脱字等々ありましたら賜りたく存じます。
や、優しくしてね…!