はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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罵連堪陰泥 喫す

 

 

 

 

 

 バレンタインッ! 

 

 それは(主に非モテ)男達の戦いッ!! 

 

 バレンタインッ!! 

 

 それは(醜い)人生の縮図! 漢の浪漫!! 

 

 

 

 言い過ぎだって…? 

 

 馬鹿野郎ッ!! 

 何を冷笑主義気取って斜に構えてやがる! 

 

 欲しいだろうが!! チョコレィトゥッ!! 

 特に! 何か甘酸っぱい思いの籠もった物がッ!! 

 

 前日にはまるでチョコになぞ興味がない硬派を気取っていても、当日が来れば話は別だろう。

 

 そうだッ! 

 

 ある者は誰よりも遅く登校して自らの下駄箱を漁り、時に残酷な結末を悟って涙を流し! 

 

 ある者は普段通り学校に来るや否や、悟られぬように自分の机やロッカーを確認しつつソワソワして! 

 

 ある者は放課後に何も用事が無いにも関わらず、直接渡されやしまいかと校内をパトロールする!! 

 

「あまり数が多くても困るが…。人の心の詰まった物だから無碍にする事は出来ない、悩ましいな」

「おまッ、ハァァァァ!?」

「声がバカでけぇのん、バカ」

「……」

 

 俺は激怒した。

 必ずや、かの容姿端麗の親友を討たねばならぬと決意した。俺には黄色い悲鳴がわからぬ。

 俺は、ただの学生であり探偵事務所のアルバイトである。時に勉学に励み『噂』連中をシバいて過ごしていた。けれどもモテ男の余裕に対しては、人一倍に敏感であった。

 

 現在、収穫数はゼロ。

 バレンタインデイ当日の朝であった。

 

 最近は普段通り俺と颯との登校風景に加え、レイリーウィズ野上の四人で学校に向かう事が多い。

 レイリーさん、何か距離近いっすね。まぁいいけど。おかげで野上が遅刻し難くなったってアイちゃん先生も喜んでたよ。

 

 日常的になってきた朝の光景についてはいいんだ、大事な事じゃない。問題はそう、俺はチョコを貰っていないということだ。

 

 登校中だから当然のこと、じゃねぇわ。隣を歩く颯は既にいくつも貰ってたわ。ゆ、許さん…! 

 余裕綽々に貰った数じゃなくて人の心どうこう喚くとは、たとえ世界が赦してもこの俺が許さんッ!! 

 

「んきききききクソァ!」

「っづ!?」

 

 ナメた事を言い出す親友の肩を強打した俺は、何食わぬ顔で登校をキメていた。何故顔を殴らないのか、ヤツのファンである方々を怒らせるのは怖い。俺は小市民であった。

 

「…そんなに嬉しいの、チョコ」

「…ッハァァァァー…」

「は?」

「なんなのんコイツ…」

「何故殴られたんだオレは」

 

 聞くまでもない疑問を呈してくるとは、愚かなりレイリー。関係ないが同じく自覚なき悪の権化である颯よ、我が熱弁を聴け。チョコレート一つで老若男女、人が一喜一憂するかどうかなんて、それはお前。

 

「嬉しいに決まってんだろォ! いいかレイリー、お前にはまだ早いかもしれねぇけど。このバレンタインってイベントには甘酸っぱい青春的なモノだけじゃなくて、負けてらんねぇ何かがあるんだよ。わかるか?」

「……」

「チョコ獲得数ゼロとそれ以外には海より深い溝があるんだぜ。馬鹿と天才は紙一重って言うだろ、その紙一枚より越えられない何かってモンがあるんだ」

「……」

 

 おおっと…何だかわかってなさそうなお嬢さんだな。

 校門が差し掛かって来たが仕方が無い、ここは一つバレンタインの作法について講釈を垂れてやるか!? 

 

「素行不良のアホ一号、淋代に謝罪してとっとと教室入っとけ。野上は今日も遅刻せずに来れて偉いぞ」

「へへへ…今日もアイちゃん先生に褒められたのん」

「俺の扱い酷くない? ねぇ酷くない?」

「登校中に脈絡なく人の肩を殴る奴が居たら、バカヤロウ一号はどう思う?」

「そんなヤツおらんでしょ」

「當真、手鏡だ」

「今日もいい男じゃんね」

 

 門前で気怠げに立って挨拶当番的なモノをやっているアイちゃん先生が呆れているよ、どうしたんだろうな。颯が持っている手鏡に映る姿はいつも通り、金髪っぽい髪色の野郎が見てくる。ちょっと目付き悪くないかな? …どう見ても俺だわ。

 

 先生の眉間にシワが寄ってるぞ? 美少女フェイスが台無しだぜ。あぁ、颯にごめんなさいしてないからダメなのかな!? しょうがないなぁ…。

 

「ごめんねッ!!」

「…いいよ」

「小学生かお前ら…」

「高校生ですゥ〜」

 

 溜め息と同時に頭を振って小学生扱いとはな。

 いや謝ったじゃーん!? 

 

 颯もいいよって言ってるのに何が問題なんだ。ごめんで済めば警察は要らないって理屈か? 

 じゃあ心の底から生まれる真の謝罪を見せてやる…。

 

「ごめんよォ〜颯くゥ〜ん! 許しておくれよォ〜! お願いだよォ〜この通り…痛え!?」

「すまない流石にイラッと来た」

「…それ以上のバカは止めて教室行け、お互い一発ずつで丁度いいだろ。コント発表会じゃないんだから…」

「はい」

「へぁい」

「おれも殴っていいか?」

「暴力反対ッ!」

 

 走れ俺

 メロスのように

 ロンリーウェイ。

 

 よし、日常って感じだ。

 

 しかしどうあがいてもバレンタイン(絶望)、朝礼やショートホームルーム含め授業中でも男子はいつだってドキがムネムネしちゃう。だって益荒男だもん!

 

 益荒男はそんな軟派な事しないって? 

 するんだよッ! 

 知らねぇけど!! 

 

 しかァしッ! 何も無いまま時は過ぎ放課後…何かあってほしかった…! 世界ってのは厳しいなァ! 

 

「で、貰えたのか?」

「クソォ…! やっぱアレか、部活とか委員会活動に入って無いのがダメなのか。それって帰宅部差別じゃん、義理の一つも無いんだぜ!?」

「かわいそ…」

「凹ますぞツチヤッティ!」

 

 野球部のエースという肩書の強さが由来する手持ちのチョコを余裕綽々で振りかざすホビット野郎、こちらを憐れむ土屋の目がせせら笑っている。物理的に身長縮めてやろうか。

 

 そう、身長や容姿とは関係無しに我が校の野球部が誇るトンデモピッチャーともくれば、校内校外問わずファンがいる。つまり土屋は意外とモテる、滅びろ。

 

 また土屋と仲のいい森山も大変おモテあそばされる。

 客観的事実上としてちょっと怪我しがちで天然入っていても、誠実で顔もいいし身長も高めのキラキラした銀髪エルフ。何なんだよこいつら。

 

 こいつらを倒せば、俺の心の虚しさは埋まるのか!? 

 …あぶれたチョコレートは俺の懐に入るのか!? 

 

 無理そうだな。おのれちくしょう、くそったれ。乾燥しているこの季節に、ひたすら静電気でウッ! となるような呪いでも掛けてやろう、まずはフォンセルランドさんに弟子入りしなきゃ。

 

「ふっふっふ…そこの寂しさを煮詰めた泥みたいになっているキミぃ…」

「なんだァ…てめぇ…。あぁ立神か、あっち行け! お前にこの辛さの何がわかる! しっしっ!」

「おやおやおやぁ…? いいのかなぁそんなこと言って」

 

 忍び寄る転生者の魔の手…ッ! 

 まだ何もされてないのに言い過ぎと思うかもしれない。だがしかし、この性悪転生女は必ず変な取引を持ち掛けてくる。まさしく悪魔の取引、気付けばケツ毛どころか骨の髄と皮まで毟り取られるぜ。

 

「今だけ! なんと寂しいキミたちに朗報があるんだよぉ…ほぅら義理チョコ、どうかな、今ならたったのワンコインで心の隙間にピッタリサイズのハートチョコが」

「い、いらねぇ…お前のことだからワンコインって言っても十円とか百円じゃなくて五百円だろ…」

「もちろん!」

 

 やたら商売っ気が強いし押しが強いねキミ。

 しかもなんだそのやる気のないチョコは。得意気にみせびらかしてるけど、明らかに材料用チョコを溶かして型に入れただけの物じゃねぇか。デコレーションどころかラッピングもぞんざいだし。

 

 これでね? 万一にも照れ隠しで俺だけに渡してくれるって言うのなら考えるよ、考えちゃうさ。

 でもクラスの男子ほぼ半数から五百円せしめようとしてるんだぞ、惑わされるな。

 

「俺は一縷の望みに賭けるぜー! 立神ぃ! 一個ちょうだい!」

「僕も!」

「私も!」

「某もッ!!」

 

 惑わされるなと言っておるー!! 

 お馬鹿クラスメイトどもが我先にと立神に殺到、女子も挙手してるがそれはそれ。忍者野郎もいるけどそれでいいのか。お前は自分の所のお姫さんにでも貰えばいいだろうに。

 

 げに恐ろしきはバレンタインの魔力か、一握りのプライドまでは失いたくない。握り締めようとした硬貨の重みに対してケチな性分が勝っただけじゃないかと言われたら、うん、正解だよ。

 

「抑えろ…暴れるな俺の右手…! 五百円っての結構デカいぜ! 節約をしろォ…!」

「ほれ、これやるのん」

「あン??」

 

 醜悪な光景を見るに見かねてか颯爽登場、野上サン。

 スッと差し出して来たのは…小ぶりの台形で、色鮮やかな包装紙、コンビニのレジ横小脇に置いてあるアレ。

 きなこもちか…美味しいよね。いや何で? 

 

「ん…何この…何で?」

「目ン玉腐ったの?」

「いや、でもこれどう見てもチロル…」

「義理であり恩義のチョコなのん、勘違いしないでほしいの」

 

 色気も素っ気も消し飛んでる、情緒と風情は迷子だな。これはツンデレってヤツじゃあない、最早ツンドラだ。裸で暖め合うか、一人じゃ無理だ。

 

 というかそもそも、理由を訊いたら眼球の不具合を疑うような奴にデレは期待できねぇよ。

 

「まぁ…うん…サンキュ…」

「もっと素直に喜ぶがいいの、普通は陸上部の皆にしかあげてないのん」

「おう…んまいね…」

 

 テンション上がんねぇ…ありがたいけど。

 流石にこれでテンションは上げられねぇよ…! 

 

 そう、俺は知っている。

 野上は最速で颯に手作りチョコを贈っていたであろうことを。俺に対してのコレはまさしく義理、ありがたいけどね、うん。50円未満の義理だよ、うぐぎぎぎ。

 

「チョコ無しの烙印を押されるくらいなら、俺は悪魔と契約するぞッ!」

「悪魔扱いは酷くない? 私って美少女でしょ?」

「立神は…その…性格がね…」

「あぁ…」

「見た目だけはいいよね…見た目だけは…」

「最近気付いたんだけど、皆私に対して当たり強いよね」

「すまぬ立神殿、某も擁護は出来ぬでござる…」

 

 さもありなん。

 チョコ不足を見てこれ好機と商売始める人間にロクなのはいないだろう。口に出して言ったら教室がぶっ壊れる事態になりそうだから言わないけどな。

 

「廊下まで響いてんぞ、バカやってないでとっとと帰れよお前ら。立神は教室で堂々と商売すんな、どっかで隠れてやりなさい」

 

 入室して第一声がそれとはな、教育者としてどうなんだいアイちゃん先生…!? 

 

「先生はチョコあげたりしたんですかー?」

「あぁ? おっさんからチョコ貰って誰が喜ぶんだよ…っていうか、おれは貰う側だろ」

「んんんん! その考えは古いッ。古すぎて最早苔生し苔団子でござるよ先生ェ…!」

「先生な、時たま風間が面倒だって思うんだよ」

 

 傍から聞いててもすげぇよアイツ。

 何かこう…チョコじゃなくてオハギとかキメてらっしゃる? ブレーキが全壊だ。アクセルは全開だ。誰だよニトロぶち込んだの。

 

 担任にあるまじき発言を誰もが聞き流して尚も、風間の無駄を極めた縷縷たる語りが止まらない。やっぱり忍者って凄い。

 

「友チョコなる儀もあり申す昨今! 

 チョコを贈るは恋慕が情だけにあらず、友誼・親愛・感謝などと多種多様なチョコレートを贈る理屈は正しく色彩豊かなカラースプレーチョコが如しィ! 

 意外とアレ単品で食べても美味しくないよね、と思うこと皆々様請け合いに候!!」

「美味しくないのはダメだろ、平常点下げるぞ」

「真中先生は既にチョコレートを貰ったのでござろうッ!? それって愛じゃなァい!?」

「…何で知ってんだよ…」

 

 ドン引きした表情の先生。何で知ってるのかと言われても、正直クラス全員、どうせ確実に一つは貰ってるだろうと思ってたよ。そのお相手も予想がついてる、知らぬは当人ばかりなりってな。

 

「ぬぅっははは! 障子に耳あり壁に目あり、校内全てに風間有り! 天知る地知る人が知るッ! 

 例年通り頬を赤らめた坂本先生に加え。二人揃って性の癖をすり潰された少年少女からのチョコの雨霰、某はいっぱい悲しい!」

「そこまで来るとちょっとキモいぞお前」

「ありがとうございますッ!! 普段は厳しい人が不意に見せる優しさ、堪らぬでござるなァ!」

「罵倒してんだよ、情緒不安定か?」

「嫉妬の心は父心! つまりこれは父性の暴走! 何卒御容赦召されよ。しかしどうでござろう、ここは哀れなりしイチ生徒に南蛮渡来のカカオ菓子を渡すというのは如何か!?」

「ほら皆速く帰れー、教室閉めんぞー」

「ありがとうございますッ!!!」

 

 平伏する風間が一方的に無視されるのを横目に、大挙してゾロゾロと教室を出始める生徒一同。そうなるだろうな、相手してらんねぇよ。

 行くか…事務所。

 

「…はぁー…帰るか」

「アホらし…部活行くのん。當真はさっさと帰るの」

「わかってるよ、バイトあるけどな」

 

 何か凄かったな、うん。

 

 野上は用件は終わったと足早に部活へ向かうご様子、この一欠片のチョコがくれた恩義忘れないぜ…ッ! 

 

 颯はとっくに生徒会室に行ってるし、レイリーも何かあるのか急いで教室を後にしていた。

 つまり事務所までの孤独な旅路が始まる。

 

 普段は気にならないけれど、何だろうね…今日という日は心に隙間風が吹きっぱなしだよ…。

 

 寄り道する気も起きないしこのまま探偵事務所に行って…義理丸出しのチョコ一粒だけかとフォンセルランドさんにからかわれて、タマさんに鼻で笑われるんだ…。

 

 ちくしょう…俺はいつもそうだ。

 バレンタインに肩透かしばかり、一つだって本命チョコは貰えない。

 誰も俺を愛さない…! 

 

「…イ、聞こえてます?」

「うぅっ…!」

「うわ、泣き始めた…」

 

 こうなればヤケだ、人目を気にせず泣き始めれば優しいお姉さんが慈愛の精神でチョコより甘い抱擁をしてくれるかもしれない。いや無理か。

 

「くそ…くそぅ…!」

「オラァ!!」

「いってぇ!? 何だテメー! 傷心の俺に何の用だッ…あぁ、上埜か…へっ…さっさと帰りなお嬢ちゃん。今の俺に触ると怪我するぜ、俺が」

 

 気合の入った掛け声で人の頭を叩いたのは、上埜シスターズの姉の方、上埜 翠香。やめろよ、これ以上俺の頭がダメになったらどうするんだ。責任取らせるぞこのガキ。

 

「チョコです」

「あ?」

 

 聞き間違いかな? 

 チョコ…チョコってあの伝説の? 

 いや待てよ、慌てるな、冷静になれ。歳下の癖にからかってくる様な生意気なガキこと上埜の事だ、これは罠なんじゃないか。

 

「センパイ、チョコ知らないんですか?」

「し、知ってるしィ〜! チョコってあれだろ、お前の心の器くらいの大きさの容れ物で…」

「お猪口って言いたいんですか? 殴りますね」

「痛えよ!? そこは普通疑問形だろうが!?」

 

 有無を言わさずペチペチ叩かれてるんですけど、何なのこれ。暴力系ヒロインは流行らないぜ? 

 

「はぁ〜…はい、チョコです。あたしと深雪と、よう子先輩の連名チョコレートですからね、あたしのは感謝の気持ちですから勘違いしたら通報しますよ」

「ど、毒とか…?」

「失礼極まりないですね!?」

 

 ち、違うの? マジで? 

 深雪ちゃんと釈先輩はともかく、翠香に感謝されるような事したっけか。してないよな。

 だからこそ、すわ謀殺かと逡巡したが、どうも違う感じ。普通に怒ってるもん。ふふふ、熟した梅干しみたいだね。これ言ったら殺されても文句は言えないな。

 

「…いや、悪い。その…ありがとう」

「わかればいいんです、じゃ、私はこれで」

「お、おう…?」

 

 え、なに、渡すだけ渡してクールに去るじゃん。色々置いてけぼりなんだけど。アフターケアとか無いの? 

 

「……んー?」

 

 連名…何だろうか、そういえば仲良くなったって釈先輩が言ってたな。新年の場では気にしなかったが、接点が見当たらない。

 

 感謝の気持ち、か。

 気にしてたって仕方ない、とりあえず有り難くいただくとしようかね。事務所で見せびらかしながら食べるのもアリだな。

 

 さっきよりは軽くなった足取り。脚に羽が生えたみたいだぜ、朝から続く焦燥感は何だったんだ。今の俺なら全てに感謝出来そうだ。皆に感謝! 

 

「あれ?」

「……」

 

 校門から出て数分、何でもない路地。

 そこには仁王立ちしているレイリーの姿が! 

 

 威圧感はほぼねぇな。

 ちっこくてふわふわと白っぽいシルエット、あれか…ケセランパセラン的な存在かな。

 

 おしろいで増えそうには無い。そもそも幸運を振り撒くだけの何かとは程遠い、少し前に知ったけど人畜無害で無力な可愛いだけの女の子でもないしさ。

 

 学校に忘れ物でもしたのか、それだと俺の進路を塞ぐように仁王立ちしている理由にはならないか。

 

 まさか…お、御礼参りとか…!? 

 おっかねぇ…。刺激しないようにしないと…! 

 

「どうしたレイリー、忘れ物か?」

「……」

 

 無視!? 

 

「あ、あのォ…レイリーさん…?」

「……」

 

 意を決したように向かってくるんですけど! 

 威圧感が無いってのは前言撤回させてくれ、無言で近寄られるのは結構怖いぞ。心拍数が上がっちゃう、これが恐怖か。やるようになったなレイリー…! 

 

「…これ、あげる。それと…」

「え、あ…おう?」

 

 胸元に突き付けられた凶器…ではなく、何らかの赤い包み紙。市販品のそれとは違って、どこか隙の見える柔らかな包まれ方をしていた。

 

 手に取ると封をしている白いリボンに触れた。感触から察するに布製、ガサガサとした手触りがない。まさかこれも手製なのか。

 

 今日が何の日か、心中で何度も喚き散らしていたのだから間違えるはずも無く。

 

「チョコ…だよな?」

「太陽くんは勘違いしそうだから言っておくけど」

「また義理か…ッ!? また幻術なのか!?」

 

 クソッ…またか、またも幼気な男子の純情を弄ぼうとしているのか。そろそろ泣いてやろうか、つい先程心の汗が滲み出たな、手遅れじゃん。

 

 しかしこんなに丁寧なラッピングのチョコレート、これと上埜に渡された感謝のチョコを合わせれば、事務所の女性陣に馬鹿にされる事もない。

 この勝負、俺の勝ちだッ! 

 

「それ、本命だから。返事はホワイトデーじゃなくてもいいし。返事がはいとイエスじゃなくても、必ず惚れさせるから気にしないよ」

「え」

 

 え?? 

 

 俺は混乱した。

 

 

 

 

 






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や、優しくしてね…!
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