はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

5 / 114
足元がお留守ですよ

 

 

 

 

 

 

現在地は代々木病院の近く。時間は夜に差し掛かっている。誤解無きよう言っておくが、俺は持病を患ってるわけではない。新宿御苑で散歩を楽しんでいたわけでもない。

単純に、怪我をしたので病院に行っていた帰りだ。

足がね…折られちゃったの…。

 

顛末として、屋外で飲酒する人が増える時期だと『てけてけ』が増える。そして俺が病院で治療を受けるまでのメカニズムを確認しようッ!

 

まず酒をぐでんぐでんになるまで飲みます、二本の足で立てなくなります、這って動きます、誰かが『てけてけ』だと囃し立てます。何故かあっという間に『てけてけ』の出来上がりです。

そんで対策員の一人として呼ばれた俺が、酔ってる『てけてけ』のコンクリに跡が残るレベルの手加減無しパンチを足にもらいます。

 

いわゆる骨折だよ。といってもヒビが入った程度だったので、自分の足で病院に行ったってワケ。

めっちゃ痛かったけどな!!

 

日本では即死さえしなければ、だいたいの怪我は治せる。欠損とかまで行くと無理だが、骨折程度はなんとかなる。現に俺の足も即日治療で完治、スゴイね。

 

個人的に役得なのは病院のお医者様に会えることだ。白衣の天使はナイチンゲール、俺の天使は代々木病院にお勤めでいらっしゃる歳上の天使、名前はこころさん。看護師じゃなくて特例のお医者様だけれども、些細な問題だ。大事なところはそこじゃない。

 

考えてみてくれ、おっとりぽやぽやで優しくて綺麗なお姉さんに治療してもらえるその喜びを。

惜しむらくはその天使様、どこぞのモテ男の姉なんだよね。羨ましいなぁ! 俺も綺麗な姉と家で過ごしてえなぁ!

世界は不公平だ…クソがよ…。何もしないでモテてぇなぁ。綺麗な姉に朝起こしてもらったり、下駄箱をチョコで溢れさせてみてぇなぁ。

 

「あ! 太陽くんだ!!!」

 

うお…声でっか…。

電柱のスピーカーから発せられたかと勘違いしかねない位置からの大音量。

そして俺を目掛けて猛スピードで迫る山みてえなシルエットは…!?

 

「釈せ…ゔっ!!?」

「久しぶり!元気だったー!?」

「おごぉぉぉ…!」

 

避け…無理…直撃…死…!!

大きな影の主にタックルされて抱き締められる。いい匂いがする、おひさまの香りだぁ。柔らかいなぁ。俺浮いてね? 物理的に。足が地面に着かない、呼吸ができない、意識が遠の…く…。

 

「お久しぶりっす、釈先輩」

「ごめんねぇ…」

 

ざんねん! おれのぼうけんはここでおわってしまっ…てねえよ。生きてるよ、ちょっと気絶はしたけどな。

涙目で落ち込む目の前の…ごめん、膝枕してくれてるから目の前にあるのは富士山二つだわ…とにかく、目の前の先輩にやられたのだ。

 

「俺は頑丈ですから平気っすよ」

「うぅぅ…ごめんね…」

 

何度も謝罪を繰り返す彼女の名前は釈 よう子先輩。

この人は俺の一つ上の高校三年生、今日も白い帽子にワンピースと長い黒髪がよく似合ってる。体重は聞いたことはないが、身長は二メートル四十センチぐらいのはず。涙を湛える瞳はルビーの輝き。

 

一尺が約三十センチ、それの八倍の身長。

 

つまり彼女は。そう、八尺様だ。

 

 

 

 

 

噂の影響ってものには何種類か存在する。

 

突然どこからか生えてくるもの。

UFOや宇宙人がこれ、実在すると思われるとどこからか出てくる。他にもクリスマスにプレゼントを届けるサンタなんかもこれだ。

 

何かが成る物。

曰く付きの何かとか、動物がある日喋ったりする。うちの事務所で働いてるフォンセルランドさんと所長代理が、それぞれメリーさんと猫又でこれにあたる。

 

噂が憑いたもの。

誰かに言われるうちに変わってしまう人。これが一番多い。釈先輩や所長に俺の担任や学年主任などなど、徐々に変わっていってしまった人たち。森にいるエルフ族の方々やホビット族の人たちもこれだったかな。

 

初期段階でどうにかできれば元に戻れるのも特徴だ。いわゆる混じり程度なら、俺が気合を入れて殴れば何故か治る。あとは気絶させたりして噂の元をどうにかするとかだな。

手遅れ、というか定着してしまうと戻れない。その噂と一緒に生きていくしかなくなる。

定着までの猶予は個人差もあるし、まるでわかっていない。どこまでその噂通りの存在になるのかも個人差がある。

 

他にも噂の二次被害で変化する羽目になった奴や、特殊能力みたいに使いこなす人、本当に千差万別だ。あくまで種類分けもそれっぽいだけ。忍者なんか判別不能だぜ?

 

まぁおいおいわかっていくんじゃないかな。

 

「泣いちゃダメっすよ、目が腫れますし」

「うぅぅぅ、でもぉ…」

「でももニモも無いっす、ほらよーしよしよし」

 

ふははは、タマさんに指導を受けた俺の撫でスキルが輝く時だぜ。『そうそこ、あっ違う、おいやめろ殺すぞ。』と幾度となくご指導ご鞭撻を賜って磨かれた俺の手技に酔いなッ!

 

「えへへくすぐったいよー」

「よしよしよしよし…」

 

涙は引っ込んでくれたようだ。

恥を忍んで現状報告をすると。駅近くのベンチで釈先輩に膝枕されていた俺が、枕の柔らかな誘惑からどうにか逃れて。座ったままの先輩を、立ち上がった俺が撫で回している。

ち、違うんすよ…俺の身長は百七十半ばだからこうしないと届かないんです…。

今に見てろよ、目標はでっかく身長二メートルだ。無理そう? …そうだね。

 

「ところで先輩は何してたんです?」

 

どうにか落ち着いた釈先輩に疑問を投げ掛ける。

ユーは何しに新宿に? いや代々木か。

 

「お散歩してたの!」

「そっかぁ…相変わらず好きですね」

「うん!」

 

女子高生が夜に散歩かぁ、歩くの好きですもんね。住宅地は子供が泣くからやめときましょうね。これは流石に言えないわ、先輩泣いちゃうじゃん。

 

釈先輩の趣味は散歩、好きな食べ物と飲み物は煎餅と緑茶。渋いねぇ…まったく先輩渋いぜ…。ご年配の方でもこうはならんだろ。

やめなよ、花の女子高生様だぞ。色々でっかい花だなオイ! ショクダイオオコンニャクかな、あれ確か三メートルくらいあったよな…。でもニオイがな、臭いんだよ。釈先輩はおひさまの香りがするぞ! 見習えよな!

 

「そんじゃ俺はこれで」

「えっ行っちゃうの…?」

 

帰ろうとしただけでまた先輩が泣き出しそうになってる。喜怒哀楽がはっきりし過ぎてるな?

仕草とか言動とか情緒含めて大型犬っぽい人だ、散歩好きっていうのもそう。知り合いを見てタックルするところなんてまさしくだ。身体の大きさがわかってない大型犬系女子高生か、ちょっと属性が強いな。

物理的にも強いんだけどな、片手で軽々と人を持ち上げられるし。フィジカルモンスター…。

 

「事件解決したんで事務所に戻るんすよ」

「そっかー…あっ!じゃあ一緒に行こ!」

「いや、それは…」

「ダメかなぁ…」

 

ここで断ったら泣かれる! 場所は駅近く、人通りもそこそこ。もしこの場で先輩が泣き出したら、オレが女泣かせのクズって噂が立っちまうよォ!

 

「わ、わかりました。一緒に事務所行きましょ…」

「わー、やったあ!」

 

やられたんです、俺が。

さっき失神KOもしたしな。そもそもこれ何ラウンド制ですか? もうダメ? 勝つまで連コしていいよな。

 

 

 

 

うちの探偵事務所は結構広い。都心に居を構えているにも関わらずだ。一階は普通のエントランス、二階が事務所、三階には仮眠室と資料室と所長の部屋となっている。間取り的にも広くて、事務所部分の広さは教室二個分はあるんじゃないか。天井も三メートルはある…かな? 測ってないけど。

 

「頭、ぶつけないようにしてくださいね」

「うん!」

 

それでも扉や階段部分、エレベーターなんかは一般的な大きさなので先輩に注意を促す。

規格外のワガママハイスペック先輩は事務所に来るために電車に乗るのも一苦労だし、屋内でも大変だ。溢れるスペックで事務所を壊しかねない。

 

「こんばんはー!」

「戻りましたー」

 

流石先輩だ、夜でも元気だぜ。

 

「釈さん、珍しいですね。おかえりなさい太陽くん」

「げっ」

「あっ!!」

 

来客だと少しおとなしいフォンセルランドさん。嫌そうな声を漏らしたのは猫モードの代理。

そして、そんな猫の代理を見つけて煌めく笑顔を見せたのは釈先輩だ。

 

「環さんだぁー!」

「ちょっ」

「わぁー!」

「にゃぁあぁあぁ」

 

先輩は挨拶をしたかと思えば猫まっしぐら、猫がまっしぐらじゃなくて猫にまっしぐら。

暴風じみた速さで移動して、そのまま逃げようとした代理を捕まえてしまった。哀れにも代理は抱えて振り回されている、代理も喜んでいます。

 

環所長代理は釈先輩が苦手だ、というか無遠慮に触れてくる人がだいたい苦手。声がでかいのも苦手。つまりすべてを満たしているから、それはもう釈先輩が苦手だ。

 

でも釈先輩は代理が好き。その大きさに怯えて逃げ出さずに触れる猫がそうはいないからだ。なんなら触れるだけじゃなくて話せるもんな、人にもなれるし。

 

「どうしたんですか太陽くん、ここは休憩所じゃありませんよ。そういう事がしたいなら仮眠室に行ってください、一時間三千円です」

「偶然病院帰りに会ったんすよ。変な事はしませんよ、っていうか事務所で寝るのに料金取るんすか、初耳ですよ」

「まさか産婦人科!?」

「人の話聞いてました? 足やられたんで病院寄って戻るって連絡しましたよね?」

「足から!?逆子!?」

「オイオイオイ、メリーさんよぉ。無垢な女子高生にアホな会話聞かせちゃダメじゃねーか」

「至って真面目な生命の神秘についての会話ですが…」

「物も言いよう過ぎませんかね」

 

これでも直球じゃないので普段よりはおとなしいんです、いや本当です。猥褻は一切ありません。これはその…保健体育の延長ってことで見逃してください…。

釈先輩は…猫に夢中で聞いてないな、セーフ!

 

「太陽…先に連絡入れておけよにゃ…」

「いやちょっと暇がなくて」

 

黒髪が爆発した代理が文句を言いつつ逃げてきた。どうにかして人型になって抜け出してきたんですね、ふふ、可愛いね。しかしよく逃げられたな?

 

「…お前覚えてろよ…あたしは急用が出来たから、報告書は机の上に置いとけ…じゃあにゃ」

「了解っす」

「環さん、行っちゃうのー…?」

「………」

 

すげぇやガン無視だよ、台風にもみくちゃにされたのがそんなに嫌だったか。まぁ釈先輩が帰ったらそのうちさらっと戻ってくるだろうから大丈夫だろう。

報告書にエイヒレでも添えておくか、戻ってきても絶対機嫌悪いだろうし。

 

正直に白状すると、代理に連絡をしなかったのはわざとだ。釈先輩がうちの事務所に来たがる理由は大方、猫に触りたくなったからだと思う。だからあえて連絡せずにいたってワケ。

環所長代理は犠牲になったのだ…。女子高生の笑顔の犠牲にな…。

「そんじゃあ俺は報告書やりますんで、後は任せていいっすか」

「何言ってるんですか、お茶を淹れてあなたがお相手しなさい」

「なんだとぉ…」

 

そんな…普段の来客対応はやってくれるのに…!

 

うちのメリーさん。フォンセルランドさんは来客対応や事務仕事はしてくれるんたが、水場の仕事とかはあんまりしてくれない。掃除機を大まかにかけてくれたりはするけど、細かな水拭きとかが苦手だ。

 

人形だから日常的に気をつけているのだとか。時間がある時はゴム手袋を着けてやってくれるんだけどね、朝の観葉植物への水やりとか。

 

愚痴っぽくなる前にお茶汲みしよう。好物だし煎茶でいいか、お茶請けは無いが許してくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

「またねー!」

「気をつけて帰ってくださいねー」

 

先輩とお茶を飲みつつ話していたら結構な時間になってしまった。先輩の家の場所はかなり遠いのでお見送りだけで済ませる。

女子一人で帰らせるのはよろしくないかもしれないが、暴漢が襲ってきたとしても問題無い。むしろ先輩を襲った暴漢がいたとしたら、そいつの無事を祈らねばならない。ミンチになるぜ!暴漢が!

 

「…ふぅ」

「お疲れ様です」

 

事務所の自分の席に戻ると、ストレートに労ってくるフォンセルランドさん。やっとひと心地ついた、有り体にいってほっとしたが、表に出すものでもないわな。

 

「いやぁ全然疲れて無いっすよ、若いし!」

「…釈さんのこと、まだ苦手でしょう」

「…あー…」

 

茶化そうとしたのに図星を突かれてしまった。

 

本当の事を言うと、俺は代理所長ほどじゃないが、釈先輩が苦手だ。

見た目がどうとかじゃない。無遠慮な行動も気にしていない。性格も素直で良いと思う。俺は犬も好きだから、犬っぽいところは素晴らしいとさえ思ってる。

 

じゃあ何が苦手なのか。

答えは簡単、俺の後悔そのものだからだ。

 

過去にあった事件、とある田舎の村で軟禁されていたある少女を助けられなかった。そして都市伝説と混ざり切ってしまった少女が、今は無邪気に懐いてくる。

中学生特有の無駄な全能感に溢れた小生意気なクソガキの鼻っ柱を圧し折るには、十分な過去があったってわけだ。

 

現在になっても、苦々しい過去ってモノを突き付けられる気分になる。思い出すだけでキツイもん。

だから、あの人は悪くない。今もただ俺が勝手に思い詰めて苦手に思ってるだけ。

 

「へっへっへ、全然ですよ? あんなに色々凄い体してる距離感近い先輩なんて誰でも…」

「下手な嘘ですね、目も泳いでますよ」

「そんな事ないっすよ!?」

 

す、鋭いぜ…。俺が嘘つくの下手ってのは事実だが、いとも簡単の見破られるとちょっと悲しい。

 

「…バカですね…あれは私達、大人が悪いのに」

「それは違います、自分の力を過信したバカなガキがやらかしたってだけです。だからフォンセルランドさんも、所長も、代理も、千々石さんも悪くないんです」

「子どもが一人で何を背負おうとしてるんですか、あなたはもう少し大人を頼りなさい」

「頼る頼らねえの話じゃないでしょ」

 

あぁダメだ、これ以上この話を続けても暗くなってばかりのどうしようもない水掛け論だ。

誰も得をしない、もう終わっちまった話なのに。

 

「帰ったぞー、夜も更けたんだから良い子は帰って寝る時間だ。報告書は明日でいいからさっさと帰れよにゃ」

「うおっ代理!?」

 

いつの間にやら、気配もなく代理が後ろに立っていた。この人いつも足音しないんだよ! 怖いよ! 俺が凄腕スナイパーだったら殴られてるからな!?

 

「ほれ、メリーも休め休め。あたしと主人でここの戸締まりと残りはやっとくから」

「まだ仕事が…」

「そろそろ帰らんと、また部屋にゴッキーがでるんじゃにゃいか。にゃにより服を変えんと、事務所のニオイだけで色気もクソもねーにゃ」

「タマキ!!」

「ぬぁーははは」

 

代理は空気が読める猫だ。

ちなみに主人と言っていたが、これは所長のこと。婚姻関係とかではない、昔からの飼い主なのでそう呼んでいるだけ。

だけ、なんだが。日常的に主人と呼ぶので勘違いしていく依頼人も多い。その度に代理以外の誰かが訂正するので誤解を解く手間が増える。

 

あと『な』が『にゃ』になる。クールそうな見た目から繰り出される猫言語、そのギャップにやられる青少年が続出だ。

 

フォンセルランドさんも黙っていれば美人なのでモテるぞ! 所長も月一に限るが魅惑のダンディズムでちんなメロメロだ!

つまりこの事務所で浮ついた話が無いのは俺だけ、やっぱりおかしくない? 自分で言うのもなんだけど爽やか好青年だよ?

 

「フッ…」

「え!?」

「へっ…」

「…!?」

 

あー辛くなってきた、かぁー!つれーわー!! 治ったはずの足元がフラフラだよ。なんなのこの状況、俺の目の前を真っ暗にしたいの?

報告書書いてないから、ゲームオーバーでやり直しても自宅のベッドの上か病院でリスポーンだよ。病院でリスポーンはありだな…。

 

「…入っていいかい」

「ヒア・カムズ・ザ・ニューチャレンジャー!?」

「太陽くん? 僕は新人じゃないよ?」

 

この気弱そうな声と緩やかなツッコミは…!

 

「千々石さん、さっきぶりっすね」

「怪我は…大丈夫そうだね、ほっとしたよ」

「頑丈さが取り柄っすから」

 

千々石 守さん千掛ける千で怪異どもから皆を守る百万パワーストーンと覚えよう。

さっきぶりという事で、てけてけ大量発生の時に実は一緒にいた。俺は民間協力者、千々石さんは政府派遣員として、てけてけどもを千切っては投げをしていたってわけだ。

 

「お久しぶりですね千々石くん、職場でイジメられたんですか?」

「にゃんだよ、タイミングわるいにゃ」

「あ、あれ? 歓迎されてない感じ…?」

「いつもは寄り付きもしにゃいやつが、土産もにゃしに歓迎されると思ってる方がヤバいにゃ」

「いや、その、今の職場が忙しくて…」

「性的な意味で?」

「違いますよ、虐められてもいませんよ」

「じゃあ慰めもいらないんですか?」

「間に合ってます…」

「自分で自分を慰めてるんですね!?」

「太陽くん、フォンセルランドさんってこんなに酷かったっけ?」

「えぇ、まぁ」

 

いつも通りですね。

千々石さんは事務所内ヒエラルキーが低い、俺が来る前から働いてたのにな。しかも戦闘面では最強なのにこの扱い、ぶっちゃけ俺より扱いがぞんざいだ。

 

 

 

千々石さんはこの【愛に溢れる探偵事務所】の元正規所員、現日本秘密裏情報機関の室長。なにその事務所の名前…じゃなくて。なにその情報機関ってなるだろ、噂から生まれた謎の部署なんだよ、だいたい危険な噂を調査して消し飛ばしに行く仕事だそうだ。

 

人より頑丈な俺でも危ない噂どもをどうにか出来るのも、この人が滅茶苦茶に強いからって理由だけだ。

噂を能力みたいに使いこなす人、その噂は。

 

『反物質が10グラムあれば、太陽系を消滅できる』

 

気になって調べたことがあるんだが。本当に反物質がスプーン一杯ぶんあって、それが対消滅しても小型の水爆並の出力にしかならないらしい。いや太陽系は無理でも十分デカくねえかな。

 

そんな馬鹿げた噂話、それを上手く使いこなせる人が千々石さん。

使いこなすって言っても制御が難しくて、最近やっと大爆発程度にできるようになったそうな。そういやさっきの騒動では、俺が避けなきゃそのまま巻き込んでましたよね?

 

まぁそもそもの本気を見たことがないけど。もしも自爆覚悟の本気を出したら…そうだな、成人男性の平均体重は大体70キロ越えるだろ? そんで、恐らくだけど自分そのものを反物質にできたとしよう、計算が面倒だから10グラム掛けること100で1キロ、で更に70倍。

 

噂パワー全開で、自分の体そのものを反物質に変えた特攻をしたら、太陽系七千個消滅可能かぁ…ここまで来るとよくわかんねぇや。東京ドーム何個分レベルのパッとわかんない例え話だ。軽いホラーだよ、コズミックホラー。

もっとも、もしもの可能性ってヤツだから、どこまで出来るかはわからんけどな。千々石さん痩せ型だし。

 

しかしそんな動く太陽系破壊爆弾な千々石さんの事務所内ヒエラルキーはとても低い。なんでって? 気弱な人なんだよ…。最強なのに…。

 

趣味は観葉植物を育てること、事務所にある観葉植物はこの人が置いてった物だったりする。や、やさしいおじさん…!

 

「さっきまで犬飼所長と話していてね。太陽くんが無理して歩いて帰りそうだったら、タクシーで送っていこうと思ってたんだ」

「いやいや、治してもらったんで普通に帰れますよ」

「みたいだね。それでも危ないかもしれないから、やっぱり送っていくよ」

 

相変わらず心配性だなぁ。今の職場で無茶振りされてないか、こっちが気になる程のミスター振り回され男だぜ。

 

「違いますよ太陽くん、わかりませんか?」

「なにがっすか」

「送り狼ですよ」

「えっ?」

「えっ違っ、え!?」

「千々石お前最低だにゃ…」

「いやいやいやいや違いますよ!? 僕ノーマルですよ!?」

「マジっすか千々石さん…残念すよ…」

「誤解が広がってる!」

 

しかもイジられる事が多い。可哀想な千々石さん…ひとえにその強さが性格とは関係無えばかりに…。ちょっと女子ぃ〜やめなよぉ〜千々石さん泣きそうになってんじゃん。

俺も参加してる? だ、だってこの人に爆破されそうになったから…。

 

「…旧交を温めているところ悪いが、太陽とメリーは帰れ。足は呼んでおいた…支払いは俺持ちだ、後日申請しろ」

「所長!」

「追加の仕事が入ったんでな、だが適任は環と千々石だ。太陽は明日も学校があるだろう、それに備えてもう休め。メリーも今日はゆっくりしておけ」

「了解っす」

「所長、私は…」

「欲しがっていた物のカタログと関節油を部屋に送っておいた、今は休んで商品を選んでおくといい」

「まったく、お上手ですね」

 

千々石さんへのかわいがりを止めつつ、俺たちへの気遣いをするとは…流石は所長だぜ。俺もこんなふうにさらっと気遣いが出来るようになりたい。

 

そんで、今日はそのまま帰宅したってワケだ。あの三人での仕事も気になるけど、あんまり首突っ込まない方が良さそうだ。どうせ俺みたいな高校生が一人増えただけじゃどうにもならない感じの、国絡みのでっかい仕事だろうしな。

 

そういえば途中までフォンセルランドさんと一緒だったけど、この人は親しい知人や友人の前以外だとかなり下ネタがおとなしいぞ!

 

 

猫を被るのが上手だな?

代理、いいんですか、猫キャラ取られてますよ。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。