はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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Gone…?

 

 

 

 

「んんん…!」

 

 急に利き手が使えなくなったら、君はどうする!? 

 ペットボトルは開けられない、読書も片手じゃやりにくい。着替えは億劫で、そもそも風呂には入れない。

 

 せめて食事くらいは…スプーンもあるから平気だろうと高を括っていたが、意外と厳しい。距離感が掴めねぇんだよ! 歯と口に食べ物が衝突するわ汁物は溢しそうになるわで大変なんだ。

 

「ほら、口開けて」

「嫌ですゥー」

「ちゃんと食べなきゃ大きくなれないよ」

 

 それを見かねた転校生、いや、友達の一人。

 レイリーが無表情のまま食べ物を差し出してくる。

 何なんだよお前、距離感が掴めねぇんだよ!! 

 これさっきも言ったな。大きくなれないよっていうけど少なくともお前よりはデカいぞ。

 

「学校行けよォ! ていうか家で寝てろよ、まだ朝の六時だぜ!?」

「一緒にご飯食べてから登校する」

 

 病院の朝は早い。ひょっとしたらこの病院だけかもしれないが、入院患者が朝食を食べる時間は朝六時と決まっている。

 そんな早朝の朝メシは当然一人で食べるか、夜通し働いている素敵なこころさんがいれば、どうにかしてお誘いしている所だ。しかしその目論見は最近べったりと世話を焼きに来るミニマム系フレンドに邪魔をされていた。

 

 そう、何故かは知らないが連日介護しに来るんです。コイツまさか怪異の類か…? 

 

 ふわふわした細い白髪と、着られている感満載での制服姿。生気薄めの目には花みたいな虹彩。いや、どうも俺が入院してからは目に光が入ってるな。

 そんな小柄でキュートなレイリーさんがどうにもアグレッシブ。なるほど、これがキュートアグレッション…絶対違うわ。

 

「着替えも手伝おうか?」

「恥じらえや!!」

 

 …どうする!? 

 

「いただきます」

「ねぇそれどういう意味で言ってんの? ガン見されてると、俺ちょっと変な不安に駆られてるんだけど」

 

 どうする!? 

 

「じゃあ行ってくるね、また来るから」

「えぇ…いや、いいよ明日には退院出来るしさぁ…」

「うるさい」

「!?」

 

 君ならどうす…普通に学校に行ったわ。

 危機は去った! 

 

「うぅん…」

 

 ウンウン唸りながらの再確認。何だか朝っぱらから嵐のような一時、ここは病院。なんとも似つかわしくない言葉だ。

 

 そう、俺は引き続き入院中ってワケ。

 理由は単純で失血死寸前だったのと、腕が物理的に取れかかったから。流石のこころさんでも失血と欠損を治すのは無理なので即日退院も出来なかった。現在入院数日目、運び込まれた初日の記憶はない。

 

 腕一本分の全力でレイリーの氷をぶち壊したのはいいが、多少なりとも後先は考えなきゃいけないと猛省中です。はい。また怒られたからね、反省してまーす。

 

 俺が気絶してからの経緯をレイリーに聞くと、どうやら大変だったらしい。

 

 まず俺の携帯でフォンセルランドさんからの電話を受けて、背後からぬるりと現れた彼女に腰を抜かして。そのまま救急車を呼ぶよりも速いとフォンセルランドさんが野上と颯に連絡を取って、颯の完璧な止血と野上の迅速極まりない輸送で急患として病院に叩き込んだ、らしい。最善策だな。

 

 ことに及ぶ前に凡その範囲で打ち合わせ済みだったりする。そう、ちゃんと人を頼ったってワケ。

 

 レイリーの居場所の特定には当然頼りになるフォンセルランドさんを。場所がわかればさっさと俺が向かう。不法侵入もお手の物だ、真似しちゃ駄目だぞ! 

 颯を呼んだ理由は生徒会会長さんに助けを借りる必要があったから、それと同時に学校側への言い訳用。

 野上は俺が万一でも一方的にやられた時、レイリーを引き止めて説得する要員。もしくはレスキューが必要な事態になったら運んでもらう為。

 俺は戦闘要員。レイリーがあんなに戦えるヴァイオレンスウーマンだと思わなかったからな。野上に怪我でもさせたら、もっと頑なになって厄介な事態を引き起こしていただろうさ。

 万事綱渡りながら結果オーライ、良かった良かった。

 

 個人用で割り当てられた病室に、よく響く規則正しいノック音が反響する。考え事は中断だ、みんな朝早いな? 

 

 規律正しいリズムに合わせて黒髪を纏わせた人。

 制服にシワ一つ無く、油断の形跡もまた微塵もない。

 神社での巫女装束も似合っていたが、基本的に何でも似合うだろう。あーヤダヤダ、これだからウチの生徒会役員は嫌なんだよ。見た目も品性も非常に整ってらっしゃるからさ。

 

「どうやら元気そうだな當真 太陽」

「ギプスと点滴が見えないんすか、宮河 巴会長」

「減らず口が叩けるなら十分だろう?」

「ま、そっすね」

 

 嫌味でも言いに来たのかな!? 

 生徒会長としてどうなんだと思うが、事態の収拾に努めてもらったから甘んじて受け止めよう。こっちは怪我人なんだから手加減はしてほしいけど。

 

「…ふむ、本当に調子も悪くなさそうだ。では手早く報告をしておこうか。今し方すれ違ったが彼女、レイリー・ケイスにまつわる『噂』は上書き出来た。

 我が校の屋上だけ雹と霰に豪雪が降った、なるほど。奇妙で大掛かりな話であれば利用しない手はないな? 後はスピーカーとして私達が広めれば、容姿はさておき生態は地味な彼女の交友関係なぞ誰も気にも留めなくなる。しかし運良く雪女の噂でもなければどうするつもりだったのか…」

「会長、長いっす」

 

 手早くって言ってたのにお話が長いよォ…こちとら重傷患者だぜ。もっと手心を加えてくださってもいいんじゃないですか!? 

 

「……仕方のない後輩だ」

「俺が悪いの!?」

「つまるところ、学校側に話は通した。物分りのいい担任と学年主任に感謝をしておきなさい。

 大きい事件で小さい噂は消えて、転校生は元気に友達と学生生活を送れるようになった。

 半ば博打の様相だったがおよそ上手く行って、この件は万事解決。関係者に感謝行脚をするように」

「そいつは良かった。まぁ、まずは? 尽力してくれたであろう麗しき生徒会長に感謝致しますよ」

「次があれば淋代を通さず直接言いなさい…余計な気を回すな馬鹿者」

 

 やだ怖い。最後に絶対零度の目付きで睨まれちゃったよ、他の人にそんな目をしたら駄目だぜ会長。

 

「當真後輩にしかしないが?」

「…特別扱いってコト!?」

「たわけ」

 

 さらっと俺の思考と会話してたな? 

 

「君ほどわかりやすい男もいない」

「正直者って事で一つ。颯とお話出来たのも、嬉しかったでしょ…痛え!?」

「余計な気を回すなと言った」

「だからってギプスぶん殴る人がいますゥ!?」

 

 気を回すなってよく言うよ、颯からの連絡でもないと他の要件を優先してもおかしくないくせに。

 …この人絶対腹いせに来ただけだな。覚えてろ会長、また颯をけしかけてやる。首を洗ってフェロモンでも出せるようにして神妙に待ってろ。

 

「痛え!?」

「ではな、馬鹿者」

「人を殴りに来たのかよ!?」

「事後報告だが? それと最後に一つ」

 

 涼しい顔をして、いけしゃあしゃあと何事もなかったかのように踵を返す会長。普段のストレスを発散しに来ただけだろこれ。

 

「レイリー女史が雪女だという噂は、校内には無かった」

「…それはどういう」

「私にもわからんよ。ただ…私も含めて精々気をつける程度はしておくべきだな、當真後輩」

 

 不穏な言葉を並べ終わると、そのまま退出していった。レイリーに関しての騒動は上手く解決したが、どうも気が抜けない事態は連続しているらしい。

 事件と呼べるものを扱うのはバイト先だけでお腹いっぱいなんだけどな。

 

「よう、バカ」

「え…酷くない?」

 

 噂をすれば影がさす。なるほど、口には出していなくてもどうやら事実として正しいみたいだな。宮河会長と入れ替わりでやってきました、自由気ままで素敵な化猫。

 

 個室のドアをノックすることも無く、不機嫌オーラ全開でズカズカと入ってきたのは我らが探偵事務所の所長代理。初っ端から罵倒を決めてくるとはな…爽やかな朝はいずこへ。

 

「ほれちゃっちゃと着替え寄越せ」

「やだ…恥ずかしい…ッ!」

「チッ…」

 

 軽めのボケに舌打ちだなんて取り付く島もねぇ! 

 まぁね、苦手な朝に身元引受人というか保護者としての役割を全うしに来てくれてるんだもん。それだけでありがたいよね。いやもう少し手心はほしいな…。

 

「にゃに落ち込んでんだ、これでも精一杯手加減はしてやってんだぞ。連続入院にゃんてバカ極めてる真似、メリーの口添えが無ければ今頃引っ叩いてるところだ」

「…うす、すんません」

 

 心配を掛けたのは自覚している。フォンセルランドさんがどう言ったのかはわからないけれども、タマさんがブチ切れていないのは確かだ。

 

「主人も夜に見舞いに来るらしいから、とっとと治しにゃよ。勝手にやった事だから傷病手当も出ねーぞ…それと、次はもっと大人を頼れよ。わかったか?」

「…はい!」

「ん、よし。じゃあにゃ」

 

 そのまま軽やか且つ静かに病室を出て行くタマさん。さっぱりした人だよマジで、気を遣われ過ぎるより楽でいいけどさ。

 

 ……入院中って暇だよな…。

 午前中の見舞い客は三人、その後検温やらの用件で看護師さんが来てからというもの客足はぱったりと止んだ。平日だもん、仕方ないわな。

 

 腕だけの怪我というのも退屈を加速させてくる。足の怪我であれば車椅子で暴走するのも一興だ。しかし貧血気味なことを除けば腕一本以外は健康そのもの、回復薬とかいう変な薬液を定期的に塗布される以外にすることもなし。

 

 何で出来てるんだろうな、回復薬。俺の腕の肉が吹っ飛んだはずなのに付ければ治っていくんだよ、見てる分にはボカし無しの恐怖映像だ。そもそも回復薬って何なんだよ、もっとこう…難しそうな名前があるんじゃないのか!? 

 

 今更になって怖くなってきた、これ人体に無害ですよねェ!? 使い過ぎたら体が爆発するみたいな副作用は無いよねッ!? 

 

「こーんにーちはー!!」

「ホワーッ!?」

「え、何そのリアクション。當真くんって面白いねぇ!」

「いや、は、え? ヴァイスさん!?」

 

 気配を察知出来なかったのはいい…いや良くねぇけど。音を立てずに横から大声出すとかこの人マジか。常識とかどうなってんだ。やられた側は面白くねぇんだよ、心臓に悪い。

 俺のちっちゃなハートがエクスプロージョンしたらどうするつもりなんだ!? 

 

「…人を驚かせるのは良くないっすよ。それにしてもよくここがわかりましたね、娘さんから聞きました?」

「そうなの! ねぇ聞いてよ當真くん。レーちゃんがね、とっても嬉しそうに学校に行くようになったんだよ! 顔にはあんまり出ないんだけどね、パパに似たのかなぁ…」

 

 知らんがな。

 これ言ったら殴られるかな! 

 何しに来たんだこの人、世間話? 

 

「そうそうパパといえばね、當真くんに是非お礼をって言ってたよ! 本当は御見舞もって、でもお仕事が忙しくてねぇ…當真くんは知ってる? 最近出来たお店なんだけど、お昼は喫茶店で夜はバーなんだけど…あっ未成年だから夜はダメかな!」

 

 何だこの人ォ! 

 めちゃくちゃに話が飛ぶじゃんか。

 掻い摘んで言うと、喫茶店で働くレイリー父もお礼をしたがってたって事だな? 

 

 ん、昼は喫茶店で夜はバーになる新しい店? 

 去年の暮れに行ったな? 

 

「…もしかしてその店って……」

「えっ、そーだよ! なんだぁ、パパのお店に行ったことあるんだぁ!! どうだった? 気に入っちゃった? パパのオススメはミートソーススパゲティらしいよ!」

「世間って狭いっすねぇ」

 

 あの雰囲気の良い店のマスターがレイリーの父親、そしてこの元気な人が母親。

 遺伝の妙ってヤツか!? 

 

 なるほど…いや…似てねぇな…? 

 見た目の話じゃなくてね。

 あの店長さんの身長は目算で百八十センチ近く、ヴァイスさんも百六十は超えてるだろう。対して愛娘のレイリーは…百五十無いんじゃねぇかな…。

 身体的なアレコレはあまり触れないでおこう。うん。

 

「…ねぇ當真くん」

「なんすか?」

「ありがとう。本当に、感謝してるから」

 

 マシンガントークの銃口と頭が下がったと思えば、流れるように真面目な感謝。

 …別に…。

 

「いいんすよ、友達が困ってたら助けるもんでしょ?」

 

 そう、別にいい。

 ただ困ってる奴がいたら助けたくなるってだけのこと。いわゆる自己満足、やって後悔した方がマシだ。

 

「…んふ、そっか!」

「そーっすよ」

 

 どうにも照れくさい。というか年上に頭を下げられるのも物理的にむず痒いぜ。

 

「いやぁ〜當真くんが良い子で良かった! じゃあ私は帰るから、これからもレーちゃんをよろしくね! あっ退院したらパパのお店も行ってね、まったねー!」

「うっす、また」

「バイバーイ!」

 

 跳ねるような足取りでヴァイスさんが出て行く。

 容姿はともかく、やっぱり似てねぇな。

 空調の音を取り戻した部屋で、ぽつりと再確認。

 

「ま、いいか」

 

 平穏無事、これに尽きるって事だ。

 

 それにしても入院中ってのは暇で、平穏無事も過ぎれば退屈かもしれない。でもそれがいいんだよな、うん。

 

 明日からまた普通の日が始まる。

 何気ない日常が嬉しいもんだ。

 

 …さっさと治んねぇかな、腕…! 

 

 






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や、優しくしてね…!
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