はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です! 作:枯華院 清日
たまーに考えることだが、身長が高い人ってこういった開放的な人混みの中や待ち合わせの時では。目印になって便利だとかよく言われると思うんだよ。
でも電車とかエレベーターを始めとする身近な乗り物に乗る時ってどうなんだろうね。頭めっちゃぶつけそうじゃない? もしくは中腰の姿勢を強要されてる感じがしてそうで窮屈感溢れるよな。
つくづく、この人は窮屈というモノに縁があるのか? なんて思うのは、俺の考え過ぎだろうか。
「うぉ…」
「デッカ…」
「デカ過ぎんだろ…」
「デカい女の子いいよね」
「いい…」
ははは、聞こえる聞こえる。空に聳えると錯覚させる黒鉄の城…じゃなくて黒髪の乙女を見ては戦慄する人々の声が。
流石いいトコのお嬢様だ、振り袖じゃないまでも着物で参拝ですよ。絶対特注品だよな…あんなサイズ見たこと無いぜ。着物って生地からして高いと聞くし値段は…やめておこう、庶民が聞いたら心停止しかねない。
服装は置いといても…何か困ってんなあの人。
思い当たる節としては、進行方向的に参拝も終わって帰ろうとしているのに、人混みの流れに逆らえず困ってるとかだな。
動かざることマジで山の如しって状態だ。
…仕方ないか。
「せんぱーい、釈せんぱーい!」
「…?」
呼び掛けをしてみるも、何だか判然としないご様子。
仕方ないね、俺の身長はノーマルサイズだからね。金髪っぽい髪の毛も別段珍しい代物でもないし紛れ込んでしまうのにちょうどいいんじゃないか。
それで、知り合いの声だけ聴こえるけれども姿が見えない感じだろう。蟻を見ている感じではないと思いたい、そこまでのサイズ違いじゃないし…たぶん。
そういえば集団の中で特定の人の声を聞き分けるっていうのを…何だっけ…カクテルパーティー効果? というらしいぜ、陽キャって感じがするよな、違うか?
「ここっす、釈せんぱーい!」
「あっ!!」
カクテル云々はどうでもいいんだよ。声をかけただけなのに、去年から引き続きパッと花が咲くような笑顔っすね。釈先輩ってば人懐こいから知り合いを見つけると嬉しくなっちゃうんだね。習性的に大型犬か何かでいらっしゃる?
「ご…ごめんなさい…通して…あぅ…」
「大きいのにちょっと気弱な女の子が困ってるのもいいよね…」
「いい…」
人間を蹴散らさないように進む様は心優しき巨人、俺は今、神話を目の当たりにしているッ!
…ちょっと邪悪な嗜好を持ってるヤツがいるな?
顔覚えたぞ、後でその頭を除夜の鐘代わりにして煩悩叩き払ってやるから覚悟しとけよ。
冗談ですよ、新年早々お巡りさんのお世話になりたくないですゥー。ただでさえここらの所轄の警官でヤバい人知ってんだから、法的に危ない事はしたくない。
「はぁーい、すんませーん。ちょっと退いてくださいねー、へーい…釈先輩こっちっす、はぁーい…見せもんじゃねーぞ!? はぁーい…」
神話云々は冗談。現実には神輿を移動するが如き丁寧さで、ちょっと大きめの女子を先導して人口密度が薄い所に避難した俺がいるだけだ。
見てくれよ、この人の掻き分けっぷりを。これならいつでも避難誘導員として働けるんじゃないか!?
いや、将来の就職先候補は決まってるから無しね。そんな横道にそれた思考はさておき。
「釈先輩、あけましておめでとうございます」
「うん! あけましておめでとーございます! ここの神社で会うなんて偶然だねー!」
「そうっすねぇ、と言ってもウチは大体いつもここなんすよ。釈先輩はこっちで年越ししたんですか?」
「そうなの! お友だちと一緒の年越しなんて初めてで、すごく楽しかったの!」
「そっかぁ…」
良かったねぇ…なんて心中の年寄が滲み出てくる感想がまろび出る。相手は上級生とか関係ないぜ、あの田舎に居た時なんて友人がいたかどうかも怪しいんだ。それがこうして普通の年越しを満喫出来てるなんて、感動的じゃねえの。だが無意味じゃなくて有意義だぞ。
ところでジャンピング年越しとかやってないよね?
劇的なビフォーとアフターで家屋の通気性確保してないよね? 何ということをしてくれたのでしょうってしてないよね、もしやらかしてたら怒られる可能性が有るの俺なんですけど?
不安になってきたぜ…ここは釈先輩の善性に賭けよう。
賭けるのは俺の魂、それとフォンセルランドさんの魂も賭けよう。
「ところで先輩は何か祈願したんです?」
「うん! あのね…あっ! な、内緒だよー!」
「そっかぁ…」
うんうん、メチャ微笑ましいな。
可愛い盛りの娘さんみたいだろ、これで俺の一個上の先輩なんだぜ!?
これでタッパ…身長が今の三分の二程度だったら素直に可愛い可愛いと言えたかもしれない。身長三分の二でも百八十はあるな……うん、カワイイカワイイ。
しかし、一分の一スケールの釈先輩ったら何分メガトン級サイズなもんで。何するにしても可愛いよりも何か壊さないか、頭ぶつけてないか、なんて心配が勝るんだよ。
考えてたら拝殿の鈴を引っこ抜いてないか、それとも賽銭箱に風穴を開けてないかも心配だな…。悲鳴が轟いてなかったから平気だと思っておくか。
「太陽くんは? お正月どうしてたの?」
「俺っすか、俺は大体寝正月ですよ」
「えー!?」
そんな意外そうな声出さなくてもいいじゃん…。しょうがないじゃんね、周りの人皆忙しかったり予定が入ってたりするんだから。
「じゃあ、じゃあね! ら、来年は一緒にお正月に遊んだりとか、どう、かな?」
「いやぁ悪いっすよ、先輩はこんなよくわかんねぇヤツに優しくするよか、今のお友達と仲良くした方が良いと思いますよ」
来年の話をしたら鬼が笑うって言うじゃんね。進路は大学・専門・短大・就職の何を選んでるのか知らないが、釈先輩は今年卒業。留年等の色々が無ければこのまま直接会うことも早々なくなる筈だ。高校生にかまけるほど大学生も暇じゃなかろうってコトさ。
本来は縁者でもなければ、親しい友人でもないんだから。折角田舎から出て来たっていうなら、楽しんだもの勝ちだと思うよな。
暴走したり警察沙汰にならなければ、好きに遊べばいいと思う。万が一そんな事態になったら駆り出されるのは俺だ、まぁ事の発端は自分にあるから喜んで尻拭いでも何でもやりますとも。
「友だちも大事だけど、そうじゃなくて…」
「おっ! こっちに手ぇ振って寄ってくる人がいますよ、あれがウワサの先輩の友だちです? 何か見覚えが…」
「うん…」
「よう子先輩! あんまり一人でウロウロしたらダメですよ! 先輩はともかく、あたし達が迷子になっ…?」
「お姉ちゃんちょっと待って…!」
「上埜姉妹じゃん、あけおめ」
随分久しぶりな上埜姉妹じゃないですか、ちょっと気弱で礼儀正しい方が妹さんの深雪ちゃん、勝ち気でクッソ生意気なのが姉の……名前なんだっけ…。
こういう時にするべき方法は一つッ!
名前を忘れた兄弟姉妹と、その共通の友人が揃ってる時なら、それとなく誤魔化しつつ誰かが下の名前を呼ぶのを待つ!!
「太陽さんっ、あけましておめでとうございます!」
「深雪ちゃんは元気だな、あけおめあけおめ」
うーん新年一発目の挨拶ってのはこうでなきゃな。なにより、深雪ちゃんには昔色々あったけど、今が元気ならそれでいいよな。
いい感じの笑顔を向けてくれる可愛い後輩って感じがするよ、二つ離れてるから早々会わないけど、それでも現在は普通の学生生活を遅れてるんだと察するに余りある。微笑ましいぜ。
「センパイ! あたしも元気ですけど!?」
「元気過ぎんだよ。それじゃああけましておめでとうじゃなくて、あらためておめでてえヤツだぞ」
「はぁー!?」
「スイちゃんはいい子だよー?」
そうかな…元気で且つ良い子は自分から矢鱈と主張しないんじゃないかな。ところで「はぁー!」とか言うのやめてよね、俺が殴る時の掛け声みたいじゃん。
いや、それはいいんだ重要な事じゃない。それよりもナイスです釈先輩、スイちゃんね。ヒントが降ってきてやっと思い出せた。上埜 翠香だ。
うんうん。…作戦成功ッ!
この二人はちょっと縁があって知り合った姉妹、なんだが無闇に絡んでくる姉の方はよくわからんね。そういう年頃なのか、別に悪いことした訳じゃないのに突っかかってくるんだから。
多少ぞんざいに扱うのが悪いと言われればそうかもしれない、でも第一印象から良くないから許してほしい…許せ翠香。これが最後、じゃなくて新年最初だ。
「釈先輩の友達ってこの二人っすか」
「何かダメなんですか!?」
「何も言ってないじゃん…」
「何もかもダメですね!」
「何でそうなるんだよォ!」
とんでもねぇ罵詈雑言だよ。人格否定とか身体的特徴を笑うとかじゃなくて最早存在否定じゃん。
新年早々から悲しくて泣きそう、だって男の子だもん!! もしかしてこういう所がダメだったりする?
「多勢に無勢…俺はクールに去るぜ…ッ!」
「行っちゃうのー…?」
「お姉ちゃんっ!」
「えっあっ、いや違うんですよ!? あたしとしてはいつものやり取りでしかなくてって…センパイ!」
「気にしてねえよ。折角友達三人で来てんだ、いい初詣とナイスな新年を過ごせよー」
どういう接点かは知らないけどさ、あの釈先輩に友達が出来たなら良かった良かった。それに後輩の、だもんな。同じ三年でも友達が居ない訳じゃないだろうが、こうして仲良く初詣に来てるなら格別ってモノだろう。三人の麗しい友情に乾杯。
本音を言うと、ちょっと気まずいんだよ。上埜姉と釈先輩には小っ恥ずかしい所を見られた事があるから。できる事ならさっさと逃げ出したいだけだ。さらっと公衆の面前でその話をされたら、世間の皆さんに顔向け出来なくなっちゃうじゃん。ウチの事務所はクリーンなのがウリで、俺は清廉潔白が持ち味だ、ごめん適当な事言ってるわ。
それより許せ翠香、これで本日最後だ。
さーて。釈先輩と上埜姉妹から逃げおおせたのはいいが、おやっさん達が見つかっていない。
つまり絶賛迷子継続中、断言するが確実にタマさんが見つからないようにしているからな。あの人釈先輩苦手だもん。
おのれワガママキャット、迷子センター的な場所に駆け込んで保護者のお呼び出しを食らわせてやろうか。
やめておこう、これは余りにも鋭い諸刃の刃だ。俺の尊厳とかが粉々になっちゃうよ。さっきの上埜姉妹に聞かれてしまった場合、姉の方に一ヶ月はイジられる。それも盛大に。泣けるぜ。
周囲を見ると人の頭の海が結構色とりどりに広がる。ピンクの髪や緑の髪も今日日珍しくない。かく言う俺も地毛からして黒じゃない。レイリーみたく全身浮くほど真っ白であれば珍しい部類だ。
何故そんな話を、というと。今知り合いに近付いているから。そいつは黒髪で、肌は白い。
その上、皮膚が過敏だという理由で、こんな人の群れの中でも日傘をさしている。釈先輩と同じく髪色由来ではなく、付属的な特徴によって人混みの中でも目立つ存在だ。
「おっす枝蔵くん、あけおめェ!」
「オワー!? …と、當真か…急に大声で話しかけるのはやめろよ。傘を落としたらどうするんだ…」
「俺が君の傘になる…!」
「えっ…ってなるか、鏡でも見てこい」
中々辛辣な言葉だね枝蔵くん、今しがたの翠香の言もそうだけど、今日は辛いことばかりだね。明日はいい日になりそうだね、ハムタロサァン。
このビビリマンの名前は枝蔵くん。高校三年生で郊外のバチクソデカい屋敷に家族で住んでいるお坊っちゃんです。下の名前は知らない、ちなみにシクラくんじゃなくてエダクラくんね。
ちょっと退廃的な雰囲気が、どうにもお耽美な先輩。からかうと面白いよ、いい声で叫ぶし。でもかなりのレアキャラクターで滅多に見かけないんだよ、何でかというと昼間の学校にはあまり来れないからなんだが。その理由は単純明快。
この先輩は『吸血鬼』だ。
「鏡ィ? 俺あんまり好きじゃないんだよね、毎回見惚れちゃって時間が無くなっちゃうじゃん。枝蔵くんはどう、そもそも映る?」
「知ってるなら聞くな、必要ない物は我が家にない。というか今のは嫌味っていうんだ、意味がわかるか?」
「新年から後輩イジメかよォ! そんなんじゃ数少ない友達無くすぜ!?」
「お前と友達になった覚えはないぞ」
「んもー、すぐそういう事いうんだから! コミュ障極まる前にもっとフレンドリーにならなきゃ、進路的にもその方がいいぜ?」
「…善処するよ」
枝蔵くんは美容系の学校に進みたいらしく、将来的にはメイキャップアーティストとか…何ていうんだ死化粧師? とか、美容に関しては何でも出来るようになりたいそうだ。吸血鬼が死体を扱うのってどうなんだ、クレームとか凄そうじゃないか。
メイキャッパーになるのなら、誰に対しても話を合わせたりできなきゃダメそうだよな。つまりこれはその予行練習だ。そういう事にしてくれ。本当はそういう仕事について詳しくないからテキトーなのは内緒な!
「んで、枝蔵くんは一人で初詣? そもそも初詣と神社って吸血鬼的にセーフなの?」
「初詣以外に無いだろ、吸血鬼としては…まぁいいんじゃないのか。神社に十字架もある訳じゃなし、うっとおしい連中も居なければ親は二年参りの後で寝ていて特にすることも無い、こういう時の方が勉強で疲れた受験生が一人で羽を伸ばすにうってつけだよ」
「確かにィ、羽生やせるもんな」
「そういう事じゃなくてな?」
「わはは!」
「お前ね…」
冗談が通じる上にノリもかなり良い、ちょっと生真面目ないい先輩だよ。
ツッコミに回ってくれる側とも言えるな。他の方々がアクセルベタ踏みですっ飛んでいくボケばかりだもんで、枝蔵くんは実質癒やし系。
「それよりも、母上がお前のことを話していたが…」
「ミナさんが? たまたまスーパーで会ったからちょっと話し込んでただけだぜ?」
「男が自分で家事全般をこなせるなんて、時代は変わった。とさ、それに飛び火してボクの手料理が食べたい、父上の手料理も食べたいだのと言ってくる」
「いいじゃん、作れば。流水がアレでも炒め物とか無水料理でも喜んでくれるんじゃねーの?」
「お前がハードル上げるなよ…トーマくんが素敵な料理を作ってるって年甲斐もなくはしゃいでるんだから。父上も、よーしパパ頑張っちゃうぞって使用人に止められても張り切っちゃって…見てらんないよ」
一家団欒で素晴らしいことじゃんね?
愉快な枝蔵一家は今日も素敵って話だろ。
「ご両親のふるさとの味を堪能すればいいじゃん?」
「ママリーガとパパナシとかか…味が悪い訳じゃないが、ボクは普通の和食でいいんだ。父上たちと違って飲酒もできないから料理が酒に合う、なんて感想もわかないし」
「面白い名前の料理だな!?」
ママだのパパだの、ミルキィでママの味的な事か。吸血鬼がそういう名前を出すと、ほんのりゴア表現かと考えちゃうぜ。それはジョークとしても、面白い名前なのは本当だ。後でちょっと調べてみよう。
「…まだ色々とあるが、まぁいいか。お前にも悪気がある訳じゃないし」
「あったり前じゃーん?」
「ふん、じゃあボクは帰るよ。せいぜい風邪引いたりして周りに移すなよ、回り回ってボクたち三年生に流行したらコトだ」
「知らねえのか枝蔵くん、日本じゃ昔から馬鹿は風邪引かないって言うんだぜ」
「自分で言うなよ!? …まったく、調子狂う」
「またなー!」
「…はぁー…」
わざとらしく息を吐いて踵を返す枝蔵くん。
うんうん、いい先輩だ。打てば響くって感じ。
楽器かな?
「あとは…」
どうしても挨拶しておかなくてはならない相手が一人。社務所で忙しく、学校にいる時と同様に精力的に働いている人。
「会長さん、あけましておめでとうございます」
乱立する人々の垣根をすり抜けて、我が校が誇る完璧超人に新年のご挨拶を送る。どうにもお堅い人だから苦手、でも挨拶しないと、後日絶対に説教をされるのでこうして出向かなきゃいけないんだよ。
何故説教を貰うのかというと、生徒会長は地獄耳であらせられるのだ。例え声が聞こえていなくても、知っている足音ならそれだけで個人を特定出来るらしいよ。怖すぎんだろ…。
今はちょうどよく小休止中、というより接客の交代中だろう。さもなくばこの人は休むことはない。あまりにも仕事人間過ぎて俺は将来が心配だよ。
「あぁ、やっと来たか。また無視するつもりじゃないかと思って心配していた所だよ」
「やだなぁ俺が会長を無視した事あります?」
「昨年の文化祭の時点で十三回目だ」
「偶然で」
「女性は人の視線に敏感だそうだ、私も例に漏れず。そして天網恢恢疎にして漏らさず、人を無視するとは良くないことだ。そうだな? 當真 太陽」
め、めんどくせぇ…。
多少のお祭りムードは揮発性だったのか、周囲のガヤガヤとした愉快を隠しもしない談笑の声が遠のく気がする。社務所の裏口付近だから、というのは理由にならないであろうと確信する。
平常時の一般生徒には軽やかに挨拶するというのに、俺相手には一切の温度が無い応対をしてくる。というよりも、距離を掴み難いからかい方をしてくる厄介な人だ。
およそ塩対応どころじゃない、皮膚が張り詰める程冷たく、息が詰まる程の威圧感が醸し出されつつある。
だいたい、人をフルネームで呼ぶっていうのも良くないと思うんだよ。どうにも距離を感じて、二人の関係性の間に隙間風が入り込んじゃうじゃん。
さながら冷え切った夫婦関係、この人と結婚とかするヤツの気が知れねぇ。
「今、面倒だと思ったな?」
「いやいや全く、すこーしも思ってませんよ。生徒会長様におかれましては、新年であれどご多忙極める中ご機嫌麗しい様子で何よりです、はぁい」
少しばかり嫌味っぽいか。まぁ先に始めたのは会長さんだからいいだろう。本人にはそのつもりが無さそうなのも厄介だが、やられっぱなしは性に合わない。
「ふふ、そういう所は気に入っているよ。君のね」
「…そりゃどうも」
何考えてんだか、わからない人だ。
怜悧であり清澄の一見冷ややかにさえ見える美貌、微笑めば春の訪れを思い出させる爽涼な風が吹くようで、これでこちらに対する当たりが弱ければと思った事は一度や二度ではない。
俺の天使さまには負けるがな! というかタイプがまるで違うし。和食が好きって言ってんのにバターと小麦たっぷりの洋食を出されても困る感じ。伝わり難いとは思うけど、とにかくそういうことだ。
「ちなみにだが、ウチの副会長である淋代は一家揃ってとうに参拝していったよ。残念だったな?」
「なん…だと…」
「辛い現実だが、どうか受け止めてくれ。どれ、御神籤でも引いていくかい。運勢は見るまでも無さそうだが」
「ち、チキショー!!」
凶! 凶です! 大が幾つ付いても足りないヤツ!
毎度毎度思うけどさぁ。いざ新しい一年のスタートって時に出鼻を挫かれると、どんな顔したらいいのかわからなくなるよねー、なるなるー。
言ってる場合かァ!!
言わなくてもいいじゃん! そういう事はさァ!
こちとら万に一つくらい。
『こころさん! 偶然ですね、初詣ですか? いやぁ幸先良いなァ、これぞまさしく我が運命ってもんですね。ご利益なら今正に感じてるところですよ。皆に感謝感激雨あられ、餅でも配りたい気分だぜ!』
とか浮かれに浮かれた可能性を追い求めたいじゃん、夢を見るのは自由じゃん!
許せねぇ…許せねえよ生徒会長…人の夢と書いて儚いとか、そんな感傷的な気分に浸ってる場合じゃない。必ずや彼の邪智暴虐の長を討たねばならぬと決心するぞ。そう、俺は激怒した。
「ほら、おしるこだ。心身ともに冷え切っているだろう」
「えぇー? いいんですかァ??」
「私のお手製だ、恐らくは長い付き合いになる後輩なれば多少は甘やかしても罰はあたらない。そうだろう、當真後輩」
「優しい…優しいよ…! 人生捨てたもんじゃないっすね、宮河パイセン…」
「お茶請けの塩昆布もあるぞ、ゆっくり食べなさい。そしてパイセンじゃなくて、ちゃんと先輩と言いなさい」
荒んだ心に甘味が染み渡ってくるぜ…。ありがとうミヤカワパイセ…宮河先輩。激怒は気の所為だったよ。上手く操縦されてる気がするな、俺はチョロいぞ!
「ところでこのおしるこはどっから…」
「スープジャーは乙女の嗜みだ、覚えておけ。當真後輩」
「いや箸とか…」
「私の私物だ、気にするな。間接キスくらい意識するものでもなかろう」
乙女こそ気にするべきじゃないのか?
間接キスじゃなくて、どこから出したのか聞きたかったんだけど、まぁいいか。
「うめー!」
「そうだろうそうだろう」
見た目が良くて、性格も…いい性格してる上に料理まで出来るんだからズルいよな。基本的に何でもできる人だけどさ。これで普段からもう少し俺に優しければ…。
「さて、それが食べ終わったら拝殿に向かうといい。あと少しで尋ね人が探し始めるぞ」
「んぇ、ほんほっふは?」
「口の中に物を入れて喋らないように、本当だ」
「んん…」
ヤダァ! はしたなかったかしら!
こう冷え込んでる時の温かい汁物って格別に美味い。おしるこの甘みも強烈ではなく、かといって薄い味ってわけでもない。何らかの出汁が入っているのか?
白玉団子も柔らかく、小豆の皮目との食感の違いもいいコントラスト。小さく角切りしてある餅も火が通ってとろけており、口の中に名残惜しく存在する。
ただ、不思議な匂いと油っ気があるな…?
「意外と違いのわかる男だな當真後輩。出汁は昆布出汁を薄く入れている。餅の方は外側だけ揚がるように、ごま油と白絞油でサッと火を通した後に油を丁寧に切ってある」
手間掛かってんなぁ…。
って待てよ、俺喋ってないんですけど。みなさん人の心を覗く趣味とか持ってらっしゃる?
「思考が顔に出やす過ぎるのも考えものだな?」
やっぱり何考えてるのかわからねぇ。冗談でもなさそうだし、面倒で苦手かもしれんね。
「ごちそう様でしたッ!」
「うん、いい食べっぷりだ。それでは気をつけてな、當真 太陽。来年は生徒会に入るといい、淋代も喜ぶだろうさ」
「嫌ですゥ〜、おしるこ美味かったですよ。アイツにも食べさせたら良かったと思いますよ、俺に毒味させる前に。宮河 巴先輩?」
「その反骨心や善し、返礼として頂戴しよう。良い息抜きになった、また学校でな」
「へぇい」
「返事ははっきり」
「ハイ!」
「うん、善し」
予想外に暖まったな、どうやら生徒会長の冷たさよりも外気の方が凍えるみたいだ。
会長の御言葉を信じれば、ここから拝殿の方へ向かえばちょうどおやっさん達に会えるらしい。今更あの人の予言じみた言動を疑っても仕方ない、ほぼ当たるからな。
大方、この千差万別に次々溢れる雑踏のオーケストラの中でおやっさんかフォンセルランドさんの足音を特定してたんだろう。
それはそれで怖いよね、プライバシーとか知ってる?
「おっ、いたいた」
遠目でも見える帽子、マフラー、マスク、サングラスにトレンチコートと露出度皆無の服装で何かを探す不審者…じゃなくておやっさん。
身長の問題で見当たらないが、タマさんとフォンセルランドさんも居るのだろう。
初詣の残るイベントはあと一つ。
神前で手を合わせて参拝するだけ。
願い事じゃなくて神に対する宣誓だという物だが、何だろうと思う事は一緒だ。
今年も、あるいは今年こそ。
良い一年になりますように、ってな!
御意見・御感想・御評価、質問疑問、誤字脱字等々ありましたら賜りたく存じます。
や、優しくしてね…!